見せしめ
どういう意味だ?
直樹がそう言葉を発するよりも早く、片山が懐に手を入れた。だが、そこで凍りついたように動きを止める。
動きが止まった片山の背後には山根のボディーガード、如月が立っていた。その手には拳銃が握られており、銃口が片山の後頭部に押しつけられている。
「片山、勝手に出てくるんは、あかんで? そんなことしとったら、こっちのメンツが丸潰れや」
山根は足を止めると、背後の片山を振り返って言葉を続けた。
「ひとり死んだんや。せやさかい、ひとり死んでもらう。それでチャラや。こっちはな、アンタの顔立てて、だいぶ譲歩しとんのや。ほんまやったら、一対一で済む話やない。ま、迷惑料はまた別やけどな」
「てめえ、山根、どういうつもりだ……?」
銃口を強く押しつけられたようだった。怒声を放った片山だったがそこまで言って押し黙る。
「出しゃばるとこやない言うたやろが。これはな、落とし前や。外野がゴチャゴチャ言う筋合いちゃうど」
山根はそこで言葉を切ると、直樹に視線を向けた。冷たい瞳だった。そこには何の感情も浮かんでいない。
「それともや、片山……こいつ庇って、うちと本気でやり合うっちゅうんか? ワレの組、そんな真似を許すんか?」
片山は黙り込んだままだった。山根の言う通りだった。父親が直樹の命を天秤にかけて、七代目竹名組と戦争をするとは思えなかった。そんな理由などはどこにもない。
そもそも、あの父親がそんなことを思うのであれば、片山は小指をケジメとして以前に失っていないだろう。
「……どうするつもりだ?」
声が掠れているのが自分でも分かった。さっきから額から流れる汗が止まらない。
山根が懐から黒色の拳銃を取り出した。そして、歩を進めて直樹と若菜の間に立つ。
そこから自分か若菜、そのどちらかを撃つつもりなのか。そう思うと恐怖心が体の中から喉元に向かって、せり上がってくる。
単純な死への恐怖。
今すぐにでも叫び声を上げて走り出したいぐらいだった。
その気持ちを無理矢理に押さえこんで、直樹は片山に視線を向けた。片山は睨むように山根に視線を向けている。だが、片山も拳銃を押しつけられており、打開策はなかった。
いま以上に追い込まれてしまう前に、反撃をするのか。直樹の頭にそんな思いが浮かぶ。このままでいても、追い込まれる一方であることは間違いなかった。
不意をつけば拳銃を持っているといっても、山根一人を無力化することは難しくない。あとは山根のボディーガードをどうするか。
だが、そうなると片山の頭は即座に弾け飛ぶだろう。その犠牲を払ってなお、若菜を連れて逃げ切れるのか。結論は出せなかった。
答えが出せないまま、直樹は指ひとつすらも動かせずにいた。口の中は乾き切り、喉に砂を詰められたようで呼吸ひとつが苦しい。
若菜にしても、この追い詰められた状況を十分に理解しているのだろう。その瞳には、どんな状況でもそこにあった勝気な色はなかった。瞳の色はどこまでも暗く沈んでいる。
足を止めた山根は、取り出した拳銃をゆっくりと足下に置いた。次いで山根は床に置いた銃から三メートルほどの距離を取る。
自分と若菜の間にあるのは、山根が置いた黒い拳銃だけだった。
「どっちでもええ。その銃でどっちか撃て……どっちでも構わん。そしたら狂走会の若いもんが死んだ件は、水に流したる」
一瞬、直樹には何を言われたのかが分からなかった。思考は混乱し、視界の中で若菜の顔が歪んでいく。
直樹よりも先に反応したのは片山だった。
「山根! てめえ、どういうことだ? そんな落とし前がどこにある? そんなもん、見せしめだろうが!」
銃口を押しつけられていることも構わずに片山は怒声を放つ。
「あ? 片山、出る幕ちゃう言うたやろが。見せしめだと? 当たり前や。ワシらはヤクザじゃ。ヤクザに手え出したら、どないなことになるのか……他の者に教えんといかんわけや」
山根はそう言ったあと、直樹と若菜の顔を無表情で交互に見る。




