#6.口裂け女はレギュラー落ち!?
レギュラーキャストとして5人を迎えた、異世界コンカフェ。
お客様も途切れる事が無く、営業は上々だった。
そんな時、長い黒髪に黒系の着物を着てマスクをした女性が来店した。
「いらっしゃいませニャア―、異世界コンカフェにようこそ!」
ボクは腰をくねくねとしながら挨拶をした。
正直恥ずかしいんだけど、最近はそれがもはやクセになってる(笑)
「あ、どうも…。あの、変な事をお伺いしますが、私キレイ?」
マスクをした状態で自分が綺麗か聞いて来るなんて、まるで口裂け女だ。
いや、もしかしてこの女性、本当に口裂け女なのかも!?
「えぇと…、口元が見えないと何とも言えませんが、
とりあえず目元は綺麗だと思います。ちなみに貴女、もしかして…」
とボクが口裂け女かを尋ねようとした時、女性は照れ始めた。
「そ、そんな、綺麗だなんて…、だけど薄メイクなのよ?
別に大したお肌のケアとかもしていないし…それでもキレイ?」
ボクは期待した口裂け女のリアクションと違い、少し戸惑い答える。
「えぇ、目元は綺麗ですよ…。あの、貴女もしかして口裂け女?」
「え?あ、あぁ、そうよ、口裂け女よ。
だけど皆、マスクを取った瞬間にキャーって悲鳴ばかり。
さすがに傷付いちゃうから、最近は封印したの。」
「え?それじゃあ、今の貴方はただ綺麗かどうかを聞くだけ?」
「そうよ。大概は、貴女みたいに褒めてくれるわね。」
「まぁそりゃ、確かに目元は綺麗ですから。
いやでも、それだと単なる承認欲求モンスター…」
「良いのよ!今の時代承認欲求しか勝たんでしょ。
醜い口元はマスクで隠して、綺麗な部分だけを見せるの。
それが映えへの一番の近道なのよ。」
「はぁ、そんなものですかね…。」
ボクは困り果て、とりあえず生返事をした。
そこへ、幽霊のハナちゃんがやって来た。
「あら、都市伝説の現代怪異、口裂け女さんですか?」
「あら、アナタ体が透けてるわね、幽霊かしら?
まぁ幽霊なんて色々いるけどね、口裂け女は私だけだから。」
言われてみれば確かにそうだ。
幽霊だったり妖怪だったり、宇宙人も悪魔も機械もたくさんいる。
だけど、口裂け女と言われればおそらく量産型では無いだろう。
「本当はね、口裂け女はもっとたくさん居たのよ。
だけど皆傷付いて、避けた口からの感染症で亡くなったわ。
今では私を含めて口裂け女は数人しか居ないと思うわ。
絶滅危惧種の現代妖怪異なのよ、私って。」
別にこの口裂け女一人だけというワケでは無いようだ。
それにしても避けた口からの感染症で死ぬなら、
せめて手遅れになる前に病院に行って欲しいものだ。
「治療費を稼ぎたいのだけどね、ココなら怪異でも雇ってくれるかしら。」
「えー、ごめんなさい。もうレギュラーキャストは一杯なんです。
異世界存在ばかりが増え過ぎても管理が大変だし…」
「アナタ…、さっき私の事を綺麗って言ったでしょう?
綺麗な子を雇わないのかしら?何て悪い子、食べちゃおうかしら。」
「いやいや、脅さないで下さいよ。
それにボクなんて食べても美味しくないですよ。」
「別に食欲的な意味じゃないわよ。アナタ男の人でしょう?
それなのにそんなエッチな恰好して…。
正直、性的に食べたいのよ。良い声で鳴いてくれそう。」
そう言うと口裂け女のマスクから涎が流れて来た。
(えぇ!?マスクから涎が垂れて来るとか、どれだけ垂れてるの!?)
ボクはその涎の量に驚愕しながら、キャストの件を断った。
「いくら綺麗でも、今のウチではちょっと雇えないんです。
ごめんなさい、本当に管理が難しいんです、コレ以上は。」
すると、口裂け女は顎に手を当てて考え始めた。
「・・・ねぇ、アナタ。それじゃあイレギュラーキャストはどう?
フル出勤じゃないけれど、たまに遊びに来るみたいな。」
「う”、・・・よほどお仕事に困ってるんですね...。
だったらわかりました。本当に2~3日に一回ですよ?
キャスト達のお手伝い、ヘルプとか雑用とか、やってくれますか?」
「やったー!!
もちろん大丈夫よ、むしろ軽作業くらいが体を動かせて良いわ。」
するとそこへ、九尾の狐のエリ様がやって来た。
「おぉコレは、随分と古びた現代都市伝説怪異の口裂け女では無いか。
もはや今では誰もお主の事など怖がらぬであろう?
