嫁を得るか婿となるか
「来たか」
イースの森を進んでいると、迷宮の手前で、木に寄り掛かったレイナと遭遇した。
どうやら先に待っていたらしい。
「待たせたか?」
「んにゃ。そんなに待ってないから気にするな」
「そうか。じゃ、さっそく行こうか」
あれ? これってセリフが逆じゃね?
デート前のカップルのような会話に苦笑しつつ、三人で一緒に迷宮に向かう。
それにしても、こちらも結構早めに出たんだが、それだけ彼女も本気と言うことだろう。
というか、時計欲しいなぁ。懐中時計しかない上に、高いんだよなぁ。
などと心の中で愚痴っている内に、迷宮入口にたどり着いた。
「ここに入るには許可証が必要だ。許可証は持っているか?」
入口前に立っていた二人の兵士が、俺達の前に来て許可証の提示を求める。
お互いにそれぞれエンブレムを見せる。
「確認した。そちらの彼女も同行者か?」
「はい。パーティメンバーです」
「確認した。通っていい」
三人とも問題無く通過する。
ソウルクリスタルのチェックもあるのかと思ったが、意外に警備が温い。
「随分と不思議な場所なんですね」
ジーナが一階入口の中を見渡しながら呟く。
「ああ、俺も初めて来た時そう思った。随分と建物の作りが違うよな。レイナは初めて入った時はどうだった?」
「ん? ん~確かに二人と同じ様な事を考えたな。ま、あまりに作りが違いすぎて、すぐに気にならなくなったが……って、これから戦おうって相手によくもまあそんな気軽に話しかけられるな」
レイナは呆れたような表情で苦笑する。
「そりゃぁ、お互い大きなものを賭けた勝負だが、別に敵って訳でもない。むしろこの程度で険悪になったら、この先一緒に行動なんて出来ないだろ?」
「ははは! 違いない。ああ、やっぱソラはいいな。ますますあたいのモノにしたくなった!」
俺の答えに対して、レイナは不適な笑みを浮かべながら棍を構えた。
さて、ここからは勝負だからな。どん手でも使わせてもらう。
俺は立ち位置に移動しつつ、レイナの解析を行う。
名前:レイナLV11 種族:獅子族 性別:女
ジョブ:戦士LV5
装備:ウッドステッキ 革の帽子 革のジャケット 革のグローブ 革のブーツ
奮闘のアミュレット
アビリティ:【スラッシュ】【武器耐久値小上昇】
スキル:《毒無効》《火属性》
《最大エーテル強度値上昇LV1》
魔法:《ファイア・ボール》
凄いな、最弱装備で優勝したのかよ。
道具に物を言わせて勝った俺とは大違いである。
対してこっちのデータは。
名前:ソラLV8 種族:魔人族 性別:男
ジョブ:調律者LV8 勇者LV1
使い魔:ジーナ
装備:ウッドソード 革の帽子 革のジャケット 革のグローブ 革のブーツ
アビリティ:【エンゲージ】【ラーニング】【サモン】
【バースト・ソウル】【成長速度上昇LV1】【成長値上昇LV1】
スキル:《全属性耐性LV1》《全状態異状耐性LV1》
《解析》《身体強化LV1》《ジョブチェンジ》《エーテル吸収》
《ストライク》《ショック・アタック》
魔法:なし
こっちの装備もそれほど変わらないか。
問題は武器の方だが、どうも装備された装備品は単体では解析できないんだよな。
勝負の前に相手の装備品を解析できないか色々試してみたが、どうしても装備品を解析しようとすると相手のステータスが浮んでしまう。
武器に関してはどうやら手に持つか、腰や背に帯刀した段階で装備したと判断されるらしい。
鞘紐を持って肩に担いでいる分には装備扱いにはならないみたいだ。
ま、それでも相手の装備が分かるんだから、チート能力だよな。
レイナから少し離れたところで立ち止まり、剣を構える。
不安要素は多いが、ここまで来たら作戦通りに頑張るしかないよな。
「さて、それじゃあ始めようか。開始の合図はジーナにやって貰うが、いいか?」
「もちろん」
後方の安全圏まで下がったジーナに合図を送る。
「では…………始め!!」
大きな声でジーナが開始の合図を告げる。
「スラッシュ!」
レイナがスキルを唱えると、棍自体が銀色に光る。
「行くぞ!」
レイナがこちらに迫る。
「バースト・ソウル!」
俺の体が黄金色に発光する。
「なっ!?」
驚いているレイナに肉薄する。
二、三歩で一気にレイナの懐に入り込む。
「せい!」
俺はレイナの根を剣で攻撃する。
俺の剣と接触した瞬間に根の光りが消滅する。
「くっ!」
レイナが軽く弾かれ後退するが、俺は追撃の手を緩めない。
活動限界は少ない! 一気に行く!!
