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ビーナス・エールの正しい使い方

 ヴァルドの町からガーゼス領に向かう途中で、地図に数名の黄色いアイコンが現れたので、そこに向かって歩みを進める。

 

 近付くと、兵士と商人らしき人物が話し合っていて、回りには破壊されたであろう馬車や荷の破片が落ちていた。


「おい止まれ」


 こちらに気付いた兵士の一人が、険しい表情でこちらにやってくる。


「ここに一体何の用だ」

「騎士団からの御触れを見たんですが、捜索はもうしているんですよね?」

「なぜお前らにそんなことを教えなければならない。それよりソウルクリスタルを出せ。身分を確認する」


 おおう。嫌悪感を隠す事無く言われてしまった。

 ちょっと頭にはきたが、よくよく考えれば彼らは仲間を殺されているのだ、言動が厳しいのには我慢すべきだろう。


 俺は二人に首を振って見せ、三人全員がソウルクリスタルを出す。

 もちろんジョブは違和感が無いように戦士に変更した。

 兵士が俺達三人のステータスを確認すると、小さく舌打ちした。


「あまり引っ掻き回すなよ。何かあればすぐに知らせろ」


 そう言って兵士は商人の下に戻った。


「なんだよあいつ、感じ悪ぅ~」

「まあまあ。お仲間を殺されているのですし」


 愚痴るレイナをジーナが苦笑しながらなだめていた。

 俺はその間に周囲をマッピングで確認する。

 ふむ。特に赤アイコンは無しか。


「俺も商人に話を聞いてくるから、二人はちょっと周囲の破片から何か分からないか見て回ってくれるか」

「分かりました」

「了解」


 二人と別れて商人と兵士に近寄る。


「すいませ~ん。襲われたときの状況を教えてください」

「おい。今は我々が話を聞いているんだ。後にしろ」

「落ち着け。もう聞きたいことは聞いた。すまないな、構わないぞ」


 機嫌の悪い兵士を同僚ぽい兵が諌めてくれている間に商人に話を聞く。


「あなたは商人でいいんですよね?」

「ええ。私は騎士団の支持で奴隷を運んでいた商人です」

「という事はヴァルハン領の商人さん?」

「はい」

「盗賊が来た時、どっちから来たか分かりますか?」

「背後からとしか。私は先頭の方にいたので」

「やつらの逃げた方角は分かりますか?」

「ここから北にある岩山群に、その後は盗まれた馬車はガーゼル領の方に、奴らが初めから乗っていた馬車は西に向かったのを、空を飛んで確認した商人がいます。怖くて追うのは無理だったそうですが」


 という事は、襲ってきたのはヴァルハン領側からって事で良さそうだな。

 

「すいません兵士さん」

「ん、なんだ?」


 機嫌の悪い方ではない兵士に話しかける。


「騎士団は今どっちを中心に追っているんですか?」

「ガーゼル領だ。他の領地で問題が起きたら大変だからな。今はガーゼル領に調査の許可を貰っている最中だ。もちろんヴァルハン領地内も兵士が探索に向かってはいる」

「そうですか。それと盗まれた荷物はなんなのか分かりますか?」

「鉄や銅といった鉱石系素材は全て盗まれた。他には食料や生活用品も少し盗まれたらしいな」

「分かりました。ありがとうございます」

「ああ構わないが。お前は冒険者なのに腰が低いなぁ」

「あ、あはは、すいません」


 なんというか仕事の癖でつい知らない相手やまだ仲良くなっていない相手には敬語になってしまう。

 俺はお礼を言って、商人の元に戻る。


「すいません。商団が今日通るのを町の人は知っていましたか?」

「まあ移動する商人の店の行きつけの魔族は店が休みになるから知っているだろうし、護衛の騎士団は当然知っている。商人が家族や友人に喋っている可能性もある」


 ということはそっちの線で盗賊団を探すのは無理か。

 俺は商人のおじさんから離れて二人の元に向かう。


「お~い二人とも、いったんここを離れよう」


 俺は辺りの破片をチャックしていた二人を呼び戻して事件現場を去る。

「何かあったか?」

「いやこっちは何も無なかったよ」

「そうか。ジーナ、俺を抱えて飛んでもらえるか」

「わかりました」


 事件現場から町のほうへと大分移動してから、ジーナに頼んで抱きかかえて空へと上がって貰う。

 背中のやわらかい触感の誘惑を我慢しながら旅人のジョブを装備してマッピングを広げる。


 お~だんだん広くなっていく。

 マッピングの地図の面積が、ジーナが空に上がって行くたびに広がっていく。

 やっぱり俺の視界の届く範囲がマッピングの範囲って訳か。


 俺はマッピングを見ながら盗賊の不自然な行動について考える。

 

 この世界には空を飛べる者が多い。

 明るい内に襲ったら、すぐに追跡される可能性は高い。

 なのに襲撃したって事はよほど切羽詰っているか、捕まらない自信があったかのどっちかだ。


「推理モノの定番なら、まだ近くにいそうなものだが」

「すいりものって何ですか?」

「いやこっちの話だ」


 上昇していくジーナの質問に言葉を濁しつつ、もう一つの謎について考える。


 そもそも何故馬車を二手に分けた?

