↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/34

はじめてのお泊り

 エルメイルさんと一緒に防具屋を出た俺は、これから寝泊りする宿屋に案内された。

 三階建てで横幅の広い一軒家。

 宿屋としてはでかい方なのかもしれないな。

 先程見かけた二階建ての宿屋と比べて圧倒的にこちらの方が管理が行き届いている。 


「ここがあたしお勧めの宿屋、モーネ亭だ。ベッドは清潔だしシャワー付きの部屋もある。なにより亭主や従業員の接客が行き届いている。まあ値はちょっと張るがな。さ、行くよ」


 エルメイルさんと一緒に宿屋に入る。

 ホールにはカウンターと奥に続く扉が二つ。

 左右の通路にはドアが並んでいて、突き当りに上の階へ続く階段の手すりが僅かに見えた。


「お久しぶりでございますね、エルメイルさん」


 カウンターに座ってたのは猫のように尖った獣耳を付けた男性だった。

 獣人族なのは間違いないだろうが、それにしても友好関係が広いなエルメイルさん。


「ああ、久しぶりだねモーネ。このボウヤはソラだ」

「はじめましてソラさん。亭主のモーネです、以後お見知り置きを」

「あ、ソラと言います」


 モーネさんがにっこりと笑って握手を求めるように手を出したので、こちらも笑顔でその手を握り返す。


「ふむ。もしやソラさん大会出場者の方ですか?」

「ふふ、その通りさ。ウチがスポンサーになった選手だ。で、早速で悪いが部屋は空いているかい?」

「シャワー付きの二階と三階はもう既に埋まっていますね。シャワー無しの一階なら一部屋空いています」

「ボウヤ、そこでもいいかい?」

「はい。ベッドで寝れるだけでもありがたいです」


 若気の至りで某旅行番組のマネをして車で旅した時に野宿や車中泊をしたことがある俺に隙は無い。

 イヤ本当にあの時は死ぬかと思ったね。

 まあお陰でどんな状況でも寝れる特技を身に着けた訳だが。


「ではご案内致しますね」


 モーネさんが呼び鈴を鳴らすと、奥の扉から別の獣人族の男性がやってきた。

 犬のような耳とフサフサの尻尾をしている。犬族か何かだろうか?


「お客様のご案内を」

「はい、店長」


 従業員はカウンターの裏の小さな引き出しが沢山付いた棚の一つを開け、そこから鍵を取り出してこちらにやってくる。


「ではお客様。どうぞこちらへ」


 従業員の後に付いて行く。左の通路の真ん中の部屋の前で止まり、鍵を開けてドアを開いた。


「こちらが宿泊部屋になります」


 室内はいたってシンプルだ。

 あるのは一人掛けの机にシングルベッド、一人用の鍵付きクローゼットのみである。

 無駄な装飾や飾りは無い。クローゼットの鍵はクローゼットの鍵穴に挿してあった。


 でも清潔そうで良かった。

 ベッドのシーツも見た感じ綺麗だし部屋の掃除も行き届いている。

 昔外国で泊まったホテルはとてもじゃないが寝る気になれない酷い物だった。


「ここは一泊いくらなんですか?」

「一階の部屋は一泊六十MSになります」

「ソラ、一応千MS渡しておく。足りなくなったら裏口からウチに来な巾着に鍵は入っている」

「了解です」

「じゃ、あたしはもう行くからここからは自由行動だ好きに過ごすと言い。まあ今は大会期間だからダンジョンには行けないだろうから暇かも知れないがね」

「ここまで有難う御座いましたエルメイルさん」

「いいさ。予選通過の健闘を祈ってるよ」


 エルメイルさんは俺に千MS手渡し、従業員に六十MS支払う。十の位のMSは赤色だった。


「それでは当宿のシステムを説明いたします」


 従業員が手に持っていた部屋のナンバーであろうキーフォルダーがついた鍵を俺に手渡す。


「まず外出時には部屋の鍵はカウンターに返却していただきます。クローゼットの鍵はお持ち頂いて構いませんが、基本的に貴重品は持ってお出掛け下さい」


 まあこの世界のセキュリティーじゃ、盗難される可能性の方が高いもんな。


「あと一階にはシャワーが無い分、別料金では御座いますがカウンターでお申し付け頂ければ体を拭くための湯桶と手拭いを用意いたします」


 おおそれはありがたい。体を拭けるだけでも大分違うからな。


「それとお食事も夕食のみですが、朝の段階で料金を払ってお申し付け頂ければご用意いたします」


 食事は夕食のみか。まあ冷蔵庫もないし、作った料理を保温するだけでも凄い費用になりそうだしな。


「最後に当宿は当日支払いのシステムですので、毎日必ず六十MS払って頂きます。基本的には未払い滞在は許可できませんが、店長との話し合いで許可が下りた際は、未払い滞在も可能となっております。以上が当宿屋のシステムで御座いますが、何かご質問は御座いますか?」


