#7.没キャラぞん子は栄養失調!?
レギュラーキャスト5人が居るとは言え、全員が毎日出勤しても
そうそう客足が多い日ばかりでは無い。
その為ボクは平日は一日に2~3人の出勤、休日や祝日など、
客足が見込める日には4~5人のキャスト+aの出勤シフトを作った。
「え~、私案外毎日暇ですよぉ~?」
幽霊のハナちゃんはそう言ったが、しかし皆に平等であるべきだ。
「まぁそうなんだろうけどさ、やっぱりお店で働く上では、
お客様との色んな会話とかもあるからさ。
外で色んな体験をして来て、それをお客様との会話に活かして欲しいな」
ボクの意図にハナちゃんはじめ皆同意してくれて、
一日当たりのキャスト出勤と店内密度が落ち着いた感じだ。
「え~っと、今日はアインドロイドのアイちゃんと、悪魔のポンぬさんか。
そう言えばポンぬさんとはまだあまり話してないな。」
そう思い、ポンぬさんに声を掛けようとしたその時、
店のドアの呼び鈴が鳴った。
━チリンチリン━
「あ、いらっしゃいませ~。異世界カフェへようこそ!
ボクは店長の猫耳ミイラ娘、みぎゃーだニャン!」
腰をクネクネさせながら恥ずかしいポーズを取ると、
そこにはキョトンとした肌の色が緑色の女の子が立っていた。
「ハァ・・・。」
随分と反応が薄い。ボクは思いっきりスベったようだった。
「あ、ごめんなさいね…。最初の挨拶は元気に、って思ってさ。
面白くなかったなら本当に申し訳無かったよ、アハハ…」
そう言いながらカウンター席へと案内する。
しかしどうにもお客様の反応が薄い気がする。
「あの…失礼ですがお客様、もしかしてゾンビですか?」
緑色の肌に飛び出した片目、薄い反応…どう見てもゾンビだ。
軽く腐臭がする。しかし温泉臭くらいで特に気にはならない。
その時ボクの脳裏に、天から何か声が聞こえた気がした。
『あー、その子、この作品を作る時にたたき台で作ったイラストに居た
いわゆる没キャラなんだわ。まぁ良くしてやってよ。』
聞き慣れたような、自分自身かとも間違える程に似た声。
それが天から聞こえるってどういう事だろう。
いわゆる守護霊やハイヤーセルフって言うやつだろうか。
それはそうとして、目の前の女の子は没キャラ?と言うヤツらしい。
何だかちょっと可哀想な響きの呼び方だ。ボクは女の子に聞いてみた。
「ドリンク、何になさいますか?」
すると、女の子は数秒ボーっとしてから、ゆっくりと口を開いた。
「アナタの…肉が食べたい。」
あ、コレもう完璧にゾンビだわ。ボクは心底ゾッとした。
このまま店内に居て貰ったら、ボクは食べられるんじゃないだろうか。
そこで、手が空いているキャスト二人を呼んだ。
「おーい、アイちゃんとポンぬさん。
ちょっとこの子ゾンビみたいなんだけどさ、どうしたら良いかな?」
ポンぬさんは「知らねぇよ、自分で何とかしろ」と突っぱねた。
アイちゃんだけが「何々~?」と来てくれた。
「あ~、この子はもう完璧にゾンビだねぇ。
死んでるから意思の力も弱々だし、生前の行動の繰り返しみたいな、
もうほとんどパターンで動いてるよね、まぁゾンビだしね。」
「そっか・・・。食べられたりはしないかな?」
「んー、…みぎゃタンって私から見ても美味しそうだから、
食べられちゃうかもね?だってミドフォー男子なのに、
女の子みたいにムチムチだしその肌をモロに出してるしさ。」
要するにボクはゾンビにとっては、食べ物が生身で歩いてる状態だ。
ゾンビの女の子はボクの方をジーっと見ながら涎を垂らしている。
コレ、ドリンクとかで何とかなる感じじゃないな…。
「え、えーと…、ごめんね、ボクを食べさせてあげる事は出来ないんだ。
吸血鬼とかに血を飲ませるならまだアリかもだけど、さすがに肉は、
ボク再生出来るタイプの異世界存在とかじゃなく、単なる人間だからさ」
しかしゾンビの女の子はずっとボクを見続ける。
「うわぁどうしよう…。
さすがにコレ、もう指の一本でも覚悟しなきゃなの?」
その時、ポンぬさんがコチラへ来て突然ボクの喉に腕を突っ込んだ。
「おごぇ!?ごぇぇぇぇぇ~!!!!!!!」
ボクはあまりに突然の事に胃の中のものを全て吐き出してしまった。
周囲に酸っぱい嘔吐物の匂いが漂う。
「ちょっと、何するんですかポンぬさん!!
