本戦説明
予選を終えた翌日、俺は兵士に言われた時間にコロッセオの受付へとやって来た。
一応八時前に着くように来たんだが、もうすでに人が結構いるな。
いかにも冒険者風な連中がコロッセオ入口の前に並んでいる。
コロッセオの扉の前に兵士が立っていて、中から人が出てくると、並んでいた一人が入って行く。
どうやら中に入れるのは一人ずつみたいんだ。
中に入っては出てを繰り返す内に俺の番が回ってくる。
「本戦出場の証は持っているか?」
傍にいた兵士に証の提示を求められたので巾着から取り出して指輪を見せる。
「よろしい。今説明を受けている者が出てきたら、一番奥の受付で説明を受けるように」
一人一人なのはお互いの情報を隠すためだろうか?
それとも何か他に理由があるのだろうか?
俺があれこれ考えていると、前に並んでいた男が出てくる。
「さ、行っていいぞ」
中に入り、言われた通りに一番奥の受付に向かう。
というか一番奥の受付にしか人がいなかった。
座っていたのは大きく立った獣耳にフサフサな犬のような尻尾を持った獣人族の男性だった。
確かあの特徴は狼族だったはずだ。
「おはようございます。私ルドと申します。あなた様のお名前は?」
「ソラです」
「ソラ様ですね。少々お待ちを……」
ルドは手元の紙の束を捲って行く。多分出場選手の名簿か何かだろう。
「あ、ございました。ソラ様はレッドクラスかオレンジクラスに参加可能ですね。ソラ様はデュエル大会は始めての参加で?」
「ああ」
「では簡単に本戦について御説明致します」
良かった。ちゃんと説明されるのか。
「まずはそれぞれの力量にあった者同士で戦い合えるようにクラス分けされます。クラスの振り分けはレベルや装備の強さ、それと本人の力量を考慮して判断されます」
まあ当然の処置だろうな。
装備が同じならレベル1の奴がレベル50の奴に勝てる可能性は無いと言っていい。
「レッドクラスは一番弱いクラス。次がレベル十台中心のオレンジクラス。その次がレベル二十台中心のイエロークラスとなっております。もちろんイエローの上も御座います」
「それだと俺はレッドになるんじゃないか?」
俺のレベルは報告時は1だし、ジョブも魔人族だ。
「ソラ様は装備が大会規定内でほぼ最高の物となっております。それに徒手のみでイース迷宮のボスを倒した事も踏まえ、オレンジクラスでも十分に活躍できると主催者サイドが判断されました」
ああなるほど。そう言う情報を隠すために一人ずつだったのか。
そして予選の結果はちゃんと主催者サイドに伝えられていたって訳か。
「クラスによって賞金とか変わるのでしょうか?」
「ええ。レッドクラスは優勝者のみにしか賞金が出ません。賞金も一万MSになります。オレンジクラスからは優勝者には十万MS、準優勝者には一万MS、三位入賞者には千MSの賞金が与えられます。更にそのクラスでもっとも観客を沸かせた選手には特別賞として五万MSが与えられます」
「準優勝よりも特別賞の方が賞金が高いのはどうしてですか?」
「この大会は普段のデュエルとは違って、町の活性化や町民の娯楽としての面もあります。つまり町民が楽しみ活気立つための処置の一つとして設けられております」
なるほど。説明を聞くと合点が行く。
ようは観客にもっと楽しんで貰おうという計算だろう。
特別賞がある以上、ある程度選手も観客を意識して戦わざるをえないからな。
「それでソラ様、どちらのクラスに出場なさいますか?」
「もちろんオレンジだ」
そもそも他に選択肢は無い。
それに運が良ければ特別賞を狙えるかもしれないしな。
「畏まりました。それでは本戦出場の証を交換いたします」
ルドがカウンターの引き出しから橙色の石がついた指輪を俺に手渡す。
俺も巾着から指輪を出してルドに渡す。
もしかしてこの石は魔石を加工して作られた物なのかもしれないな。
大きさは違うが拾った魔石と同じ色合いをしている。
「オレンジクラスはソラ様を入れた全32名のトーナメント制で行われます。オレンジクラスの試合は明後日の十時から行われます」
多分明日はレッドクラスの試合があるんだろうな。見学とか出来ないだろうか。
「開会式は十二時から行われますから、良ければ見学していってください」
「あの、一つ聞きたいのですが、大会中に迷宮で鍛錬を積むのはやはり駄目なのでしょうか?」
「はい。不正防止のために迷宮に入ることは禁止されております」
「そうですか」
完全に暇になってしまったな。
こんな朝早くではジーナも寝ているだろう。
「他に何か聞きたい事は御座いますか?」
「あとは……そう、試合の勝敗はどのように決めるのですか?」
勝敗の決し方を知らないのはまずいよな、やっぱ。
もしかしたら当日説明があるのかもしれないが、今聞けるなら聞いておいて損は無いだろう。
「勝敗が決まるのは、相手が敗北宣言した場合。
ダウンしてから十カウントする間に相手が立ち上がれなかった場合。
相手が死んだ場合の三つですね」
にこやかに物騒な事を言われてしまった。
そうかぁ、殺すのもありなのかぁ。
額に嫌な汗が浮かぶ。
流石にいきなり命のやり取りをしろと言われると引くなぁ。
だが相手は俺を殺すつもり、いや殺す気で来るだろう。
元の世界では試合で相手を殺すつもりで拳を打ち込み、蹴りを入れろと教えられた。
それくらいの気概が無いと本気で人を殴れないし蹴れない。
甘ったれるな。殺さないなら倒す戦いをしろ。幸い十カウントで勝てるんだ。
ショックアタックで麻痺させれば勝てる可能性はある。
そしてもしもの場合は……その時になったら決断しよう。
「試合の観戦は可能ですか?」
「ええもちろん。観戦なさる場合は早めに来る事をお勧めします。遅いと立ち見になる可能性があるので」
「分かりました」
俺は受付に別れを告げて入り口に戻る。
列の長さが俺が来た時と同じくらいになっていた。
やっぱり結構な人数がいるんだな。
俺は列を横目に宿屋へと向かった。
途中ガドの店やソフの店が開いてないかと覗いてみたが、まだ開店していなかった。
宿屋に戻った俺はモーネに鍵を貰って部屋に入る。
ほぼニート状態だな。
開会式まで時間もある。
……昼寝ならぬ朝寝でもするか。
二度寝と何が違うのかと少し思ったが、すぐにどうでもいいと思い直し、俺はブーツを脱いでベッドに上がり、目蓋を閉じる。
不思議な事に目を閉じて暫くしたら眠気が襲ってきた。
もしかして俺自身が認識できていないだけで、体の方は相当疲れていたのかもしれない。
俺は眠気に逆らわずにその身を委ね、そしてゆっくりと眠りに落ちていった。