 ガーゼル領にだってすぐに知らせは行くから捕まる可能性は高い。

 かといって西といえばヴァルハンの町に近付く事になるから同じく捕まる可能性を高めるだけだ。


 ではもし、仮にどっちの馬車にも荷物が乗っていなかったとしたらどうだ?

 そしてその場合、もし荷物を隠すチャンスがあったのは……。


「……ビンゴ!」


 マッピングに赤アイコンが浮ぶ。

 首を上げて確認すると、商人が言っていた岩山地帯だった。

 奇しくもそこは、俺がこの世界に来て初めて降り立った場所でもある。


 俺は持っているヴァルハンの地図とマッピングの地図を垂らし合わせて位置を記憶する。


「ありがとうジーナ。もう下ろしてくれていい」

「はい」


 ジーナと共に降下すると、レイナが興味有りげな表情で迫ってきた。

「おう、どうだった二人とも?」

「マッピングで、岩山に盗賊の反応が出た。行ってみる価値はあるだろう」

「そっか。ダーリンはマッピングで相手の位置が分かるんだったな」

「頼もしいですご主人様」


 おっと、計らずも二人の好感度を稼いでしまったようだ。

 頼もしげな視線を向けてくれる二人に応えなければ男じゃねえ!


「それじゃ、行ってみようか」

 

 二人を先導するために先頭を突き進む。

 もちろんその間もマッピングは開いておく。何が起きるか分からないからな。


 途中休憩も挟みながら、ようやく岩山地帯に到着する。


 えっと、もっと奥の方だったよな?

 場所を間違えないようにほぼ一直線にここまで来たから、この奥に赤アイコンの人物がいるのは間違いない。


 俺が剣を抜くのを見て、レイナもジーナも得物を構える。


「じゃ、行くぞ」


 慎重に進んでいく。

 しばらくして、マッピングに赤いアイコンが姿を現す。


 岩山二つ先か。

 正面の岩山を越えた先に、もう一つ岩山があり、その先は岩壁だ。


 もしかして洞窟でもあるのか?

 よくよく見れば赤アイコンは壁際にいる。

 見張りか?


「二人とも、ここで待っていてくれ。様子を見てくる。あ、一応ロープは持って行くか」


 小声で二人に指示を出して、ジーナがポシェットからロープを出して俺に手渡す。

 俺はそれを自分のポシェットに仕舞いつつ、見つからないように赤アイコンの死角の位置へと移動する。


 よし、ここからなら見えるはずだ。

 俺は顔を少しだけ出して赤アイコンを確認する。

 そこにはやはり洞窟があり、その前にヴァルハンの兵士が立っていた。

 ヴァルハンの一般兵は鉄装備で鎧の肩に必ず、俺が持っている許可証と同じ印が刻まれている。


 まさか兵士もグルなのか!

 すぐに解析を行う。



 名前:ソドLV5 種族:魔人族 性別:男 

 ジョブ:盗賊LV1 

 装備:鉄のブロードソード 鉄の兜 鉄の鎧 鉄のガントレット 鉄のレギンス 

 アビリティ:【スティール】【回避率小上昇】

 スキル:《土属性効果上昇LV1》《麻痺耐性LV1》

     《水属性》

 魔法:『ウォータ・ボール』


 な、なんてツイてない奴!

 効果アップは土属性なのに覚える魔法が水属性とか、完全に死にスキルだ。

 でも盗賊だから悪さしているわけだし、同情する必要も無いか。


 俺は顔を引っ込めて今後のことを考える。


 多分、あの鎧は盗んだモノだ。

 以前冒険者ギルドで聞いたが、騎士団の装備は全て決まった店で取引が行われるし、必ず騎士団所属であることを証明しないと修繕もできないと聞いた。


 もしかしたら本物の兵士が来た時に探索済みだと嘘をつくために立っている可能性はある。

 兵士が立っていれば警備していると思うのが普通だ。


「ふむ。なら近付いて話しかけるだけなら、問題は無いか」


 俺は何食わぬ顔で物陰から出て、偽兵士に近付く。


「あ、すいませ~ん」

「っな、なんだ貴様!」


 偽兵士が腰の剣を抜く。

 お、おいおいマジかこいつ? もしかして全部間違った予想だったか!?

