主人公の新しい役割
エンジェルグリズリーに敗れ、午後の探索を開始する。
「よし、第三階層に行くぞ!」
「「おー!」」
二人はノリよく俺に合わせて腕を上げて魔方陣に乗って第三階層に向かう。
そう俺達はエンジェルグリズリーを倒した。それも呆気なく。
切欠はお昼にエンジェルグリズリーについて話し合っているときだ。
ウィンド・トルネードは一定時間が経つと消えるのは先の戦闘で把握していた。
因みに俺が迷宮以外で使用するには、相手のアイコンの色が赤かオレンジでないと発動できないらしい。
試しに町に戻る途中で試そうとしたら発動せず、町の中で発動しようとした時に、対象に浮んだ連中がその二色だった。
多分魔物になら制限なく発動するとは思うが、まだ試していない。
話しが少し逸れたが、そうやって戦闘の分析をしていた時に、ジーナが呟いた。
「遠距離からエーテル吸収するのはダメなのですか?」
……その通りである。
そもそも向うは自分から近付く素振りを見せなかった。
なら相手の魔法の範囲に気をつけ、こちらから近付かなければ良いだけの事だ。
そして実際に試した。
扉の前でこちらが動きを止めると、向こうから近付いてきたので俺だけ接近する。
ある程度の距離になるとエンジェルグリズリーは魔法を使用してきた。どうやら魔法の効果範囲に入ると必ず魔法を使うらしい。
俺はストライクを使って魔法使用範囲を行ったり来たりして常に相手に魔法を使わせ、俺自身もエーテルを消費してエーテル吸収を行い続ける。
すると相手は魔法を連発して勝手にエーテルを消費して行き、結果……俺達は無傷で勝利した。
地べたに這い蹲ったエンジェルグリズリーに、なんともやるせない気持ちのまま止めを刺してドロップアイテムと魔石を拾った。
手に入れたのは天使の羽と言う名の羽だ。
名前の通り白くてとても綺麗だった。
魔石は千二百十MS手に入れた。
だが、正直この勝ち方には俺もレイナも納得がいっていないので、力をつけていつか再戦する事を三人で誓い合った。
「さて、第三階層に来たわけだが」
冒険者ギルドで勝った地図を広げる。
地図の値段は一枚百MS。高いがまあ自力でマッピングする手間を考えれば必要経費と言っていいだろう。
「三階の魔物は鳥型の魔物と冒険者ギルドでは言っていましたね」
「ああ。初めての経験だから全員気を引き締めて挑もう」
「ダーリンもあんまり無茶しないようにな」
「りょ、了解」
レイナに注意されつつ、まずはボス部屋を目指す。
しばらく通路を進むと、三羽の白い鳥が地面で休んでいるところに出くわした。
名前:ホワイトイーグルLV14 属性:?
ドロップ:? ?
スキル:《ストライク済》
魔法:『ウォンド・ボール』
イーグル、確かに鷹のような外見をしている。
体長四、五十センチはありそうな鳥達は、こちらに気付くとすぐに羽ばたいて空へと舞い上がる。
「攻撃が届けばいいが」
剣と相手を見比べつつ攻撃へと移る。
しかし案の定武器が届かない。その上魔法攻撃主体なようで降りてこない。
埒が明かないな。
確か単体魔法には使用の制限がなさそうだから二人に期待しよう。
「ジーナ、レイナ、俺が魔法で牽制するから、そこを上手く魔法で狙ってくれ!」
俺はウィンド・トルネードを唱える。
ぐあ!?
