エルーダ迷宮での苦戦
エルーダ迷宮の一階のボスはレベル8のアイアンアリゲータという名の体長三メートルはありそうな全身が灰色の鰐だった。
アイアンアリゲータはスキル《アイアン・ボディ》を持っていた。
響き的に身体強化系だと思ったが、案の定だった。
攻撃した時に感じた腕への衝撃の違いから、防御力向上のスキルで間違いないだろう。
どうやって習得すればいいのか分からず、取り合えず噛み付かれたら終わりなので、バースト状態で尻尾攻撃をくらってみたところ、無事に習得することができた。
どうやら強化系は効果が発動している状態で攻撃されれば取得することが出来るようだ。
因みにアイアンアリゲータは楽勝だった。
動きが鈍いので尻尾と牙にさえ注意していれば攻撃自体は簡単に当てられた。
ついでにアイアン・ボディも試してみたが、ソウル系と違って、使用してしばらくすると勝手に解けた。使用中は他のスキルも使えたことから、ソウル系の一つランスが下のスキルと考えていいだろう。
落ちていた鰐の鱗と千四百MSを拾って二階層へと進む。
「さて、二階の魔物はどんな奴なんだレイナ?」
「ああ蛇だよ」
「蛇かぁ」
正直あまり好きじゃない。
いや触れなくは無いが、基本俺はウネウネしたり足が沢山あってワシャワシャ動き回る生き物が苦手だ。
「お、ほら。ちょうど目の前にいるぞ」
レイナがこちらに向かってやってくる三匹の赤茶色の蛇を指差す。
名前:ファイアスネークLV9 属性:火
ドロップ:蛇の皮 蛇の肉
魔法:『ファイア・ボール』
な、生意気に魔法使うのかよ!
ファイアスネークは太い。長いのではなく太いのだ。
ニシキヘビを鉄バッドくらいの幅にした感じだ。全長自体は普通の蛇と変わらないせいで物凄く不恰好だ。ツチノコと言われた方がまだ信じられる姿だ。
「気をつけろよ。こいつら動きが俊敏だから攻撃が当て難いんだ。まあ毒は無いから噛まれても痛いだけで済むから、そこは安心してくれ」
痛いのも嫌なんだが、まあ毒を受けるよりはましか。
「取り敢えずジーナはいつも通り空から頼む。ファイア・ボールに注意してくれ」
「了解です」
俺とレイナはいつも通りに接近してファイアスネークと対峙する。
ある程度近寄るとファイアスネークが魔法を放ってきたので、剣を構えてストライクで魔法を突き破り、至近距離でショックアタックの蹴りをお見舞いする、が。
「うっそ!?」
ぐねっと器用に体をくねらせて回避されてしまう。
「あいた!?」
そして無防備に近寄ったせいで太股噛まれてしまう。
痛いけどチャンス!
俺は剣を横薙ぎに払ってファイアスネークの胴を狙う。
俺の一撃は完全には切り裂くところまでは行かずに、ファイアスネークは吹き飛ばされる。
その際に剣で切り裂かれた部分から赤い粒子が漏れていた。
切り裂く事には成功したか。ということはそれほど防御力は高くないのか。
俺は吹き飛ばしたファイアスネークを無視してレイナに向かった二体の内の一体に目標を変更する。
どうもやり辛いな。
ジーナもレイナも攻撃が当たらずにいる。特にレイナはわざと噛ませて、その隙を狙って攻撃を当てている。
「ウィンド・トルネード!」
消費は多いが仕方ない。
三つの竜巻に三体全て飲み込まれて、消滅する。
落ちていた魔石と蛇皮と蛇肉を広いながら思案する。
「ダメだ。こいつらだとレベル上げに時間が掛かる。いっきにボスまで行って、三階を目指そう」
「それはいいが、強いぞここのボスは」
「そうなのか? ん~取り敢えず見に行ってから決めるか。最悪ここは諦めて南の迷宮に行こう」
二人に了解を得てボス部屋に向かう。
道中のファイアスネークには俺がアイアン・ボディでわざと攻撃を受けて動きを止めて、その間に二人が攻撃して確実に仕留めて行った。
戦い終わりにヒールして貰うが、精神的にちょっと疲れてきた。
地図を見ながらようやくボス部屋に到着した俺は、ゆっくりと扉を開けてボスを確認した。
部屋の中央にはどう形容していいか分からない爬虫類がいた。
爬虫類なのは間違いない。だが、なんの爬虫類かは分からない。
大きさはイース迷宮にいたエンジェルグリズリーと同じくらいの大きさで、蜥蜴の様に太い双頭、体は蛇のように細い、そして手足は鰐のように短く、二本足で立ち、そして身体全体を光沢のある鱗が覆っていた。
名前:スケイルリザードLV14 属性:? ?
