#32.塔の最上階にいた者
「さぁ、それじゃあこのままはじまりの塔の途中階に飛び移るぞ!」
「え、だけど帰りはどうするの?
気球ってこの場所で待ってはいないよね?」
「えぇと、それは…あ、ホラ、もう考えてる時間は無いぞ!
早くしないと敵に見つかるし、気球だっていつ墜落するかわからん!」
ボク達はアラヤに急かされて塔の途中階に降り立った。
まぁ、クリア条件が中ボスの討伐だから倒した時点で終わるのかな?
そしてボク達が降り立った途中階には、魔物達が居た。
繊維状のものを溶かす液を吐き出すスライムだ。
「コイツらは魔法も効くが、案外強い。
吐き出す液体に気を付けながら戦うんだ!!」
しかし、結構数が多い。
黒みぎゃ子はしなやかにかわすし、おたっぴぃとアラヤは鎧だ。
しかしボクは包帯と薄手の透けたローブ、しかも包帯は少ない。
もし液体に当たってしまえばもうかなりピンチだ。
それなのに、皆みたいに上手くかわせずに液体に当たってしまう。
「キャア!!」
それを聞いて黒みぎゃ子が笑う。
「おいおい、お前だからさ、40超えた中年男のクセに、
そのキャアって言う女の子みたいな悲鳴止めろよ(笑)
マジで笑えるんだけど。」
そうは言われても、出るものは仕方ない。
ボクはただでさえ減ってしまっている包帯が、
更に限界ギリギリまで減らされてしまった。
「ふぇぇ...どうして皆してボクの包帯を奪うの~?」
ボクはもうあとちょっと包帯を溶かされたら裸同然だ。
本当に恥ずかしくて体が動かない。
そんなボクの状態を察してか、アラヤとおたっぴぃが迅速に
スライムをなぎ倒して行く。
「コレ以上みぎゃーに恥ずかしい思いはさせぬ!!
すぐに私が倒してやろう!」
「みぎゃーさん、さすがに可哀想過ぎる…。
僕もたまには良い所見せますよ!!」
そして黒みぎゃ子は比較的強力な全体魔法で攻撃する。
あっという間にスライム達は一掃されてしまった。
「皆、強いね。ハハ…、ボク恥ずかしくて動けなかったや。」
皆、もうボクが恥ずかしさの限界だと理解していた。
全裸で中ボス戦とかになったら目も当てられない。
「お、幸いココはかなりの上層階みたいだな。
もうこの上かその上くらいが中ボスの階じゃないか?」
塔と言えば通常、下から順に登って行くのが大変だが、
最上階がすぐそこであれば余裕のダンジョンだ。
「ボクの包帯が全部脱がされちゃう前に、早くクリアしよう…」
アラヤとおたっぴぃさんは強く頷いた。
しかし、黒みぎゃ子はニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべた。
「え~、そんな事言いながらさ、全裸にされちゃうの、
期待してるんじゃないの?
まぁボクくらい強ければ、そんな哀れで惨めな恰好になんて
絶対にならないけどね~、雑魚雑魚~(笑)」
このクローンは、ボクの事をどこまでもバカにして来る。
だけど最近気付き始めたのは、多分ボクにも原因がある。
あまりに男らしくなくて女の子みたいな悲鳴とか、
よく考えたら恥ずかし過ぎるんだ、ボク。
「さぁ、ともかく上へ向かおう。中ボス…どんなヤツなんだろうな。」
ボク達は緊張した面持ちで、最上階への階段を登った。
するとそこに居たのは、カマキリのような化け物だった。
「ヒッヒッヒ、切り裂いて切り裂いて、切り裂きまくるぞ!!」
「終わった…」
ボクはその場にへたり込み、少しおしっこを漏らしてしまった。
こんなのどうやっても絶対、切り裂かれるじゃん。
全裸で戦うなんて恥ずかし過ぎる。ボクはただ絶望した。
しかしそれでもアラヤは勇敢に立ち向かった。
「フン、布なら切れるだろうが、鎧は無理だろう!!
ヤァーーーー!!!!」
勇ましく剣を振るうその姿はまさに勇敢な剣士だった。
しかし、何とアラヤの鎧すら切られてしまったのだ。
「なっ、何!?」
バラバラと崩れ去る鎧。幸い下には簡素な下着を履いていたが、
アラヤはあまりの恥ずかしさにへたり込んでしまった。
「キャア!!」
その様子を見ながら黒みぎゃ子が余裕そうな表情で言った。
「コレだよコレ。若い可愛い女が言うから価値があるんだよ、悲鳴は。
中年女装変態おじさんのお前が言ってもカッコ付かない、
むしろキモいだけだっての。」
そう言いながら黒みぎゃ子がカマキリに挑む。
しかし魔法を使う間も無く、ローブが切られてしまう。
「!?」
「ヒッヒッヒ、自分の力に余程自信があるようだな?
