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俺を追放した勇者の聖剣をぶっ壊す



 「そして、この仮説が正しければ、それ即ち、魔王ジークフリートこそが聖剣の、正当なる継承者……2代目の、勇者なのです」



 真っ先に俺の脳裏にレオンの顔が蘇った。血縁によって引き継がれる筈の力は、実際はたったの1度しか引き継がれていなかった。


 さらには、人々に魔王討伐を期待された勇者は、聖剣どころか加護すら与えられずに破滅へと送りだされていた。

 俺の胸の内にドス黒いものがトグロを巻き、チロチロと舌を出す。


 「隠者はその事を知らなかったんすか?」


 俺の声は図らずも底冷えしていた。質問こそしたものの、知っていたに違いない、と半ば確信があった。


 「いいえ。寧ろ分家の者達が率先して、その真実を覆い隠していたのです。勇者や聖女には旅が終わるまで真実を伝えず。旅が終われば、残された者に真実が伝わり、今度は徹底的な監禁と口封じを試みる。少なくとも私に対してはそうでした」


 叔母さんは苦い物をそうする様に言葉を吐き捨てた。


 「けど、奴らは何でそこまでしたんです? 魔王が倒されなきゃ、奴らだって……まさか……?」


 「第一は真実の隠蔽。初代聖女の真相が知られれば、隠者の血筋は魔王を生み出した最低の血筋として忌み嫌われる」


 叔母さんは口にする事すら吐き気を覚えたのか、口元を手で押さえ先を続けた。


 「第二は権威の維持の為。隠者は王族が存在した頃から密接に政治と付き合って来ました。それを手放したく無かったのでしょう」


 「ハァッ、ハァッ、ハァッ、グッ」


 アミリアは息を乱し自分の肩を抱き竦めた。


 「どうしたアミリア? 具合が悪いのか?」


 俺はアミリアの背中を撫でようと手を伸ばしたが、少女はそれを振り払った。


 「そ、そんな馬鹿な話が、あるものか! 第一、聖剣に強化されていなかったなら、どうして勇者はあんなに強かったんだ。加護すら持たないのに、魔物達とどうやって渡り合っていた!?」


 豹変した少女に、一瞬鼻白むも叔母さんは静かに答えた。


 「……生物学に自然淘汰、と言う説があります。曰く、環境に適応する為に生存や生殖に有利な特徴を次世代に受け継ぐ、のだとか。恐らくは勇者という血筋にも、それと同様の事が起きた、と私は考えています」


 魔王の討伐という、余りにも過酷な宿命が、凡庸だった筈の勇者の血筋から、人間すら知り得なかった潜在能力を引き出した。

 加護にすら勝るとも劣らない程の力を。


 「ふ、ふざ、けるな……私達は、私達が一体どんな思いで魔王と戦ったと思う……?」


 アミリアはヨロヨロと後退り、壁に背を預けてうわ言の様に、許さない、と繰り返す。


 「アミリア?」


 「許さない。許せるわけが無い!」


 俺と叔母さんはアミリアから距離を取った。魔王の手先である可能性は考慮していたが、これは予想外の反応だ。


 「ぁ、アァァァァッ!! 来いッ!! ノトス! レーヴァテイン!」


 そして、アミリアは怒りのままに絶叫し、本性を表した。手斧と剣を模った杖が少女の両手に宿る。

 ノトス……やっぱりベルメルを倒したのはアミリアか。


 「私達の旅は……私達の戦いは……私の苦しみは……そんな事のためにあったんじゃ無い! 断じて無い! たかが保身の為に、レギンを、ミーニャを、ガレスを、捨て駒にした。許さない。絶対に、許さない!!」


