新しい日々の始まり
「お前さんの最終戦績は決勝での不戦敗って扱いになった」
「そうですか。優勝したのは?」
「レイナって獅子族の女戦士だよ」
そうか。彼女が決勝の相手だったのか。悪いことをしてしまった。
俺が目を覚ました翌日に、ジーナは一度娼館に戻った。
入れ替わりにエルメイルさんが宿屋に訪れて、事の顛末の説明をしてくれた。
俺の左手の痛みはまだ強いが、座ったり立ったりする分には問題ない状態にまで回復した。
もっとも、それはジーナが暇を見てはヒールを続けてくれたおかげだが。
俺の獲得した準優勝と特別賞の賞金は合わせて六万MS。それと宣伝の効果による収益費と準決勝までの賭け金の儲けなどで、装備の借金と、ジーナの十万MSは十分に稼げたらしい。
「ジーナは引継ぎや送別の挨拶が終わったらすぐに戻ってくるだろう。で、これからどうするんだい?」
「エルメイルさん、一つお聞きしたいのですが、迷宮には勝手に入っても問題はないでしょうか?」
「迷宮か……ということは、迷宮で魔物を狩って生きて行くつもりなんだね?」
「はい、他に方法もありませんから」
コロッセオでの賭けデュエルにジーナと一緒に出る訳には行かない。てかジーナをそんな物騒なものに出したくない。
かといって店を構えられるほど、俺は手に職を持っていない。
そうなったら残っているのは迷宮で魔物を倒してMSを手に入れるしかない。
「迷宮には誰もが簡単に入れる訳じゃない。入る方法は大まかに四つある」
エルメイルさんが指を四本立てた後、次に人差し指だけを立てる。
「一つ目は冒険者ギルドに登録して冒険者となること。冒険者は迷宮探索を行える唯一の職業だ。因みにジョブ冒険者ギルドに登録すると探索者のジョブを身に着けられるぞ」
ふむ。普通迷宮を探索するなら冒険者ギルドに入るって事か。
「二つ目は騎士団か教会ギルドに属する方法。騎士団と教会ギルドは合同で毎日一迷宮に一パーティ向かわせて、戦闘経験やレベル上げを行っているからな」
まあ領地や領民を守る組織だから強くならないといけないんだろうな。
「三つ目は地域限定だが、無期限の探索許可を領主から貰う方法。これは説明するまでも無いな」
無期限の探索とか、かなり好条件だよな。どこの組織に属さなくていいのも、俺としてはありがたい。
「四つ目はそれら許可を貰った相手のパーティに入れて同行さて貰う方法だね」
エルメイルさんが四っつめの説明を終えると、立てていた四本の指を下ろした。
「それぞれのメリットデメリットは?」
「冒険者ギルドに入った場合のデメリットは、物を買う場合は他の店でもいいが、売る場合は迷宮で手に入れた物も含め、薬や装備品等も全て冒険者ギルドでしか売る事が出来なくなる。更にギルドに加盟金を毎月納める必要がある。ただし、どの迷宮にも入り放題で色々ギルドメンバー特典もあるから、トータルの稼ぎを考えれば一番稼げるかもしれないね」
冒険者の場合は売買の拘束か。
色々な迷宮に入れるのは少し魅力的だな。
「何処かの組織に入るデメリットはもう分かると思うが、自由に行動できなくなる。メリットは給料が出るくらいか」
まあぶっちゃけ就職だもんな。
だが固定収入があるのはありがたい……働いていた身としては。
「三つ目のメリットは許可の証さえ持っていれば、その地域の迷宮に入り放題なこと。デメリットは他の領地の迷宮には入れない点だな。それと許可証は地域によって発行条件が異なる点もデメリットと言えばデメリットだな。場所によっては年に一回、一つしか発行しない町もあるらしい」
俺が第一に目指すとしたら、やはりこの方法だろう。
「四つ目はそのままの意味だな。許可を持っている人に連れて行って貰う。正直一番デメリットがでがいな。なにせこちらが頼む立場だからな」
「確かに。俺が一番欲しいのは三つ目の無期限探索許可ですが、この町ではどうやって貰うんです?」
