第十四話 集う者たちと、アジトへの道(②)
山向こうの村へ向かう道中、**コンパニオン**として加わったばかりのエルドレッドが、歩調を合わせながら話しかけてきた。コンパニオンとは仲間、連れ、付き添いなどを意味し、軍事集団では兵を纏める将の役割を担う。
「ツィーラ殿。初めての戦いは……どうでしたか?」
ツィーラは、同盟相手のラダゴスに戦闘の一部始終を伝えたことを思い出し、少し考えて正直に答えた。此方の戦力情報として、先日初めて単身で盗賊と戦い勝利した事をラダゴスに語ったのだが、その話がエルドレッドにも伝わっていたのだろう。
「……怖かったです。でも、守りたいものがあるから、戦えました」
エルドレッドは静かに頷く。
「その気持ちがあれば、きっと強くなれます。戦いは技よりも、心が支えるものですから」
ツィーラは微笑んだ。長瀬が小声で囁く。
——ツィーラ。彼は“良い補佐役”になる。戦場では、信頼できる仲間が何より重要だ。
(……はい)
道中は雑談を交えつつ進んだ。ラダゴスに紹介されたエルドレッドは、見た目よりずっと誠実で、礼節をわきまえた人物だった。どうして彼のような人物が元山賊のラダゴスと縁を持っていたのか不思議に思うほどだった。
そんなエルドレッドや、ラダゴスと雑談交じりに戦力分析や戦術、命を賭ける覚悟等を話しながら、二刻半ほど山道を歩くと、斜面を切り開いて作られた小さな集落が見えてきた。
「あれだ……。どうやら襲撃されたのはこの村じゃなかったようだな」
——まぁ、そうだろうな。小さな集落とはいえ、歩いて数時間の距離に大きな街もある。無謀な盗賊集団でも、軽々しく襲ったりはしないだろう。
ラダゴスの言葉に、長瀬が電信で応える。姿は透明に消えているが、声だけはツィーラに届く。音波での返答、電波での通信、長瀬はどちらも使い分けて会話する事が可能だが、存在を公にするわけにはいかない。ツィーラにとっては切り札であり、且つ生命線でもあるからだ。
同盟を組んだ味方だからといって、おいそれと姿を晒すような真似は出来ないのだ。ただ、透明とは言えたまにラダゴスが視線を向けている事から、何らかの方法で長瀬の存在を特定しているのではないかと思える節もあった。
「先ほどの難民は、もっと遠くから逃げ延びてきたのでしょうか?」
「そうみたいですね」
エルドレッドが答える。難民たちはかなり疲れ果てており、おそらく一昼夜かけて逃げてきたのだろう。襲われた村はさらに先にあるらしい。だが、近隣の村にも情報は伝わっているはずだ。この村でも襲撃者たちの情報収集は可能だろう。
「まずは情報収集ね。食料はもう買い足したし、あとは加勢してくれる者が何人かいれば助かるけど」
「ここの首長が協力してくれるかもしれねぇな」
糧食の買い込みに資金提供させられたラダゴスが、寂しくなった財布の中身を確認しながら答える。
「首長……探してみましょう」
村人に話を聞き回り、首長の家はすぐに見つかった。村の一番奥、崖沿いに建つ石積みの家だ。木造の粗末な家とは違い、幾分頑丈に見える。首長らしい恰幅の良い男が、数人の男に囲まれて家の前で話し合っていた。
ツィーラは首長に名乗りを上げ、事情を尋ねる。
「私が首長のラメノンだ。なにか用件かね?」
「少し尋ねたいことがあって来ました。奴隷商人の一団に襲われた村から逃げてきた難民に会いました。襲われた村や奴隷商の情報を何か知りませんか?」
エルドレッドが続ける。
首長ラメノンは顔を曇らせ、言葉を選ぶように答えた。
「奴らか……この地域でも、殺人や略奪を繰り返している。本当に憎々しい奴等だ。討伐に来てくれる傭兵団があれば、協力してくれる者もいるだろう。準備が済んだらまた話してくれ」
話し合いの末、首長は武器を携えた若い男衆を六名引き連れてきた。彼らは討伐に加勢してくれるという。雇用費は一人**50ディナール**。討伐料を兼ねた格安の条件だ。
だが兵士が増えたことで、さらに食料が必要になった。ツィーラは追加の食料を買い足し、再び首長の家へ向かった。もちろん、兵士を雇った経費も、追加の糧食もタダゴス、いや……ラダゴス持ちだ。
彼は財布が軽くなる度に抵抗を見せてはいたが、誰のせいで現状こうなっているのか軽く問い詰めるだけで大人しく従った。長瀬もツィーラの覇気に驚かされた事があったが、こういう方面でのツィーラは本当に強い。
彼女は、体の良い財布を手に入れたと水を得た魚のように上機嫌で買い物をした。ラダゴスは悪党だと言う思いもあって本当に容赦なかった。その様子を遠目から見ていた長瀬は、ツィーラに戦慄を覚え身を縮こませるのだった。
***
戻ると、首長ラメノンは改めて交渉を持ちかけてきた。賊退治を仕事として依頼したいという。ツィーラは気を引き締め、仕事としての交渉に臨む。
「たまにここを通るタクテオスという放浪医がいる。無償で人々を治療してくれる人徳者だ。彼を最後に見たのは数日前で、何やら箱のような物を持ち歩いていた。旅の途中だと言うだけで、それ以上は話さなかった。どう考えても、うっかり捕まってしまうような類の人で、皆心配している。賊退治のついででいいから、タクテオスを気にかけてくれると助かる」
首長の話は、単なる賊退治ではなく、世話になった旅医者を助けてほしいという依頼でもあった。ツィーラはその言葉を胸に刻んで、傭兵稼業として山賊退治の依頼を引き受けた。
登場人物
ツィーラ:ボイジャー・ツー(Voy‑Zira)。AI型知的生命体。長瀬を追って来た別世界の新米神様。ボイジャー・ワンの妹。少女セクンダを救う為、彼女と同化。魔力機関としての長瀬とも共生。ツィーラの名を継承し攫われた家族の救出を目指す。
プリムス:ボイジャー・ワン(Voy‑Ⅰ)。妹同様、長瀬を追って来た。ボイジャー・ツーの兄。アルドの中で眠る(スリープモード)。ツィーラにより、勝手にプリムスの名を継承。
長瀬良治:カルラディア世界に来た別世界の上位神。ツィーラ・セクンダ・ローエンの魔力回復の機関として核を同化。守護霊のようにツィーラを見守り援護する。
ツィーラ・セクンダ・ローエン:ローエン家長女。奴隷商との争いで瀕死になるが、ボイジャー・ツーと同化して死を免れた。意識が回復せず深い眠りにつく。身に計三体の魂を宿す(主格:ボイジャーツー、支援機関:長瀬、セクンダ自身は眠り)。
プリムス・アルド・ローエン:ローエン家長男。奴隷商により捕縛された。監禁状態。身にワンの魂(眠り)を宿す。ツィーラの救助目標。
ノヴァ&ホラ:ローエン家の弟妹。アルド、セクンダの弟。奴隷商により捕縛された。監禁状態。ツィーラの救助目標。
ラダゴス:元奴隷商の山賊頭。副頭領のガルターに裏切られ逃亡。仇討ちの為にツィーラと同盟を組む。
エルドレッド:ラダゴスの紹介で仲間に加わった指揮官。弓の名手。
ラメノン:山岳村の首長。奴隷商の山賊退治とタクテオス救助をツィーラに依頼。
タクテオス:うっかり者の旅医者。たぶん山賊に捕まっている。




