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はじめての戦闘

「それじゃソラさん、頑張ってくださいね」

「はい、行ってきます」


 予選当日。俺はモーネさんに挨拶をして宿を後にした。

 空はまだようやく日が出始めたばかりだ。

 うーん。こんなに早寝早起きしたのは何年ぶりだろうか。


 こちらの世界では夜は本当に真っ暗だ。

 部屋の明かりはランタンと蝋燭のみ。

 最初に補充された分以上の使用は別料金になると説明されたので、殆ど使っていない。 

 そしてやることが無い以上寝るしかない。

 目覚めたのは空が白む前だった。


 予選開始までまだ一時間はあるけど早めに行って置いた方がいいよな。


 この世界の時間は俺の世界と同じで24時間みたいだ。

 宿にあったゼンマイ式の柱時計を見ながらモーネさんに時計を初めて見ると嘘をついて時計や時間について教えてもらった。


 この世界の一日は24時間、一時間は100分。

 時計の長針が分、短針が時間を表している。

 ここまでは俺の世界と一緒だ。唯一違うのは全ての時計が24時間時計だと言うことだ。


 俺の世界の12の文字の部分は同じ12時だが、俺の世界の3の部分は18時、6は0時、9が6時となっているらしい。

 だから時計の開始が0時の下からなので、ちょっと違和感があった。


 そして分だが、25分、50分、75分、100分の四つのみしか存在しない。

 どうやら24時間を単に四分割しただけらしい。

 五分や十分が無いって言うのはちょっと凄いな。 

 だが分かりやすいし時間にそれほど縛られないのも助かる。

  

 お、ここを曲がったら後はまっすぐか。

 時間についてあれこれ考えているうちに東門に向かう分かれ道に差し掛かった。

 というよりも俺が唯一自力でいけるのは昨日散策で道を覚えた東門だけなんだけどな。


 分かれ道に親切に簡素な作りではあるが案内板があるのだが、字が読めない俺には意味が無い。


 あれ? みんな曲がらないのか?

 東門に行くにはこの道を曲がらないといけないのに、他の冒険者風の連中はまっすぐ進む。

 まあ人が少なければ競争率も低いし、色々試せるから別に気にするほどの事でもないか。


 道を曲がってしばらく進むと東門を視界に捕らえた。

 門はこんな早朝なのに開いている。

 門の前には内側に二人、外に二人、計四人の兵士が立って見張っている。

 門の内と外の柱付近には篝火が焚かれている。


「こんな朝早くにお出掛けですか?」

「あ、大会の予選の待ち合わせがここと聞いたので」

「へー大会出場者なのかいあんた、それも東門を選ぶなんて随分と腕が立つんだな」


 え?


「おい。ああすまない、今のは気にしないでくれ。まったくお前はお喋りが過ぎるぞ」

「悪い悪い。そういやぁ一応新人もいる可能性があるから内緒なんだったか」


 おい、そこまで言っておいてやめるとか勘弁して貰いたいんだが。


「ん? 君は予選参加の者か?」

「は、はい」


 急に背後から声を掛けられ、驚きつつ返事をしながら振り返る。


 門を警備していた兵士と同じ格好をした兵士が荷馬車に乗ってやって来た。

 荷台は荷物を乗せて運ぶ用の物らしく簡易な作りだった。乗り心地はあまり良く無さそうだ。

 それにしても普通の馬もいるんだな。

 みんなあのホーンホースとか言う名前の馬なのかと思った。


「そうか。それじゃ参加者の証を見せてもらえるか」

 

 俺は巾着から指輪を取り出して兵士に手渡す。


「ふむ、名前は?」

「ソラです」

「ソラだな…………」


 兵士が手元の紙を捲って何かを確認する。

 もしかして名簿か何かか?


「確かに登録されているな。それじゃあ参加の証は返すから無くさないように。それと刻限が着たら移動するから、荷台に乗って待っていてくれ」

「は、はい」


 俺は言われた通りに荷台に乗る。

 それにしても先程の兵士の言動はどういう意味だろうか。


 東門の予選はそんなに難しいと言うことなのだろうか?

 だが闘技である以上は結局どの門で試験しようと本戦では戦い合うのだ。

 試験の内容に違いを設けるとは思えない。


 と言うことは思った以上に競争率が高いって事か?

 今は人がいないだけで後からわんさか来るとか。

 その可能性はある。昔の剣豪も焦らして相手の集中を乱したりといった事をしている。

 ふふ、その手は食わんよ。なんせ俺の肩にはジーナとの幸せな生活が掛かっているのだ。

 そうと決まればのんびりするとしよう。

 俺は荷台に寄り掛かって空を眺めながら脳内で好きなアニメやゲームの主題歌を歌い続けた。


 そして歌っている内に、刻限が来て馬車が出発した……俺だけを乗せて。

 マジか。本当に誰も来ないとかどういう事だよ?