「もう貰って来たよ」
エルメイルさんがポケットから何かを取り出してこちらに向かって放る。
右手でキャッチして確認する。
「エンブレム?」
野球ボールより少し小振りくらいの大きさのエンブレムだった。
エンブレムには戦士と魔法使いが剣と杖を掲げて交差させている絵が描かれていた。
「そいつがヴァルハン領内での許可の証だ。書類の方はあたしが書いておいた。ジーナが持って来た書類に血判を押したろ?」
「あ。あのもう一つの書類の方ですか?」
そう言えば、ジーナが立ち去る際に持って帰ったんだった。
「そ。そいつを迷宮の入り口の警備担当の兵士に渡せば入れる。無くすんじゃないよ。再発行はされないし。もし悪用されれば、あんたの責任になる可能性もあるからね」
「りょ、了解です」
とは言ったものの、それだと腰に巻いた巾着では心許無いな。
俺は取り合えず上着の内ポケットにしまう。
「それにしても、許可をよく貰えましたね」
「ヴァルハンでの許可の条件は、町主催のデュエル大会でクラス優勝、または特別賞のどちらかを得た選手に発行されるのさ」
「そうなんですか?」
なんというか、棚牡丹ラッキーである。
「ここは闘技場があるからね。他の町よりは発行数が多いのさ」
「ああ、なるほど」
確かにレベルが低い連中ばかりじゃ楽しくないしな。
「さて、あたしはもう行くよ。ま、稼がせて貰ったからモーネにあんたが運ばれてから五日分の宿泊費は払っておいた。その間に治して自力で稼げるようになりな」
確か俺が運ばれたのが三日前だから、今日入れて後二日か。
うん、やっぱりエルメイルさんはスパルタである。
それでも後二日も休ませて貰えるのはありがたい。
「はい。色々とありがとうございます。エルメイルさん」
「ふふ、今度は客として来な。もちろんジーナと一緒に来てもいいよ」
「あはは、考えておきます」
客としては兎も角、ジーナが顔を見せに行きたいと思った時は会いに行くのもありだろう。
エルメイルさんは最後までクールに微笑んで去っていった。
あれで背丈が高ければ間違いなく惚れていたな。
さて、ジーナが戻ってくるまでやる事も無いし、久しぶりにステータスでも見てみるか。
ソウルクリスタルと唱えてステータスを確認する。
名前:ソラLV8 種族:魔人族 性別:男
ジョブ:調律者LV8 魔人LV8
使い魔:ジーナ
装備:
アビリティ:【エンゲージ】【ラーニング】【サモン】
スキル:《全属性耐性LV1》《全状態異状耐性LV1》
《解析》《身体強化LV1》《ジョブチェンジ》《エーテル吸収》
《ストライク》《ショック・アタック》
魔法:なし
おおレベルが8に増えた。
あ、でもそれって俺が魔族、元の世界で言うなら人を殺したって意味でもあるし、あまり喜ぶのも不謹慎か?
でも他の人達も気にした様子もないし、時代背景的には中世頃みたいだから、陰謀とか策略よりも、直接的な暴力面での犯罪の方が多いのかもしれないな。
確かあのころは色々決闘で決めたりもしていたし、この世界でもそうなのかもしれない。
「よし、もう考えるの止めだ。割り切ろう。それよりも装備品について考えよう」
俺の装備品の殆どは、ヘクツ戦でボロボロになってしまった。
ほぼ一式失ったと言っていい。
残ったのは上質な革ブーツだけだ。今は部屋の麻袋の中に仕舞ってある。
因みに後で知ったが、どうやら二つで一組扱いの装備品は、片方が壊れてしまうと、もう片方も一日経つと消滅してしまうらしい。
しかし片方壊れても、鍛冶屋で修繕して貰えば、復活させることが出来る。
もちろん大量の魔石を消費することにはなるが。
所持金は後で確認するとして、ジョブは何か増えてないかな。
ジョブチェンジを唱えると、新たなジョブが浮んだ。
『勇者』
「へ?」
勇者? 勇者ってあの勇者か?
