#17.ドラゴンがやって来た!?
黒みぎゃ子が現れてからと言うもの、ちょっとボクのテンポが崩された。
のらりくらりのんびりやっていたのに、彼はボクに刺激を与えてくる。
特にリミナルスペースの一件の後には選択的感覚共有能力迄手に入れ、
ボクは彼の玩具のように扱われる可能性が出て来てしまった。
「厄介なクローンに絡まれちゃったなぁ…」
そんな風にボクは気付けば口からボヤキが出ていた。
そんな様子を見て、幽霊のハナちゃんが慰めの言葉を掛けてくれた。
「みぎゃーさん…、どうか落ち込まないでね。
きっと良い距離感でお付き合い出来る日が来るよ。
今は黒みぎゃ子さんも会ったばかりで色々と気合が入り過ぎちゃって、
ちょっとやり過ぎてる感じもあるんじゃないかなぁ。」
まぁ確かに、その側面はあるのかも知れない。
もう少し、様子を見てみるか。そう思った時だった。
「何か、凄いデカいの来たなりよ!?」
宇宙人のレイナちゃんが慌てふためいている。
今日はこの二人が出勤の日だ。
つまりはエリ様やポンぬちゃんと言った戦闘要員が居ない。
地味にアイちゃんも結構戦えたりする感じもある。
今いる二人で戦闘をするとなると、幽霊のハナちゃんは多分弱い。
そうなると、宇宙人のレイナちゃん頼みとなる。
しかし、彼女の宇宙テクノロジーの力は未知数だ。
「な、何なんだろう?
ちょっと店の外に確認を…わ!」
何とそこには、東京タワーでさえ壊してしまえそうな大きなドラゴンが
明らかにボクの異世界コンカフェを見ていたのだ。
『ガァ―――――!!!!!』
一吠えしただけで耳をつんざくような大音量だ。
ドラゴンだって確かに異世界存在だけど、コレはちょっと…想定外だ。
「ちょっと、サイズを小さくするなりよ!
だけどレイナちゃんのこういう宇宙テクノロジーの便利グッズ、
少しずつ充電が切れて行ってるから常にはアテにならないなりよ。
とにかく今回は何とかこの小化銃でサイズを縮小させるなり!」
良かった、レイナちゃんが出勤日で。
もしエリ様やポンぬちゃんだった場合、ちゃんと対処出来ただろうか。
「ハァ―――――!!!!」
まるで玩具の銃のような近未来感ある小銃をドラゴン目掛けて撃つ。
するとドラゴンがみるみる縮小して行った。
━しゅるるるるる・・・・━
それでもドラゴンは2M越えのサイズで、いまだに脅威だ。
「んー、とりあえずドラゴンと人間では話せないなりから、
翻訳用の遺伝子をみぎゃタンに注射で打ち込むなりよ。
ちょっとチクッとするなりが、良いか?」
突然の注射宣告。ボクは注射が結構苦手だ。
泣くほどでは無いけど、いくつになってもアレは…。
「もう答えを待っていられないなりから、打つなりよ、それっ」
━チクッ━
宇宙テクノロジーで造られた注射器なのかはわかならいが、
痛みは普段の注射と変わらなかった。
昔に比べれば随分と針は細くなっているけど、それでも痛い。
「~~~」
ボクは声にならない、痛いよ~って気持ちの念を周囲に飛ばした。
何だか、こうでもしないと気が紛れなかったのだ。
「よし、終わりなりよ!さぁみぎゃタン、ドラゴンに話しかけてみるなり」
「え?えぇと、それじゃあ…こんにち….は?」
『ようやく言葉が通じるようになったか、人の子よ。』
「あぁ、こういう声なんですね。結構威厳があるって言うか。
えぇと、単刀直入に聞きますが、何故ココに来たんですか?」
『ココに、私を使役出来るだけの力を持った者の力の痕跡が、
しかしどうやらお前では無いようだな…。』
突然ドラゴンに訪問され、使役出来る者の痕跡を感じられ、
しかしソレはボクでは無いって、ボクは一体どうしたら良いんだ?
『しかし、似ている…。お前、兄弟がいるのか?』
その言葉ですぐにピンと来た。黒みぎゃ子だ。
最近本当にアイツの関連した事が多過ぎる。
「あー、多分それはボクのクローンの子だね。
今はここに居ないけど、近くのお店にいるから呼ぼうか?
だけどあの子に使役されるのはあまりおススメしないよ。
結構ややこしい性格してるからさ。」
『それは私が自分で決める事だ。それでは、呼んでもらおうか、その者を』
偉そうな威厳ある声で言うけど、結局の所自分の手綱を持つ人間を
わざわざ自分から迎えに来たって事でしょ?何かMっちぃな、と思った。
「あ、すぐに来るらしいですよ。」
ハナちゃんがアチラのお店に連絡を取り黒みぎゃ子を呼んでくれた。
「ハァーイ、みぎゃーよりも色んなスペックが高い上位互換、
黒みぎゃ子だよ。」
何ともボクをイジって来る、イジワルなクローンだ。
『なるほど、お前が私を使役出来る力を持った者だな。
どうだ、私を使役してみたくはないか?