だが残念ながら、瞬発力の遅い黒魔術師など私の敵では無い。
貴様も恥ずかしい軍団の仲間入りだな、ヒヒッ。」
黒みぎゃ子はただ茫然としていた。まさか自分が、そんな感じだった。
そして続けておたっぴぃさんが戦いを挑んだ。
「僕は、別に服を切られても恥ずかしくない!!
何故なら勇者だからだー!!」
勇ましく切り込むおたっぴぃさん。しかし、力の差は歴然だった。
「お前の場合は、単純にレベルが足りてねぇな。」
おたっぴぃさんは鎌の外側で跳ね飛ばされた。
「ぐわぁ!!」
「ヘッヘッヘ、さぁて、お前裸になるのがそんなに嫌か?
だけどもう殆ど裸みたいなモンじゃねぇか。
ん?このションベンの匂い、お前男かぁ。
なるほどなぁ、男なのにそんな恰好して、それを全部脱がされたら
そりゃあ屈辱だよなぁ。さぁて、それじゃあジックリと
絶望と恥辱を高めてから切り刻んでやるよ…」
そう言ってジリジリとにじり寄るカマキリ。
ボクは恐怖から足が動かなかった。
その時、頭に何かを被った男が飛び出して来た。
━おたっぴぃさんだ。━
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
おたっぴぃさんはカマキリの細い胴体を狙い剣を振るう。
しかしカマキリは咄嗟の事に反撃としておたっぴぃさんの頭を狙う。
服が切られるどころでは無い、命が危ない。
しかし、おたっぴぃさんへの攻撃は防がれた。
彼は町から奪われた勇者の兜を被っていたのだ。
「何ィ!?コイツ、いつの間にか取り返してやがったのか!!」
「こんな大事なものを玉座の裏に置いておくからだよ。
さぁ、この一撃で終わりだ!!!!!!」
おたっぴぃさんの閃撃。勝負は一瞬で付いてしまった。
━ザシュッ!!!!━
「ぐ、はぁ…ちくしょう、勇者にしか被れない兜だから油断していた。
まさか本物の勇者が奪いに来るとはな….。」
それだけ言うと、カマキリは事切れた。
僕は勝利の喜びよりも、包帯を全て剥かれずに済んだ事に何よりも
ホッと安堵していた。
更にアラヤはおたっぴぃさんへ賛辞を向けた。
「素晴らしい…単なるRPG好きがここまで本当の勇者になるとは。
冒険を続けても良いのだが、ここまでで良いのか?」
「えぇ、僕はもう十分RPGの世界観を楽しめました。
またもし、ご縁がありましたら是非お誘い下さい。」
そうしてボク達はクエストクリアとして、身体が徐々に消えて行く。
━シュウゥゥゥゥ━
次の瞬間、気付いた時には異世界コンカフェにボク達は居た。
「おかえり、みぎゃタン達~」」
「おかえりなりよ、無事に帰れて良かったなりな。」
アイちゃんとレイナちゃんが出迎えてくれた。
おたっぴぃさんは満足気、アラヤもやったと言う顔をしている。
しかし、黒みぎゃ子だけが茫然とした顔をしていた。
「どうしたの?ちゃんと勝ったんだし、クエストクリアだよ?」
「ん?あぁ、まぁな。
ただ、恥ずかしい恰好にされる事ってこんなに辛いんだなって。」
黒みぎゃ子はボクのクローンとして生み出された存在だ。
あらゆる感情プログラムや経験等を組み込まれてはいるものの、
足りていない部分もまだ多々あるようだ。
特にボクが感じ易い『恥ずかしさ』についてはまだ不足していた。
「いつも何だかお前の事、たくさん辱めてごめんな。
本当に嫌だったんだな。お前ってドMだからさ、嫌と言いながらも
実は嬉しいのかなと思ってたよ。」
まぁ、その側面もある事は否定しない。
だけど、本当に心が傷付くほど辛い事があるのも事実だ。
「それがわかっただけでも黒みぎゃ子は十分成長したよ。
ありがとう、ボクのクローンとして目の前に居てくれて。」
ボクは何だか自分自身の成長を見るようで嬉しくなった。
黒みぎゃ子は恥ずかしくなったのか、照れて自分の店に戻った。
お客様参加型のRPGは中々に楽しいが、ハラハラもいっぱいだ。
もしまた参加を希望されるお客様がいるならやってみよう。
そんな風に思いながらボクはこの日の営業を終えたのだった。