それに滅茶苦茶店内が臭くなっちゃう…こんなの恥ずかしいよぉ!!」
しかし次の瞬間、ゾンビの女の子はそれに飛びついた。
「え・・・?」
「そりゃ、何かしたお前由来の固形物が食べたかったんだろう。
だから、かろうじてお前由来の固形物として出せるものを出したんだよ。
匂いはまぁ、もし客からクレームがあったら自分で説明しろ。
羞恥プレイは好きだろ?」
とんでも無い荒業だ。だけど喰われるよりはマシだったのだろうか。
ゾンビの女の子は床を舐め回してまでそれを全て平らげた。
そしてようやく、ゆっくりと喋り始めた。
「ありがとう、私…ゾン子。ゾンビになってから何も食べてなくて。
そしたら美味しそうな匂いがしたから、そしたらアナタだったの。
だけど女性じゃないから経血ステーキも食べれないし…。
正直今日も食事は無しかなって思ってたの。ありがとう、悪魔さん。」
「何、コイツはイジめられるの好きだからさ、躊躇なくやれたよ。
コイツのゲロ、美味かったか?」
「うん、美味しかった。ゾンビにとっては嘔吐物でもご馳走なの。」
「ちょっと、ポンぬさんヒドいじゃんか!!
いくら何でもゲロって、無理矢理吐かせただけで、そのまま消化すれば
普通にそのまま栄養になってたものなのに…だけどピンチは脱したけど」
「無理矢理こうされるのが嫌なら、これからはコイツがココに来る度に
ちゃんと事前にゲロを用意しとけよ。」
「え、何でコレから定期的に来る前提なの!?
え、マジ!?そうなの、ゾン子ちゃん!?」
「うん、私店長さんの味気に入っちゃった。
毎日じゃなくて良い、3~10日に一回くらいで良いから、
店長さんの何かを食べさせて?」
何とも凄い要求をされてしまい、ボクは困り果ててしまった。
3~10日に一回、ボクは食べたものを吐き出さないとなのか。
アンドロイドのアイちゃんがハイテンションに言った。
「みぎゃタン凄いねぇ~、嘔吐物まで欲しがられちゃうとか。
皆から愛されてるね、みぎゃタン!」
何だか褒める所のベクトルが違うような気がする…。
まぁでもこのゾン子ちゃんもゾンビになってから今まで
何も食料にあり付けなかったと言う事は、相当に下手なのだろう。
もういっそボクが食料を提供しなければこの子は餓えて、
ゾンビだけどもう一回死んじゃうんじゃないだろうか。
すると、ゾン子ちゃんがボクの腕にすり寄って来た。
「えへへ、店長さん、好きぃ~♡」
甘えて来るその様子は結構可愛く、生前は可愛い子だったのだろう。
だけど、ゾンビ本来の腐敗臭と共にさっき食べたボクの嘔吐物の匂い、
何とも言えないロマンチックの欠片も無い匂いに包まれて、
ボクはゾン子ちゃんの好き好き攻撃を受けていた。
「ま、良かったじゃんみぎゃタン。
こういうゾンビっ娘が好きなお客さんもいるかもだよ?
