エルーダ村
エルーダ迷宮から徒歩で二十分ちょっとでレイナの故郷、エルーダ村に到着した。
時間はまあ砂時計の砂の落ち具合での目測だ。
村には獅子族が多かったが、他の種族がまったくいない訳でもない。
「元々この村は獅子族が作った村で、昔は獅子族だけが住んでいたらしいんだが、最近は外から移り住んだ魔族や冒険者も増えて大分賑やかになったって酒場のマスターが言ってたな」
歩きながら村のことを説明をしてくれるレイナの後についていく。
「あ、酒場っていっても夜以外は飯を出してくれる店で、あたいはそこの店が一番好きなんだが、飯はそこでいいか?」
「レイナに任せる」
「私もです」
俺とジーナは頷いて肯定する。
「あ、レイナ久しぶりね。その人達は?」
「あたいのダーリンとダーリンの最初の奥さんだよ」
「うっそレイナハーレム入りしたの!?」
レイナの知り合いらしき獅子族の女性が、レイナの発言に驚いて大声を上げる。
「あの男女のレイナが!」
「ま~じで~!」
「おめでとうレイナ、ところで初めてってやっぱり痛いの?」
瞬く間にレイナが村人に揉みくちゃにされる。
しかし、揉みくちゃにされたのは何もレイナだけではない。
「へ~あんたがレイナの旦那様かぁ。良い子だからよろしくね」
「男として趣味はちょっと疑うが、ま友人としては良い奴だからよろしくな」
「ていうかあまり強そうじゃないよね」
「もっと筋肉つけろ筋肉を」
レイナに負けじと俺も揉みくちゃにされる。
というか後半はなんか俺に対するコメントだった気がする。
「だあもう! あたい達腹減ってんだから飯食いに行かせろよ!」
レイナが大声を上げて散った散ったと手を振る。
俺達を取り囲んでいた連中が笑いながら距離を取ると、最後には声を揃えて。
「お幸せに~!」
と言って去っていった。
「ふふふ、良い人達ですね」
「獅子族は基本騒がしいのが好きな連中ばかりだから、面白がっているだけさ」
レイナは頬を軽く赤く染めただけで、いつもと変わらない表情だったが、猫耳は落ちつきなく上下に揺れていた。
あ、照れてるな。
俺は苦笑しつつ、早足に目的地に向かうレイナの後をついていった。
目的の酒場にはすぐに到着した。
レイナが扉を開けてさっさと店の中に入る。
店内には丸テーブルが四卓に一卓に椅子が四脚、奥にはカウンターがあって、カウンターの中に奥に続く扉があった。
カウンター内部には他にも酒瓶らしき物が並んだ棚もいくつか置かれていた。
今は丸テーブル二つが埋まっていて、一つは四人組みのグループが、もう一つには二人組みのグループが座っていて、カウンターには四人の魔族が座っていた。
「おうレイナ、いらっしゃい」
「相変わらず無愛想なマスターだな」
「ふっ。放っておけ」
レイナを見つけたマスターがクールな笑みを浮かべて迎え入れてくれた。
な、なんてダンディズム溢れる男なんだ。
ダンディーな三枚目俳優のような貫禄と雰囲気を出すマスターにしばし見惚れる。
「で、今日はどうする?」
「テーブルで。二人もそれでいいだろ?」
「ああ」
「はい」
レイナが一番近くのテーブルに座ったので俺達も座る。
マスターは一度扉の向うに入ると、手にトレーを持ってこちらにやって来た。
「水だ。お代わりは自分で注いでくれ。注文はどーする? まあウチにはステーキしかないがな」
マスターがコップとジャグを置きながら、静かにメニューは一つしかないから宣言をする。
食事を取るところとしてどうなんだそれ?
