第9話 退院後、また矯正歯科へ
退院後穏やかな毎日を送っていたものの、やはりそのまま完治とはいかず……。トラブルが続く。
退院後は、あまりにも普通の生活を送った。固いものは食べられないとか、大きく口を開けるものは食べないとか、そういう制限みたいなものはなかったような気がする。どんぶり飯をおかわりしたし、唐揚げも約800g作って愛想程度に3個くらい残すみたいな、相変わらずの食の暴君っぷり。
同居人入院中の食費なんて、本当に微々たるものだった。家にあるものだけで事足りる生活が続いて、買い足したのは牛乳とパンくらい。
肉を買うかどうするか、めんどくさいな。みたいな日が大半。自分で言うのもなんだが、本当に食費がかからない。食べる量も少ない。エコである。
私が料理を覚えたのは、同居人の腹を満たすためだ。別のエッセイを書くか悩むところ。自分のために料理しようなんて思ったことがないので、同居人がいなければ冷蔵庫の中身と相談。同居人の帰宅と同時に、また数日おきに買い物に出る日々が戻ってきた。
モスバーガーなんかも、同居人は余裕で食っていた。ちなみに3個くらい食ってた。
しかし、退院から数日後。洗面所から「あー……」という同居人の声が上がった。なんやと思い見に行くと、口を大きく開けて口内を確認している様子。
「どしたん」
なにがあったか確認する。
「傷口が開いたっぽい」
衝撃の一言。オペで切って縫った部分がほつれたらしい。とんでもねぇと驚く私と、鏡に映る傷口を眺める同居人。トラブルが絶えない。
手術を受けた病院に連絡すると、2週間後診察を受けに行くことになった。2週間ほったらかしでいいんかと、正直びっくりである。口の中って菌が多いし、細菌が入ったら大変ではと思っていたが、退院後は病院から処方されたイソジンでうがいしていたので清潔な状態だったのかもしれない。
ただ傷口にイソジンは相当滲みたようで、毎回進撃の巨人のやられかけの女型の巨人みたいな雄叫びを上げていた。
大きな病院を受診する前に、退院後矯正歯科の受診日が来た。理由などなく私も引率する。処置室に入らずとも引率するのが、もう当然となっていた。
退院後は歯が歯茎の中で動かないよう、専用の装具をつける。装具につけるゴムは、かなり長い期間つけていた。病院受診のときはゴムを取って、口に中や歯の状態などを診てもらう。
矯正歯科で傷口が開いたことを先生に伝えると、「1週間後に大きい病院なんで、そこで診てもらってください」と当然の言葉を頂いた。こう言われるとわかっていたけど、このときは「ちょっとくらい診てくれてもいいじゃなーい」なんて思った。
傷が開いても、同居人の食欲は落ちることなくモリモリごはんを食べた。逞しい。私だったら、これを口実に食べやめている。
退院から2週間後。傷も開いているので、できるだけ早く診てもらいたい。無事引率しているので、最初に傷を診てもらえるよう声をかける気でいた。
予約時間をオーバーすること1時間。大きな病院だと、これくらいのオーバーが普通なのだろう、このころにはもう慣れてしまっていた。診察室に入って、すぐ傷口が開いたことを私が先生に告げた。
「あー、そうですか。診ましょう」
先生は特に焦っていなかった。よくあることなのだろうか。
傷口が開いたってことは縫うのか。縫うなら部分麻酔かな。部分麻酔って、どれくらいの時間で効いてくるやろ。どんくらいの時間で麻酔切れるんかな。抜糸とかどうなるんやろ。その前に今日の昼ごはんどうすればいいかな。
いろんな事を考えながら、同居人が診てもらっている様子を私は眺めていた。
「このままでいいです。ふさがってきてるので」
考えたことが、なんとなく全部水に流れた瞬間である。取り越し苦労、よくある話。よかったよかったと思った。
そのままの流れで、手術で使用したプレートとの話題へ。
「プレートはそのままでいいんですけど、ボルトとナットは取り除きます。1年後を目安に除去手術をしますが、こないだみたいな大変なやつじゃなくって親知らずを抜く程度の手術です」
私は親知らずを抜いたことがない。同居人は相当昔に取ったため、覚えていない。手術の規模の検討がつかないので、なんともいえないなというのが素直な感想だった。
手術は部分麻酔か全身麻酔かを選べ、日帰りか一泊かも選ぶことができた。私としては、日帰りで終わらせてほしい。そのためちょっと頑張って部分麻酔で乗り切っていただきたかった。行き帰りの手間もあるし、一泊するなら入院セットを作らないといけないためである。
一泊なので、最悪パンツがあればどうにでもなるかなと思うけど、そうも言ってられないだろう。手術を受けて安静にして寝るだけでも、多分枕は持って行くと言い始めるはず。荷物のことも考えると、日帰りがよかった。
しかし、やっぱり人生は思うようにはいかないなと実感する。
「全身麻酔の一泊で」
同居人、即決。お前全麻で気持ち悪くなるんやないんか。なんやのほんとに。って思ったけど言わなかった。
「部分麻酔やったら、そのまま帰れるやん」
家が大好きな同居人。帰宅ガチ勢にならないか、薄い望みを持って私は声をかけた。
「音が聞こえるのは嫌。一泊する」
意志が固い。折れる気配もないので、私が折れた。
全身麻酔で気になるのは、同居人の全麻明けの立ち上がりだけではない。尿道カテーテルのことも知っておかねば、本人だけでなく病院側も結構面倒なことになるのではないだろうか。
すると、すぐに先生が口を開いた。
「次は尿道カテーテル入れないので、安心してください」
だろうさ。そらそうやろ。お互い大変やもん。ちらっと隣を見てみると、それはもうホッとした顔の同居人がいた。
骨をずらした箇所に埋め込んだプレートを固定しているボルトとナットの除去まで、1年猶予がある。その間、矯正を継続して噛み合わせがずれないよう調整。矯正歯科には月に1回受診し、器具のメンテナンスを行う。
矯正歯科に通う中で、前歯にかけていたゴムが外れた。特に異常がないまま、矯正歯科に1年通った。
トラブルが尽きない退院後を経過し、矯正歯科に1年通院。ボルトとナットの除去術は、躓かずにクリアできたのだろうか……。