一気に気分が悪くなる。
ちょ、消費激しすぎるだろ。撃てても後一回がやっとだぞ。
緑色の竜巻がホワイトイーグルを追尾し続ける。
「ファイア・ボール!」
「サンダー・ボール!」
二人が敵の動きを読んで着実に魔法を当てていく。
その間俺は二人を守りつつ吸収でエーテルを回復して次に備える。
魔法が消えてすぐにもう一度唱える。
まずいな。回復が追いつかない。
使用する度に気持ち悪さの度合いが増していく。
もう一度ウィンド・トルネードを唱えたところで、レイナのファイア・ボールが当たって最後の一体が消滅する。
「はあ、はあ、はあぁ~」
荒い呼吸を落ち着かせようと深呼吸を行う。
二人を見ると二人も胸元に手を当てて肩で息をしていた。
「ダメだな。一度三階の入口に戻ろう」
二人も賛成とばかりに頷いてくれたので、ドロップアイテムの鳥の羽三つと、魔石を拾って、三人で来た道を戻って休憩する。
因みに鳥の羽根は薄茶色をした羽だった。ホワイトイーグルなのになんか納得いかない。
「以外に厄介だな。空を飛ぶ敵は」
「魔法で狙いをつけるのも中々骨が折れるしね」
「ええ。ウィンド・トルネードである程度動きは制限されていますが、それでも難しいです」
範囲魔法があったらもう少し違うかもしれないが、物理攻撃ができないのが痛いな。
「……仕方ない。イース迷宮からは一時撤退だ。他の迷宮に入って、一番レベル上げがし易そうな場所でレベルを上げて再戦しよう」
「そうだな。あたいもそれがいいと思う」
「ええ。まずは自分の力量に合った階層で戦いましょう」
「となると南にあるヴァルド迷宮か西のエルーダ迷宮のどっちに行くかだな」
ヴァルドは今俺が拠点としている町の名前だ。
エルーダはヴァルドの町から一時間程歩いたところにある村で、レイナの故郷だったりする。
基本的に迷宮の名前は一番近くの町や村、名称のある森や川、山などの名前が付けられるらしい。
つまり町から一番近いのはヴァルド迷宮ということになる。
レイナは西の迷宮に一度行っているらしいし案内を……んん
そこで俺の頭に疑問が浮ぶ。
そう言えば前々から気になっていたんだが、レイナはどうやってレベルを上げたんだ?
エルーダ迷宮だって迷宮なんだから簡単に入れないはずだよな?
「そう言えばレイナ、レイナはどうやってレベルを上げたんだ? 迷宮には証が無いと入れないんだろ?」
悩むよりもレイナ直接聞いたほうが早いと思った俺は歩きながらレイアンの方に首だけ向けて尋ねた。
「ん? 一応動物を倒しても経験値は入るぞ。あとあたいは村の自警団に入っていたからな。定期的に町で許可を貰って自警団のみんなと迷宮には入っていたんだよ」
「入っていた迷宮はエルーダ迷宮ですか?」
「ああ。一番村から近かったしな。二階のボスまでなら案内してやれるぞ」
おおそれは助かる!
「それじゃあ一度町に戻ってエルーダ迷宮に行こう。地図はどうするか?」
「あ~すまんダーリン。流石に道順は覚えてない」
「了解。じゃあ三階層までの地図を買って行こう」
今後の方針も決まり、俺達は一度イース迷宮を後にした。
町で地図を買った俺達は、その足でエルーダ迷宮へと向かった。
「レイナ、エルーダ村には寄らなくてもいいのか?」
「ああ、特に気にしなくていいよ。村にある施設も牧場と畑が殆どだから、見るもんも無いしね」
村に戻り難いとかではなく、本当に気にしてないって感じだな。
どうやらレイナは郷愁の念が薄いタイプのようだ。まあ冒険するのが夢だったわけだから以外でもないか。
「でもレイナの故郷がどんな所かは見てみたいです」
「だな。夕食はエルーダ村でとるとしよう。料理店くらいはあるだろ?」
ジーナの発言に便乗して俺も村訪問の理由を挙げる。
「ああもちろん。迷宮が近くにある村には一件はあるもんだよ。基本肉料理がメインだから、ジーナがいいならあたいはいいよ」
「お肉も嫌いではないですよ」
今日の夕食も決まり、意気揚々と迷宮へと向かう。
迷宮の建物は野原に建っていて、中に入ると建物の構造は一緒だったが、色がイース迷宮とは違っていた。
イース迷宮が緑だったのに対して、エルーダ迷宮は赤色だった。
もしかして属性か何かを表しているのか?
有り得る。イース迷宮は緑色で風属性が多かった。
てことは赤だから火か?
「レイナ、もしかしてこの迷宮は火属性の魔物が多いんじゃないか?」
「その通りだよダーリン。だからジーナは少し注意した方がいいかもな」
やっぱり。迷宮の色と魔物の属性は関係性がありそうだ。
だがブラックベアーは風属性じゃなかったから、完全に統一されている訳ではないだろう。
俺達は地図を見ながら小部屋は空けずに一気にボス部屋を目指す。
「おっと」
曲がり角で先の通路を顔だけ出して確認すると、通路の先にコモドオオトカゲみたいな大きくて赤い蜥蜴を二匹見つける。後ろ向きなのでこちらには気付いていないみたいだ。
名前:レッドリザードLV3 属性:火
ドロップ:蜥蜴の皮 蜥蜴の肉
スキル:《ファイア・ブレス(可)》
……ぶ、ブレスかぁ。
解析を済ませた俺は、顔を引っ込めて唸る。
自分が火を噴く瞬間を想像して、その姿にちょっと引いた。
忍者漫画とかではよくあるけど、あれ実際使うとどうなの、口の中とか大丈夫なのか?