「ダーリン、蜥蜴の肉をマスターに渡してもいいか?」
「え、ああ別にいいぞ」
お肉回収担当のレイナがポシェットから肉を取り出す。
「材料を提供すれば、調味料代しか請求されないんだよ」
「今回は肉だけだから、サラダとスープ、パンは別料金だが、どうする?」
「あ、じゃあサラダとスープ、それとパンを三人前でお願いします」
「分かった。少し待っていてくれ」
ジーナのためにもサラダは必須だろう。それにステーキだけでは口の中が油っぽくていけない。
ステーキ分お金がういただけでも良しとしよう。
「そう言えばレイナはご両親にご挨拶をしなくてよろしいので?」
ジーナが軽く呟いた一言に肩が大きくビクつく。
そうか、故郷って事はレイナのご両親がいるんだよな。
あ、挨拶に行ったほうが、いいよなやっぱ。
「いや、あたいの両親はもう死んじまっていないから、気にしなくていいよ。家も村を出る時に別の奴に譲っちまったし」
「あ、えっと、すいません」
ジーナが余計なことを聞いたと落ち込む。尻尾もふにゃふにゃと力無く垂れてしまった。
「いいって気にすんなよ。二人とも冒険者だったからな、覚悟はしていたさ。ジーナはどうなんだ? 娼婦を辞めたんだから実家に一度くらい行ったらどうだ?」
「いえ、私の実家はここから遠い別の領地ですし、お互い気まずいですから」
そりゃまあ理由があったにせよ売った売られたの関係になった訳だしな。
お互い今生の別れみたいなのは既に済ませているのかもしれないな。
「料理をお持ちしましたよ。お客さん」
微妙な空気の中、マスターが料理を運んでくれる。
「おっと美味そうだ! さ、二人とも食べよう!」
丁度いいタイミングとばかりに、無駄に大きな声を上げて料理に手をつける。
あ、普通に上手い。レモンみたいな柑橘系の香りと酸味がする。
「ま、お互い今は幸せなんだ。気にすること無いな」
「ですね」
二人も苦笑しながら料理に手をつけた。
食後の休憩中にも色々とジーナの友人が話しかけて来て、ジーナは面倒くさそうな態度はしたがちゃんと応えてあげていた。
俺は俺で何気に女性陣からは褒められる事が多かった。
どうやらレイナもジーナと同じで、同姓には人気があったようだ。
俺達は休憩を終えて代金を払って再度エルーダ迷宮へと入った。
三階に移動してリザードマンを狙う。
地図は買っていたから迷うことは無い。
「一応ボスの確認もするか」
「そうですね。どうせ探索をするならその方がいいかと」
「よし、じゃあ行くか」
ボス部屋に向かいつつ、通路や小部屋にいるリザードマンと戦い、疲れたら安全な小部屋で休憩して二人とお喋りする。
なんというか、命懸けな生活だけど悪くないな。
好きな人達とお喋りしながら一緒に仕事をするというのは、ある意味恵まれた職場環境だといえる。
おっと、いかんいかん。油断は禁物。
緊張の糸が緩んだのを感じた俺は心の中で自分を叱咤して、太股を抓った。
これが地味に痛いんだよなぁ。
声に出すのだけは我慢する。そして自分の左腕をもう一度見る。
再生薬、またはリザレクションという失った肉体を再生する魔法にはどちらも十万MSものお金がかかる。
二人は俺の左腕を一日でも早く元に戻したいらしいが、俺としてはまず二人に服でもプレゼントしたいんだけどな。
二人とも手持ちの服や下着は、無地でシンプルな下着を数着と、自前の似たような感じの私服を二、三着持っているだけだ。
それを毎日宿屋の洗濯している。因みに手洗いだ。干す場合はモーネに言ってシーツとかと一緒に干して貰っている。
ドロップアイテムの売買等で五万まで溜まった。あと五万で十万MS、俺の腕を治すか、それとも服を買うかは、状況次第で決める。
リザードマンの鱗が高値で売れるといいなぁ。
鱗装備は高かった。その原材料なのだから期待は出来る。
「よし、じゃあまた探索するか」
自分を奮い立たせるように声に出して再出発する。
そしてしばらくしてボス部屋に到着する。
扉を開けると、両手にサーベルらしき剣を持った大柄のリザードマンがいた。
いや、少し顔が違うか。
俺がそう思って覗き込むと解析情報が頭に浮んだ。
名前:ドラゴンソルジャーLV20 属性:? ?
ドロップ:? ?
スキル:《ダブル・スラッシュ》《スライス(可)》
スライスか。
見た目を考えるなら二刀流の接近戦タイプだよな。
ダブルスラッシュとはなんだろう? アビリティは進化するのだろうか?
「レイナ、スラッシュって、いつかはダブル・スラッシュに強化されるのか?」
「ああ、されるぞ。アビリティの中にはジョブレベルが一定以上になる事で強化されるものもあるんだ。そして強化前のアビリティを自分のスキルとして習得できる。ただ中にはジョブレベルが一定以上で、かつ一定回数以上そのアビティを使用しなきゃ強化しないアビリティもあるし、強化しなくてもジョブレベルが一定レベルに達する事でスキルとして習得出来るアビリティもあるらしい」
ということはいつかレイナもスラッシュをスキルとして習得して、ダブルスラッシュのアビリティを習得するって事か。
「ダブルスラッシュについては分かるか」
「ああ知ってる。自分のジョブのアビリティだからな。確かスラッシュの効果が二回になる攻撃スキルだ」
つまり二撃までスキルの効果が持続するのか。
確かにそれはありがたい。
一撃目で相手のスキルを打ち消してからでもスキル攻撃が出来る。
だが両手だとどうなるんだろう。常識的に考えるなら片手で一回ずつだろうが……。
「う~ん。ジーナ、潜ってどのくらいになる?」
「えっと、砂時計を三回ひっくり返したので三時間以上は経ってますね」
まだ日暮れまでは時間があるが……よし。
「今回はやめよう。時間が勿体無いからレベル上げ優先だ。なんせ向うのレベルは20だからな」
二人が頷き返すのを見てから扉を閉める。
いずれは戦うことになるだろうが、今は力をつけるのが優先だ。
それに町まで距離があるので、暗くなる前に町に着く必要もある。
真っ暗な中を歩いていたら襲って下さいと言っている様なものだからな。
その日は小部屋を回りながらキリのいいところで帰路へとついた。
ちなみに小部屋の敵は倒してから約30分で復活すると言うことも分かったので、今後はもっと効率良くレベル上げが出来るだろう。




