第7話 入院生活―前半―
麻酔から目を覚ました同居人。結構大変なことになってました。2週間の入院、前半は顔の腫れとの戦いだった。
麻酔が切れてきて、意識がしっかりし始めた同居人を襲ったのは、栄養チューブによる吐き気だった。このチューブ、鼻から入れて食道を経由して、胃に直接栄養を流し込むものである。口に傷があるので胃に直接栄養を入れることで、胃を動かし体力の消耗などを防ぐ目的を持つ。特別なものではないものの、やはり不快感を持つ人が多く、曲者といえる。
このチューブ栄養だが、当初2~3日入れっぱなしの予定だった。そうする人が大半らしい。しかし同居人、それにどうしても耐えられず翌朝執刀医に懇願して抜いてもらったらしい。
私は鼻からの栄養チューブは未経験なのでなんとも言えないが、同居人曰く「体の中で先っぽが内臓に当たるのがわかるし、喉に管が通ってるのがわかる」らしく、オエオエが止まらないまま翌朝を迎えたとのこと。
夜中の巡回に来た看護師さんに栄養チューブを取ってくれといったが、やはり相手にしてもらえなかったらしい。朝執刀医が来てくれてチューブを取ってくれと頼みこみ、尿道カテーテルを取らないことを条件に鼻からのチューブを取ってもらった。チューブが気になりすぎて、一睡もできないまま朝を迎えたと話していた。ちょっと繊細というか、気にしいみたいなところがあるかなと思う。
この鼻から胃に入っていた栄養チューブだが、結構ズルズルと長く入っていたとのこと。鼻から引っ張り出すらしいけど、まだかまだかと思うほど長かったと話していた。
術後一晩明けると、同居人の顔はやはりかなり腫れた。口の中を縫っているので、まず口の中が腫れる。傷口に直接細いドレーンホースが入っていて、左右の傷口それぞれに1本ずつホースが刺さっていた。そのため口の左右からホースが出ており、ホースの先には血液を溜めるバックがついている。バックの交換は、なにも言わずとも看護師さんがしてくれた。
ドレーンホースだけでは出血を除去しきれず、口の中に血が溜まる。呑み込むと気分が悪くなるので、ベッドの脇に備え付けられている唾液と血液を吸うホースを口に突っ込んで、自分で血液を除去していたらしい。ホースは相当細いもの。歯医者さんのドデカホースとは全然異なり、鏡を使わずとも使えるほど使いやすかったとのこと。
同居人、手先は不器用で相当大雑把な性格。それでも使いこなせているので、かなり使い勝手はよかったんだと思う。
このホースだが、術後数日は高頻度で使用していた。しかし、出血が落ち着くにしたがってホースの使用頻度は減っていった。
口の中が腫れるに伴い、顔も腫れる。下顎しか手術していないけど、これでもかと腫れた。上顎は切開していないので、顔が腫れて鼻の穴はふさがっていない。激しい痛みはなく(痛み止めとか、多分アドレナリンとかの影響)、鏡を見たらものすごく腫れているのが目で見て確認できた。
術後複数点滴をしていたが、徐々に点滴は減少。しかし尿道カテーテルのことがあるので、恐らく抗生物質と思われる点滴とは長く入院生活を共にした。
尿道カテーテルはしっかり入っていたが、シャワーは割と早い段階で解禁になった。開腹手術ではないためだと思う。鼠径部と太ももに尿道カテーテルの管をテープで貼り付けたまま、シャワーに入っていたらしい。私は開腹手術だったため、5日間風呂に入れなかった。それはまた別の機会に触れるとしよう。
同居人は繊細で気にしいなんて書いたが、栄養チューブは入っていたら気になるのは当たり前だろと思う方もいるだろう。私が同居人を繊細だなんだと言ったのは、チューブのことだけを見て言ったのではない。
枕が変わると寝られないタイプだったのだ。
そのためオペの翌々日に面会に行く際、なにか必要なものはないか聞くと「枕持ってきて」と、いつも使っているドデカ枕を要求された。私は枕がなにに代わっても、枕がなくても寝られる。だから同居人は繊細なんだろうなと思ったのだ。
面会だが、コロナの時期だったので面会時間は10分だけ。数日間分の入院セットを用意したけど、1日おきに来てほしいとのこと。着替えだけでなく水かお茶を買ってくるよう頼まれ、傷口がふさがるに従いサンドイッチを買ってくるように言われるようになった。
そのため、片道1時間の道のり+頼まれたものを買う手間が発生。水分は毎回2L購入。虫歯を防ぐため、水かお茶しか飲めなかった。ほんと今だから言えるけど、荷物重すぎや!
