新しいお嫁さん
「つまり三人で過ごすには狭いから、俺名義で空いていたこの部屋を借りたと?」
「ああ、金はあたいが持っているからな」
「ご主人様だけ昨日のみ一階のお部屋に運んだんです。荷物の整理とかもありましたし、倒れたご主人様をすぐに休ませたかったので」
以前一階のベッドでしたように、三人でベッドの上に座って話し合う。
もっとも、前回とは大分状況が違う訳だが……。
まず二人が明るい。まるで初めから友人だったかのような雰囲気で笑い合っている。
さらに今回はダブルベッド、それも結構大きめのキングサイズなので、三人でも余裕で座れる。
「で、俺が倒れてから丸一日経ったのは分かった。その間に起こった事を教えてくれ」
「ん~つってもあたいがご主人様のハーレムに入ったくらいだと思うぜ。変わったことなんて」
「いやいや全然変わってるよ! なんで二人ともそんな急に親しくなったの!?」
ついに耐え切れなくて俺の方から尋ねる。
「なんでって、なあ」
「ですね」
二人がお互いに見詰め合って笑い合った後、こちらに振り返った。
「「手の掛かる男に惚れちゃったなぁって」」
愉快そうに声を揃えて言う二人を見て思った。
あ~こりゃ勝てんわ。
遠い日に親父に言われた言葉を思い出す。
『いいか空。男は女にイジられる生き物だ。だからそうなったら耐えろ。絶対勝てないから反抗なんてしちゃ駄目だ……三倍返しで自分に戻って来るから』
『あらあら、あなたったら。よ~しお母さん頑張っちゃうぞ!』
『やめて!』
その日の夕食で親父が母さんに送った数々の愛のポエムが公表され、親父は憤死した。
「これからダーリンを支えて行くのは大変そうだ」
「はい。私達がしっかり傍にいないと、またどんな無茶をするか」
「すいません。もう勘弁してください」
この世界で土下座が通じるか分からないがベッドの上で土下座して許しを請う。
二人がしばし沈黙した後、お互いに溜息を吐くのが聴こえた。
「しょうがないから許してあげます」
「ま、取り合えず今後無茶する時は必ず一声かける事。忘れたらまたこうやって怒るからな」
「了解しました!」
許しを得たので上半身を起こして俺の世界式の敬礼をする。
「で、なんの話だっけ?」
「取り合えず俺が気絶してからのことを教えてくれ。あとこの部屋のシステム」
「了解です」
ジーナなの親切で丁寧な説明によると、俺が気絶した後、二人は俺を担いで町に戻ったそうだ。
兵士の一人が手を貸そうと申し出たみたいだが断ったらしい。
そして道中で俺について話し合っている内に、先程の結論に達して意気投合。
モーネ亭に戻った後、俺を一度部屋に休め、レイナがもっと広い部屋に移りたいとモーネさんに交渉し、この三階に移ったそうだ。
その日の内に全員の荷物の引越しを終えて、二人は寝るまでの間ずっと俺の事を看病していたらしい。
「エーテル不足による気絶だとは思ったんだが、一応一晩様子を見て、悪いままなら教会に連れて行くって話になったんだよ」
この世界に病院は無い。なので病気や怪我をしたら教会に行って魔法で治して貰ったり、薬を調合して貰ったりする必要がある。
「そうだったのか。二人には本当に迷惑をかけたな」
「ええ本当に」
ジーナが大きくしっかりと頷く。ジーナさん以外にしつこいんですね。泣いていいですか。
「ほれほれ話しが進まないから次行くよ。とりあえず大きな傷なんかをつけなきゃ部屋で何してもいいってさ。掃除は部屋を留守にする間にするから問題ないそうだ。ただタオルを交換する場合はベッドの上に置いておいて欲しいってさ。石鹸と、あと部屋の魔道具のランプの魔石補充は初回以降は有料。あと手持ちランプは外に持ち出す時は声を掛けて欲しいって、ついでに無くしたら弁償だそうだ」
「そう言えば、ランプっぽいのが部屋のあちこちにあるな」
ガラス部分の形は違うが、底の部分が娼館で見たランプと一緒の作りのランプが、いくつか部屋の壁に設置されている。
手持ちの取っ手が付いる小さいランプは、一階にもあった一人用の机の上に二個置かれていた。
「魔道具って事は、エーテルで動くのか?」
「正確には魔石に含まれるエーテルでだよダーリン。ランプの下に魔石を入れる場所があるから、そこに魔石を入れて動かすんだ。因みに、エーテル量の位の高い魔石を入れた方が使用時間が長い」
あ、もしかして。
「MSの位も、魔力の量の位で決められたのか?」
「ああそうだよ。赤魔石のエーテル量は百未満。橙魔石は千未満って具合だね。細かい数値は分からないが桁が一つ増える度に魔石の色が変わるのは検証済みだから間違いないはずだ」
なるほど。ようやくMSの実態が掴めたな。
そして同時に迷宮へ入る人数を規制している事にも納得した。
そりゃ誰も彼もが手に入れたら商売が成り立たないよな。
ゲームなんかも魔物倒してお金が手に入るなら、結構大人数がそういう職に付くと思うし、盗賊なんて本当に悪い奴しかやらない職業だろう。
「あとシャワーは基本水だそうなので、お湯を使いたい場合は魔道湯沸し機に自分で魔石を入れて温度を調整して欲しいとの事です」
湯沸かし機まであるのか。実は以外にこの世界も結構進んでいるんだな。
「ま。魔道具は高いから、それだけこの宿屋が儲かってるんだろうな。毎日シャワーとか贅沢だよなぁ」
