第5話 手術できる大きな病院へ―手術前の精密検査―
ついに手術が見えてきて、大きな病院へ。麻酔科問診で、同居人は思わぬ暴挙にでた。
矯正の終わりが見えてきたころ、矯正歯科の先生から大きな病院の受診へGOと指示が出た。大きな病院は、予約を取らなきゃならない。同居人の仕事が休みの平日に予約を取り、受診が決まった。
当然のように私も引率する。特にやることはない。最初から最後まで、ただ隣に座っておくだけの係である。
大きな病院は待つ。予約でも待つ。予約のトップバッターを取る人は、いったいどういう人なんだろうか。結構な回数通ったが、毎回結構待った。そして処置室で過ごす時間は、10分とかからなかった。
最初に大きな病院を受診したとき、予約時間を1時間オーバーして名前を呼ばれ、同居人は歯医者さんの椅子に座って先生に口の中の状態を見てもらった。朝8時に家を出て、帰宅は13時すぎくらいになる体力勝負のイベント。これが同居人の手術実施日まで定期的にあった。
大きな病院は、手術を受けるためだけにお世話になる。退院後は再度矯正歯科に通い、術後の矯正を行う。そう、術後も1年ほど矯正しなければならない。矯正しておかなければ、歯の位置がずれて噛み合わせが合わなくなる。せっかくオペを受けたのに、噛み合わせが合わなくなるなんて。シャレにならない。
同居人が受ける顎変形症の手術だが、体や手足のオペより術後が大変な印象が強い。同居人は指先と足裏を手術し、私は内臓破裂で開腹手術を受けた経験がある。振り返ると、どの手術よりも口の中の手術は大変だった。なにが大変って、術後がとにかく大変だった。その詳細は、この後の話で触れていく。
大きな病院の中でも、同居人がお世話になる病院は家から一番遠い病院だった。そこに決まったのは、矯正歯科の先生がその病院とのつながりを持っていたためである。執刀医とも知り合いで、事前に情報交換をしていたらしい。同居人、決して若くない。年齢のことはあまり掘り下げたくないが、どう転んでも若者にかすりもしない年齢である。そのためなのか、事前に情報交換をしていたと執刀医が話していた。
数回大きな病院に通い、いくつかこなしたことがある。
・手術内容の詳細説明を受ける
・手術前の精密検査を受ける
・手術日の決定と入院前の手続き
大体こういうことをやった。他にもやったかもしれないけど、上記のことが主だった。過ぎ去ったことは振り返らないよう生きていると、大きな出来事のメインだった部分しか覚えていない。私も同居人も束になって記憶を掘り返した結果がこれなのだ。許してほしい。そして参考になる部分だけ、拾い上げてもらえると、まことに助かる。感謝の極み。
まず、手術内容の詳細説明について。
処置室で、椅子に座って受けた。
同居人が受けた手術は、下顎枝矢状分割術(SSRO)という手術。下顎の骨を骨に沿う形で半分に切り、噛み合わせが合うよう前方に骨をずらしてプレートで固定する。埋め込んだプレートは骨と引っ付くようネジでとめる。このネジを取る手術を、再度受けなければならない。そんな大層なもんじゃなく、親知らずを取る程度の手術だと執刀医は言っていた。
手術にかかる目安の時間は、約3時間くらいだったはず。よく覚えておいてほしいのは、目安時間は目安でしかないということ。手術はなにが起きるかわからない。想定外のことが起きることもある。勘のいい方はお気づきだろう。そう、フラグだ。あとできっちり回収する。
おそらく想像を超える形で回収することになる。ちなみに同居人だが、今も毎日大めしを食らうほど元気に生活している。心配ない。
次に、手術前の精密検査について。
大きな病院だったので、ツアー形式で全身の状態を検査しに行った。「〇階に○○科があるので、そこで○○をする」といったミッションがあり、指示に従って回っていく。当時同居人は、足の裏の状態が悪かったため松葉杖をついての精密検査ツアーだった。