 「お前は、一体……?」


 「私の名はレッドアイ。魔王様が麾下、四大魔将。弑虐の魔女、レッドアイだ」


 レッドアイ。その名を知らない者はまず居ない。人類史に残る最凶最悪の魔女。しかし、まさか200年前の人間が生きているなんて。


 「それでは、貴女が29代目の……」


 「今となっては意味のない肩書きだ……私はこれよりこの里を焼き尽くす。分家の者は赤子であろうと残しはしない。死にたくなければイゴール、お前は今すぐここから消えろ」


 「……」


 俺は何かを言おうとして、結局、何も言い出せなかった。


 「1時間待つ。それでもお前がここに残っているのなら私はもうお前の事も関知しない。お前もろともこの里を滅ぼす」


 アミリア……いや、レッドアイはノトスを操り、逆巻く風に乗って家の屋根を突き破り、天高くに姿を消した。

 直後、騒ぎを聞きつけた隠者が取り巻きを引き連れて、押しかけて来た。


 「レイブン様! これは一体何の騒ぎですか!?」


 「……報いを受ける時が来たのです。イゴール。貴方だけでも此処を去りなさい。レッドアイの言が真実ならば貴方だけは見逃してもらえる筈。どうかレオン達に魔王の真実を」


 「レッドアイ? 真実? どう言う事だ! まさか、あれを話したのか!? 貴様、姉がどうなっても……」


 隠者が声を尖らせて叔母さんに詰め寄ったが、突如として絹を劈く様な悲鳴が上がった。

 慌てて家を出ると、里は既に巨大な台風に囲まれていた。レッドアイの仕業だろう、脱出を試みた1人がバラバラに斬り刻まれて、地面に転がる。


 「貴女方は当然ご存知ですよね。風斧ノトスの風は、使い手の任意以外で決して消える事はありません。後、1時間で私達は滅びる」


 「そ、そんな。イゴール! 貴様、勇者パーティであろう! 我々を守れ。それか説得して来い!」


 「生憎だが、今の俺は呪いで加護が封じられてる。それに、同じ勇者パーティの後輩として保証してやる。俺が何を言った所でアイツは絶対にお前達を許さない」


 「同感ですね」


 隠者は口の端を噛むと、取り巻きに目配せをした。暫くして側近の1人が俺に1つの小瓶を差し出した。


 「これは?」


 「500年に1つ作ることの出来る、聖水だ。一時的ではあるが、これさえあればどんな呪いも外すことが出来る。頼む。これを飲んで我々を守ってくれ。こんな所で隠者の里は滅ぶべきではないのだ」


 「イゴール……」


 叔母さんが俺を見つめた。

 隠者を守ってやる気なんて更々無い。しかし、叔母さんの話を聞いて予感は確信に変わった。レッドアイを仲間に引き込まなければ、俺達に勝ち目は無い。俺は魔王を倒す糸口を探す為に此処まで来たんだ。


 「叔母さん……俺は、コイツらが憎い。でも、それでも、俺のやるべき事をやるよ」


 「貴方がレオンの友達で、同じ勇者パーティで良かった。今、心の底からそう思いましたよ」


 叔母さんは銀眼を細めて、口元を和らげた。こんな顔初めて見たな。レオンですら見た事ないんじゃ無いか?


 俺はクスッと笑いつつ取り巻きの1人から小瓶をふんだくった。

 腰の剣の柄に指を走らせる。


 正念場だ。頼むぜ、相棒。


 俺は心の中で剣にそう囁きかけた。




 それから、あっという間に1時間が過ぎた。叔母さん達は戦いに巻き込まれない様に里の深部へと避難させた。叔母さんの回復魔法があれば楽に戦えるかも知れねえが、それじゃ駄目なんだと言う気がした。


 この戦いの目的は勝つ事じゃない。知ってもらう事だ、レッドアイに俺の覚悟を。


 「……私は、確かに言ったはずだ。死にたくなければここから消えろ、と」


 ノトスの風を纏い、レッドアイは悠然と空中から俺を睥睨した。のしかかる様な圧力を肩に感じる。


 参ったな。ベルメルと比べても桁違いだ。


 「あぁ、確かに聞いたよ」


 「何故、庇う。お前の背後で震えている者たちに、守ってやる程の価値があると、本気で思うのか?」


 レッドアイは目を細めて里の深部を俯瞰した。


 「俺は勇者じゃない。誰でも彼でも守ってやる程の度量は無いし、俺が第一に考えてるのは、どうすればアイツが魔王をぶち殺せるかって事だけだ」


 「……だったらどうして?」


 「簡単な話だよ。アイツらは俺が魔王討伐の糸口を見つけ出すと信じて、今も最前線で体張ってる。なのに、俺だけがこんな所で、お前から逃げ出すわけにはいかねー、だろ?」


 「お前は、一体どこまで……」


 レッドアイは呆れるように頭を横に振った。


 「?」


 「イゴール。私が人類を裏切った事実はどれだけ言い繕おうとも決して消え無い。だから、私は誓ったんだ。故郷を、仲間を殺したジークフリート。誰より憎んだその男に傅いた時、私の忠誠は死ぬまで魔王に捧げると。それが私に払える唯一の責任。覚悟だと今も信じている」