 内心焦りまくりだが、なんとか表情に出さないように勤めつつ、話を続ける。


「ちょ、待ってくださいよ兵士さん! 俺はクエストで盗賊団を探しているだけですよ」

「こ、ここは既に調査済みだ! 他を当たれ」


 あ、ダメだこいつ。絶対下っ端だ。

 あまりのキョドり具合に、呆れてしまう。

 なんでこんなのを見張りにしたのだろう。もしかして案外たいした事の無い盗賊団なのかもしれない。


「あ、そうなんですか。分かりました」

「わ、分かればいい! 他の奴にもここは探索済みだと伝えろよ!」

「は~い。あ、すいません肩にゴミついてますよ」


 俺は相手が剣を鞘に収めるのを確認してからショック・アタックを纏った手で身体に触れる。


「あへ?」


 変な呻きを漏らして偽兵士が崩れ落ちる。

 その隙に口の中にポシェットに入っていた魔物の皮を無理矢理詰め込む。


「手伝うよ」

「手伝います」


 俺が飛び出したことに気付いて二人も駆け寄ってきた。

 レイナが足を縛ってジーナが腕を縛る。

 俺は口に皮を詰め込んだまま口を猿轡のようにロープで縛る。


 そのまま三人で岩の物陰まで運んで、小振りの岩に縛り付ける。

 

「もうロープが無いな」

「まあ盗賊は生け捕りにする必要ないから、倒しちまっていいと思うぞ」


 レイナがそういうのが聴こえたのか、意識がはっきりした偽兵士が涙目で首を横に勢いよく振った。


「ふむ。よし、もし情報を提供するなら、お前は見逃してやろう」

 

 俺が提案すると今度は首を縦に何度も振ってみせる。


「よし、じゃあ今から口のそれ外すが、大声を上げたらその瞬間に首を跳ねるからな」


 最後に定番の脅し文句を言い放って戦意を削ぐ。

 偽兵士の顔が青ざめたので、きっと効果はあったに違いない。

 俺は口元の縄を切って、皮を外してやる。


「ゲホゲホ、ゴホ」


 偽兵士が咽ながら呼吸を整えていく。


「さて、質問だが、ここに盗んだ荷はあるか?」

「あ、ああ」

「洞窟にいる人数は?」

「い、今は六人だ。他に馬車で目を引き付ける役が三人いる」

「そいつらはいつ戻ってくる」

「し、知らない。ある程度したら戻ってくるとしか」


 まあ下っ端だし、詳しくは知らないよな。


「洞窟に罠はあるか?」

「な、ない。ここはアジトじゃなくて、今回の襲撃で得た品を隠すために使ってるだけだ」

「リーダーのレベルは?」

「し、知らない。今洞窟にいるのはお頭と俺達下っ端だけだ。幹部の三人は馬車の囮で出払ってる」


 もしそれがホントならチャンスな気もするが、嘘を言っている可能性もある。

 あ、そうか。こういう場面でこそ使うべきか。


「ジーナ」

「はい、なんですかご主人様?」

「ビーナス・エールをこいつにかけてやれ」

「……ああ、そういうことね」


 ジーナはまだ分かっていないようだが、レイナは俺のやりたいことが分かったのか愉快そうな笑みを浮かべた。


「な、何をするつもりだ。ちゃんと情報は吐いただろ!」

「安心しろ死ぬような魔法でも傷つくようなスキルでもない。ジーナ」

「はい。ビーナス・エール」


 偽兵士にビーナス・エールをかけるとしばらくはなんの変化も無かったが、次第に偽兵士がじっとしていられないといった感じでそわそわしだした。


「くっ。な、なんだこの抑えられない気持ちは! 無性にあの娘に会いたい!」

「ふふ、もしちゃんと情報を教えてくれたら、縄を解いてやる」

「ああ、なんでも応えるから早く開放してくれ」


 凄い効果である。


「さっき言ったのは全部本当か?」

「ああ全て本当だ」


 ……マジか。もしかしてビーナス・エールを使う必要はなかったか?


「洞窟内に明かりはあるか?」

「洞窟の奥にだけ松明がある」

「合言葉とか仲間であることを証明するにはどうすればいい?」

「そんな物は無い。だがお頭は慎重な奴だから必ずソウルクリスタルをチェックする」


 それは厄介だな。しかしこれ以上は特に聞けるような情報はないだろうな。


「最後だ。お前が今着ている装備品を全て渡せ。そうすれば縄を外す」

「分かったから早くしてくれ! もう俺の胸のトキメキは限界だ!」


 これ以上大声で騒がれても困るのでささと縄を切って開放する。

 偽兵士は俺の言うとおりに装備品を脱ぎ捨てると、下着姿でヴァルハンへと猛ダッシュで向かっていった。


「ビーナス・エール、なんて恐ろしい魔法なんだ」


 俺は二度と身内にはかけないようにしようと心に誓った。


「じゃ、中に行ってくるよ」


 今の騒ぎで中の盗賊が出てくるかと、しばらくマッピングで警戒していたが、どうやら問題無さそうなのでこちらから仕掛けることにする。


「行って来るって、あたい達はどうすんのさ?」

「いや、まだ戦うかどうか分からないし、それに仲間が戻ってくるかもしれない。一応ランプは借りて来てるから、もし誰か来たら二人も中に来てくれ」

「分かりました。お気をつけて」


 ジーナが頷くのを見て、レイナもしぶしぶと言った感じで頷く。

 二人に再度別れを告げて、俺は暗い洞窟へと入っていた。


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