#1.幽霊がコンカフェにやって来た!?
ボクはミドフォーの女装男子みぎゃー。
何社目かの会社勤めをとある理由で退職し、コンカフェを始める事にした。
猫耳を生やした茶髪ボブヘアーに、裸の上から包帯を巻いただけの格好。
正直、結構際どい自覚はある。
だけど自由を体現しようとすると既存の枠組みに囚われない格好がしたい。
そこでボクはこの猫耳ミイラ娘を勝負服とした。
コンカフェのコンセプトは『異世界』。皆、日々の現実に疲れ切っている。
そんな中で非日常体験を提供する場にしたかった。
こんな際どい恰好のミドフォーが現れたらそれはもう、非日常だ。
そんな思い付きからボクはある秋の夜にこのカフェを初めてみた。
━チリンチリン━
「あ、ようこそいらっしゃいませー!!」
早速、店のドアに取り付けた鈴が鳴り第一号のお客様が来店した。
男子とは言え、結構柔らかなシルエットと肌の白さには自信がある。
年齢だって逆手に取れば刺激になる筈だ。
ボクはお客様の方へと猫撫で声で擦り寄った。
「お客様、いらっしゃいませニャー、お客様が第一号の…」
ボクはそこで言葉に詰まり立ち止まった。
・・・お客様は、水色の髪をしてふわりとドレスを纏った女の子だった。
いや、女の子がお客様第一号でも何の問題も無い。
しかし何と言うか女の子は、体が透けていた。
女の子は少し自信無さ気にボクに尋ねた。
「あの、ココってカフェ、なんですよね?
だったら、紅茶でも飲みながら話を聞いてくれたりしますか?」
突然の質問にボクは戸惑い、しかし折角の第一号お客様なので、
それを無下にしないよう注意しながら言った。
「え、えぇ、まぁそりゃ開店したばかりで全然忙しくないし、
話くらいは聞きますよ?えぇと、とりあえず席に御案内しますね。」
ボクは店内のカウンター席にお客様を案内した。
「本日のおすすめは、ボクの包帯を少し千切って、
それをティーバックにして淹れるアッサムティーです。
・・・だけどお客様女の子だし、こういうフェチっぽいのって
あまり興味無いですよね?そもそもボクの身に着けた包帯なんて…」
「あ、いえ、飲ませて下さい。あなたみたいに生きてる人の肌の温もり、
感じながら飲んでみたいです。それにあなた可愛い。いくつですか?」
「え、あー、えーと…恥ずかしながらミドフォーの男です…」
「えぇえ!?男性、なんですか…?凄い…全然わかりませんでした…。
今ってこんな感じの40代男性が多いんですか?」
「あぁ、えーと…まぁココはコンセプトカフェなので、
非日常感を出したくてですね…。と言うかお客様、体透けてますよね?
一体何なのか、もし宜しければお話して頂けませんか?」
ボクは勇気を出して聞いてみた。きっとお客様の話と言うのも、
この体が透けている事に関した事なのだろう。
「あー、そうですね…それじゃあ、お話させて頂きますね…。
私、見ての通り幽霊なんですよ。もうかれこれ30年少し前に
この商店街近くの自宅で首つりをして亡くなりまして。
それで、当時母親が新興宗教にハマっていて供養をしてくれず、
成仏出来ずにずっと彷徨っていたんです。」
「うえぇ...そ、そうなんですか・・・。」
ボクは驚いて、開いた口が塞がらなかった。
幽霊だなんて本当に実在していたのか、と言うのがまず驚きだが、
ボクはこの幽霊の目撃談を噂で聞いていたのだ。
夜になると商店街に現れる少女の霊として語られていた。
まさか噂は本当で、こうして僕のカフェに来るなんて。
しかもお客様第一号だ。
「母親が新興宗教にって、お父さんはどうしてたの?」
「父は、当時既に離婚していました。
それと歳の離れた姉もいたのですが、蒸発してしまいました。
ちょうどアナタみたいに可愛らしい女の子だった…。」
「あ、ボクはミドフォーの男ですけどね。
うーん、そっかぁ…、噂は聞いていたんですよね。
この商店街で、夜になると少女の幽霊が現れるって。」
「ずっと寂しくて…だけどどこにも居場所なんて無くて。
こういう場でなら、自分の存在を明かしても良いかなと思えたんです。」
「こういう場、って・・・、ここはどんな場所なの?」
「何だかこのお店を見つけた時のイメージが、
変わった存在も否定せずに受け入れてくれそうだなって思いまして。
店長さん自身がかなり変わられているじゃないですか?
だから、私みたいなのでも話に付き合ってくれるかなと思いました。」
「なるほど…。うん、確かにボクってばオカルトとか好きだしさ。
そういうのに興味はあったけれど、まさか本物の幽霊とはね…。
それで、キミはちゃんと成仏したいのかな?もしそうだったら、
ボクなんかじゃなくてちゃんとした宗教関係者とかに頼んで
念仏だとか祝詞だとか唱えて貰わないとだけどさ、どうしたい?」
「あ、いえ別に成仏したいとかじゃないんです。
何だかんだで自分が死んだ後の世界を見ているのは楽しいんです。
何て言うんですかね、もうイジめとかも無いですし、
無責任にこの世界の変化だけを見続けられる、と言うか。
死んだら全部無になるなんて、つまらなくありませんか?」
ボクは驚いて目を丸めた。まさにボク自身、そう感じていたからだ。
ボク達はいつか死ぬ。それは誰一人例外無くだ。
だけどその死の先にあるのがもし無限の無なら、それはとても恐ろしい。
だってコレまで存在していた意識が突然全て途切れてしまって、
それまで生きて来た全てが意味を成さなくなる。
ボクはそれがとても怖いと感じていた。
「そうだね、ボクもそう思うよ。
それじゃあこれからも、彷徨い続けながら現世を楽しむのかな?」
「えぇ、もちろんそのつもりなんですが…その……、
えぇと、このお店スタッフ募集とかしていませんか?」
「え?・・・ま、まぁ確かにお客さんが入るようになればいつかは、
スタッフを入れようとは思っていたけど、まだ開店したばかりだしさ。」
「なるほど…。それなら、私の霊力を使ってお客さんを呼び込みますから、
私をスタッフとして雇い入れて頂けませんか?