驚き戸惑うレイナに向かって剣を振り続ける。もちろん棍のみを集中攻撃する。
「たっく。ホント、ソラには、驚かされる! でも、逃げるのは性に合わないんでね!」
防戦だったレイナが、スラッシュを纏った棍を大振りに振り払って俺を弾き飛ばす。
そしてその隙を見逃さずに、今度はレイナが俺の懐に飛び込んでくる。
怖いのはこっちだっての、武器狙いなの知ってるだろうに。
迷う事無く根を振り回すレイナに、冷や汗を流しながらそれでも笑って強がる。
レイナはスラシュが切れた端からスラッシュを唱え、俺はそれを武器で、頭で、腕で受け止めて、兎に角武器の耐久値を減らしていく。
攻撃を頭や腕で受ける度に、軽い痛みが走る。
これでもバースト・ソウルで軽減されているのだから、普通に受けたらどれだけ痛いのやら。
「うおおらぁ!」
「げっ!?」
レイナの横払いをストライクと帽子で受け止めた瞬間、横払いの勢いに負けて、帽子を頭から零れ落としてしまう。
マジかよ!?
後方に吹き飛びながら焦りに顔を歪ませる。
「せいやああ!!」
レイナは一切の躊躇も無く、スラッシュを纏った棍を俺の額目掛けて突き出しながら突進してくる。
まずい、武器にはすでに小さな亀裂が入っている。武器で防いで壊されたら負けだ。
「なら!」
俺は棍の先端目掛けて剣を突き出す。
ギリギリまで狙いをつけて、唱える。
ストライク!
高速で一気に間合いを詰め、なんとか俺の剣はレイナの棍の先端を捉え、お互いの武器同士が激突する。
「ぐっ!」
「ぬうっ!」
肉体に衝撃が走りそして、お互いに吹き飛ばされる。
「ぐっつうぅ!」
「ぐあっ!」
俺とレイナはお互いに片膝を付くも、すぐに立ち上がって武器を構えた……その時。
「あっ!」
棍が砕け散って光りの粒子となって消える。
「それまでです!!」
ジーナが瞬時に試合終了を告げる。
手元の剣を見ると、刀身に一振りでもすれば壊れてしまうと思うほどの大きな亀裂が入っていた。
あぶな、ぐあっ!?
俺の体から黄金色の輝きが消えた瞬間、強烈な気持ち悪さに襲われ、耐え切れずにその場に倒れこむ。
いっつ。
なんとか頭だけは庇うことは出来たが、思いっきり地面に体を打ちつけてしまう。
ヤバイ。気持ち悪くて立っていられない。
吐き気と頭痛と眩暈に……あ、駄目だ。
もはや意識を保つものも難しく、俺の視界は一気に暗くなっていった。
*
気付いたら見慣れた天井だった。
モーネ亭だな。
もはや二度目である。驚きも戸惑いも無い。
俺は体をゆっくり起こして辺りを見回す。
誰もいない。ジーナも、レイナも。
まるで最初から俺一人だけだったような。そんな静けさが、部屋中を包んでいた。
ま、まさか今までの全部夢オチとかじゃないだろうな?
自分の左腕を見る。ちゃんと、というのも変だが、左腕は無くなっていた。
てことはレイナとの決闘部分だけが夢オチ、とか?
それはありそうだ。
「取り合えず時間の確認と現状把握だな」
俺は体を起こして窓の外を見る。
日の陰り具合的に、まだ午前中だよな。いよいよ夢オチの可能性が高まって来た。
俺は部屋を出てカウンターに向かう。
「おやソラさん、体の具合はもうよろしいので?」
カウンターにはモーネさんがいつものように座っていた。
「はい。ところでジーナがどこに行ったか知りませんか?」
「ああ、彼女等なら既に三階にいますよ」
彼女……ら?
「え?」
「ソラさんの荷物の移動も終えていますから、鍵だけ頂けますか?」
「あ、はい」
色々疑問は残るが、取り合えず鍵を手渡す。
「では行きましょうか」
モーネさんが別の従業員にカウンターを任せて俺を三階に案内してくれる。
「ウチの三階はカップルや夫婦の方専用ですから、夜の方も気兼ねなく。更に三階部屋はシャワー付です」
控えめに言ってくれたが、つまり夜に営んでもいいですよ~と言う許可だ。
「ところで、どうしていきなり三階に――」
「さ、付きました」
喋っている途中で部屋に着いてしまった。
三階の角部屋である。結構な値段がするのではないだろうか?
「モーネでございます。ソラさんをお連れ致しました」
モーネさんがノックをしてドア越しに声を掛けると、ドアが開かれた。
「ご主人様! 良かった起きられたのですね」
出てきたのはジーナだった。
余程俺のことが心配だったのか、俺を見た途端、瞳が僅かに潤んだ。
「ああ、まだ色々飲み込めていないが、心配をかけてすまなかった」
「では私はこれで、詳しい説明はお二人からの方がよろしいでしょう」
モーネさんは一度お辞儀してから去ってしまった。
そう言えばジーナ以外にもう一人いるみたいな事を言っていたが、まさか……。
「あ、ダーリン! 良かった目が覚めたんだな」
部屋の中にいたのは、黒のタンクトップと、黒の無地の下着一枚という、なんとも艶めかしい姿でこちらに笑いかけるレイナの姿だった。
ま、色々聞きたいことはあったが、取り合えず今は言わせていただこう。
レイナさんありがとうございます!