「あ、あの本当に予選があるんですか?」


 御者台で馬を操る兵士に話を振る。


「ああもちろん。とは言っても流石に一人じゃそう思うのも無理は無いか。まあついたら最終確認を行うから、それまで待っていてくれ」


 ぬう。結局答えては貰えないのか。

 俺は質問するのを諦めて景色を眺める。

 あ~もう町があんなに遠い。


 流石は馬、普通に歩くよりもずっと早い。

 馬車はどんどん東へと進む。そして進むに連れて目的地が段々分かってきた。

 東に見える森に向かって馬車は進んでいる。

 森で行う試験、動物でも狩れて事か?

 それともサバイバルゲームみたいに敵対する相手を倒せ、とかか?


 試験の内容をあれこれ想像している内に森に到着する。

 森の手前で降りるのかと思ったが、馬車は森の中の整地された道を進んで行く。

 木々に視線を移すと小さな木の実や小動物を見つける。


 あれはリスか? でも微妙に体毛の模様が違う気がする。 

 鳥は……そもそも見分けが付かんな。


「さ、ついたぞ。降りた降りた」

「あ、はい」


 兵士に急かされて馬車から降りる。

 うお、ケツが痛い。

 まあ整地されていると言っても雑草が無いだけで砂利のある道だったし、森に着くまでは普通に野原を走っていただけだしな。


 俺は痛むケツを撫でつつ視線を前に移す。 


 なんだあれ?


 四角い建物があった。

 コンクリートのような灰色で凹凸の無い綺麗な四角形の建物。

 ただし一面にだけ大きな魔方陣が描かれている。まるで何かの入り口の様に。


「イースの森にあるイース迷宮の入り口だ」


 迷宮、と言うことはダンジョンか。


「さて、最終確認だ。もしやめるならこれがラストチャンスだから、心して聴くように」


 兵士が真顔で俺を見詰める。


「まず予選試験の内容だが、ダンジョン第一階層のボス魔物を倒して戻って来る事」

「ボス、ですか?」

「そうだ。もちろん道中にも魔物はいるが道中の魔物をいくら倒しても意味は無い。今回は特別にボス部屋までの見取り図を用意してある」


 兵士が腰につけていたポシェットに手を添えるとポシェットの上に魔方陣が現れてそこからスクロールが現れる。


 おお! まるでなんちゃらポケットみたいだ。 

 不思議がっている俺に兵士がスクロールを渡して来たので、受け取って開く。

 スクロールにはダンジョンの地図が描かれていた。


「ところで君、マジックポシェットは持っていないのか? 試験中でもダンジョン内で手に入れた物は持ち帰ってもいいルールになっている」

「えっと、もしかして兵士さんがつけているそれですか?」

「なんだ知らないのか。まあ麻袋は持っているようだし、それに仕舞って持ち帰るといい」


 ぬぅ説明は無しか。

 かといって深く質問して予選自体受けさせて貰えなくなっても困るし、迂闊に質問できないな。

 取り敢えず気になるワードは後で自分で調べるなり誰かに聞くとしよう。


「本来迷宮に入る時はもしもの場合に備えて帰還のクリスタルを持っていくものだが、今回は無しだ。ボスを倒せば二階層の入り口に行ける。そこには一階入り口に戻る魔方陣があるからそれで戻って来ること」

「つまり本戦に出場するには最低でも二階層に行けるだけの力量が必要、ということですか?」

「その通りだ。そして本来なら以上で説明を終了し、最終確認をするが、今回は君一人だけと言うことで特別に馬車での質問にお答えしよう」


 兵士はそう言って傍の切り株に座る。


「イース迷宮の一階ボスは相手を一時的に麻痺させるスキル攻撃を持っている。レベル的には他の二つのダンジョンと大差無いが、そのスキルのせいで三つのダンジョンの中じゃ一階のボスで一番攻略難易度が高いボスとして有名なのさ」


 い、いきなり状態異状を使う魔物とか、何年前のRPGだよ!?