ドロップ:? ? ?
スキル:《ウォータ・ブレス(可)》《ファイア・ブレス済》《アイアン・ボディ(済)》
属性が二つだと。
スキル的に多分火と水だと思う。
そして双頭、つまりそれぞれから水と火を噴くと。
となると嫌な予感がする。俺はその予感が外れて欲しいと願いながら、レイナに聞いた。
「なあレイナ、もしかしてあの頭から同時に攻撃したりするのか」
「よく気付いたねダーリン。そうなんだよ。あいつ二つのスキルを同時に使えるんだよ」
「発動するスキルは左右の頭で固定か? それとも切り替え可能か?」
「いや、確か固定だったはず。ただ人によって違うから、多分部屋に入った瞬間に決まるんだと思う」
確かに強力な敵だ。
つまり片方でスキルを使って誘導して、もう片方で確実に当てるといった戦術も行えるということだ。
そしてどっちの頭がどっちのスキルを使うのか分からないのも痛い。
「しかもあいつ、アイアン・ボディを使うんだよな。だから防御力も上げることが出来る。レイナ、行動パターンは分かるか?」
「スキルをばら撒きながら走り寄って来て爪や尻尾で攻撃してくる」
「……それはちょっと気持ち悪いですね」
ジーナが想像して嫌な顔をする。俺もちょっと想像して嫌になった。
「取り合えずバースト・ソウルは必須だな。水の頭の方は俺が相手するから、レイナは火の方を頼む。ジーナはいつも通りで、だが狙われる可能性もあるから注意だけはしてくれ」
剣を仕舞って拳を握る。ショック・アタックを多用するためだ。
二人に目線だけを送ると二人が武器を構えて頷く。
「バースト・ソウル!」
俺はスキルを唱えて部屋に侵入する。
「キシャアアアア!」
スケイルリザードが大きく一鳴きすると身体が銀色に発光して、次に青と赤の輝きが起こって右の頭から水を、左の頭から火を吹く。
俺はわざと右手でウォータ・ブレスを受ける。
「ぐあっ!」
当たった腕に引っ張られて軽く上半身が反り返るが、無理矢理体勢を立て直して、すぐに横に飛んで逃れ、吸収を行いながら接近する。
ウォータ・ブレスが吐き続けられて俺を襲う。
俺はそれをなんとか回避しつつ少しずつ接近する。
ファイア・ブレスの方はレイナが誘導してくれていた。
俺の手の届く間合いまでようやく入り込み、ショック・アタックを唱えて腹部を狙うが、蛇のように腹部を器用にくねらせてかわされる。
なら頭だ!
俺はそのまま拳の軌道をアッパーに変えて頭を狙う。
蜥蜴の顎を跳ね上げて、スケイルリザードの頭がぐったりとする。だが、倒れない。
まさか頭が二つあるからか!
どうやらそのようでファイア・ブレスを放っていた頭がこちらを向いて、口を大きく開けるのが見えた。
まずい!?
俺は大きく息を吸って新しく覚えたであろうブレスを吹き出す。
炎の息吹が目の前に迫り、俺は流水の息吹で防ぐ。
水と火がぶつかり合う。
俺は全力で息を噴出す。すると水の濁流が一気に炎を飲み込んでスケイルリザードの頭を跳ね飛ばす。
頭を吹き飛ばされた勢いでスケイルリザードが仰向けに倒れる。
そして丁度アイアン・ボディの効果が消える。
「サンダーボール!」
「スラッシュ!」
「スマッシュ!」
三人が次々に追撃する。
その間も俺は吸収を行う。吸収を怠ればバースト・ソウルで気絶してしまうからだ。
スケイルリザードは首だけ動かしてウォータブレスとファイア・ブレスを吐き出して俺達を攻撃してくる。
俺はバースト・ソウルを解きつつブレスを回避して、ブレスが止んだ瞬間にウィンド・トルネードを放った。
ぐっ!
