#2.九尾の狐はドSな妖怪!?
怒涛のコンカフェ初日を終えて、ボクは自宅で泥のように眠った。
疲れはしたものの、物凄く充実した一日だった。
会社勤めの頃には無かった充足感。自分の人生を生きている、そう思えた。
ボクは二日目の営業の為、店へとやって来た。
既にハナちゃんがドアの前に座っていた。
「あ、こんばんわ。待っていました。」
「ハナちゃん、物理的にドアをすり抜けて中に入れないの?」
「入れますけど…店長さんのお店でしょ?
さすがに住居不法侵入はダメかと思いまして…。」
「え、それじゃあ今まで幽霊になってからそういう事はしなかったの?」
「いえ、たくさんして来ましたけど…。
店長さんのお店は、大切にしたいから。」
ハナちゃんなりにボクの店に対するリスペクトがあるみたいだ。
「そっか、ありがとうね、ハナちゃん。さ、店に入ろう。」
二人で店に入る。ボクはコートの下に既に包帯を巻いている。
店に入り電気を点けると、ボクはおもむろにコートを脱いだ。
「キャア!…って、初日もその恰好でしたよね…。
何だか改めて見ると、えっちな恰好ですね、全身包帯…。」
ハナちゃんが舐めるように僕の身体を見回す。
「ちょ、改めてそんな風に見られたら恥ずかしいよ…。
コレは非日常感を出す為の格好なんだから、慣れてよ~」
しかし、ハナちゃんが間近でジロジロと見るからボクは反応してしまう。
「ちょ、ハナちゃん…さすがに見過ぎだってば…あ、ヤバ…。」
包帯の鼠径部辺りが少しムクムクと盛り上がる。
「ワッ、店長さん…、私に見られて興奮しちゃったの!?」
ハナちゃんは驚いて少し後退る。心は少女のままなのだろう。
「ハナちゃん…ボクだってミドフォーの男子なんだからさ、
さすがに体をジロジロ見られちゃったらこうなっちゃうよ。
お願いだから、あまり刺激しないでよね。
ただでさえかなり恥ずかしい露出多い恰好してるんだからさ。」
「・・・それだったら最初から、露出多い恰好しなけりゃ良いじゃん。」
頬を膨らませてハナちゃんが言った。それは正論だ。
だけどソレを言ってしまったら、非日常感が薄れてしまう。
「だってこんな格好してるミドフォー男子店長とか居ないでしょ?
ココは非日常感がテーマのコンカフェだからさ、ハナちゃんだって、
そのコンセプトに合ってるから採用したんだよ?」
「そんな事言って、実は単に自信ある自分の身体を見て欲しいだけの
変態ドMさんじゃないのかな~、店長さん(笑)」
「そ、そんな事無いモン!!」
ボクはフィッと後ろを向いて開店準備を始めた。
もちろん、そういう側面が0なワケじゃない。
だけどそういうのも含めて自分の店なんて自由で良いじゃないか。
好きに自分がやっていて楽しい事で生きて行くって決めたんだ。
「さ、そろそろ開店時間だね?」
「二日目の今日、お客さんは来てくれるかなぁ。」
「さぁ、どうだろうね?」
ハナちゃんがニヤァと笑った。
あ、コレはもう絶対、霊力で客を呼び込んでるな、と思った。
━チリンチリン━
ドアの鈴が鳴る。
「いらっしゃいませ・・・って、えぇ!?」
そこには、着物を着崩した長い金髪の九尾の狐が居た。
「・・・あ、あの、お客様・・・失礼ですが、もしかするとその、
きゅ、九尾の狐では御座いませんか・・・?」
ボクは何と言って良いかわからず、あるがままを尋ねてしまう。
「ん、そうじゃが、何か問題でもあるか?」
「あ、いえ、その、問題は無い・・・のですが、
このカフェのメニューはお口に合うかどうか・・・」
「ふむ、お主いわゆる『男の娘』と言うヤツか。
しかもその露出・・・イジめて欲しいのか?」
狐がニヤリと笑う。ヤバい、色々と見透かされている(焦)
「あ、いえ、そんな事は・・・。
えぇと、どのメニューになさいますか?」
「じゃあこの『ヌワラ・エリヤ』を頼む。」
「わかりました、ニャン!」
ボクはなるべく狐と目を合わせないようにしながら紅茶を作る。
ハナちゃんも店の隅の方で様子を伺っている。
幽霊からしても妖怪は怖いのだろうか。
「お客様、出来ました~。」
ボクはカウンター越しに紅茶を差し出す。
カップを手に取る九尾の狐。
すると、それをボクに向けてぶっ掛けて来た。
「・・・!?お、お客様!?」
「ふふ、恥ずかしいのぅ?包帯が透けて丸見えじゃ。
ほら、どうする?見られて興奮するのか?」
包帯はビシャビシャに濡らされて、肌が透けて見えていた。
「ちょ、お客様、困ります!!