 「……」


 俺は黙ってレッドアイの言葉に耳を傾けた。事此処に至ってレッドアイが望んで王族を焼いたとは思わない。かつては俺達と変わらない使命と気高い誇りを抱いていたんだろう。


 「でも、だからこそお前との旅は楽しかった。アミリアとしてお前と旅をしている間だけは、その誓いから解放された気がしたから」


 「楽しかったなら、続ければ良いじゃないか。何も知らないふりをして、明日からも俺と……」


  俺は手を伸ばした。しかし、レッドアイは風の刃を放って俺との間に一線を引く。


 「確かにな、私もそう思っていたよ昨日までは。しかし、私は知ってしまった。魔王様のたった一つの綻びを、聖剣が破壊されれば、あの方は絶対的な力を失う。それを意図的に黙したなら、裏切りでなくて何なんだ」


 「……」


 「お前にだって私の怒りは分かるだろう。もし、お前がここに来て真実を暴かなければ、私達と同じ運命を辿っていたはずだ。想像してみろ! お前の仲間達が目の前で嬲り殺しにされる所を」


 想像するまでも無い。隠者はレオンやヘス、親父達、これまでの勇者達の努力と戦いを愚弄した。絶対に許せない。


 「でも、そうだとしても俺たちがやらなきゃなら無いのは魔王を倒す事だろ」


 「……違う。私がやるべき事は魔王に仇なす者を殺す事だ。もう、昨日までには戻れ無い。剣を抜け、せめてもの慈悲だ。お前だけは苦しみなく殺してやる」


 「それは、気が早いんじゃないか。勝負はやってみなくちゃ分からない」


 俺は腕を組み、挑発的にレッドアイを見上げる。


 「やめておけ。お前じゃ私には勝てない」


 レッドアイはそう言ってレーヴァテインとノトスを満月の光に翳した。


 「確かに、お前の実力の底は、正直、想像もつかない。ベルメルの時、俺は間抜けにも伸びてたしな。でも、それはお互い様だ。お前だって、俺の本気は見た事ない筈だ」


 俺は不敵に笑み、懐から出した小瓶に口をつける。


 「面白い。本当に私を倒せると言うのなら試してみるが良い。ただし、その代償は筆舌に尽くし難い、焦熱の乾きと苦しみだ……!」


 体に絡みついていた倦怠感が解けていく。肩も足も腕も、何もかもが羽の様に軽い。


 「行くぞ、イゴール! “照燕(ファイアキャッチャー)”」


 果てしなく天へと続く風の檻に、巨大な鳥群が現れた。1羽1羽が大の男ほどある両翼を羽撃かせ迫り来る。


 「“花蘇芳(はなすおう)”」


 俺は舞う様に剣を振るい、炎の鳥を両断する。しかし、翼を斬った拍子に、鳥の羽の様な物が舞った。

 鳥の形どころか、羽の1本まで再現してるらしい。素人目に見ても、とんでもない魔力操作だ。


 「どうだ、素早い動きと、緩慢な動き、両方に対応出来るか?」


 俺は舞い落ちる羽を躱しながら、次々に突っ込んでくる鳥を斬る。斬る。斬る。

 不意にボッと耳元で音がした。俺の肩に羽が触れて、瞬時に着火したんだ。


 「さあ、どうする? レーヴァテインの炎は決して消えない。お前を燃やし尽くした後すらも」


 だが、俺は火を鷲掴んで足元に投げ捨てた。


 「お前には言ってなかったか? 俺の加護は坩堝の加護だ。炎にだって触れられる。こんなチャチな炎じゃ、いつまで経っても俺は殺せねえよ」


 「なら、これはどうだ? “八咫烏(ドーンクロウ)”」


 鳥の群れが一斉に旋回し、空間を開ける。そして、入れ替わる様に巨大な火球が空を埋め尽くした。

