勝利のための準備
レイナと約束した当日に、俺はソフの店に向かった。
その時に巾着の所持金を確認したら何故か緑色の魔石が入っていた。
中には紙切れが入っていて、紙には『退職祝いだ』と書かれていた。
誰が入れたのかは明白である。
俺はその手紙をジーナに渡した。
彼女は大切な宝物のように手紙を抱きしめた後、持って来た自分の鞄に仕舞った。
俺はエルメイルさんの好意をありがたく貰い受け、ソフにジーナを紹介して少しだけ他愛ない会話をした後、超レアの皮の帽子と、残りのお金でジーナの装備を整えた。
コートとローブで迷ったが、動き易さを優先して超レアの上質なコートを一つ購入。
ジャケットや胸当ても考えたが……刺激が強すぎたので止めた。具体的には胸が凄いことになったとだけ言っておこう。
超レアの革ブーツと超レアの上質革グローブも買った。ブーツは俺のものと交換した。
ジーナの防御力強化が優先だ。
頭は取り合えず保留にした。まだ戦闘の役割もちゃんと決めていないからな。
一応白兎の首飾りはそのままジーナに持たせる事にした。
ついでにソフさんお勧めの武器屋を教えてもらい、そこでウッドソードと棍を数本買った。
本当はそのあと素振りしようと思ったが、まだ痛みがあることをジーナに知られてしまってその日はゆっくり休むことになった。
そしてこの時点で四千ちょっとお金が減った。
木製装備でも一本約三百MSするのだから、やはり装備品は高い。
「よっ、はっ、ふっ」
そして今日、朝から町門近くの外れで、一人で縦に横に斜めにと、剣の素振りを行う。
ウッドソードの大きさは全長約六十センチくらいで、普通の剣と見比べたらショートソードと同じ長さと形をしていた。
ま、初心者用なのかもしれないな。
この世界。どうやらゲームで言う片手剣はブロードソードが基準らしい。
一番小さいダガーが全長約三十センチ。それを基準にブロードソードを図ると、ブロードソードは全長約八十センチ。ショートソードは丁度ダガーとブロードソードの間の武器といった位置になっている。
試しに銅のブロードソードを持ったら重かったもんなぁ。
一回へクツ戦で使ったが、重さとか気にする暇がなかったので好奇心から持ってみた。
持てなくは無いが、右手に掛かる負担が大きく感じた。
ショートソードの方も振ってみたが、こちらの方が刃渡りが小さい分軽く、右手への負担も少なく自由に振る事ができた。
棍の方は全長約百二十センチ位で、物干し竿の様な円形で細長い形状の木の棒だ。
「はあ。ジーナの方はどうなったかなぁ」
少し休憩と傍の木に背を預けて座り、ジーナのことを考える。
ジーナには冒険者ギルドで俺が知りたかったことを聞きに行って貰っている。
殆どはジョブや迷宮探索に関することだから冒険者ギルドで知ることが出来ると思う。
「悪い連中に捕まってなければいいが……」
本当ならもっとイチャイチャして過ごしたかったんだけどなぁ。
だが仕方ない。勝たなければ彼女と過ごすことも出来なくなるのだから。
「さて、再開するか」
呼吸が落ち着いてきたので素振りを再開する。
それにしても動き難い。
片腕を失ったことで、こうまでバランスが悪くなるとは。
素振りの他にもイメージトレーニングで棍を避ける練習を行う。
ただ、思ったよりも左手が無いことが影響しているのか、どうも動きが鈍い気がしてならない。
ステップ時にバランスを崩したりもした。
「やれやれ、せめて動きだけは前と同じくらいにしないとな」
ある程度体を動かして自分の現状を掴んだ後、レイナとの勝負に勝つための作戦を開始する。
麻袋から買った木製武器を地面に並べ、分ける。
超レアの剣が四本、棍が一本。レアの棍が一本。普通の棍が一本。
俺は超レアの棍を木に立て掛け、その棍目掛けて同じく超レアの剣を振り下ろす。
木と木がぶつかる音がして棍が地面に転がる。