同居人が入院している病院は、病棟内に洗濯乾燥機があった。使ってくれればよかったのに、洗濯乾燥機があることを知らなかったと言っていた。誠に都合がいい。
手術で口の中を切開して縫っているため、いつから口を使った飲食が開始になるか気になると思う。私はてっきり1週間くらい点滴栄養かと思っていた。
手術の翌日、同居人から送られてきた写真。
「ジュース飲んでいいかい」
家に居ながら、私はついつっこまずにはいられなかった。給食の牛乳パックみたいなものに入った、高栄養ジュースが支給された。ジュースはさらさらした液状で、味がついており、濃すぎず薄すぎず、おいしかったらしい。
手術翌日で口内の出血が完全に治まっていない状態だったけど、問題なく飲んだ。完飲。しかも1日3回、朝昼晩と出た。でも普段飲むものは水とお茶のみに制限されていた。
ジュースを飲んだ後は、しっかり歯磨きを実施。術後目が覚めた段階で、歯に装着した器具には強力な輪ゴムがかかっていた。切開した部分がずれないようにするためだろう。歯磨きのとき以外はゴムの取り外しは基本不可で、歯を磨いた後はすぐにゴムをかけなければならない。
ゴムのかけ方は、術前にしっかりと指導があった。前歯の上下を渡す形でゴムをかける。小さい輪ゴムで、それぞれ上下の歯を固定していく。このゴム、かけるのに時間がかかる。視界が広い方がいいので、できるだけ大きな鏡が必要。あって損はない。退院しても使えるので、いい感じのでっかい鏡を買っておくのがおすすめ。
下顎だけの手術だったが、入院後最初の1週間ほどはほとんど腫れが引かないままだった。術後自分で動けるようになってきたら、看護師さんから声がかかって自分の足で処置室に行く。大きな病院だったので、午前中は外来、昼からは入院患者の診察だったらしい。
診察は、切った傷の状態の確認が主だった。歯の状態とか装具をいじることはなく、傷の状態を重点的に確認。その経過を見て、ドレーンの除去などを徐々に進めて行った。
同居人が入院している間、1日おきに面会に入って行っていたと記載した。正直、そのときの記憶が私はあまり残っていない。多忙だった。
仕事の原稿も結構抱えていて、どうやって捌いたのかほぼ謎。同居人と顔を合わせるまで飛び飛びではあるもののラインも送り合う。勘違いしてほしくないのは、特にめちゃくちゃ仲がいいわけではないという点。そこまで仲良くない。業務連絡が多いし、私なんかすぐパシリにされる。
書き忘れていたが、麻酔明けの状態は個人差が大きい。
ドラマとかでは目が開いてすぐ喋り始めてとなるが、そうあっさりいかない人もいる。同居人がそうだった。全身麻酔との相性が、とにかく悪い。
全麻との相性が悪いと聞くと、麻酔の効きが甘いのかと思うかもしれないが、そういうわけではないのでご安心を。全身麻酔そのものはよく効く。問題は麻酔明けなのだ。
同居人だが、禁煙スルスル詐欺をしたまま何年も一緒に住んでいた。一瞬本当に禁煙したのかと信じたが、するわけがない。会社でがっつり吸っていて、その時私は同居人への信頼を捨てた。こいつは平気で裏切るぞという考えがあった方が、他人と生活するときはなにかと便利だったりする。
全身麻酔の薬と喫煙は、どういう関係があるのか。そこはよくわからない。でも、麻酔科の先生と内科の先生からは禁煙するよう言われていた。いいぞもっと言え。
喫煙の影響なのかはっきりとは言えないが、麻酔明けの同居人はかなりひどい吐き気に襲われたらしい。目が開けられないほどの吐き気だったらしく、吐き気や嘔吐に慣れていない同居人はかなり堪えた模様。
顎の手術は、人生の中で全身麻酔2回目。手術までの期間禁煙し、吐き気止めを多めに打ってもらって手術に臨んだ。
それでもやっぱり駄目だったようで、全身麻酔はもうやりたくないと言うほど。吐きはしないけど吐きそうなくらい気持ちが悪いのは、吐き慣れている側としては一番気持ちが悪い状態を保っていると察しが付く。
ちなみに私も人生で2回ほど全身麻酔を経験しているが、相性はいいようでスッキリ目が覚めた。よく眠れたというのが大きかったのかもしれない。
日ごろの行いや……。と思う気持ちもあった。やはり私は性格が終わっている。
麻酔明けの状態や腫れ方には、かなり大きな個人差が出やすい。そのため、同居人の例は一つの事例としてとらえてほしい。そして同居人はわがままだと、個人的に思っている。
後半になるにつれて、本当にいろいろ要求してくるようになる。