死んでいるからお給料も必要ありませんし、
冷たい飲み物を運ぶ時に手の体温で温くしてしまう事もありません。
お客様の隣に座れば冷房をかけなくても涼しく出来ますよ。」
「わぁ、何だかアピールが凄いな…えぇと、うん、まぁ良いんだけどさ、
キミって幽霊なのに、現実のグラスとか持ったり出来るの?」
「それは思いの強さ次第って感じですね。持てると強く信じれば持てます。
もちろんこの世に対する干渉には限度がありますけども。」
「うーん、まぁ面白そうだしコストもかからないし、とりあえず採用かな。
とは言ってもまだ開店したばかりだから、お客さん居ないしなぁ。」
「それなら、早速呼び込みますね。」
そう言うと女の子は両手を胸の前で合わせて意識を集中し始めた。
『集客万来・拍手喝采・店長美少女!ハッ!』
「え、ちょ、いやいや、ボク美少女じゃなくてミドフォー男だよ?」
それから1分程経った頃、店のドアの鈴が鳴った。
━チリンチリン━
見ると入って来たのは30代前半のふくよかな男性だった。
「あ、今日からなんだこの店?ってか店長さん、ソレ際どくね?」
「あ、いらっしゃいませー。にゃ、ニャハハ…やっぱり際どいかニャ?」
「ん、しかも股間が少し膨らんで…まさか店長さん、男の娘?」
「にゃ、ニャハハ…改めてあえて指摘されると恥ずかしいニャリね…。
そうだよ、ミドフォーの男の娘、です…ニャン。」
ボクは少し気恥しくなり、少し控えめに言った。
「正直、『アリ』だな。ミドフォーでその可愛さって…反則でしょ。
この本日のお勧めの包帯アッサムティーって、店長さんの包帯入り?」
「あ、じ、実はそうなんだニャ―。ボクの巻いてる包帯切って、
それをティーバッグにしたアッサムティーにゃのだぁ~。」
「じゃあ、股間の部分を切り取ってくれる?正直美味しそう。」
「え!?…ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ってー!!
さすがにそれはちょっと無理ですニャア、ってか恥ずかし過ぎる!
せめて脇とか、そこら辺にして欲しいニャア―(焦)」
「あ、そっか。じゃあ、脇で。」
「にゃ、ニャンだかそれも恥ずかしいゾー!?
う”ぅ...わかりましたニャ、それじゃ脇の部分切り取りますニャ。」
ボクは自分から考案したメニューが今更滅茶苦茶恥ずかしくなった。
脇部分の包帯をチョキチョキと切り取り、ティーバッグにする。
正直食品衛生法上はかなりヤバいと思う。
だけどちゃんと開店前にお風呂入ってるから大丈夫なはずだ。
「ハイ、出来ましたニャ。
店長特製、包帯ティーバッグで作ったアッサムティーですニャ!」
幽霊の女の子がそれをお客様の所へと運ぶ。
「おぉ、見た目良いねコレ!さぁ、香りは?」
お客様がアッサムティーの香りを滅茶苦茶鼻を近付けて嗅ぐ。
ボクの脇の匂いがしたらどうしよう、滅茶苦茶恥ずかしくなった。
「おぉ、コレは…アッサムティーの上品な香りの中にほんのり、
店長さんの脇汗の香りが乗っていてとてもフルーティー…。
良いねコレ、正直鬼リピ確定だわ。」
「二”ャ、ニャニャニャニャー!!!!
ちょっとお客様、マジで恥ずかしいから脇汗の香りとか止めてニャー!
さすがにいくらミドフォー男子とは言え…恥ずかし過ぎますニャッ」
ボクは顔を真っ赤にしてしまい、つい声を荒げて言ってしまった。
「ハハハ、店長さん本当にミドフォー?
滅茶苦茶焦ってテンパってるじゃん。あぁそうそう、言い忘れてたね。
僕はおたっぴぃ。生粋のオタクさ。ココ家近いから、通わせて貰うね。
さぁそれじゃ、紅茶お持ち帰りさせて貰おうかな。」
「え”、え”ぇえ”~!!??
店で出された紅茶をお持ち帰りとか、前代未聞です二”ャア~!!」
しかし幽霊の女の子が丁寧に紙コップに移し替えてそれを袋に入れる。
「ハイ、どうぞ。帰ってからも店長さんの香り楽しんでね。」
「ちょ、ちょっとソコー!!何勝手にやってるニャー!!
もう、ボクこの店やって行けないニャー!!」
こうして開店初日は突然の幽霊の訪問とテイクアウターの出現により
慌ただしく過ぎて行ったのだった。
後から幽霊の女の子に名前を聞いた所『ハナ』と名乗った。
果たしてボクはこの異世界コンカフェを無事に回して行けるのだろうか。




