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鍛冶と売買

「よう。無事で何よりだ」

「あれ?」


 迷宮を出ると兵士さんが入る時と同じ様に切り株に座って待っていた。


「一時間以上は経過していると思ったので、てっきり迷宮内にいるのかと思っていました」

「ああ一時間以上経ってるぞ。俺がボス部屋に行った時は赤だった。しばらくして青になったから扉を開けて確認して、死体が無かったから帰還のクリスタルで先に戻って待っていたのさ」

「ああ、そう言えばそんなアイテムがあるんでしたっけ」


 今後もし個人的に迷宮に行く事があったら、必ず買っておかないとな。


「ま、何はともあれ、おめでとう。予選合格だ。参加の証と砂時計を出してくれ」


 俺は指輪と砂時計を取り出して兵士に手渡す。


「んで、こっちが本戦出場の証な」


 兵士がポシェットから赤い宝石が付いた以外は同じ作りの指輪を取り出して俺に手渡す。


「それが予選通過の証だ。装備品じゃないから無くさないようにな。無くしたら出場できないから注意するように」

「ああ、分かった」


 なら後で白兎の首飾りと一緒にぶら下げておくか。

 俺は巾着に指輪を仕舞う。


「明日の五時から十時までに、それを持ってコロッセオ受付に行くように。それにしても、よくもまあ生き残れたな。見た目は華奢そうなのに」

「まあ一応体は鍛えていましたから」


 それでも身体能力強化の恩恵のおかげであるのは明白だろう。

 本来の俺の運動能力じゃ、グリズリーラビットの攻撃をあそこまで見切れなかったと思う。


「ははは、まあ大会に出るんだからそりゃそうだな。さ、荷台に乗りな、すぐに町まで送ってやるよ。俺もお前のお陰で早上がりできて助かる。一番人数の多い南門担当の連中の予選は、ほぼ丸一日かかるだろうからな」


 何処の世界も仕事が早く終わるのは嬉しいもののようだ。

 俺は荷台に乗って腰を下ろし、指輪を巾着から出してネックレスの紐に通す。

 ついでにステータスも見ておくか。



 名前:ソラLV3 種族:魔人族 性別:男 

 ジョブ:調律者LV3 魔人LV3

 使い魔:ジーナ 

 装備:鉄の額当て 上質な革ジャケット 鉄のガントレット 上質な革ブーツ 白兎の首飾り

 アビリティ:【エンゲージ】【ラーニング】【サモン】

 スキル:《全属性耐性LV1》《全状態異状耐性LV1》

     《解析》《身体強化LV1》《ジョブチェンジ》《エーテル吸収》

     《ストライク》《ショック・アタック》

 魔法:なし



 おっとレベルが一気に二つも上がってる。

 ジョブレベルの方もどちらも同じって事は、別に順番で取得経験値に差が出る訳じゃないのか?

 ま、取り敢えずはこのままでいいだろう。


 ついでにジョブチェンジでジョブが増えていないか確認しておく。

 しかし頭に浮かんだジョブは二つだけだった。

 中々ジョブを得るのは難しいらしい。


 それにしても疲れた。早く宿に帰って休みたい。

 この兵士を信用していない訳じゃないが、荷物が盗まれてもたまらないので荷台で眠ってしまいたいのを我慢する。


 とりあえず一度宿でお金を払って寝て、その後できるなら魔法や攻撃スキルの対処法を調べないとな。 

 いや待てよ。そもそも専門職の方が目の前に居るじゃないか。


「なあ兵士さん」

「ん? どうした?」

「俺、魔法が使えないんですけど、魔法って打ち消す方法ってあるんですか?」

「あ~君魔人族だもんね。運が無いというかなんと言うか」


 兵士にご愁傷様といった表情で苦笑される。

 やっぱりこの世界では魔法が使えないのは相当厳しいらしい。


「まあ魔法やスキル、アビリティの種類にもよるが、基本攻撃系の魔法やスキル、アビリティを打ち消すには、同じく攻撃系の技をぶつけて相殺するか、武器で対処するしかない」

「武器で対処できるんですか?」

「ああ。武器系装備で防げば少なくとも効果は及ばない。防具装備はダメージは軽減してくれるが、効果の方は殆ど防いでくれないな」


 武器は便利だなぁ。つまり武器装備の無い俺はそれだけ不利って事か。

 

