祭り
翌朝。
「ん〜…今日は何するかなぁ」
俺はベッドから起き上がり、大きく伸びをした。
昨日は魔石灯の修理で一日中作業していたから、今日は少しのんびりしたい気分だ。
そういえば、昨日もらった魔石灯はどうしようか。せっかく直したんだし、家で使ってみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら工房の外に出ると、いつもとは少し違う光景が目に入った。
「……ん? なんか人が多くないか?」
通りには普段よりも多くの人が行き交い、店先には色とりどりの飾りが取り付けられていた。少し離れたところからは、何かを組み立てる音や楽しそうな声まで聞こえてくる。
「おい、何かあんのか?」
そこにはちょうど起きてきたライムがいた。
「いや、俺も今気づいたところだよ」
「お前、町に住んでるくせに何も知らねぇのかと」
「仕方ないだろ! 最近は鍛冶ばっかりしてたんだから!」
「お前まじでそういうところ直した方がいいぞ?」
ライムの呆れた声を聞き流しながら、俺は通りを歩いていた人に声をかけた。
「すみません、今日は何かあるんですか?」
「ああ、今日は町のお祭りなんだよ!」
「お祭り!?」
思いがけない答えに、俺は思わず声を上げた。
異世界のお祭りか…。いったいどんなものなんだろう。
屋台とかあるのかな? それとも、この世界ならではの催し物があったりするんだろうか?
考えれば考えるほど気になってくる。
「よし、行ってみよう!」
「その前に朝飯食おうぜ」
「いやせっかくだし飯も祭りの屋台とかあるだろうしそこで食おうぜ」
「お前の奢りでな〜」
「毎回俺が奢ってるだろ!」
こうして俺はライムと一緒に、町のお祭りへ向かうことにした。
そうしてしばらく歩いていると、香ばしい匂いがした。
「おっ、この匂いは……!」
匂いにつられて顔を向けると、そこには串に刺さった肉を焼いている屋台があった。
ジュウウッ!
肉から落ちた脂が火に触れ、食欲をそそる音と煙を立てている。
「うわぁ、うまそう!」
あっちの世界でいうところの焼き鳥みたいなものか!
「俺これが食いてぇ!」
「おっちょうど俺もこれ食いたかったんだよ!すみません、これ4つください!」
その直後、ライムが小声で話しかけてきた。
「お前、そんなに食うのかよ」
「祭りなんだからいいだろ!」
そんな話をしている内に店主が話しかけてきた。
「あいよ!串肉四つで100カリだ!」
「はい、どうぞ!」
受け取った串焼きからは、焼きたての肉のいい匂いがする。
さっそく一口かじってみると、肉汁が口いっぱいに広がった。
「うっま!!」
「そんなに美味いのか?それじゃあ俺も一口…うっま!少なくともエンジの作る飯よりかはうめぇ!」
「一言余計だよ‼︎」
そんなことを話しながら歩いていると、ふと隣の屋台が目に入った。
そこには、見たことのない形をした小さな魔道具が並べられていた。
「へぇ、祭りにはこんなものまで売ってるのか」
思わず足を止めて商品を眺めていると、屋台の奥から声がした。
「おっ、そこの兄ちゃん。魔道具に興味があるのか?」
「え? あ、はい! 俺、鍛冶をやってるんです!」
「ほう、鍛冶職人か! そりゃ話が合いそうだな!」
その人物は、俺の手元と魔道具を交互に見て、ニヤリと笑った。
「ちょうど面白いものがあるんだ。ちょっと見ていかないか?」
「面白いもの……?」
俺は思わず身を乗り出した。
「そういえばまだ名乗ってなかったな!俺はサザン=リーフっつうんだ!気軽にサザンって呼んでくれ!」
「俺はエンジ=ドワーゴ。こっちは従魔のライム。よろしくなサザン」
「よろしくな!エンジにライム!」
「それで?珍しいのってなんだ?」
「それはだな…これだ‼︎」
そう言ってサザンが取り出したのは箱だった。
「これは…?」
「これはな、中に対象のものを入れて、魔力を込めると中の物を冷やしてくれるんだ!名付けて、ヒヤヒヤ箱だ!」
「冷蔵庫じゃないか!」
「レイ…?なんだそりゃ?」
「あ、いや! 前に聞いたことがある道具に似てたから、つい!」
「へぇ、そんな道具があるのか?詳しく聞かせてくれ!」
「い、いや……そういうわけじゃなくてだな……」
咄嗟に口にしたしまったが、そりゃ冷蔵庫なんてこの世界にあるはずがないよな…。
そんなことを思っているとライムが小声で話しかけてきた。
「お前、異世界人ってこと、隠す気あるのか?」
「隠す気はあるよ!」
「でもこのままならいつかバレるぞ?」
うっ、痛いところを突かれた。
「まぁバレたらバレたでどうにかするよ」
そんなことを話しているとサザンが話しかけてきた。
「でもなぁ、この魔道具、一向に売れないんだよ」
「え?結構需要高そうなのに」
「いやー実はこれ、魔力消費が激しいんだよ」
「魔力消費が激しいって、どれくらいなんだ?」
「そうだなぁ……普通の人間が使うと、1時間くらいでほとんどの魔力がなくなっちまうくらいだな」
「そんなに!?」
「おう。しかも、冷やすのに時間もかかるんだ。これじゃあ、使い物にならねぇって客から言われちまってな」
サザンは困ったように頭をかいた。
なるほど……。物を冷やせるのは便利だけど、魔力を大量に消費するんじゃ普段使いには向かない。
「ちなみに、どういう仕組みで冷やしてるんだ?」
「それがな、箱の底にある魔石から魔力を流して、中の温度を下げてるんだ。詳しい仕組みは俺にもよく分からねぇけどな!」
「自分で作ったんじゃないのか?」
「いや、俺が作ったんだが……細かいところは試行錯誤の結果ってやつだ!」
……大丈夫なのか、それ。
俺はヒヤヒヤ箱をじっと見つめた。
魔石から魔力を流すという点では、昨日修理した魔石灯と似ている。でも、こっちは魔力を光に変えるんじゃなく、温度を下げている。
仕組みは違うだろうが、魔力の流れを効率よくできれば、消費を抑えられる可能性はあるかもしれない。
「なぁ、サザン。この箱、ちょっと詳しく調べてもいいか?」
「おっ? 何か分かるのか?」
「まだ分からない。でも、ちょっと気になるんだ」
「そりゃありがたい! ぜひ頼むぜ!」
こうして俺は、祭りで出会ったばかりのサザンと一緒に、ヒヤヒヤ箱(冷蔵庫)を調べることになった。
9話ご覧いただき、ありがとうございます!
8話と連続投稿になってしまいましたが、次からはまた毎週1話ずつの投稿に戻ります!
そして頑張って土曜日までに間に合わせます!