「さ、どうする? 今から他のダンジョンに行くのは無しだ。止めるか、行ってボスを倒して戻ってくるか、それとも力及ばず死ぬか、好きな選択を選べ。別に大会は今年だけじゃないしな」

「……いくつか質問いいですか?」

「もちろん」

「まず、俺が死んだかどうかの確認はどのように?」

「受付で砂時計を貰っているだろ。あの砂時計は落ちきるのに一時間掛かる。本来なら一時間後に別の選手をダンジョンに入れる。ボス部屋は扉が特殊で、中に誰かいれば扉の宝玉が赤に、誰もいなければ青色に光る。そして中で魔族の誰かが生きている間は外側から扉が開くことは無い」


 なるほど読めたぞ。


「つまり、死ぬか勝てばボス部屋から魔族はいなくなるのだから別の奴が中を確認できると」

「そ。迷宮で死ぬと死体がエーテルに変換されて消滅するが、消滅までには少し時間がかかるからな。死んでいれば次の選手が死体を見つけるだろう。生きていれば外の兵士のトコに戻ってくるから分かる。今回は一時間したら俺が直接ダンジョン入ってお前の生死を確認する」

「でも、それだと兵士さんもボスと戦うことになるんじゃ?」

「ボスは扉を開けただけなら襲っては来ない。まあ扉の内側に一歩でも踏み込めば扉が勝手に閉まるから中に入るしかない訳だが」

「なるほど扉を開けて俺の死体を見つけると」

「正解だ」


 兵士がウインクする。こちらは命がけだと言うのに随分と愉快な対応である。


「で、話が戻るが行くかい?」

「もちろんだ」


 元より退路無し。下手したら俺の装備の借金がジーナに科せられる可能性だってあるのだ。


「そうか。じゃ時間を合わせるから砂時計を出してくれ。一、二の、三でひっくり返せ」


 麻袋から砂時計を出して兵士とタイミングを合わせて砂時計をひっくり返す。

 俺はそれをもう一度麻袋に仕舞う。

 ま、俺の方は動いていたら横になったりして正確に測れないから気にしなくていいか。


「じゃ、頑張ってきな」

「頑張るとも!」


 俺は気合を入れて魔方陣に向かう。これが入り口であっているはずだ。

 俺が恐る恐る手を伸ばして魔方陣に触れる。

 すると魔方陣が光って俺の腕が魔方陣を突き抜ける。

 行ける。

 そのまま直進して魔方陣を突き抜ける。

 一度だけ視界が歪んで真っ暗になるが、すぐに歪みは消えて広いホールの様な部屋に出る。

 

 もう迷宮の中なのか? 随分とイメージと違うが。


 森の中にあるからてっきりそれっぽい作りなのかと思ったが、壁や床、天井は正四角形の濃いエメラルドグリーン色のタイルが幾つも嵌められていた。溝の線は黒色か。


 俺はタイルに触れようと床を触る。

 違う、タイルじゃない!?

 それどころか溝だと思った黒い線にすら凹凸は感じられなかった。

 まるでガラスの下に蛍光灯で発光しているみたいなダンジョンだな。

 

 そう言えば以前キューブ状の迷宮に閉じ込められる映画があったが、こんな感じの風景だったな。

 ま、明かりが無くても周りが見えるのはありがたい。


 改めて回りを見渡す。

 真後ろの壁には外に通じる魔方陣、正面には人が二人くらい並んで通れそうな扉がある。

 左右の壁には何もない。部屋の中央の床には大きめの魔方陣がある。

 これだけ広いのに魔方陣二つに扉一つとは寂しいな。柱すらないから余計に広く感じる。


「ま、考えていても仕方が無い。地図を見ながらボス部屋を目指すとしよう。あと一応ジョブも換えておこう」


 もしかしたら魔物を倒せばレベルが上がるかもしれないしな。

 経験値の分配方法が分からない以上、ジョブの順番は戻しておいた方がいいだろう。


 俺はジョブを戻してから、地図を広げて道順を確認する。

 まずは入り口の扉を開けてしばらく左か。

 地図を折りたたんで腰に挿す。


「さ、冒険の始まりだ」


 通路に続く扉に近付くと、自動で横にスライドして開く。

 おいおい、ダンジョンの方がハイテクじゃないか。

 片開きの扉だと思っていただけにちょっとびっくりした。


 とりあえず首だけ出して左右確認して左に曲がる。

 通路の広さは大人が三人くらいは横に並んでも余裕で歩ける広さだ。

 しばらく進むと曲がり角に差し掛かったので、そのまま何気なく曲がった。


「うお!?」


 曲がった瞬間、一メートルちょっとの所にどでかい兎の魔物が一匹いた。

 大きさにして柴犬位はありそうだ。

 兎と特定できたのは長い耳を持っていたからだ。

 俺が麻袋を端に置くと、兎の魔物がこちらに振り返る。なんとも凶悪な顔をしていた。


「あれ?」


 あれって耳じゃなくて……角?