「ついでに言うと同じ魔法やスキルどうしでも、威力に差があれば威力は落ちるが消滅せずに相手に攻撃が通る場合もある」


 それはストライクで実験済みだ。

 はやりぶつけ合った場合は威力の強い方が勝つみたいだな。


「もし魔法に武器無しで挑むなら、避けるか耐えるしかないだろう」

「あ、それと魔法やスキルは発動したのが分かる特徴とかあるんですか?」


 魔物はスキルを発動させたら銀色に光っていた。

 魔法にも何かあるかもしれない。


「種類にもよるが魔法は使用すると属性の色の魔法陣や光りが出るな。スキルやアビリティは相手や自分に効果を及ぼすものは銀色に光る」


 あれ? それだと俺のストライクやショック・アタックに光が出ないのはなんでだ?

 もしかしてラーニングした技だけそういう仕様なのか?


 その可能性は高い。吸収は少なくとも吸収しているのが目に見えて分かる。


 う~んもっと他のスキルを使えれば検証できるんだが。

 ま、しかたないか今は諦めよう……なんか諦めてばっかな気がする。


「兵士としてアドバイスしてやれるのはこんくらいだな」

「そうですか、ありがとうございます」

「おう。せっかく俺担当の合格者なんだ。頑張って生き残れよ」

「あはは、頑張ります」


 予選でこれでは本戦はもっと大変なんだろうなぁ。

 

「お、見えてきたな」


 そんな事を考えている内に町に到着した。門番の兵士が代わっていて篝火も消えている。


「じゃ、本戦も期待してるぞ」

「もちろん頑張ります」


 兵士と別れて宿に戻る。


「おやソラさん、随分とお早いお戻りですね?」

「ああ、東門の試験は俺だけでしたから、すぐに終わりました」

「そうですか。では戻って来たという事は合格なさったのですね。おめでとう御座います」


 モーネさんが軽く拍手をしてくれた。

 まだまだ知り合い程度の間柄だが、それでも少し嬉しかった。


「あはは、ありがとう。とりあえずモーネさん、今日の分の支払いを先に済ませて貰ってもいいかな?」

「畏まりました。では六十MSになります」


 俺は巾着から千MS取り出してモーネさんに手渡す。

 モーネさんがそれを持って一度裏に行き、トレーに橙魔石を九個と赤魔石四個を乗せて戻ってくる。


「ではお釣りの九百四十MSになります」

「ありがとう。それじゃあちょっと寝ます」

「はい。お疲れ様でしたソラさん」


 俺はモーネさんに軽く会釈して鍵を貰い、部屋へと入って内鍵を閉め、そのままベッドにダイブする。 装備を脱ぐ気力もない。

 ああ、本当に生きてて良かった。

 その思考を最後に、俺の意識はゆっくりと眠りに落ちていった。



 起きたのは日が沈みかけた夕刻だった。もうすぐ夜になるだろう。

 余程疲れていたんだな。

 未だ眠気で頭が少し呆けているが、まずは彼女に報告に行くとしよう。


 俺は麻袋を担いで部屋を出る。

 そう言えばこの兎の皮は売れるのだろうか。


「お出掛けですか?」


 カウンターで帳簿らしきものに何かを記入していたモーネが、俺に気付いて顔を上げる。


「はい。エルメイルさん達に報告しに行ってきます。それとモーネさん、この兎の皮はどこで売れるか知っていますか?」

 

 鍵をモーネに手渡しつつ質問する。


「ソラさんは魔物の素材の売買は初めてで?」

「ええ実はそうなんです」

「それなら一度冒険者ギルドか行き着けのお店で聞いた方がよろしいでしょう。私などよりも詳しく教えて頂けるはずです」


 ならソフさんにでも聞いてみようかな。亀の甲より年の功とも言うし。


「そうですか分かりました」


 俺はモーネさんに別れを告げてソフさんの店へと向かう。



「なるほど。それで私のところに」

「はい。できれば詳しく教えていただけるとありがたいのですが」


 防具屋に着いた俺は、ソフさんに今日尋ねた理由を説明した。


「もちろん構いませんよ。ダンジョン内で手に入れた物はどんなものでも全て冒険者ギルドで買い取っていただけます。他のお店やギルドはその施設の特色に合った素材のみ売却可能です。今回の皮でしたら装備品にも使えるので鍛冶屋、それと服飾店でも買取をしている店は御座います」