ちょっと腕に衝撃が走ったが耐えられないわけじゃない。
俺は何度も何度も剣と根を叩き付け合う。
そして叩いた回数をちゃんと数えておく。
二十発叩いたところで棍に小さなヒビが入いり、更に叩き続けて三十発で砕けて消滅する。
解析で自分の持つウッドソードを調べると、耐久値が中になっていた。
まだいけるか。いや、ちゃんと検証するためにちゃんと高い状態から試すべきか。
俺は持っていた剣を他の武器から少し放して置き、武器の束から別の剣を二本持ち出して、超レアの剣の一つを棍と同じ様に叩き始める。
剣には十五発程でヒビが入り、二十三発で砕けて消滅した。
「剣の方が耐久力が低いのか」
だが、少なくとも超レアの剣でならレア以下の棍よりも耐久値は上だろう。
「いや、ちゃんと調べるべきだな」
無傷の超レアの剣を持ち出して、残りの棍の耐久値を調べる。
*
「ふう。こんなところか」
全ての棍の耐久値を調べ終えた俺は、座って検証結果を纏める。
超レアを壊すのに必要な回数は三十、レアを壊すのに必要な回数は二五、普通で十五回だった。
どうやら耐久値以外にもエーテルの強度数値が高ければ壊れるまでに時間が掛かるみたいだ。
「だけど超レアのウッドソードでなら、レア以下の棍には対応できそうだ」
問題はレイナが持ってくる棍が超レアだった場合だ。
「超レア同士では棍の方が強い。しかもレベルはレイナの方が高い……か」
そう考えるとレアでもやばいか。やっぱり当初の予定通りに……。
「となると、やっぱり早く体を思うように動かせるようにならないと困るな」
俺はヒビが入って耐久値が低になったウッドソードを脇において、耐久値中のウッドソードを構えて再度素振りを開始する。
ジーナが戻ってきたら、一度修繕のために鍛冶屋へ行かないとな。
「ご主人様ー!」
なんて思っていたらジーナが戻って来た。噂をすればなんとやらである。
素振りを止めてジーナの元へと向かう。
「お帰りジーナ。どうだった?」
「はい。色々覚えてきました」
「ありがとうジーナ。後はそれが覚え損にならないように、俺が頑張るだけだな」
手に握られたウッドソードを見詰める。
「大丈夫です。ご主人様は負けません」
ジーナが自信に満ちた目で俺を見詰める。
やれやれ惚れた女の期待に応えるのが、男の甲斐性って親父は言っていたが、中々大変だ。
そういう意味では、母さんだけでなく、子供達の期待にも応えられていた親父が、いかに出来た人間だったか実感させられる。
「でも、その方がやり甲斐もあるか」
ジーナの期待に応えられるよう、より一層の努力をしようと心に誓った。
*
次の日も俺は素振りと運動をして過ごす。
今回、ストライクは回避に使わない。
回避に多用し、頼った結果が今の俺の姿だ。
そもそもストライクは元々攻撃スキルだ。今後はもっと考えて使用しないとな。
「よし、やろうかジーナ」
「はい。ですが、本当によろしいのでしょうか?」
ジーナが装備品を身に纏って俺の前に立つ。
彼女にはスタッフという木の杖を持たせている。
魔法主体の武器はスタッフとロッドの二種類しかない。
ガドに聞いたが、スタッフとロッドには素材で魔石を必ず使う。
そして使った魔石の魔力分、使用する魔法の効果を上げてくれるらしい。
スタッフは魔石を二つまで使えて魔法効果を高めることが出来るが、素材が木製なので武器としては頼りない。
ロッドは魔石を一つしか使えないが、鉱石素材を使うので、耐久力が強く武器としてもある程度使える。
さて、そろそろ始めるが、最初に注意しておこうか。
「ジーナ、今回の特訓はお互いに絶対に必要なことだから、手加減とかしないようにな!」
今日は魔法をもっとよく知るための特訓だ。
そして同時にジーナに魔法の扱いを慣れさせるための特訓でもある。
もしレイナが仲間に加わったら、ジーナには後衛にまわって貰うことになるだろう。
