世界の異物《バグ》
そのUSBメモリを拾ったのは、半年ほど前。
次のゲームをどうするか考えている最中だった。
そのまま、届けるべきだったが、中身を見てしまった。
一番最初には短い御伽噺が載っていて、次いで、物語の登場人物の設定が箇条書きで書き連ねてあった。
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「はじめまして。『お姫様とスケルトン』の作者の月山 白草と申します。」
ファミリーレストランで彼女と会った。作者が近くに住んでいて本当に良かった。
私は、ファンレターの表面に『楽しかったです。その後、ゾンビになった王子がどうなるか知りたい』というような内容を書いた。
裏には『トリス』やら『ロザリー』やら『アイリス』やら、あの世界で会った人たちの名を覚えている限り書き連ね、末尾に私の携帯アドレスを書き込んだ。携帯のあの画像を見ながら、一人ひとり名前を思い出して。
半月後、返信があって、今に至る。
「もしかして、USBの内容見た?」
作者-めがねをかけた地味な格好の女性でおそらく20代半ばくらいと思われる-にいきなり、そう切り出されて、焦った。
「は?」
「ごめんなさい。疑ったわけじゃないんですけれど。半年くらい前に落としまって。
『お姫様とスケルトン』の内容と、個々の登場人物の略歴以外大したこと書いていないんだけど」
怒ったり、疑ったりしている風には見えなかった。
どっちかって言うと大事なものが見つからなくておろおろしている感じ?
その様子を見ていると逆に落ち着きを取り戻せた。一度呼吸を整えて問う。
「じゃあ、マルスたちの名はどこにも掲載されていないはずなんですよね」
「マルスどころか、死霊王子が人間に戻る話も本やインターネットに載せていないですよ。確かに、トリスの子供をそういう名前にするつもりなんだけれど」
彼女はノート型パソコンをこちらに向ける。そこにはさっき言っていた、お姫様とスケルトンの内容と登場人物の略歴が書かれているだけだった。
死霊王子とトリスさんの説明は完全に分かれている。
死霊王子の説明は、
『ゾンビ・・・本名シャムロック・ラハード。元はお姫様の隣の国の王子様』
この一行だけ。
トリスさんの説明は、とそちらも見てみるが、
『トリス先生・・・森の近くの村で読み書きを教える先生。薬草に詳しく、たまに頼まれて薬を作っている。よく、寝食を忘れてしまい、倒れることがしばしばある』
とざっくり書かれているだけで、死霊王子とトリスさんが同一人物だという説明は無い。作者としてはわかりきったことだから、書かなかったんだろうけれど。
おかげでゲーム会社は登場人物の中から“本物”を特定できなかった?
「あの、ゲーム化の企画が進行しているとかも無いですよね」
「まさか。そんなに売れてないですよ」
月山さんはそう言って笑う。
私は夢の中の経験は伏せて、あのゲーム会社で企画進行しているゲームについて、概要を話した。
「つまり、私が落としたUSBを下地にゲームを作って、私の許可も無くそのゲームを売ろうとしているってことですよね」
私の話を聞き終えた作者さんは小さく息をつくと、ちょっと言葉に迷ったように口を開けたり閉じたりしていたが、やがてゆっくり言葉を紡いだ。
「続きを考えてくれるってのは私としてもうれしいですよ。 私のお話をモチーフにして自作ゲームを作って楽しんでくれるのも。その結末が私の考えた未来とぜんぜん違っても。
私個人の意見としてはコミックマーケットで販売してくれたってかまわないです。うちの出版社もそこらへんはゆるいですし。でも、作者の許可なく完全な企業の商品になるのは……」
彼女は確かに『私の考えた結末と違っていても』と言った。
やはり、あのゲームは作者の思い描いた未来とまったく違うようだ。
そのゲームが売れるかどうかは別問題として、作者の意思を欠片も反映しないゲームを無断で売るのはなぁ。
「ところで『レイ』と『イリア』って誰?」
「それは……アレスさんとイリーナさんの--」
名前を間違えたんだろうか? そこで、画面に視線を落とす。
「えっと、イリーナさんの所「?」になっているのは?」
他にも王家のほうはスカスカだ。
王様と、第一王子、第二王子までしか書かれていない。第一王子は死亡ってなっているから、私が知る現王が繰上げで第一王子になる前でデータは止まっていることになる。
「名前だけ浮かんで、どう使うか決めていないの。アレスの女性嫌いを治す人物にしようかとは思っているんだけど。恋人にするか、お友達止まりにするか、きっぱり別れさせるか……」
じゃあ、あの世界は作者の考えたさらに先の世界?
「その、くっつけたほうがいいかと。あれ以上アレスさんが女嫌いになったら、人類の半分が川に流されます!」
くっついても、あまり治っている気配は無いが。
びっくりしたような顔をしたが、すぐに笑顔になる。
「大事な読者様の意見として聞いておきます。
で、もう一つ気になっていたんだけど、半年前には、まだトリスの子供、四人までしか考えてなかったのに、なんでローリエの名前が手紙に書かれていたの?」
って、半年前はローリエちゃん誕生の予定も無かったのか……
「えーっと、たまたま?」
じーっと、見つめられて、思わず目を逸らしてぼそぼそ答えた。
「でも、よくそのゲームと『お姫様とスケルトン』が似ているって気づきましたね」
「たまたま、読んでまして」
またも回答はしどろもどろだ。
そういえば、なぜ『みくちゃん』は『トリス』のことを知っていたんだろう。
発売されている絵本ではトリスさんはゾンビの姿のままなのに。
とりあえず、話題を逸らさ……本筋に戻さなければ。
「今後はどうするんですか?」
「落としてしまった私にも、落ち度はありますが……本当にゲーム会社の人がUSBを拾ったという証拠もありませんし、出版社と弁護士に相談して決めます。知らせていただいて、ありがとうございました」
◆
「こういうのを玉虫色って言うんだろうなぁ」
私は、パソコンを見ながらつぶやいた。
あの作者との会話から一ヵ月後。
新聞に『○○ゲーム、『白の指輪伝説』発売中止。作者と和解成立』
と言うとても短い記事が新聞に載っていた。
たった一ヶ月で、和解したところを見ると、ゲーム会社側が全面的に非を認めたと言うことだろう。
ゲーム会社のホームページでは、『お詫び』が掲載されていた。
真似たつもりは無かったが、たまたま似通ってしまい、お客様と作者様には申し訳ない。今後、このようなことが無いようにします。と言う内容だった。
「これで私の役目は……終わったんだよね」
私は、シロツメクサの押し花のしおりに指の先で触れる。
あの世界にとって、ゲーム『白の指輪伝説』は異物だった。
私が『死霊王子の処刑』や『王位継承』問題が解決した後も、長くあの世界にとどめ置かれた理由。
本当は『エンディング』を見せることが目的だったではないか。
作者の手をも離れている世界を……
あの世界はマルスたちのものであって、ゲーム会社の人たちが手を加えていい世界ではない。
マルスたちは--あの世界はきっとこの結末を望んでいたんだろう。
『バグを修正せよ』完結いたしました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