こんな時代になれば一周回って古風な妾のような妖怪の方が、
人々に恐れられたりするのじゃ。まぁ、年季が違うわのぅ。」
どうやら近しい怪異と言う存在として対抗意識があるようだ。
「わ、九尾の狐様ですか…、私なんてまだまだ怪異の新参者で…。
そりゃ勝てるワケが無いですよ、そもそも格が違いますから。」
意外にも口裂け女は古い妖怪に対して腰が低いようだった。
「ねぇ、怪異ってそんなに年功序列みたいな社会なの?
古いほど偉いって…強さとかは関係ないの?」
「そりゃありますよ、ひき子さんとかなら強いから、
もしかしたら古い妖怪にでも戦いを挑むかも知れませんね。
だけど私なんて本当にただ美しいかどうかを聞くだけの自意識過剰ですし
九尾の狐様みたいな大妖怪には全然勝てませんよ。」
なるほど、長いものには巻かれるタイプらしい。
「しかしのぅ、口裂けとは言うが、そろそろ治っているのでは無いか?
お主、カマイタチの末っ子に治癒の軟膏を貰っていたであろう?」
「え...まぁ、そうですけど…」
不意に、エリ様が口裂け女のマスクを外してしまった。
「あっ…」
「ほれ、鏡じゃ。見て見ろ。綺麗に治っておるでは無いか。」
そこには、本当に綺麗な口裂け女、いや口裂けてない女の顔があった。
「本当だ…私…キレイ…」
その言葉には既に疑問符が抜けていた。
「まぁ、そういう事じゃ。怪異は自らのアイデンティティに縛られ過ぎて
いつまでも自分はそういうものだと思い込んでおる。
しかし多くの場合はそのコンプレックスは時間の経過とともに既に
解決してしまっておる事が往々にしてあるのじゃ。」
何ともとんでも無い話である。だけどボクは尋ねた。
「アレ?それじゃあ、もう口裂け女さんは怪異じゃない?
だったら、もうココではキャストとして働けないですよね?」
「え、そんな…」
口裂けてない女さんが抗議の目線でボクを見て来た。
いや、仕方ないでしょ。もう怪異じゃないんだからさ。
「あの、だったら…、まだマスクしますから。
まだ、口裂けてる体で居ますから。
だから、私をもう少しだけ口裂け女で居させて下さい。」
要するにはココで働きたいと言う事だろうか。
「でもさ、もう口裂けてないじゃん。
もしお客様からマスク外してって言われたらどうするの?」
そこへ、宇宙人のレイナがやって来た。
「あーそれなら、宇宙技術の特殊メイクで口が裂けたように見せるなりよ。
実際に避けてるようにしか見えないし、皆きっと驚くなりよ。」
何とも便利な技術があったものだ、とボクは思った。
レイナの宇宙特殊メイク技術により、
口裂けてない女さんは無事に口裂け女に戻る事が出来た。
「ありがとうございます…私、戻れました、口裂け女に…」
何とも祝福のしようが無かった。そんなに嬉しいのかな?
そこへ、アンドロイドのアイちゃんから声が掛かった。
「ちょっとー、お客さん多くて捌き切れないよー。誰かへるぷみー!!」
それに、口裂け女が応えた。
「ハァーイ、今行きますね。」
もうすっかり、キャストの一員のようだった。
そして口裂け女はレンチン(レンジでチン)したトーストを皿に乗せて、
30代男性4人組のグループの席へと運んだ。
「ねぇ、私キレイ?」
「え、あぁ、目元は綺麗ですね。」
「ふぅん、…それじゃあ、これでも?」
口裂け女は得意げにマスクを外した。
「え・・・うぎゃぁぁぁぁぁ!!!!
口が、口が裂けてるーーーー!!!!」
男性グループは腰を抜かしてしまったようだ。
それを見て口裂け女は高らかに笑った。
「アッハッハ、やっぱりコレだわ。怪異は人を驚かせてナンボなのよ。
アナタ達も、綺麗なマスク女性には気を付けなさい?
私みたいに口が裂けてるかもよ?アッハッハ!!」
どうやら相当にご機嫌なようである。
当然だ、口の裂けは治り、今は宇宙特殊メイクにより裂けたように見える。
結局の所、彼女は今や一般人と変わらない。それなのに怖がらせられる。
低リスクで人をびっくりさせられるのは彼女のこれまでの境遇の裏返しか。
「ねぇ、店長さんありがとうね。私この店に来て本当に良かったわ。
・・・ところでその裸包帯エロいわね。もしかしてその包帯も、
マスクみたいに外してみたら体が傷だらけとかかしら?」
「あ、いやコレは単に非日常的な雰囲気を出そうとして…」
「興味が湧くわぁ~、って言うか店長さんミドフォー男子なんでしょ?
何だか背徳的よね、40代男子がこんなにエロ可愛いとか…。
ひん剥いちゃいたくなっちゃう。」
そう言うと口裂け女はボクの包帯を引っ張って剥がそうとして来た。
「ちょ、やめてーーーー!!!!!」
やっぱり、口裂け女はレギュラーキャストにするには危険過ぎる。
ボクは口裂け女をレギュラーにしなかった判断に我ながら納得した。
「だ~か~ら~、何で皆ボクの包帯を剥ごうとするの~!?(泣)」




