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第6話 いざ手術へ!―思いがけないトラブル付き―

前日入院から、ついに手術へ――。フラグ回収。思いもしない理由で、入院期間がガツンと伸びることになった。

 

 8月初旬。ついに手術の前日まできた。入院準備を済ませ、車で同居人を送る。命にかかわるような手術ではないので、私は内心とってものんき。自分が命を落としかけた手術を経験したからかもしれない。手術経験マウントなんて、とてもダサいしかっこ悪い。でもやっちゃった。すまん。


 足の状態が思わしくない同居人の荷物は、怪力ゴリラ(もやし)の私が持ち、病院にチェックイン。前日入りして看護師さんたちの管理下に入る。昼過ぎに同居人は入院して、私はカーナビを頼りながらの通院がスタートした。



 同居人は一人でいるのが嫌いで、調子が悪いとずっと構ってほしいタイプ。私は真逆。手術を受けたときはコロナが蔓延している時期だったので、面会時間は10分で付き添い入院はナシだった。

 大事なことなのでもう一度書いておくが、付き添い入院ナシだった。同居人、手術が決まったときはコロナが流行る前だったので、手術のときは付き添い入院を希望していたのだ。


 考えてみてほしい。私なんかが付き添ったところで、なにひとつ楽にならない。看護師の免許を持っているわけでもなく、健常者でもないのでとんちんかんだし、面白い話しなんか1個もできない。害である。ちなみに私が入院した際、同居人は面会開始時間にきていた。面会ガチ勢なのかもしれない。


 同居人は私と別れて個室に入った。シャワーとトイレと洗面所がついていて、ベッドサイドにはテレビがあるちょっと広い部屋だったらしい。窓の外に見える、空と木となにかの建物が移ったステキな写真を送ってくれた。


 そのころ私は、なんとしてもバイパスに乗らないようルート検索をして、目を血走らせながら運転していた。バイパスと高速は、免許を取るときに乗って以来乗っていない。絶対に乗ってたまるか。恐ろしすぎる。行きは同居人が道案内をしてくれたが、帰りは自力で帰らねばならない。緊張に次ぐ緊張で、口を乾燥させて喉がカラカラになりながら運転した。


 こうなるのが目に見えていたし嫌だったから、運転させてほしいと打診していたのに。私の願いは一度も叶わず、ぶっつけ本番カーナビ帰宅となった。死ぬかと思った。どうやって帰ったか全然覚えていないが、バイパスと高速には乗らなかったのだけは覚えている。


 家に帰ると、同居人から送られてきた病室の窓から見える素敵な景色の写真を確認。ご機嫌斜めでなくてよかったじゃないか。帰りついたら既に夕方。緊張しまくって運転したので、適当な食事を摂ってライター業をこなしながら同居人のラインに返信をする。


 大きな病院ともなると、設備が物凄く充実している。私が入院した病院とは、わけが違っていた。食事内容が全く違っていて、同居人から送られてきた病院食はなんとビーフカレー。大きい病院は違うなーなんて思いながら、私は白米を食っていた。食に対する関心がないので、同居人がいなけりゃこんなもんだ。


 同居人、あっさりカレーを完食。

 あれだけ足が痛いだなんだと言って私と看護師さんに甘え倒していたくせに、恐らく松葉杖を駆使して歩いたのだろう、わらじサイズのファミチキを入手して写真を送ってきた。大きな病院なので、院内にコンビニがある。「自力でいけるやん」と、悪態をつかずにはいられなかった。


 手術前日は、特に体に異常をきたしていない。同居人は噛み合わせがあっていないだけなので、体は元気。室内にあるシャワーを浴び、ビッグサイズのファミチキを食い、執刀医の問診を受けた。問診でどんなことをしたのか聞いてみたが、覚えていないとのこと。多分大したことはやっていない。




 そして、ついに迎えた手術当日。

 私は朝4時起床。早すぎるだろと思うだろう。その神経は間違ってない。私も泣きながら起きた。そして、4時半出発。手術開始は、たしか8時か9時だった。片道1時間から1時間半の道のり。私は6時すぎに家を出ればいいんじゃないかと思った。