そういうお客さんが来た時の為にストックしときゃいいじゃん。
どうせ暇でしょ、ゾンビなんてさ、一日ブラブラしてるよ。」
アイちゃんはたまにとんでも無い事をサラッと言う。
アンドロイドがゆえの人の心への理解不足からだろうか。
そこへポンぬさんが手を頭の後ろで組みながら言った。
「ま、ゾンビだって飼い慣らしておけば、もしヤバい奴が来た時、
例えばケルベロスとか、そういう犬ッコロモンスターとかにも
案外勝てるんじゃねぇか?そういう食料好きだろ、コイツら。」
「ゾン子ちゃん、そうなの?」
「うん、ゾン子ケルベロスの肉好き~♡
コリコリして、魔力が籠ってるから噛む度に魔汁が溢れる~」
魔汁って何だ!?
そう思いながらも、確かにポンぬさんの言う事にも一理あるかも、
何てボクは思ってしまった。
「ねぇ店長さん、店長さん可愛いけど男の子なんだよね?
だったら、食べさせてくれたお礼にゾン子のココ舐める?」
そう言うとゾン子ちゃんは何と自らの股間を見せつけて来た。
当然、少し腐りかけた肌と同じく所々変色していて少々グロかった。
「え、いやさすがにそれは…。って言うか舐めるって、何で変態前提なの!?
普通、挿れる?とかの提案じゃないの!?」
「え、挿れたいの?まぁ、ゾン子は別に良いけど…」
「いやいやいやいや、病気とか怖いから遠慮します!!」
ボクは全力で断った。そもそもゾンビと小作りしてどうする。
既に生命力が0なのに、子供なんて生まれるはずも無いだろう。
それを見ながら、ポンぬさんが意地悪くボクに言った。
「まぁ、ゾンビとヤッたら色々な状態異常ステータス、
全部無効化出来るぜ?毒・麻痺・混乱・呪い…。
あらゆる不利な状態異常が無効化されるのは凄くね?」
「え、それってボクもゾンビになるって事でしょ?嫌だよ!
大体、臭くなっちゃうじゃん。さすがに嫌だよ、自分が臭くなるの!」
しかし、そんなボクの言葉を聞いて、ゾン子が泣き出してしまう。
「ふぇ...ゾン子、臭くてごめんなさい…店長さん、臭いの嫌なの?
ゾン子、臭いよね?ごめんなさい、ふぇえええ…」
ボクは正直、内心で「えぇえ~!?」と思った。
ゾンビが臭いのなんて当然の話だ。人間が臭いの嫌なのだって当然だ。
なのに、当然の話をしただけで傷付かれてしまった。
コレは一体…どうしたら良いんだ?
するとその時、アンドロイドのアイちゃんから助け舟が出された。
「ゾン子ちゃん、心配しないで?
みぎゃタンはねぇ、臭いの大好きな人だよ?」
え、ええぇえ~!!!!????
まさかのアイちゃんからの助け舟は、とんでもないキラーパスだった。
「え、そうなの!?
じゃあ、ゾン子のココ、舐めれる?」
再び股間を見せつけて来るゾン子ちゃん。
いやいやいやいや、止めてくれ~!!
そんな時、営業終了の合図が時計から鳴った。
ボクはこれをチャンスと思い、店を閉める事にした。
「ハイ、今日は営業終了!
それじゃあゾン子ちゃん、またしばらく街を彷徨って、
食べるものが無かったらウチへおいで。
ただし、出来れば前日くらいに言いに来てね。
突然だとさすがにボクもそう都合良く吐けないからさ。」
ポンぬさんが「その時にはアタシが吐かせてやるよ」と言ったが、
ボクはそれを聞かないフリをして店を閉めた。
いやはや、異世界存在って案外ゆるい人達が多いなと思っていたが、
今回のゾン子ちゃんはさすがに結構強烈だった。
今後、様々な異世界存在がこの店に来る度にこんな子達もいるのだろうか。
ボクはそれを考えるとちょっと、今後やっていけるか不安になるのだった。