 喉が干上がる。吐息まで熱され、俺はジワリと汗ばんだ。


 「私はチャンスをくれてやった。恨むなら愚かな自分を恨むがいい」


 そう言って、レッドアイは火球を落とした。地面に触れるなり、それは爆発を起こし地面を無惨に抉った。

 白い水蒸気が立ち上り、視界がぼやける。


 しかし、俺は反対に吹き飛んだ土塊を足場にして空中に飛び上がり、最後に鳥の背中を蹴ってレッドアイに踊りかかった。


 「ッ! “烈障(フィジカルシール)”」


 すかさず、レッドアイは炎を盾にした。が、俺はそれを斬り裂く。


 「クッ」


 斬り裂いた断面がバサバサと蝶群に変わって俺を覆った。剣を振り回して包囲を脱し、焼き尽くされた窪地に着地する。


 「驚いた。まさか、今のを凌ぐとは」


 「ギリギリだったけどな」


 実際、膨大な熱量は俺の表皮を赤く灼いている。


 「……あれを喰らって、その程度で済む使い手は魔物の中にも片手で数えるほどしか居ないだろう」


 「ありがとよッ!」


 火の鳥による攻撃が再開した。


 俺は再び鳥の背中に飛び乗り、さらに幾つかの背を飛び移ってレッドアイに接近する。


 「やっと魔王の力の正体が分かったんだぜ? もう、クソ野郎なんかに頭を下げる理由もない筈だ!」


 「それが何だと言うんだ。私は人類を裏切った。今度は魔族を裏切れとでも言うのか。冗談じゃない」


 「違えよ。そもそもお前は人類を裏切っちゃいない。お前の心は、まだ魔物に染まりきってないだろ!?」


 鳥の数が増えていく。俺は1羽の背を強く蹴り付け宙に浮くレッドアイに踊りかかった。


 「“烈障(フィジカルシール)”」


 炎が長方形に伸び、俺の視界からレッドアイを消した。俺は咆哮と共に剣を振り下ろし盾を斬ったが、そこで、どうしても勢いが死ぬ。


 「くそ!」


 地面に背中を吸い寄せられる間。身を捩って、攻撃を凌ぐ。


 「この期に及んで、私を説得出来るとは思わない事だ。私の覚悟はもう2度と挫けない」


 「その割には手加減してくれてるみたいじゃねえか」


 野道具の最も強い戦い方は、無限の質量を有無を言わさず相手に押し付ける事。

 そんな簡単な事を、レッドアイが分かっていない訳はない。


 「勘違いするな。隠者共を戦いの余波で死なせない為だ。奴等には苦しんだ末の非業の最期こそ相応しい。レギンやミーニャの様に」


 「……復讐か。尚更分からねえ。そう言う事なら魔王だって、憎い筈だろ?」


 「……ふ、ふふふ。アッハッハ」


 レッドアイはその言葉に突然吹き出した。俺は口を閉ざし様子を伺う。


 「やっぱり、お前はレギンに似ている。いや、容姿も性格も言葉遣いも、まるで似てないが、根本的な部分が良く似ている。そして、だからこそ、分からないんだ、お前には」


 レッドアイは自嘲気味に笑った。諦めた様な、何処か清々しい様な目。この目は、レオン……?

 何故だかレッドアイを見ているとアイツの顔が思い出された。


 「どう言う事だ。どうしてそんな事が断言出来る?」


 「お前は強い。だから、理解出来ないんだ。弱い人間の、心が」


 パズズと戦った後、俺の言葉を聞いてレオンは納得した様な目をした。あの時、アイツは何を思っていたんだろう。


 考えたことも無い、いや、敢えて考えない様にして来た。俺は俺なりに、レオンの奴と向き合えば良いと思っていたから。でも、それは俺の勘違いだったのかも知れない。レッドアイの言葉で、何となくそう思った。