レントゲンを撮って、採血をして検尿をしてと検査が進む。コーラの飲みすぎと脂っこいものの食い過ぎで、脂肪肝が見つかった。だろうよとしか言えず。私の注意なんて聞かなかった同居人が悪い。そして、喫煙も指摘された。禁煙スルスル詐欺が見事バレ、内科で相当叱ってもらった。
私は荷物持ちとして付き添い、それはもういい仕事をした。同居人が検査を受けている間松葉杖を預かり、病院内のパンフレットを持ち、水入りペットボトルを持って一緒に歩いて回る。退屈しないようにちょっと話かけ、会計にも付き添いと、異常なくらい尽くした。よくやったと思う。
しかしこのときの私は、まだ口腔外科での手術を経験していない。手術の付き添いから面会諸々考えると、このときの付き添いは付き添いではない。ただ一緒に歩いただけの、散歩くらいの労働だった。
これとは別日、麻酔科の問診を受けに行った。もう1つなにかあったけど、麻酔科の問診しか覚えていない。麻酔科の問診は、よく覚えている。アレルギーの有無を確認された。
私は過去、同居人とアレルギーの話をしたことがある。私はアレルギーがないが、同居人は一度だけカニを食べて湿疹が出たらしい。疲れていたからなのか、本当に1回来っきりだったようだ。同居人と数回カニを食べた事があるが、私とカニを食べたときは湿疹はできなかった。だが、アレルギーが出た過去を無視するわけにはいかない。
麻酔科医からアレルギーの有無を確認された際、同居人はごく当たり前に「アレルギーはありません」と答えてびっくり! 己のアレルギーを無きものとして扱う強者である。
「なくないやろ。カニで湿疹が出たんやないんか」
私はすぐに訂正し、カニで一度湿疹が出たことを医師に伝えた。
「あの1回だけ」
その1回を、私は見ていない。まだ出会う前の出来事だったので、どんな風に湿疹が出たのかまでは知らない。でも湿疹は出た。この事実は揺るがない。
「1回でも出たなら言わな」
結構強く言ったが、同居人はケロッとしている。腹が立つじゃないか。麻酔の先生も、「一度出たなら教えてください。麻酔の成分でアレルギーが出ると大変なので」とくぎを刺してくれた。
これから麻酔を受けるみんなへ。アレルギー、誤魔化すなよ。命にかかわることがあるぞ。
そして最後に、手術日の決定と入院の手続き。
8月の頭に手術が決まった。真夏の暑い時期、同居人は病院で過ごすことになる。それはとてもいいことだ。私は寒がりで、同居人は暑がり。そしてリビングでブリードしているクワガタが過ごしやすい温度帯などもある。私はクワガタに合わせた温度帯で過ごせるので問題ない。
入院手続きの際、同居人は個室を選択。贅沢な奴めと思ったのは内緒にしておこう。ちなみに私は、入院したとき瀕死一歩手前だったので数日間個室だった。その後大部屋で過ごしている。テレビも観ず、あの頃も確か原稿を書いていた。字を書くことに取り憑かれていると、お金がかからない。
手術と入院の日程が決まって、いよいよという雰囲気になってきた。
手術を受けると口の中を切開するので、好きなものが食べられない。同居人が大好きなラーメンを、一緒に食べに行った。
「もうラーメンも食べられんなぁ」
まるで二度とラーメンが食べられないかのような口ぶりだった。このときも麺が装具に引っかかっていたので、ちょっと怒りながら食べていた。
「傷がよくなったら食べられるやろ」
私は過敏性腸症候群持ちで、ラーメン一人前なんて食べた日には腹を壊して仕方がない。同居人が好きなものを2つ頼んで、私はどっちかを少し頂く。欲を言えば小皿ももらいたい。猫舌なのだ。
長かった矯正生活を経て、ついに手術へ。思わぬトラブルで、入院期間がかなり伸びることなど、このときは知る由もない。
手術前の検査は、病院によって内容が変わる可能性がある。そして手術後に待ち受けていることも、想定を超えることがある――。




