本戦二回戦
「それでは二回戦を開始いたします!」
一回戦同様、ボーデンが中央で俺と対戦相手を紹介する。
名前:マーオンLV15 種族:魚人族 性別:男
ジョブ:魔法使いLV10
装備:上質なスタッフ 上質なローブ 革グローブ 鱗のブーツ 守護のアミュレット
アビリティ::【低レベル魔法取得可能】【魔法効果小上昇】
スキル:《沈黙無効》《水属性》
《水属性効果上昇LV1》
魔法:《ウォータ・ボール》《ウォータ・コラム》
二回戦の相手は典型的な魔法使いのようだ。
フードの付いたローブを身に纏って、片手にスタッフと呼ばれる木の杖を持っている。
それにしても流石は魚人だけあって水に特化しているなぁ。
いや、それよりなんだコラムって? ボールは分かるが、コラム?
自慢ではないが俺は英語が苦手なのだ。
一般的なものや漫画や小説、ゲームに出ているものなら少しは分かるが。
取り合えず攻撃魔法だった時のために警戒はしておこう。
「それでは……始め!」
開始の合図と同時に駆け出す。
マーオンはその場でスタッフを両手で斜めに持って身構える。
「ウォータ・コラム!」
さっそく使って来たか。
マーオンが唱え終えた瞬間、俺の進行方向の地面に魔方陣が浮かぶ。
ヤバっ!
咄嗟にストライクで後方に下がる。
地面の魔方陣から天に向かって水が勢い良く噴出される。
まるで水の柱だな。コラムが何かは分からないが取り合えず範囲魔法なのは分かった。
一瞬だったからよく分からないが、
大体範囲は円形で直径二メートルくらいか。高さは確認してないから不明。
オッケ、ストライクで通り抜けられる。
「ウォータ・ボール」
水の柱が消えるとすぐにマーオンが俺に向かって魔法を放つ。
今度は水の玉かよ。
俺はボールを斜めに跳躍しながら避け、ストライクを唱えて一気に間合いを詰める。
「ウォータ・コラム!」
先程と同じ様に魔方陣が目の前の地面に浮かぶ。
突っ切る!
ストライクで魔法が発動する前に魔方陣の上を通過する。
通り過ぎた瞬間に後方で大きな飛沫の上がる音が響く。
危なかった。魔方陣が展開した瞬間にストライクを発動してギリギリか。
「ウォータ・ボール!」
マーオンが焦った表情で魔法を放つ。
俺はそれを体を捻って避けつつ前進する。
もう少しで俺の間合の距離にまで近付く。
「ウォータ・コラム!」
俺とマーオンの丁度間に水の柱が立ち昇る。
水の向こう側でマーオンが後ろに下がるのが見えた。
「ちっ、範囲魔法にはこういう使い方もあるのか」
舌打ちしつつ、同時に疑問が浮かぶ。何故魔法を連発で撃たないのだろうか?
柱が消えて、改めてマーオンを追いながら考える。
多分使わないんじゃなくて、使えないんだ。
理由はスキルと同じで使える攻撃魔法は一つで、効果が消えるまで次の攻撃魔法は使えないってところだろう。
そう考えると魔法主体って実はあまり使えない戦闘スタイルなのでは?
実際こちらは一切攻撃していないのに、相手を追い詰めている。
ストラクを唱えてマーオンの背後を捉える。
「くっ! ウォータ――」
「遅い!」
唱える前にマーオンの喉元目掛けて右の手刀を突き立てる。
「がっ!?」
マーオンが苦悶の表情を浮かべている間にショック・アタックを唱えて左のフックで相手の米神を殴り飛ばす。
「あうぅ」
呻きながらマーオンがその場に横たわる。
「ダウン! カウントをとります!!」
ボーデンがカウントを始める。
しかしマーオンは動こうとすらしない。
「10! 勝者ソラ選手!!」
闘技場を喝采が包む。そしてようやくマーオンが起き上がる。
流石に喉を潰したのは悪いことをしただろうか。
「すまない。喉は大丈夫か?」
まだ座り込んでいるマーオンに手を差し出す。
「ごほ、ごほ、あ~、あ~、ごほ、大丈夫だ。むしろ魔法使い相手なら喉を潰すのは常套手段だろ」
マーオンが気にするなといった表情で俺の手を掴んで起き上がる。
良かった。再起不能にまでは潰れていないようだ。
安堵の溜息をこっそり吐く。
「それでは両者を惜しみない拍手で見送りましょう!!」
ボーデンがこちらに来て大声で観客を煽る。
「それじゃ、次も頑張れよ」
「ああ」
お互いに軽く手を上げて控え室に戻る。
控え室に戻った俺は先程の戦闘を振り返りつつ、新たに得た情報を整理する。
攻撃魔法に使用の制限があるなら、まだ勝機はある。
問題は接近戦主体で、かつ範囲魔法を使える相手の場合か。
範囲魔法はこちらの動きを制限させられてしまう。そうなると色々と面倒だ。
「とは言っても、対策のしようも無い訳だが」
取り敢えず範囲魔法を使った後の相手の行動に注意するしかないな。
「ふう。それにいても喉が渇いた」
確か食事を採れると言っていたから水も飲めるだろう。
荷物も預けているから変な薬を盛られたりの可能性も少ないはずだ。
いやでも賭け事だしなぁ。なりふり構わない奴もいるかも知れなし……。
いかん。下手に漫画や小説でそういうシーンを多く見ているせいか、疑心暗鬼になっている。
