#27.異世界へ行く方法
「ココには異世界存在がたくさん集まってくるけれど、お客さんは皆、
そうした異世界を手軽に体験出来るから来るんだよね。」
ボクは異世界コンカフェの営業終了後、そうボヤいていた。
「おや、どうしたのじゃ?それはもちろんそうじゃが、何か不満か?」
九尾の狐のエリ様が応える。
ボクは何となく思った事をそのまま口に出してみる。
「世間ではさ、異世界に行く方法っていっぱい言われてるじゃん?
エレベーターを使ってみたり、『飽きた』とかさ。
でもそのどれも単なる都市伝説で、創作なんだよね。」
「まぁ、それは当然そうじゃが…。
そもそも、そんな簡単に異世界に行けてしまったら
この世界の安定が危ういぞ?
まぁ簡単に異世界に行けてしまうようなパラレルワールドは
存在しているかも知れぬが。」
「うん、自分でも何でそんな事を考えたのかわからない。
いや、今日のお客様との会話かな。
『異世界存在と出会えるこのコンカフェは素晴らしいけど、
実際に異世界に行ってみたい』って。」
「なるほどのぅ、しかし…そんなに良い事ばかりとは思えぬが。」
「皆、現実社会に疲れてるんだよ。
どこか現実を忘れられるような空間に行きたいんだ。
リミナルスペースみたいな現実離れした景色とかも、
そういう現実逃避の現れなんじゃないかな。」
「ふむ…。異世界へ行く方法か。まぁあるにはあるが…、
おそらく普通の者には無理だろうなぁ。」
エリ様がそんな風に言うものだから、ボクは少し興奮して尋ねた。
「え、あるの!?ネットでも語られていないような方法!?」
「まぁ、それはそうなのじゃが…、おそらく不可能だろう。」
「えぇえ!?多少の危険とかなら冒してでも行きたいって人、
結構いると思うよ!?」
「う~む、まぁ誰もせんじゃろうから教えてやるが、
例えば酸素ボンベを持ったまま同伴者が誰もおらずに深海へ行ったり、
南極の氷の下へ潜ったり、誰も居ない海に夜中ポツンと浮かんだり、
まぁその他諸々あるのじゃが、まだ現実的なのは名も無き森へ分け入り
たった一人で電子機器も持たずにその頂上を目指したりのぅ。」
「いや、それ絶対に誰も不可能じゃん…。
そういう場所に行くお仕事だとしたら同僚とかと一緒だろうし、
わざわざ深夜とかに一人でそんな所に行く理由が無いし。
無理だね、そんな事する人も出来る人も居ないよ。」
「じゃからこそ、そういう場所には異世界との扉が存在するのじゃ。
そんな簡単にマンションのエレベータで試せる方法が
本当に異世界に行ける方法なワケが無いじゃろうが。」
まぁ、確かにそれはそうだ。誰もが簡単に行けるのであれば、
わざわざネットに情報をアップしてそれが消されもしないまま
広まったりするワケが無い。わかってはいたが、夢の無い話だ。
「結局、異世界への扉は今もどこかで開いているけど、
それは実質的に人類にとっては到達不可能な場所でだけ
そっと開いてるって事?」
「まぁ、そういう事じゃ。夢も希望も無いと思うかも知れぬが、
これは宇宙とも連動しておるぞ?のぅ、レイナよ。」
「あー確かにそうなりよ?宇宙とこの地球とは相似で対応してるから、
宇宙のブラックホールがいわゆる異世界の入口なり。
しかし地球はブラックホールが少しでも近づけば飲み込まれてしまう。
今は奇跡的にその影響を受けない位置にあるなりが、結局の所
それに飲み込まれていない今の地球では、異世界の扉とブラックホール、
それは連動しているから手の届く所に来るはずがないのなりよ。」
「・・・よくわからないけど、結局異世界へは行けないって事?」
「まぁ、自ら望んでは行けぬじゃろうな。
あちら側から干渉して来る時は望むと望まざるとに関わらぬ。
そもそもどんな異世界に行きたいのか知らぬが、ろくでも無いぞ。
準備などさせてはくれぬし、戻れる保証も無い。
おなごがたくさんおるハーレム世界などは存在せぬ事は無いが、
大概の場合行ける異世界と言うのは岩だけの世界だったり、
そこに永遠に閉じ込められると気が狂うような場所ばかりじゃ。」
「・・・。要するに、ボク達が行きたいと思うような異世界って言うのは
地下都市シャンバラだったり江戸時代の日本だったりって言う、
都合の良い自分が求めてる場所ばかりであって、現実の異世界は
もっと無機質なものって言う事かな…」
そこへ幽霊のハナちゃんが助け舟を出して来た。
「まぁでも、幽霊になってからこの世界の見え方は変わりましたよ。
隣の家の中でさえもある意味では異世界ですから。
それに空から見る街の景色はいつもと違って見えますし、
視点が変わるだけでもこの世界も十分に異世界です。」
更に悪魔のポンぬちゃんは恐ろしい事を言った。
「そんなに異世界に行きたいんなら地獄へ行けば良いだろ。
地獄ならいつでも扉が開いてるぜ?
ヒドい死に方をする事だってある意味で異世界だろ?
