乱入
「ほな、次の話いこか。一億、どこいったんや?」
「……ないわよ。株に変えたから」
「株やと? まあええわ。現金に変えたら済む話や。足らん分と利息分はな、姉ちゃん、身体で返してもらうで。何、姉ちゃんなら、すぐ返せるやろ」
若菜は返事をすることなく、そっぽを向いてしまう。その気の強さに山根の顔には、少しだけ呆れたような表情が浮かんだ。
そして山根は再び無表情になると、直樹に顔を向けた。
「ほな、次は兄ちゃんに、ちいと聞かせてもらおか?」
言葉には軽い響きがあったが、山根の全身から発せられる圧迫感に直樹は思わず、ごくりと唾を飲み込んだ。
これが全国に根をはる暴力団、そのNo.3の迫力というものらしかった。
「兄ちゃん、若狭組と繋がってるんやろ? 嘘ついたら、あかんで」
その言葉に直樹は黙って頷いた。最初から若狭組の名前が出てくるというとは、その背景を山根はすでに知っていると考えていい。ならば、ここで下手に事実を隠す必要はないと直樹は思ったのだ。
「どういう関係なんや?」
ある程度の調べはついているのだろうと思いながらも、直樹は口を開いた。
「その組長の息子が俺だよ。もっとも、俺は妾の子だがな」
「……この一件、実は若狭組も絡んどるんやろ?」
山根の言葉に直樹は首を左右に振った。
「違うな。父親とはもう何年も会ってない。腹違いの兄貴も同じだ」
「ほな、若狭組の片山がこの一件に出張っとるんは、どういうこっちゃ? 裏で若狭組が糸引いとるんちゃうんか?」
「片山さんだけは、付き合いがあったのさ。このトラブルに巻き込まれて、俺が頼っただけだ。あくまで片山さん個人を頼っただけで、父親も含めて若狭組は関係ない」
「あ? 嘘ついとらんやろな?」
山根の顔に剣呑なものが浮かんだ。直樹は軽く肩を竦めた。
「言ったように、父親や兄貴とは俺がガキの頃に、何度か会っただけだ。ならばこの状況で、そんな奴らに義理立てする必要なんてない」
山根は無言だった。無表情で直樹の顔を見つめていた。その圧力はまるで、喉元に刃物を押し立てられているような感覚があった。
その圧迫感を紛らわすように、直樹は鼻血を片手で拭う。
「まあ、ええわ。嘘なんてのは、いずれバレるもんや。ほな、次の話にいこか……」
山根がそう言った時だった。突然、室内に怒声が響き渡った。
「どけ、チンピラが! 手前ら、人のシマで何してやがる?」
怒鳴りながら姿を見せたのは、関東黄龍会の斉藤だった。その背後には、ホストのような格好をしているハジメと呼ばれていた若い男もいる。
このタイミングで怒号を放ちながら斉藤が現れたということは、この拉致に斉藤は絡んでいないということなのか。
斉藤が何をしに来たのか。自分たちを助けに来たとは思えないが、直樹の中で現状を打開する淡い期待が生まれつつあった。
怒声を放つ斉藤の前に、狂走会と思われる二人の若者が立ち塞がった。二人とも勇ましく立ち塞がったのはよいが、すでに斉藤の気迫に押されているようで、血の気が引いたような青い顔をしている。
「邪魔だ、ガキが!」
斉藤が立ち塞がった若者の胸を両手で突くと、それだけで若者はあっけなく尻餅をついてしまう。
「殺すぞ、こらっ!」
残る一人をその言葉だけで恫喝し、斉藤は大股で歩みを進めてくる。それを見て山根がゆっくりと立ち上がった。
山根の左右にいたボディーガードらしき二人が、山根の前に素早く立つ。それを見て山根は、落ち着いた様子で片手を左右に振った。
「どこぞのチンピラが来ただけや。大丈夫や。如月、お前はこの兄ちゃんと、姉ちゃんを見とくんや」
先程、直樹を殴ったボクサー崩れの男に山根はそう命じた。如月と呼ばれた男は短い返事をして、直樹と若菜に視線を向ける。
「誰がチンピラだ、こらっ!」
山根の言葉が聞こえたのだろう。斉藤が歯を剥きながら怒鳴った。
「お前らなぁ、二人で来たんか? 舐めとんのか? チンピラ丸出しやんけ、あ?」
山根の言葉に斉藤が薄く笑う。斉藤はすでに山根の前にいるボディーガードの前まで来ていた。その背後にいるハジメは青い顔をしている。