 鳥群は依然として俺を襲うが、さっきと比べて何処か穏やかだ。

 ご丁寧に瞬膜まで再現された鋭い双眸と見つめ合う。


 「イゴール。ここから逃げてくれ。誰も居ない何処かへと、私はお前を殺したく無い」


 「……そういう訳にはいかねえよ」


 俺が足場に出来ない様に鳥群は地面スレスレを飛び、レッドアイ自身も僅かに上昇した。


 「お前を見ているとかつての勇者を思い出す。言う事成す事滅茶苦茶で、暖かい。そんな奴だった」


 「……」


 「……何故だ? 勇者が、レギン達が一体何をしたと言うんだ? どうしてあんな死に方をしないといけない! 私みたいなクズだけが生き残って! どうしてみんなだけ」


 レッドアイの目元から薄く白い煙が棚引く。あれはレッドアイの涙だ。魔女の中の滾る様な想いが、零れた傍から涙を蒸発させる。


 きっと200年もの間、レッドアイはそうして戦って来た。


 「それは分からねえ。でも、俺にも1つだけ分かる事がある」


 「……?」


 「お前が生き残っている事が、それ自体が29代目勇者パーティの最後の希望って事だ」


 「何を言ってる。私達は負けたんだ200年以上も前に」


 炎の鳥が前と後ろから俺を挟み込んだ。

 俺は真上に飛び上がって後ろの鳥の背にしがみついた。鳥は大袈裟に蛇行して、背中に取り付いた異物を排除しようとする。


 「くっ……確かに勝ったわけじゃない。でも! お前が生きている限り、まだ負けたわけでもない! 俺だって、例え魔王に殺されるとしても……アイツかヘスが生き残ってるんなら笑って死ねる。2人を信じてるから……!」


 「お前は分かってない。人に託す方は楽だ。けど託される方は……」


 ……そうか。ようやく分かった。

 レオンは重圧が怖かったんだ。何としても勝たなければいけないと言う重圧が。

 上手くいかない事を恐れて、勇者という称号から逃げようとした。そして、それはレッドアイも同じ。


 「お前は魔王じゃなくて、勇者の勇気が怖かったんだな」


 「……!」


 鳥は急に方向を変え、同じ高度で旋回した。


 「勇気を受け継ぐ事が怖かった。死ぬ勇気はあっても、勝つ為に立ち向かう勇気が無かった」


 俺はレオンに向けるべき言葉を、レッドアイに向けた。


 「負ける事を前提に戦ったって、そんなもんは単なる自殺でしか無い。勇者の勇気に、そう気付かされたお前は、勝つ事から逃げた。そして、魔王に降った」


 レッドアイは目を伏せた。俺の指摘に反論もせずに、ただ聞き届ける。


 「でもさ、それで良いんじゃねえのか?」


 「何だと?」


 「負けたって良い。上手くいかなくても良い。大切なのは何を選ぶかだ。それを間違えない限り、誇りも、信念も取り返せるんだ!」


 俺は火の鳥の首に剣を突き刺し、捻って進路を急転換した。


 「お前はお前なりの戦いをやって来た。そして、それは明日からも変わらねえ」


 火の鳥は、レッドアイに向かって突っ込む。それまでに蓄えた加速のせいで、急停止は効かない。

 俺は腰から短剣を抜いた。


 「“烈障(フィジカルシール)”」


 俺の突貫をレッドアイは炎の盾で迎え撃つ。


 「へっ。そう何度も同じ手を食うかよ!」


 俺は炎の盾に短剣を刺し、それを足掛かりに盾を乗り越えた。


 「なっ!」


 「俺の命に賭けて誓う! お前の戦いはレオンが必ず幕を引く」


 俺は盾の裏側を蹴り付け、レッドアイに最後の肉薄を仕掛けた。

 見かけ以上に遠かった筈の間合いは、後3歩もない。


 「その為に、お前の力、俺にくれ!」


 俺は剣を水平に構えた。夜空の闇に黒い刀身を紛れ込ませる。そして、心の中で呪い(まじない)の様に唱えた。


 “竈馬(かまどうま)”“影写(かげうつし)”複合技……!


 「“夜大崩牙(やたいほうが)”」


 刀身が駆けて、抜けた。


 レッドアイは反射的にノトスの刃で受けようとしたが、闇に潜んだ斬撃は魔女の目算を外れた。いや、外した。


 柄を斬られた事で、斧の頭があっけなく落ちる。当然ノトスの風が消えて俺とレッドアイもその後を追った。けれど、地面と激突する一瞬、火の鳥がレッドアイごと俺を横合いから掬い上げた。


 「おお、危ねえ。助かったぜ、レッドアイ」


 「……何のつもりだ。今、私の首を斬れた筈だろう?」


 「だぁ、かぁ、らぁ、手を貸せって言ってんだろ? なのに、お前斬ってどうすんだよ」


 俺が戯けて見せると、レッドアイは神妙な顔付きで火の鳥をその場で旋回させた。


 「お前、一体、何を考えている?」


 俺達が臭い演技をしてまで二手に別れた意味。この旅の目的。

 魔王を倒す為の糸口を探し出す事。その答えは、今、俺の手にある。

 

 俺はノトスを欠いたレッドアイの右手を強く握り、深く息を吸った。


 「そんなの、決まってるだろ。俺は……俺を追放した勇者(レオン)の聖剣をぶっ壊す!!」


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