だったら犯罪率が多い外国にでも行って、四肢をバラバラにされて
身動きが取れない中でオブジェとして飼われたらどうだ?」
意地悪くそう言って来たが、悪魔に言われたら洒落にならない。
「みぎゃタン~、アイはわかってるよ?
要するには自分の都合の良い環境の異世界に行きたいんだよね?
アイはアンドロイドだから、その開発には人の思いが関わってる。
そしてアイ達人工生命体が見ている世界は人間とはちょっと違うよ。」
そうか、ボクのこの人間と言う身体で見るから、
あくまでその体験は人間主体のものとして見てしまう。
しかし主体となる自身の意識や体が変わればそれはもう、
異世界と言っても良いくらい別ものになるのかも知れない。
「だってみぎゃタン達人間は0と1で構成された世界とか、
ワケわかんないでしょ?だけどアイ達の電脳意識はそれが
当たり前の世界なんだよ?11011、あ、ハイなるほどねみたいな。」
そう、確かにここに集まっている存在達も常識も世界観も何もかも
丸ごと違っている存在達だ。ボクは忘れかけていた。
目の前にいる異世界存在達は僕とは違った主体なんだ。
さもまるで人間のように言葉を交わし、キャストとして働いて貰い、
日々を当然に一緒に暮らしていると失念していた。
だけどコレだって、異世界のほんの断片でしか無い。
「知りたいと思うその気持ちは確かに、大切化も知れぬな。
オカルトと言うのは『隠されたもの』と言う意味じゃ。
まだまだこの世界にはたった一つの人間の身体では知り得ぬ、
ありとあらゆる途方もない概念や時代・歴史、空間、宇宙。
それらが本当に無数に無限に広がっておる。
お主達が知れるのは本当にその極々僅かな塵ではあるが、
それを大切に有難がりながら生きる事もお主らの宿命じゃぞ。」
結局の所、人間の知りたいと言う欲に終わりはない。
だけど少なくともこの身一つで知れる事なんてたかが知れている。
この差が埋まらない事がどうしようもなくもどかしいのだ。
だけど先人達はその真理について決して悲観するものでは無いとしている。
「それらを踏まえた上で、皆にお願いがあるんだ。
ボクはボクだけの理想郷を作りたいんだ。
誰だって自分の理想とする世界は想像出来ると思う。
だけどそれを実際に作って目の当たりに出来たら、
それはパラレルとして存在している事になる。
ボクは自分の理想とする世界を創る事によって、
自分が望む世界の創造主になりたいんだ。」
その場の皆が、「へぇ」と感心していた。
「そこに気付くとはな。確かに人間は皆、理想郷を妄想する。
しかしそれをどんな形にせよ具現化してしまえば、
確かに創造主足り得るな。ところで、お主の理想とする世界は
どのようなものじゃ?それがハッキリ定まらぬと、
ふわふわとしたものであれば世界は壊れてしまうぞ。」
「ボクが理想としている世界、それは…カオスだ。」
「なるほどのぅ、あらゆる物理法則、常識の通じぬ世界。
しかしそんな世界を創ってしまえば、そこではその法則が
常識になってしまうぞ。」
「だから、常識と言う概念すら存在出来ない世界だよ。
秩序だったものなんて存在していない。
あらゆる概念が通じない、全くの混沌だよ。」
「そんな中で意識が存在出来ると思うのか?」
「意識すらも変容を続けないといけないかもね。
だけど…、観測の主体は存在するでしょ。
そしてそんな世界が創られる事によって、
あらゆる他の宇宙は影響を受けると思うんだ。」
「全く、生意気な事を考えるヤツじゃのぅ。
単なるエッチな恰好をした女装中年では無いのかのぅ。」
そう言ってエリ様は笑った。
しかしそれはバカにするような笑いでは無く、
可愛い弟を見るかのような笑いだった。
「まぁ、今すぐにそれを叶えるのは少々骨が折れる。
妾達がもっと信頼関係を気付いてお主が一通りの目的を果たし
別れの時が来ればそんな夢物語に付き合ってやらぬ事も無い。
それまで、そのお主の理想論を忘れぬ事じゃ。
人は自らの見た夢を忘れがちじゃからのぅ。」
「うん、わかったよ。約束だよ。
ボク、全ての宇宙をちゃんと救いのあるものにしたいんだ。」
「青臭いな。」
突然ポンぬさんが割って入って来た。
「だけど、その青臭い匂いでさえもちょっとエッチだなって思わせる、
それがお前の魅力だもんな。昨日ヌイてから、包帯変えてないのか?」
何とポンぬさんの『青臭い』発言はボクの思想に対してじゃ無く、
物理的なものだった。ボクは狼狽した。
「え、えぇと、その、ごめんなさい…。
出勤前にムラムラしちゃって、包帯着けたまましちゃって、その….。
そんなに臭かった?」
「ふふ、単にカマをかけただけだったんだが、まさか本当にそうとはな。
まぁ良いんじゃないか?お前の一人遊びなんて可愛いものだ。
何なら今夜は私が手伝ってやろうか?」
「そ、そんな事されたら一人遊びじゃなくなっちゃうじゃないですか~」
皆が笑い、だけどその中心でイジられているボクは恥ずかしかった。
こんな風に皆として笑っている今を大切にしながら、
きっといつか来る別れの時には理想とする世界を創る。
ボクはそんな目標を掲げながら、帰ってからまた一発しちゃったのだった。