餌はゴブリン等の小鬼を月に100匹ほど、
使えるブレスは炎系・氷系・混乱系。
知性ある者相手であれば代わりに交渉する事も可能だ。』
何とも自己アピールの凄いリクルートだ。
と言うか、誰にも使役されていなかった野良ドラゴンなのか?
いやそもそもドラゴンって人間に使役されるのが当然なのか?
『ふむ、先程の白い包帯の貴様はよくわかっていないようだな。
よかろう、少しだけ教えてやろう。我々ドラゴンにも色々ある。
自由に自身のみで暮らす者と、何者かに使役される者。
それは個々の生き方の選択だから自由なのだ。
私は使役され役に立つ事を良しとしている。
そしてそこの黒い包帯の者にはその資格があるのだ。』
「ふぅ~ん、ボクってそんなに優秀なんだね。
まぁ使ってやらない事も無いけどさー、一つ教えて欲しいんだよね。
ボクってこの白い包帯のヤツのクローンなんだけどさ、どうして
オリジナルのコイツじゃなくてクローンのボクが使役出来るの?
理屈で考えたら何だかおかしい気がしてさ。」
確かに、そこはボクも不思議な所だ。
『ふむ、その疑問は最もだな。単純に言えば代償に対する覚悟だ。
我々を使役する為にはそれなりの代償が伴う。
しかしその代償が何かは、支払う事になる時まで明かされない。
そうした不明確な代償に対する許容の幅の違いが、我々を使役出来るか
出来ないかの差になるのだ。』
「なるほどー、要するに絶大な力を使わせてあげますから、
代わりにいつかその使用料を下さいね、と。
だけどそれが何なのかは先に明かさないけど、
それでも良いなら使ってくれて構いませんけど、みたいな?」
『うむ、概ねその通りだ。』
なるほど、何となく話の筋道がわかった。
つまり、クローンである黒みぎゃ子はしがらみが少ない。
その為、何らかの代償…例えば親や財産、知名度など、
自分にまつわる何かを代償として支払う抵抗が無い。
一方でこれまで40数年生きて来た僕には様々な捨てられないものが
たくさん存在している。それらを後になってから代償だから
貰って行くなんて言われたらとんでも無い話だ。
そうした個々の事情により使役出来るかどうかが違うのだ。
「まぁ良いよ、それじゃあ使役させてよ。
ドラゴンマスター名乗っちゃおうかなー。
ねぇみぎゃー、悔しい?クローンのボクにこんな凄い力、
お前は何も持ってないのにね?情けないね?」
また、黒みぎゃ子がボクを辱めて来る。
別に物凄い悪意があるわけじゃないのはわかってるけど、
本当にボクをイジめるのが好きだなぁ…。
「そりゃさぁ、ちょっとは悔しいよ?だけどそんな言い方…。
恥ずかしいってより、ちょっと傷付いちゃうな。
素直にボクの事、単なるオリジナルとして扱えない?」
「そんなの…ヤだよ。何か恥ずかしいじゃん。」
・・・まぁ、わからないでも無かった。
結局の所、詰まる所自分自身だ。慣れ合うだとか、好きって言うとか
そのどれもが何か違う。自分自身と本質的に同じ存在。
それとの付き合い方や距離感と言うのは確かに難しい。
「ま、まぁそれは確かにわかるけどさ…、だからってそんな
攻撃的な言い方をわざわざしなくても….。」
「だ、だったらどうやって接しろって言うんだよ!
自分自身と仲良くするってのも何かキモいだろ!
こうやってイジめるくらいで丁度良いんだよ!
大体ボクの方がちょっとスペック高いんだから、
お前は負け役の情けなくて恥ずかしいオリジナルなの」
何だかそんな風に説明されるとコチラも納得してしまう。
自分と同一の存在と関係を持たなければならない時、
どうしてもこのような歪んだ形でのコミュニケーションになる。
それは多分誰だってそうなのだろうと思った。
「と、とにかく、今後お前はドラゴンマスターなんだからさ、
そのドラゴン使ってウチの店を壊したりするなよ?
何かこう戦争を終わらせるとかさ、有益な事に使えよ?」
「ハ?知らねー、何でお前がボクに命令するんだよ。
ボクは別にお前に使役されてるワケじゃないんだぞー。
あ、そうだ、ドラゴンにお前の服を燃やすように命令しようか。」
「だ~か~ら~、そういうしょうもない事にドラゴン使うなって。
ドラゴンって高貴な生き物なんだろ?ボクのこんな衣装を焼くような
ちゃっちぃ役回りにわざわざドラゴンを使うなよ~」
「フン、お前ってば本当に冗談が通じないんだな!」
この様子を見かねて、ハナちゃんとレイナちゃんが呆れていた。
「何だかお二人とも、ケンカのレベルが低いように思いますわ…」
「って言うかドラゴンも飽きれてるなりよ。
オリジナルのみぎゃタンもみぎゃタンなら、そこから造られたクローンも
やっぱり似たような思考回路なのなりね。」
「ハァー!?ボクはコイツの上位互換なんですけどー!?」
こうして、ボクと黒みぎゃ子の喧嘩はこの後しばらく続いた。
喧嘩する程仲が良いとは言うが、自分同士の場合はどうだろう。
一方でドラゴンはケンカに呆れ果てて、寝てしまっていたのだった。