「いや、今は無いよ。ありがとう」

「それでは良いご滞在を」


 お辞儀して笑顔で去っていく従業員を見送りつつ、肩に下げた荷物を下ろしてベッドに仰向けになる。

 はあ、今日は色々新しいことを覚えなくちゃいけなくて疲れたな。


「あっと、装備だけしてしまおう」


 一応何かあった時のために装備品は装備しておかないと。

 装備品は装備しないと意味が無いぞ。という格言もある。


 俺は麻袋から装備品を出して身に纏う。

 とはいっても装備するだけならものの数分で終わった。

 ジャケットはボタンを締めるだけだしブーツも靴を脱いで履くだけ。

 額当ては後ろで結ったらすぐに大きさが変わったし、ガントレットも付けるだけなら面倒はない。


「この状態でステータスを見てみるか」



 名前:ソラLV1 種族:魔人族 性別:男 

 ジョブ:魔人LV1 調律者LV1

 使い魔:ジーナ 

 装備:鉄の額当て 上質な革ジャケット 鉄のガントレット 上質な革ブーツ

 アビリティ:【エンゲージ】【ラーニング】【サモン】

 スキル:《全属性耐性LV1》《全状態異状耐性LV1》

     《解析》《身体強化LV1》《ジョブチェンジ》《エーテル吸収》

 魔法:なし



 よし。ちゃんと装備されてる。

 どうせ暇だし、ひとまずスキルやアビリティについて考えよう。

 エンゲージは魔族を使い魔にするスキルなのは確認できた。サモンもエルメイルさんのお陰で内容を知ることはできた。


 問題はラーニングか。

 試しに心の中でラーニングと唱えてみる。

 しかしなんの効果も無い。


「ラーニング」


 声に出しても反応は無い。


 やっぱり誰かに何かして貰わないと駄目なのかな。

 ラーニングの意味は学習だ。ゲーム的な考えなら敵の技を覚える事が出来るはずだが。


「その敵と戦うにはどうすればいいかも分からないしな。仕方ない、これは後回しだな」


 次にスキルを確認する。

 全属性耐性、全状態異状耐性、身体強化は念じても何も起きなかった。

 多分常時発動方のパッシブスキルなんだろう。


 解析は別に解析と念じなくても俺が知りたいと思えば調べることが出来る。

 ただ、どうやら調べられる物とそうでない物とがあるみたいだ。

 少なくとも装備品は調べられたのに机や椅子は無理だった。


 そうだ、ついでにMSを調べてみよう。

 俺は巾着から黄色いMSを取り出して解析する。



 名前:黄魔石



 魔に石でマセキって読めばいいのか?

 結局MSの正式名称が分かっただけだった。


 次にジョブチェンジとエーテル吸収を順に唱える。

 ジョブは以前と同じだったのですぐに閉じ、エーテル吸収は対象を求められた。


 まあ十中八九相手のエーテルを吸収して自分のエーテルを回復する技だよな。

 つまり俺にとっては大事な生命線の一つとなる訳だ。

 最悪吸収しまくって相手を気絶させるなんて事もできるかもしれない。

 

 さて、自分について調べられる事は調べられたな。

 一番の収穫はスキルとアビリティは声に出さなくても使用出来ると分かったことか。 

 これは魔法以上に危険だ。何をされたか分からないのだから。

 解析でやばそうなスキルがあったら用心するとしよう。


 さて、もう室内で一人で試せることは全て試したな。

 

「後は外に出て種族の特徴と頭の上のアイコンについて勉強してこようかな」


 特に獣人族は見分けがまだよく付けられないし。

 気付いたらエルメイルさんのアイコンが黄色から緑になっていたし。


「よし、行こう」


 思い立ったが吉日。

 俺はベッドから起き上がって麻袋をクローゼットに仕舞って部屋を出る。

 貴重品は腰の巾着に入れてズボンに結びつける。


「おや、お出掛けですか?」

「はい、ちょっと外を見てこようかと。実は村から出たばかりでまだ異種族の方の特徴を知らないので」

「なるほどソラさんは勉強熱心なのですね。因みに私は獅子族で、ソラさんを案内した彼は人狼族です」


 二人とも獅子や狼というよりも猫や犬に見える。

 でも人型でライオンなみの鬣があっても邪魔なだけだから、もしかして進化の段階で無くなったのかも知れないな。


「ちなみにその二種族の明確な特徴ってなんですか?」

「獅子族と人狼族は耳の形が似通っているので尻尾で見分けます。獅子族の尻尾は毛が短くて細く、人狼族は毛が長くて太いです」


 そういってモーネが二又の尻尾を動かして俺に見せてくれる。


 まんま猫や犬の尻尾の特徴って事か。

 長さとか色、毛の具合は多分まちまちなんだろうなぁ。

 実際娼館で見た獅子族の子と形は一緒だけど毛の色が違うし。


「尻尾が二又なのは?」

「獅子族と人狼族は大人になると尻尾が二又になります」


 と言うことは案内してくれた彼もモーネさんも既に脱童貞って事か。

 そう言えば魔人族は大人になるとどうなるのだろう?

 はやり何か面に特徴が出るのだろうか?


 いやだが、その質問をするってことは、自分が童貞だと公言することと同じなんじゃ。

 なんかそれは男として嫌だな。


「教えて頂いてありがとうございます。あ、これ鍵です」

「いえいえ、どうぞお気をつけて」


 結局モーネさんに魔人族の特徴の話を聞けぬまま宿を出てしまった。


 さて、とりあえず迷って迷子になってもアホくさいし、大通りっぽいこの道を端から端まで解析しながら歩くとするか。


 大通りらしく多くの人々が行き交う。

 黄色と赤色ばっかりだな。

 アイコンの色は黄と赤しかない。

 そして赤はジョブが盗賊だ。どうやら色と種族は関係ないらしい。

 盗賊が赤って事は、赤色は危険な相手という意味の可能性が高いな。

 

 そんな考え事をしている俺の前を馬車が横切る。

 おお、なんだあの馬車。

 額に角をお生やしたユニコーンみたいな馬が荷台を引いていた。



 名前:ホーンホースLV1 属性:?

 主人:ペキーズ

 スキル:《ストライク(可)》



 もしかしてあれが魔物の使い魔か。主人の項目もあるし。

 しかもスキルに可能の可の文字がある。

 もしかしたらラーニングで覚えられるのかもしれないな。


 色々と新しい収穫だ。この調子で調べて行こう。

 俺は内心わくわくしながら、解析を行いながら町を散策し、見聞を広めていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。