 よくよく見れば耳だと思ったそれは鋭利に尖った角だった。

 マジかよ。

 慌てて解析する。

 


 名前:ホーンラビットLV2 属性:?

 ドロップ:? ?

 スキル:《ストライク(可)》


 ホーンラビットとかそのままだな。

 

 俺は戦闘態勢を取ってホーンラビットを迎え撃つ。

 ホーンラビットはその場で跳躍し、俺に角を突き立てようと正面から突っ込んでくる。

 直線的な動きならかわせる!


 俺はそれを横に飛んで避ける。

 着地と同時に接近しようかとも思ったが、攻撃パターンも分からない内から攻めるのはまずい。

 試しに使ってみるか。


 俺はエーテル吸収を唱える。

 対象にホーンラビットを選択したが、吸収はできなかった。

 エーテルが満タンだからか? 仕方ない、今回は普通に戦おう。


 先程と同じ様に体当たりをしてくるホーンラビットを左にステップして避ける。

 そして避け様に右のストレートを無防備な脇腹に叩き込む。


「ブッ!」


 短く鳴いてホーンラビットが軽く吹き飛ぶ。

 よし!

 動きも良く見えるし体のキレもいい。


 ホーンラビットが起き上がって頭を振る。

 そしてただでさえ怖い形相を更に歪めて俺を睨む。

 ウサギちゃん目付きコワッ!?


 ホーンラビットが先程と同じ様に足を屈める。

 また体当たりか?

 俺は左右に避け易いように通路の中央に陣取る。

 体当たりと思っている俺の前で、ホーンラビットの周りが銀色に輝きだす。


 な、なんですかそれ!?

 ホーンラビットが跳躍すると、先程とは比べ物にならない速度で突っ込んでくる。


 まっず!?


 避けられないと判断して額目掛けて左のストレートを打ち込む。

 普通に防御してしまえば角の餌食だ。   


「ぐお!」


 打ち込んだ左腕ごと後方に吹き飛ばされる。


「ぐ、なろ!」


 着地した瞬間に踏鞴を踏むも、なんとか堪える。

 畜生左手いってー。今のがストライクか? 

 もう一度解析をする。



 名前:ホーンラビットLV2

 スキル:《ストライク(済)》



 済み? 済みだと!?


 俺はソウルクリスタルを確認しようとするが、ホーンラビットが今度は普通の体当たりを仕掛けてきたので慌てて中断して避け様に左のフックを脇腹に打ち込む。


 更にエーテル吸収!

 ホーンラビットの体から白い球体が抜け出て俺の体に吸収される。

 よし、今度はちゃんと発動した。

 だがそれはつまり俺がダメージを負ったと言う事でもある。


 試してみるか。

 ストライクの項目に済みの文字が出たのだ。その意味するところは一つしかない。


 ストライク!


 心の中で念じると、足の裏に力が漲る感じがした。


「しっ!」


 拳を交差させ、起き上がろうとしたホーンラビットに向かって地面を蹴る。

 勢い良く空中を滑空し、ホーンラビットを体当たりで吹き飛ばす。

 ホーンラビットが地面に叩きつけられ転がると、体が赤い粒子となって四散して消滅する。

 そしてホーンラビットが倒れていた場所には赤い魔石が二つと、白い毛皮が落ちていた。


「勝った……おお勝ったよ!」


 初戦闘に興奮して大人げもなく拳を突き上げて喜ぶ。


「しかも魔法ではないにしても不思議な力も使えたし、ヤバイ、テンション鰻上りなんだけど!」


 興奮して独り言が口から漏れるのも気にせずに麻袋を拾って落ちていた物を拾う。


「やっぱり赤魔石って名前か。てことはこれがMSで間違いない。つまりホーンラビットから入手できるお金は二十円って事か」


 命懸けの割にはショボイ気がしないでもないが、まあいいか。次はこの皮みたいなやつの解析だな。



 名前:兎の皮 



 まんま皮だった。



「う~ん、売れば少しは資金の足しになるか」


 俺は兎の皮を麻袋に、赤魔石を巾着に仕舞ってステータスを確認する。


 やっぱりあった。

 スキルの項目にストライクが追加されていた。

 やっぱりラーニングは魔物の特殊攻撃を覚えるアビリティだったか。

 

 まあ相手の攻撃を見るだけでいいのか、それとも受ける必要があるかが、今後の課題だが。

 とにかく攻撃スキルを覚えられたのはラッキーだ。


「うっし! この調子で頑張るぞ」


 俺は気合を入れ直して歩みを再開させた。


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