あとなんでレッドリザードの項目が全部埋まって……あ。
きっとレイナが使い魔になったからだ。
ジーナの攻撃でも俺の解析に反映されたことから考えて使い魔が得た情報も解析には反映されるっぽい。
ならレイナが過去の探索で既に属性やドロップアイテムを知っていた可能性はある。
どこまで便利なんだ解析能力。
「レイナ、レッドリザードの攻撃パターンとか分かるか?」
「基本突進して来て火を噴くだけだ。火の距離は大体一メートルくらい。更に近付くと噛み付き、横から攻撃すると尻尾を振るって来る。ただ、基本直進と後退しかしないから、隙は多い魔物だよ」
「了解。属性は火みたいだからジーナは気をつけてくれ」
「はい」
作戦会議を終わらせて曲がり角から姿を現して臨戦態勢を取る。
「二人は奥の一体を集中攻撃。俺は手前の奴を相手にしつつラーニングする」
「「了解」」
二人に指示を出して突っ込む。
頭上を火と雷の玉が通り過ぎてこちらに振り返ろうとしていた内の一体に直撃する。
もう一体は見た目に反して素早い動きでこちらに突進してくると、途中で止まって赤い輝きを放ち、息を吸う動きを見せた。
来るか!
俺は一度剣を仕舞ってバースト・ソウルを唱え、腕をファイア・ブレスに突っ込んで振り払う。
ブレスは一瞬途切れるが、息が続く限り火を噴けるのか、すぐに次の火の息が襲ってくる。
ファイア・ブレス!
体の内側が熱くなるのを感じた俺は、息を大きく吸って勢いよく吐き出した。
口の少し前から一気に炎が噴出してレッドリザードの炎を飲み込んでレッドリザードを燃やす。
苦しくなってきたので息を止めると炎も止んだ。バースト・ソウルも解きつつ吸収を行う。
魔法と同じで威力が強い方が勝つのは一緒みたいだな。
だがどうも俺とレッドリザードの吹き出た炎の形が違った気がする。
俺の方がなんか炎事態も大きくて射程も長かった気がする。
もしかして……。
二人の方を見ると問題なく戦えている様だ。
試してみるか。
俺はレッドリザードと一定の距離を保ってもう一度ファイア・ブレスを唱える。
そして今度は口の中に空気を溜めて口内の空気を一息で弾き出す様な感じで吐き出す。
するとファイア・ボールよりは小振りだが火の玉が出てレッドドラゴンに当たって弾ける。
連続で出そうとしたが、一回吐いただけでスキルの効果が体から抜けたのが分かった。
次!
俺はもう一度大きく息を吸って口を大きく開けて吐き出しながらレッドリザードに駆け寄る。
よし、やっぱり息が続く限りは使用し続けられるみたいだ。
レッドドラゴンを火炙り状態にしたまま至近距離で火を止めてレッドリザードの頭に剣を突き立てる。
その一撃でレッドリザードは消滅した。
「ギシャアアア!」
悲鳴が聴こえたので振り向くともう一体のレッドリザードも消滅する所だった。
「イエーイ!」
「やりましたね!」
二人がハイタッチして喜び合う。
ちょっと羨ましかった。
こんなこと言いたくないけどもう一人パーティメンが欲しい。
……いやラーニングがある以上結局初回の戦闘は孤立するから一緒か。
俺はちょっとおセンチになりながら、落ちていた蜥蜴の皮と魔石を拾って二人に近寄る。
一体あたり三十MSか。やっぱ一階の敵は落す魔石が少ないな。
「二人とも大丈夫か?」
「はい」
「それよりダーリン凄かったな。炎を巧みに操ってたぞ」
「ああ、ちょっと色々試してみた。どうやらブレス系は吐く息の量と吐き方で色々な形で使用できるみたいだ。まあ最初に息を吐く時にのみ効果を発揮するみたいだから、一回息を止めちゃうと効果は消えてしまうようだが」
試しにファイア・ブレス唱えて軽く小さくふ~っと口を窄めて吹くと、小さな炎が吹き出た。
「お~。つまりダーリンがいれば火おこしは必要ないな」
「薪だけでいいのは助かりますね」
「あ、水を吐く敵の技を覚えたら水代も浮くぞ!」
「飲み水確保は必須ですからとても助かりますね!」
雑用係にされる!!
この瞬間、俺にリーダー以外の役割が新しく追加された気がした。