 でも、どうにも同居人がそれでは納得せず。私が折れて、眠い目をこすりながら車に乗った。


 こんなに早く家を出たのには、理由がある。

 手術当日は平日。そのため、通勤時間に当たるとものすごく道が混む。それを防ぐために早めに病院にこさせたかったらしい。術前の見送りガチ勢なのだろう。

 そしてもうひとつ、私が破滅的な方向音痴というのがある。発達エッセイで詳細は書いているが、私は空間認識能力が非常に弱く、すぐ道に迷いカーナビとも喧嘩する。絶対道に迷うと思ったのだろう。


 この同居人の読みは残念ながら当たってしまって、目も当てられなかった。カーナビの設定方法を間違えたのか、ケンタッキーの店の周辺をぐるぐる周り、そしてよくわからんうちにバイパスに乗ってしまいと、もう散々。1時間で到着する道のりのはずが、1時間半以上かかってようやく到着。駐車場に車を入れた。




 大きな病院なので、入院患者の関係者用駐車場が24時間開放されている。いつも駐車場に入るまで激混みするが、朝6時はさすがに空いている。好きなところに車を停めた。

 朝ごはんは適当なパンをかじり、病院が開くまでカーナビのテレビを眺めていた。大好きな甲子園もまだやっていない。朝早かったからだろう、朝のニュース番組を耳に入れた際若干の夕方感を覚えた。



 病院が開いて、いざ病棟へ!

 迷子になりつつ、アスペ故すべての人間を疑うかのような顔つきで病棟前に到着。時はコロナ時代。面会のための手続きをして、病棟に入った。ナースステーションで付き添いであることを告げると、それそれはそれは広くてきれいで太陽光が優しく降り注ぐ待合スペースに通してもらった。


 大きな病院なだけあって、いろんな人がいる。口腔外科と整形外科だったかの患者さんが同じフロアに入院していて、がんの手術を行う家族の付き添いの方もいた。


 待合には大きなテレビがあったが、高校野球はまだ始まっていない。じっと待っていると、看護師さんに車いすを押してもらって、優雅に同居人が登場!

 同居人が入院しているのは、病棟の4階。誰だよ昨日地下のコンビニまで歩いて行ったの。歩けるなら歩けよと思うも、ひとまず笑顔で顔を合わせて、手術室に向かう同居人の背を見送った。




 手術終了は、昼の12時から13時を予定していた。執刀医からの説明があり、私はふんわり把握。ふんわり程度の把握でないと、絶対にこの時間に終わると思い込んでしまうと手に負えない。その通りにならなかったとき、発達由来の性質でワーーっとなってしまう。

 そのため、絶対と断言できないことは、話し半分くらいに聞くようにしている。その方が、相手も私も気を張らずに済む。


 手術終了は、携帯に電話を入れてくれるとのこと。それまで院内で時間を潰すことになった。なにもすることがない時間を過ごす。人が多いと疲れるし、ひとつの所に居てもキツイ。

 あんまりウロウロすると迷子になる可能性もある。そのため、迷子になってもいいようにと早い段階でコンビニに行ってみた。特に買うものはなかったけど、昨日同居人が歩いた道のりを知りたかったのだ。


 暇を持て余して、迷子覚悟で行ってみたコンビニ。結構あっさり行けた。そしてまあまあな距離があった。絶対手術室まで歩けたなと、ここで再度思う。私は性格が終わっているので、すぐこういう事ばっかり考えてしまう。


 1時間経ち、2時間経ち。そろそろかなーと、30分待ち。

 呼ばれない。電話がかかってこない。

 まあね、骨の切開なんてやっちゃうような手術なんやから難しいやんね。と、時間を気にするのを辞めて、あっちに行ってこっちに行ってとコンビニ周辺をうろつきながら時間を潰した。