一度水を飲もうと思ってしまったのもいけない。喉の渇きがさっきよりも増した気がする。
……行くか。
結局喉の渇きに耐えられず、俺は席を立って扉の前にいる兵士に声を掛けながら扉をノックする。
「どうかしましたか?」
「水を飲みに行きたいんですが、案内して貰えますか?」
「ええ。それでは私の後に付いて来て下さい」
兵士が前を歩いて先導してくれる。
俺は大人しく後を付いて行く。
案内されたのは給仕室の横の扉だった。
確かこっちは食堂だっけか。
昨日下見に来た時の部屋の様子を思い出す。
長方形の大きな机が部屋に二列並び、椅子が机の左右にいくつも並んでいた。
みんなで纏めて食べる大食堂に近い作りだったはずだ。
「大会中の食堂は当日試合に出る選手の貸切となっています。中で給仕を担当している者に言えば飲食を運んでくれますので、お申し付け下さい」
「分かりました」
俺は扉を開けて中に入る。中では俺以外にも数名の選手が食事をしていた。
全員こちらに一瞥しただけですぐに食事を再開する。
まあ対戦相手になるかもしれないんだから、積極的に話しかける義理は無いよな。
俺は壁際の扉の前に立っていた給仕人の天使族の女性にお水を頼んで、食堂入り口付近の席に座る。
「お待たせしました」
暫くすると給仕人が水注のジャグとコップを俺の前に置く。
ジャグは金属で、コップは陶器っぽい見た目と触感だった。
「どうぞごゆっくり」
笑顔で去っていく給仕人にお礼を言って、早速水を飲んで喉を潤す。
田舎で飲んだ真水の味を思い出した。
多分井戸から汲んだ水だよな。
「あ~お腹空いた」
入り口からの声に反応してコップから視線を上げる。
うお、凄い……。
入り口に立っていたのは獅子族の女性だった。
肩辺りまである燃えるような朱色の髪は、毛先が元気良く外に跳ねた癖毛。
大柄な長身と体格で、褐色の肌。
猫目で瞳の色は黄金色。
耳と尻尾は瞳と同じ黄金色で、毛先だけが黒い。
ハルバートを片手で軽々担いでいるその姿は、正に獣の王と言っていいだろう。
いや女性だから女王か。それにしても……色々とでかい。
外見のインパクトも凄かったが、俺の視線はジャケットから覗く二房の谷間と、ホットパンツをきっつきつにする程の大きな桃の果実に釘付けとなっていた。
う~んジーナは体格以上のモノを持っていたからボン、キュッ、ボンだったけど、この人は体格に合っているから大きいけどスタイルが整って見えるな。
しかし何故ジャケット?
確かソフさんの説明では女性がジャケットを装備すると体型が如実に出てしまうから、コートを選ぶ人が多いと聞いていたんだけど。
「お? なあ、あんたソラだよな」
「あ、ああ」
俺と目が合った瞬間、女性が俺の元にやって来て席を一つ空けて隣に座る。
「あんたの試合見たよ! 素手であれだけ戦えるなんて凄いじゃないか。あ、あたいはレイナって言うんだ。よろしく」
「あ、ああ。ソラだ、よろしく」
い、以外に明るい性格なんだな。
レイナの積極さに若干戸惑いつつ、自己紹介を終える。
「なあ、ソラはなんで大会に出たんだ? 東門を選んだって事は、あたいと同じ初出場なんだろ?」
「なんで東門を選ぶと初心者って分かるんだ?」
「だって出場経験者なら態々危険な東門なんて選ばないだろ。因みにあたいは西門に行った」
「御尤も」
レイナはちゃんと情報収集したらしい。俺も見習おう。
まあそれは置いといて、正直に女を身請けするためだと言ってしまっていいのだろうか。
「で、どんな目的があるんだい?」
「レイナは?」
取り合えず先に彼女の理由を尋ねて時間稼ぎすることにした。
「色々あるが、一番の目的は腕試しだな」
拳を握って、レイナが力説する。
「俺はお金目当て。どうしても大金が必要だから出たんだ」
取り敢えず嘘は言っていない。
「そうなのか。ま、事情は聞かないけど目的が達成できるといいな」
「ああ、ありがとう」
「取り敢えず、お互いアイツと決勝まで当たらないといいがな」
「アイツ?」
「前回優勝者のヘクツさ。強いくせに他人をいたぶるのが好きな、いけ好かない奴さ」
そのヘクツという奴が相当嫌いなのか、レイナは嫌悪感を隠す事無く表情に出して喋る。
「優勝者って事は北の門から出るのか……」
「……あんた、本当にそういうのには興味ないんだな」
「え?」
レイナが少し残念そうな、つまらなそうな顔で頬杖を突いてこちらを見詰めていた。
うっ、物憂げな顔も綺麗だ。
一瞬ジーナの顔が浮かぶ。
ぐあああ俺って奴は! ジーナが俺を信じて待っているのに、他の女性に興味を抱くとか死ね!死んでしまえ俺!!
「おい、大丈夫か?」
眉間を押さえて唸っていると、レイナが怪訝な表情で俺を見詰めていた。
「あ、ああ大丈夫だ。それじゃあ俺はもう行くよ。決勝で会えたら手加減してくれ」
これ以上この場にいない方が良いと判断した俺は、苦笑しながら席を立った。
「お断りだよ。むしろ楽しみだ」
不適な表情で言い返されてしまった。
俺は苦笑したまま食堂を後にして、帰り際にジーナを思って溜息を吐いた。