「冒険者ギルドとそうでない店での売り買いでのメリットとデメリットは?」

「冒険者ギルドのメリットは売れるものの制限が無いことでしょうね。各町に素材を運搬しているからこそ可能な事です。ただそのため売る際に需要の無い物は安く、需要のある物を買う時は高いので御座います」

「なるほど。まあ当然ですね。では冒険者ギルド以外では?」

「まず値段交渉が出来る点でございます。交渉次第では冒険者ギルドよりも高く売れ、安く買えます。それと売り買いに一つの店を利用し続ければ、それだけお店の店主との信頼も増すでしょうから色々融通を利いて貰える事もあるでしょう」


 なるほど。デパート等のチェーン店と商店街の個人営業店の違いに似ている。

 

「因みに防具屋では何を買取しているんですか?」

「防具やアクセサリー類の装備品で御座います。残念ながら素材の買取はしておりません。よろしければ私がお世話になっている鍛冶屋をご紹介いたしましょうか?」

「いいんですか?」

「ええもちろん。ただいま地図を描きますので少々お待ち下さい」


 ソフさんはカウンターの引き出しから紙とペン、インクを取り出して慣れた手付きで地図を描いて行く。


「こちらがお勧めの鍛冶屋で御座います。地図に私の名も書いておきましたので、こちらをお見せすれば邪険に扱われることはないでしょう」

「ありがとうソフさん。それじゃあまた寄らせて貰います」

「はい。いつでもお待ちしております」


 ソフさんに別れを告げて地図を頼りに歩き出す。

 場所的には町の北よりか。そう言えばコロッセオに行く時も鍛冶屋や武具店が多かった。

 まコロッセオの近くの方が装備品関連は売れるよな。

 そう考えると町の中央よりにあるソフさんの店の立地は、あまりよろしくない気がする。


 だが超レアが四つも売っていたのだから、ソフさんの店に卸している鍛冶屋の腕は間違いなく良い筈だ。


「っと、ここか」


 俺はハンマーの看板を見つけて立ち止まり、地図と見比べる。

 うん、間違いないこの店だ。


「すいませーん!」


 扉越しに聞こえる金属を叩く音に驚きつつ、大声で挨拶して扉を開ける。


「おう! なんか用かい兄ちゃん?」


 長い髭と髪、それに老けた顔の小柄な身長の男性が、カウンターの奥の鍛冶場から店の入り口にやってくる。

 確か妖精族だ。まんまドワーフなんだよな。

 小柄だが体格は逞しい。

 