 ようやく電話がかかったのは、手術開始からおおよそ4時間後。当に昼を回っていた。予定時刻よりだいぶオーバーしている。

 無事終わったならそれでいいと思い、指定された部屋まで迷子になりながらも到着。


 部屋の中には、笑顔の主治医が立っていた。まだ若い主治医だが、腕はいいらしい。

「手術終わりました」、「ありがとうございます」と、恐らくどんな家庭でもする流れの会話をした。


 ここからが本番だった。


「手術なんですけど、顎の手術そのものは1時間半くらいで終わってました」

なるほど、手術自体はスムーズだったらしい。じゃあなんでこんなに時間がかかってしまったんだろうか。

 ここで私が持っている変な知識が、脳裏に浮かび始めた。全身麻酔は絶対に安全なものではないだとか、もしかすると私に言っていなかっただけで他にもアレルギーを持っていただとか。そのアレルギー物質が原因で体になんらかの異常をきたして、痙攣とか心臓発作とかそういうのが出て……。こういうことを瞬時にワーッと考えてしまった。


 しかし先生はにこやかで、どうも深刻な様子ではない。

「手術の前にする、尿道のカテーテルで1時間くらい時間がかかりまして。頑張ったんですがカテーテルが全然入らなくって、結局泌尿器科の先生に来てもらってカテーテルを入れました。遅くなったのは尿道カテーテルのせいです」

尿カテでそんなことが起きるもんなのか。私も尿カテ経験があるけど、手術が終わったら既に入っていた。あのときの不意をつかれたような喪失感たるや、他のものでは得られない経験だった。


 ぽかんとしてしまった私をしり目に、先生はどんどん話を進める。

「で、最初に10日間の入院とお伝えしてたと思うんですが、順調にいけば5日くらいで退院してもらう予定でした。でも今回尿道カテーテルを無理やりネジ入れてしまって、尿道がかなり傷んでる状態です。そのため、14日間きっちり入院してもらいます。……こんなこと初めてで、正直私も驚いてます」

それを聞いた私やってびっくりですよ、先生。


 要するに、顎も全身の状態も大丈夫やけど尿カテでかなり時間食った上に傷が出来たから、入院期間ががっつり伸びたってことである。


 一応尿道に異常がないか精密検査もしてくれたようで、狭窄などの異常はなかったとのこと。なんで尿道が狭まっていたのか、原因はわからないままとなった。


 麻酔が切れていると思うので、顔を見て帰ることになり病棟へ。

 ひとまず無事に手術が終わってよかった。尿道は開通工事で傷を負ってるらしい。口からドレーンのホースが出ているけど、別におかしいものじゃない。麻酔は切れてるので会話はできる。

 いろんな事を考えながらエレベーターに乗って、あっという間に到着して、ナースステーションに顔を出したら病室に案内された。一番奥の角部屋だった。


 スライドドアを開けると同居人はベッドにぺたんと寝ていて、足には酸素を送るプシューっという機械みたいなものがついていた。私も開腹手術のときにつけていたはずの、ふくらはぎをもむ機械。その音が部屋の中に大きく響いている。

「思ったより腫れてないな」

私は目を閉じている同居人に、そっと声をかけた。

「……これから(腫れる)よ」

酸素マスクをつけて目を開けられない同居人の、力の入ってない声が私の耳に届く。


 この人は私よりだいぶ年上で、もしかすると今後こういう場面がまたあるかもしれない。

 それがこの瞬間、一気に押し寄せてきた。

 今回の手術は死ぬような手術じゃないし、これからよくなるとわかっている。急変なんかも、恐らくない。だって内臓は元気なんだから。


 分かってるのに。ちょっとだけ涙が滲んだ。

 死んじゃうんじゃないかと思った。



 今考えてみると、かわいいじゃないか。私が手術をしたときなんて、同居人は「大丈夫そ?」くらいの勢いだった。


 コロナ蔓延の時期だったため、短い会話を交わして私は帰宅。

 カーナビの設定方法を変え、ちょっと遠回りになるもののバイパスを使わないルートで車を転がした。家に帰ったら、既に夕方になっていた。


 この日以降、1日おきの高頻度面会がスタートとすることになった。

 これが案外大変だった。


付き添い入院までしなかった、できなかったのは、今思うとよかったのかもしれない。じゃないと私も14日間病院に缶詰めになるところだった。

在宅で働きながら、1日おきの通院。大変な2週間が幕を開けた。

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