こんな事わざとされたら…店が回せなくなるじゃないですか!」
ボクは両手で身体を隠しながら、零れた紅茶を拭き取る。
するとお尻にフワッとした感触があった。
「ヒッ!?」
「ふふふ、『ヒッ!?』だなどと、女みたいな声をあげよって。
お前、本当に40代の男なのか?恥ずかしいのぅ、ふっふっふ。」
かなりイタズラ好きな妖怪のようだ。
イジめられて少し興奮もしたが、さすがに店の営業に差し障る。
ボクは勇気を持って抗議する事にした。
「あの、お客様…、失礼ながらこのような事をされるようでしたら、
退店をお願いする事になるのですが・・・。」
すると、九尾の狐はキョトンとした顔をして、続けてボクに言った。
「あぁ、すまぬすまぬ。お主があまりにドM過ぎてつい、な。
しかしイジめられて悪い気はしなかったであろう?
妾にはお見通しじゃからな。そうそう、今回は朗報じゃ。
何とこの九尾の狐のエリ様が、お主の店で働いてやろうと言うのじゃ。」
ボクは突然の言葉に意味がわからず固まった。
ボクの店で、働く?この九尾の狐が?
「ココは近く、異界と繋がる場所になる。
その中にはソコの幽霊や妾のように気の良い者ばかりでは無い。
そうした厄介な輩どもを引き受けて対処してやろうと言うのじゃ。
どうじゃ、悪くない話であろう?報酬は稲荷揚げ、などでは無く、
お主にセクハラする事でどうじゃ?お主も悪くは無いじゃろう?」
セクハラ?冗談じゃない。コレ以上辱められるのはごめんだ。
その次の瞬間、狐の尻尾がボクの股間の下からボクを持ち上げた。
「あひぇ!?え、何コレ…!?」
突然持ち上げられて宙に浮かされて、ボクは足をジタバタした。
「アッハッハ、無様よのぅ。
どうじゃ?妾の決定に逆らわず、受け入れるか?
さもなければこのまま、恥ずかしく惨めで無様なままじゃぞ。」
股間を支点として持ち上げられてしまい何の抵抗も出来ないボクは、
ついには力の差を認めて屈服してしまった。
「わかりました。言う事を聞きますからお願いします、降ろして下さい。
さすがにこの格好はちょっと恥ずかし過ぎます…」
狐は満足気にフンッと鼻を鳴らしてボクを地面に降ろした。そして言った。
「まぁ、このカフェには今後あらゆる異世界存在がやって来る。
その多くはお主が対応出来る範囲を超えた者が殆どじゃろう。
下手に攻撃的になって返り討ちに遭うよりは、お主のそのマゾ性、
負ける事を受け入れる姿勢は合っていると言える。
まぁ心配するな。妾がいるからには大船に乗ったつもりでいろ。」
僕がただ茫然と九尾の狐、ことエリちゃんを見ていると、
突然ボクの口の中に狐の尻尾がズボッと入って来た。
「も、もがもが!!もほほ・・・ふむへは!!」
「ふぉっふぉっふぉ、全然何を言っているのかわからんぞ?
口の中に無理矢理突っ込まれて恥ずかしいのぅ?」
もはや恥ずかしいを通り越して意味がわからない、息が苦しい。
数秒すると尻尾が口から引き抜かれた。
「がはっ、げほっ。」
「ふふ、咳だけは一人前に40代の男なのだな。
まぁ、これからよろしく頼むぞ。妾には逆らわぬようにな。
そうだ、店でお主が昨日身に付けていた包帯を売ってはどうか?
店長が一日働いた汗を吸い込んだ包帯ですと言えば、
それなりに買い手が付くのでは無いか?お主、それなりに
女みたいな体つきをしておるからのぅ。」
何だそれは!?もう単純に恥ずかし過ぎる。
だけど、エリちゃんには逆らえないと思いボクは従う事にした。
「・・・わかりました。エリちゃんの言う通りにするよ。
毎日、一日前に付けていた包帯を売る事にする。
だけどそんなの、本当に買う人いるかな・・・。」
「おい、呼び方を間違えているぞ。『エリ様』じゃろ?」
コレはかなり屈辱的だ。店長はボクなのに・・・。
とは言え、相手は妖怪。しかもボクは強く言えない気質だ。
この異世界存在だけは異質で、言う事を聞くしかないと思った。
その時、店の扉に付いた鈴が鳴った。
━チリンチリン━
「あー、今日もやってますねぇ。」
昨日来てくれたオタクの『おたっぴぃ』さんだ。今日も来てくれた。
「あ、いらっしゃいませー、昨日はありがとうございました。
今日はどうなさいますか?」
「あー、じゃあ今日のおススメで…って、アレ?
この『店長の昨日巻いてた包帯』って何?」
「あー、それは…ボクが昨日体に巻いてた包帯で…。
その、汗とか吸ってて汚いから、別に買わなくて良いよっ(恥)」
「え、マジで?そんなの売ってくれるんだぁ?
それじゃあ買おうかな、いくら?」
「え、ちょ、マジで買うの!?普通に汗臭いだけだよ!?
ってか、恥ずかしいからやっぱり・・・」
しかしボクの制止を振り切り、エリ様が対応してしまう。
「2000円じゃ。ホレ、ちゃんと匂いが逃げぬよう、
ジップロック袋に入れてある。帰ってからしっかりと
コイツの匂いを堪能すると良いじゃろう。」
「え”ぇえ~!?ちょ、勝手に売買しないで~!?」
こうして大混乱のままに二日目の営業が終了した。
エリ様の出現はかなりの驚きを伴ったものの、
今後このカフェに訪れると言う異世界存在達の事を示された。
ボクは果たしてこのカフェの運営を無事に続ける事が出来るのか!?」