「ソフさんにここなら魔物の皮を買い取ってくれると紹介されたのですが」

「ソフの奴が?」

「はい。あ、これ紹介状代わりです」


 持っていた地図を男性に渡す。


「がはは! この几帳面で丁寧な字はソフしかいねぇな。俺様はガドだ、兄ちゃん名前は?」

「ソラです」

「ソラ坊だな、よし覚えたぜ。俺の事はガドとでも呼んでくれや。それで確か皮の売却だったな。今は大会時期で品薄だから有難いぜ、一つ五十MSでどうだ?」

「それじゃあそれでお願いします。あ、種類は兎なんですが」

「装備品を作るのに皮の種類は関係無いから気にするな。関係があるのは上質とか良質とかの皮の質の方だな」


 そう言えば上質の皮はかなり値が張ったな。多分種類が関係あるのは装備品以外で使う場合だろうな。


 値段交渉してみようかとも思ったが思い止まる。

 そもそも基準の値段が分からないし、初めて来たのにいきなり値上げ交渉出来るほど、俺の心は強くない。


「じゃあこれ、お願いします」

「おう、毎度あり!」


 俺は麻袋から四枚の兎の皮を取り出してガドのおっちゃんに手渡す。

 なんか『おっちゃん』って感じだから心の中ではおっちゃんと呼ぶ。


 ガドのおっちゃんが魔石を手に持ってやってくる。


「ほい。確認してくれや」


 流石だ。トレーに乗せたりとかの発想は無いらしい。

 まあこういうノリも昔の商店街みたいで嫌いではない。

 俺は受け取った魔石をちゃんと数えて確認する。


「確かに頂きました」


 そう言えば装備品に不具合が出ていたっけ。


 俺はガントレットを調べる。

 すると耐久の文字が大から中になっていた。

 他にも額当てとジャケットが中に下がっていた。


「確か鍛冶屋は装備の修繕もしているんですよね?」

「おうよ。なんかメンテが必要な装備があるのか?」

「ええ。すいませんがこのガントレットとジャケット、額当てをお願いします。直すのにどれ位の費用と時間が掛かりますか?」

「その三つだけなら今すぐに直してやるよ。脱いで待ってな」


 俺は言われた通りにガントレットとジャケット、額当てを脱ぐ。

 ガドは鍛冶場の棚から赤い魔石が敷き詰められた大きな瓶を持って戻ってくる。


「んじゃ直すぞ」


 ガドが瓶から魔石を十個取り出してそれをガントレットの周りに置く。

 そしてガントレットに手を翳すとガントレットの周りにあった魔石の内七つが光りの粒子となってガントレットに吸収されていく。


「ガントレットの修繕費は百MSだな」

「減った分ブラス三十MSが、そのまま修繕費になるのか?」

「んにゃ違うぜ。修繕費は鍛冶屋伝統で五十MSずつの支払いと決まっているんだ。使用魔石五個以下なら五十MS、十個以下なら百MSって感じにな。ほれ、分かったらジャケットと額当ても貸しな」


 ジャケットの方は四個、額当ては三個消費した。つまり合計で二百MSだ。


「まあガントレット以外はまだまだいけたと思うが、ソラ坊は大会出場者みたいだしな。装備は万全にしとくに越したことはねえ」

「ありがとうガドさん」

「男にさん付けされても嬉しくねえぜ」

「じゃあガドのおっちゃんと言う事で」

「がはは! まだそっちの呼び名の方がしっくりくらぁな」


 ガドのおっちゃんが愉快そうに笑って俺の背中を叩く。結構痛い。流石は鍛冶職人である。

 受け取った装備品を改めて装備する。


「作って欲しいもんがあったらウチに来な。なんでも作ってやっからよ!」


 ガドのおっちゃんが自信満々に自分の胸を叩く。

 な、なんと頼もしい!


「その時はよろしくお願いします」


 俺はガドのおっちゃんに別れを告げて今日最後の目的地へと向かう。


 もう日もすっかり暮れちゃったな。お店はそろそろ忙しくなる頃だろうか。

 まあ忙しくて会えなかったら、言付けだけでも頼んでおこう。


 俺は娼館に向かって歩みを進める。

 ジーナ達のお店がある区画の通りは、夜の方が通りが賑やかで明るい。

 そして赤アイコンの人間も昼間に比べて増えている。

 やれやれ、どの世界も夜は物騒って事か。


 娼館に着いた俺は裏手に回って裏庭へと通じる扉の鍵を開けて中に入る。

 内側から鍵をかけて今度は裏口の扉を開ける。

 通路を進んで扉の前でノックする。ここからならノックの音も聞こえるだろう。


「はーいどちら様ですか?」

 