少なくとも大会中に確認した時は無かった。
てことはヘクツとの戦闘以降で手に入れたって事だよな。何が条件だったんだろう?
驚きで戸惑いつつも試しに魔人と交換する。
名前:ソラLV8 種族:魔人族 性別:男
ジョブ:調律者LV8 勇者LV1
使い魔:ジーナ
装備:
アビリティ:【エンゲージ】【ラーニング】【サモン】
【バースト・ソウル】【成長速度上昇LV1】【成長値上昇LV1】
スキル:《全属性耐性LV1》《全状態異状耐性LV1》
《解析》《身体強化LV1》《ジョブチェンジ》《エーテル吸収》
《ストライク》《ショック・アタック》
魔法:なし
なんか色々増えた!
アビリティの成長速度上昇と成長値上昇の二つを見る。
これ多分、表現が違うだけで次のレベルアップまでの経験値の減少と、レベルアップで上がるステータスの数値が増えるスキルだよな。
LV1って書いてあるから微々たる量かもしれないが、それでも他の連中よりもレベルが上がり易くなるのは嬉しい。
「もしかしたら身体強化の数値にも影響するかもしれない」
そう考えるとジョブは魔人より勇者の方がいいだろう。しばらくこのままで行こう。
「あとはこのバースト・ソウルか」
試しに心の中で唱えるが、発動しない。
「バースト・ソウル」
声に出して唱えると全身が淡く金色に輝く。
「おおお!?」
全身に力が漲る。なんだ、強化系の能力か?
ためしにこの状態でショック・アタックを唱える。
すると右手と両足の力が増す。
使える。てことはやっぱり持続型の身体強化系のアビリティか。
取り合えず両方とも効果を中断する。
「ぐあ!?」
一気に気分が悪くなる。う、やばい吐くかもしれない。
なんだ? 何が起きた。いや、俺はこの感覚を知っている。
もしかしてエーテル不足か!?
以前感じたエーテルが減少した時の気分の悪さに近い。
どう考えてもバースト・ソウルのせいだよな。
呼吸を整えつつ、天井を見詰めながら考察する。
予測としては使用中エーテルが減り続けたんだと思うが、それにしても燃費悪過ぎるだろ。
たかが数分でこれでは戦闘で使用したらどうなってしまうのか。
俺は気持ち悪さが抜けるまでベッドの上で休むことにした。
暫くすると気持ち悪さが段々と抜けて行った。
いや~やばかった。グリズリーラビットはこんな思いをしていたのか。そりゃあんな顔にもなる訳だ。
グリズリーラビットの歪んだ顔を思い出しながら目蓋を閉じる。
さて、二日以内に色々と準備を終わらせないとなぁ。
そんな事を考えていると、ノックもなしに扉が開かれた。
なんだなんだ?
慌てて上半身を起こす。
「お、やっと見つけたぞソラ!」
そこにいたのはコロッセオで出会ったレイナだった。
「あ、レイナ。この宿に用でもあるのか?」
「用があるのはあんただよ」
そう言ってレイナが部屋の中に入ってくる。
「そうなのか? あ、もしかして約束破ったことか? 悪かったな。せっかく決勝まで行ったのに」
「それもいいよ別に」
レイナがいよいよベッドに上がってくる。
「ち、近くないかレイナ?」
「あたい、決めたんだ」
レイナが更に迫って顔を近付け呟く。
「決めたって、何を?」
「あんたをあたいのダーリンにするってことさ!」
「んっ!?」
レイナに無理矢理唇を奪われる。
「んんっちょ、いきなりす……ぎ……」
「あん」
唇を離して顔を放した俺の視界に……今の状況を一番見られたくない人の姿を、捕らえてしまった。
「ご主人様……」
入り口で荷物を持ったジーナが、ベッドで絡みあった俺とレイナを見詰めていた。