一気に気持ち悪くなる。
それでもウィンド・トルネードは直撃したようで、スケイルリザードを切り刻んでいく。
その間に吸収を行って回復しつつ、ウォータ・ブレスの準備をする。
竜巻が止んだ瞬間に、二人が魔法を放ち、俺もブレスを放つ。
水、火、雷の三色の玉がスケイルリザードに直撃する。しかしまだ倒れない。
俺はアイアン・ボディを使ってストライクで間合いを一気に詰める。
水と火のブレスが同時に俺を襲う。
俺はファイア・ブレスの方をウォータ・ブレスで、ウォータ・ブレスを右腕で受け止める。
その間にレイナが間合いを詰めてスラッシュで切り裂き、ジーナがサンダー・ボ-ルを当てる。
どうやら一番の脅威は俺と判断したのか、スケイルリザードは攻撃を食らって苦悶の表情はするが俺への攻撃をやめない。
ダメだ。息が続かない。
俺の口からブレスが消える。
やばっ!
俺は炎が顔に当たる前にせめて目だけでも守ろうとウォータ・ブレスを受け止めていた腕でを引いて目元に被せて目蓋も強く閉じる。
「あっつううう!!」
顔を焼けるような暑さが襲い、痛みが走った。
「こんの!!」
「止めなさい!!」
ジーナがサンダー・ボールを当てて、火を噴くのを止めさせ、その後レイナが火を噴く頭の首にスサッシュを叩き込み、頭を切り落とした。
ぐああ、熱いし痛い!
顔が焼け爛れてないか心配だが、今は我慢して首が一つになったスケイルリザードを襲う。
ショック・アタックを叩き込んで気絶させて、スマッシュを頭に叩き込む。
レイナがここぞとばかりに首を狙う。
ジーナが俺にフィールドヒールをかける。お陰で痛みが少しだけ引いた。
そして起き上がり様に俺がスマッシュを腹部に叩き込むと、ようやくスケイルリザードは消滅した。
「いてて、なあ二人とも、俺の顔はちゃんとあるか?」
流石に心配になったので二人に振り返る。
「ヒール! ヒール!」
ジーナが俺の顔に触れならがヒールをかけ続ける。すると顔の火照りが引いていった。
「あ、ジーナもう大丈夫だ。ヒールのお陰で火傷も治ってる。いつものカッコイイ顔だよダーリン!」
「ええ。優先事項ですからね。すぐに治しました」
……つまりヒールをかける前は少なくとも火傷でちょっと酷いことになっていたって事か。
多分軽い低度の火傷で赤くなったか、皮が剥がれていたのかもしれない。
「ま、なんにしろ勝てて良かった。アイテムを拾って三階に行って、魔物を見たら町に戻って食事にしよう」
俺は落ちていた物を手に取る。千七百MSと、久しぶりアクセサリーが落ちていた。
落ちていたのは全体が赤い色をした装飾の無い指輪だった。
名前:火護りのリング 効果:火属性耐性小上昇
おっと、火属性耐性の指輪か。
俺はそれを持ってジーナの元に向かう。
「ジーナ、このリングは少しだが火属性の耐性を上げてくれるらしいから、君が付けておいてくれ」
「私よりも前衛で戦うご主人様の方がよろしいのでは?」
「いや、俺は元々全属性耐性を持っている。今回のように遠距離攻撃を全てかわせるとは限らないし、ジーナが付けておいてくれると安心して戦える」
「分かりました。ありがとう御座いますご主人様」
「じゃ、填めるから指出して」
「あ、はい」
ジーナが恥かしそうに左手のグローブを取って俺に指を差し出す。
取り合えず中指でいいか。
俺が中指に指輪を填めようとしたら、ジーナが小さく『あ』と漏らしたので視線だけ動かして顔を見ると、残念そうな顔をしていた。
……もしかして。
俺は指輪をずらして薬指に填めた。
「っ! 大切にしますねご主人様!」
嬉しそうに填められた指輪を抱きしえながら、ジーナが俺に微笑んだ。
ああやっぱそうか。
どうやらこの世界でも、左手の薬指は特別な意味を持つらしい。
「……いいなぁ」
ボソリと、小さな声で呟いたつもりかもしれないが、俺はその呟きを聞き逃さなかった。
「レイナ、いい事を教えてあげよう。今のスケイルリザード、なんとドロップ項目が三つあった。一つは通常として、もう一つが火の耐性アイテム、という事は?」
そこまで言ってレイナが顔を綻ばせ、耳をピコピコ興奮したように動かしながら大声で応えた。
「つまりもう一つのドロップは水耐性か!」
「その通り。仮に違ったとしても火の耐性アップの指輪が出たらレイナに上げるよ」
「だからダーリン大好き!」
レイナが俺に勢いよく抱きついてくる。
「わ、私も大好きですよ!」
ジーナも俺に抱きつく。四つの福与かで魅惑的な感触を楽しみながら、俺は頑張って良かったと、だらしない表情をしながら考えていた。