 扉越しに声を掛けられ、扉の一部が開いて目だけが覗く。

 なるほど防犯用に相手の姿を確認できるような作りになっていたのか。


「すいませんソラと言います。ジーナ……さんは、今はお仕事中でしょうか?」

「あー! あなたがソラ君なの! もう娼館はあなたの噂で大盛り上がりよ。あ、待ってて今開けるわ」


 女性が笑いながら扉を開けてくれる。

 それにしても噂になっているのか。

 どんな噂かは気になるが、知らぬが仏という言葉もある。


「私はジュリーよろしくね」


 ジュリーさんは背中に白い翼と頭上に淡く光るリングを持っていた。

 確かこの特徴は天使族だったな。


「えっとソラです。それでジーナさんは?」

「あの子は今日は掃除担当だから今日は忙しいわね。取り合えず館長なら館長室に居るわ」

「分かりました。それじゃあ館長に結果報告だけして今日は帰ります」

「あらそう? ま、明日からが本番だものね。頑張りなさい男の子!」


 ジュリーさんは俺の肩を叩いて笑顔で去っていく。

 本当にこの世界の女性は逞しい。いや、俺の世界でも女性は逞しかったから、女性が逞しいことはどの世界でも共通の事なのかもしれない。


 俺は以前案内された館長室へと向かう。

 道中であった娼婦の女性達にはきちんと挨拶する。不審者だと思われても困るしな。

 ただ既に俺のことはジュリーさんの言う通り噂になっていたらしく。

 逆に向うから話しかけられて呼び止められることが多かった。


 はあ、思いのほか時間が掛かった。

 俺はようやく館長室に辿りつき、部屋をノックする。


「はいよ、誰だい?」

「ソラです」

「ああソラか、入っていいよ」

「失礼します」


 部屋に入ると椅子に座って書類と睨めっこしているエルメイルさんがいた。


「で、何の用だい? もう千MS使っちまったとかかい?」

「いやいや流石にそれは無駄遣いし過ぎでしょう」

「あはは確かにね。てことは予選通過の報告かい?」

「あ、はい。その通りですが、よく分かりましたね」


 エルメイルさんがいつものようにクールに微笑んで机に置いていたキセルに火を入れて吹かす。


「当たり前だろ。予選に参加した奴は生きて戻るか死んで戻らないかのどっちかだし、死んでいればスポンサー店には連絡が来る。で、あんたはどこの予選を受けたんだい?」


 エルメイルさんが意地悪く笑う。


「……もしかしてエルメイルさん、試験の内容を知っていましたね」

「もちろん。この町出身なら誰でも知っているさ。宿屋から一番近かったのは、確か東門だったか」


 やられた。完全にこの人に嵌められた。


「まさかモーネ亭を選んだのも、俺を東門の試験に行かせるために?」

「いや、あそこは普通にあたしお勧めの宿屋ってだけさ。ま、ちょっと期待した面が無と言えば嘘になるがね。個人的に上位を狙うならイース迷宮のボスくらいは攻略して貰わないとね」

「つまりエルメイルさんのお眼鏡に適うかの試験でもあったと」

「そ。ついでに言えばあんたの事は既に兵士の間じゃ噂になってるよ。お陰でまだ予選なのにウチの利益も少しだが上がった。このまま頑張りなボウヤ」


 あ、そういうことか。

 エルメイルさんはエルメイルさんなりに、俺が目標金額に達せられるように配慮してくれているという事か。

 今まさに目の前で、これからの収益は~とか言って悪魔のような笑顔を浮かべていても、きっと良い人に違いない……多分。


「それじゃあ俺はこれで。ジーナにも予選を通過したことは伝えておいてください」

「なんだい会って行かないのか?」

「流石に俺だって時と場合は考えますよ。無事だって事が伝わればそれで構いません」

「そうかい。分かった、ちゃんと伝えておくよ」

「よろしくお願いします。あ、それとこれも」


 俺は首から白兎の首飾りを外してエルメイルさんに渡す。

 指輪は巾着に仕舞いなおす。


「こいつは白兎のアミュレットか、レアアクセじゃないか」

「大会中に壊れたら勿体無いので、ジーナに預けておきたいのですが、お願いできますか?」

「別に構わないが、男が戦いに身を投じる前にこんなことすると、大抵碌な事が無いぞ」

「ええ。知ってます。でもお願いします」


 確かに死亡フラグくさいが、実際壊れたら勿体無いし、ジーナに無事がって事を明確に伝えられるから、俺としては一石二鳥なんだけどな。


「ま、あんたがいいならいいさね。必ず渡しておくよ」

「お願いします。それじゃあ俺はこれで」


 エルメイルさんに別れを告げて館長室を退室する。


 でもやっぱ一目だけでも会いたかったなぁ。

 名残惜しい気持ちを抱えながら俺は裏口から娼館を出る。

 最後に裏庭から娼館を見上げると、部屋のカーテンが開けられ、窓辺にジーナが現れた。


「あ、ジー……」


 彼女は忙しそうに窓を拭いていた。

 その後窓が開け放たれて、窓辺を他の女性と忙しなく行ったり来たりするのが見えた。


 頑張ってるなジーナ……うっし! 明日からも頑張るぞ!

 明日のからの本戦へのやる気を新たにして、俺はモーネ亭へと戻った。



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