ジーナの性格なんかを考慮しても、前衛より後衛向きだ。
武器をスタッフの方にしたのもそのためだ。
「では、サンダー・ボール!」
ジーナがスタッフを俺に向けて魔法を唱える。
ジーナの頭上にバチバチと放電する雷の球体が出現して俺に向かって飛来する。
「ジーナ、その状態でもう一度唱えてくれ!」
「は、はい。サンダー・ボール!」
しかしサンダー・ボールは現れない。
俺はストライクを唱えてウッドソードでサンダー・ボールに突っ込む。
切っ先とサンダー・ボールが接触した瞬間、サンダー・ボールが弾ける。
腕に軽い衝撃はあったが、特にダメージは無いな。
「ジーナ、次は俺がボールを切り裂いて消滅してから、間髪入れずに魔法を唱えてくれ」
「りょ、了解です!」
今度はストライク抜きだ。
ボール系の魔法は直線にしか飛んで来ないので、用意に狙いを付けやすい。
先程と同じ様に飛来するサンダー・ボールを、万が一のために体を横にずらし、バッドでボールを撃つように横から振り抜く。
二つに切り裂いた瞬間、サンダー・ボールが弾ける。
どうやらスキル関係無く、相手の攻撃よりも威力が上なら、魔法やスキルも切り裂いたり弾いたりできそうだな。
「サンダー・ボール!」
ジーナが俺の指示通り、すぐにサンダー・ボールを唱える。
するとすぐにサンダー・ボールは姿を現す。
今度は回避して、途中で消滅するかの確認をする。
俺を通り過ぎて少しすると勝手に消滅した。
結構な距離まで維持されるんだな。
魔法の効果が切れるまでは次の魔法が使えないから、広い場所では以外に使いにくそうだ。
ま、おいおい練習で特徴を掴んでいこう。
回復魔法のヒールは今回は使用しない。というのも、回復魔法は基本対象に振れる必要がある。
もちろん全てではないらしい、代表的なのはフィールド・ヒールと言う範囲治癒魔法だ。
仕様は攻撃魔法と同じで、基点となる場所を決めてそこから一定範囲内にいる対象を治癒する魔法だ。 ただしヒールよりも治癒効果は落ちるらしい。
「じゃ、少し休憩して、その後でまた練習しよう」
「いえ、私はまだやれますよ」
とジーナは言ったが、もうすぐ昼近くだし、午後はもっとハードな練習をするつもりだ。
「だ~め。ジーナまで無理したら誰が俺を支えるんだ? ほら、お昼も買って来たんだし、座って食べる食べる」
「うっ。分かりました」
俺は木に寄り掛かって座り、ジーナが近寄ってきたので俺は自分の右側の地面を叩いてこっち側に座るように促す。
俺の意図を察しって、ジーナが右側に座る。
「あ、あのご主人様、何故最近右側に座らせるのでしょうか?」
「だって右側じゃないとこうやって肩を抱くことも出来ないだろ?」
「あう」
ジーナの肩を抱いてもっと寄り添わせる。
ジーナの顔が赤くなって行く。
本当の理由は左だと何かあった時に庇えないからなんだが、それは俺の心の中だけの秘密だ。
「今日はサンドイッチを買ったんだよな?」
「はい。レタスとハムとタマネギのサンドイッチ。それと果物屋で買ったリンゴです」
パン屋で買ったサンドイッチを一口食べる。
うん。間違いなく俺の知っている野菜の触感だ。味付けは薄いが。いや、俺の世界が贅沢過ぎたんだなきっと。
「美味しいかジーナ?」
「はい。瑞々しくて美味しいです」
ジーナはどうやら野菜や果物が好きらしい。
昨日の夕飯を食べた店でも、肉少なめでサラダを多めに食べていた。
俺はどちらかというと肉食だから、バランス良く食べられそうな店を開拓していかないとなぁ。
食生活は夫婦仲を保つためにも重大要素である。
いつかはジーナの手料理も食べてみたいなぁ。
そんな事を考えながら横を見ると、ジーナが幸せそうな表情で、小さな口にサンドイッチを頬張っていた。
こちらも暖かい気持ちになって、自然と口元が綻ぶ。
結局食事を終えるのが遅れ、午後の稽古が遅れてしまったが、後悔はない。