あ、やっぱ贅沢品なんだ。
「さて、では私は買い物に行って来ますね」
会話が途切れた途端、ジーナが立ち上がってベッドから降りる。
「買い物か? なら俺も付き合うが」
「いえ。ご主人様にはやることがありますから、私だけで大丈夫です。レイナにこれからの冒険であった方がいい物をメモして頂いたので、私だけで問題ありません」
てことはレイナも行かないのか。
レイナの方に視線を移すと、彼女は太股をもじもじさせ、顔を赤くしていた。
あ、そういうことか。
二人の態度でようやく意図を察した俺はジーナの方へと向き直る。
「分かった。だが、ワザと遅くなる必要は無い。レイナの次はジーナなんだからな」
「はい、もちろんです」
ジーナが嬉しそうに笑って部屋を出て行った。
「さて」
「うっ」
俺はレイナの方へと向き直る。
先程までの元気はどこへやら、レイナはおっかなびっくりと言った感じで複雑な表情をし、体が汗ばんでいた。耳もどうしたもんかと言った感じで忙しなく動いている。
前はもっと積極的だった気がするが、改めてとなると恥かしいのかもしれないな。
俺もドキドキしっぱなしだし。
「せっかくジーナが気を利かせてくれたので、はっきり言おう。キスしたいです」
「は、はっきりと言うなよ恥かしい」
レイナが顔を赤くさせ、こちらに振り返る。
「し、したいなら、してもいいけど」
「したい」
レイナに更に近付く。
「だ、だったらいいけど」
「よしきた!」
肩を抱いて更に迫る。
「あっごめその前に汗を!」
「もう無理」
「んんっ!」
彼女の唇を奪って抱き寄せる。
「ちょ、お願いだソラ……汗だけ流させてんん」
「んっちゅ、無理。むしろせっかくこんな良い匂いをさせてるんだから勿体無い」
「へう?」
唇を少し離したところでレイナが驚いた表情をしていたのに気付き、顔を離す。
「どうした?」
「だって今、あたいの……あ、お世辞か」
ふむ……もしかして。
俺は彼女の腕を無理矢理上げてすかさず脇に顔をうずくめる。
「っちょ! ダメ!」
腕を下ろししてガードしようとする彼女を押し倒し、俺は脇の匂いを嗅ぎ終え今度はうなじに移る。
「ダメソラ! ああっ」
訳が分からない。と言った感じで暴れるレイナを組み敷き、うなじと首筋に舌を這わせる。
「んっ! あっ」
「……ジーナが体で誘惑するタイプなら、レイナは匂いで誘惑するタイプかな」
「……頼むソラ、あまり匂いのことは」
「やっぱりレイナのコンプレックスは匂いか」
「…………」
沈黙と言うことは肯定だろう。
レイナは顔を背けて顔を伏せてしまった。
偶にいる。というか俺の勤め先にも汗っかきな仲間がいて、すごい気にしていて香水とか食事療法を色々と試していた。
効果の程は芳しくなかったようだが。
そもそも汗の匂いは年によるフォルモンバランスの変化以外でも変化する。
食生活、ストレス、病気等が理由で突然匂いが変わる。
もちろん遺伝だって関係してくるが、これは本人のせいではないのだから、責める理由にも嫌いになる理由にもならない。
「もしかして、結婚に拘っていたのも匂いが理由?」
俺が出来るだけ優しく尋ねると、彼女は小さな声で答えてくれた。
「……だって、こんな臭い女、普通嫌だろ。特に獅子族は恋人選ぶ時に匂いも重視されるし。男連中はみんな、友達や仲間としては有りだけど、女としては見れないって。そりゃ、どうでもいい連中なんて気にしないさ。同性同士では匂いも気にしないから女友達もいたし……でも」
そこでレイナは一度言葉を止めると、俺の方へと振り返った。
彼女は顔を真っ赤にして、涙が零れるんじゃないかというくらい、瞳を潤ませていた。
「あ、あたいだて、好きな男には、傍にいて欲しいんだ。恋人から始めて、それで後々匂いのこと知られて、振られたら……」
「つまり俺が気にしなければ問題ないんだな」
「え?」
戸惑う彼女に、俺は言葉をかけ続ける。
「言ったろ。俺はお前のこの匂いが好きだ。他の男共は鼻が悪いんだろうさ。こんなにも『私をあなたの者にして』ってフェロモンを撒き散らしているのに」
「あんっ」
レイナの首筋に再度口付けして、顔を上げて彼女を見詰める。
「ジーナは以前言っていた。俺の好みになった体が自慢だと。レイナ、お前も自慢しろ。他の連中が臭いと言った匂いにここまで惚れ込んだ男がいるんだと。今日からは俺がその汗を、匂いを、一番に浴びてやる」
「ダーリン、んっちゅ」
今度は触れるだけのキスを、一度だけする。
彼女は今度は抵抗も驚きもせずに、俺のキスを受け入れてくれた。
「他の男にはもうやらないからな。レイナには逆に俺の匂いを染み込ませて、俺のものだと周りに分からせてやる」
「……変体匂いフェチ」
悪態をつきつつも、レイナは優しい笑顔を浮かべて笑った。
「ならもうダーリンの好きにしていい。さっきの言葉を、あたいに信じさせてくれ」
「もちろんだ」
俺は行為の再開を告げる様にキスをし、キスしたまま彼女の体へとその手を伸ばした。
その後戻って来たジーナとも愛を確かめ合い、最終的に三人で愛を確かめ合ったが、最後の方はよく覚えていない。ただ意識を失う前に見た二人は、とても嬉しそうに微笑んでいたのだから、これで良かったのだろう。たとえこのあと、俺が綺麗な川辺の夢を見たとしても……。




