第五十六話 直接攻撃
「――なるほど。勇者パーティーに無限のリソースを流し込み続けた『逆』か……!」
ナタルは脳裏に響く巨大なエラーログと、降り注ぐ高次元の裁定光を見上げながら、不敵に、そして狂気的に口元を歪めた。
先ほどまで戦っていた蘇りし勇者パーティー。彼らがどれだけ肉体を粉々に破壊されても次々と動き続けたのは、管理者が上空から「無限のシステムリソース(エネルギーと修復コード)」を直接注ぎ込み続けていたからに他ならない。
そして今、その「無限のリソース」を注いでいたパイプラインの先――管理者の本体こそが、バグであるナタルを根絶やしにするために、この世界へと全権限を直結させている。
「俺を消し去るために、管理者が自らのリソースの源泉をこちらに繋いだというなら……」
ナタルは黒い手袋を嵌め直した両手を広げ、天を衝くような高次元の光の奔流を正面から迎え撃つように一歩を踏み出した。
逃げる気など毛頭ない。これはピンチではなく、世界の頂点に君臨する管理者から、その無限のエネルギーとシステムコードの源泉を丸ごと奪い取るための最大の好機だった。
「その無限のリソースごと、一切残さず俺の『器』に呑み込んでやるよ……!!」
【警告:『概念吸収』の対象が変更されました】
【対象:高次元管理者・全システム直通リソース】
【容量限界の強制突破:――限界を剥離します】
ナタルの全身から噴き出した黒い闘気が、上空から降り注ぐ管理者の神聖な裁定光を逆に飲み込み始める。
世界の理そのものを食らう『Lv.1の反逆者』と、すべてを初期化しようとする『箱庭の管理者』。
世界の枠組みを粉砕する最終決戦が、今、完全に幕を開けた――!
上空から降り注ぐ管理者の「無限のリソース」と、すべてを喰らい尽くすナタルの「概念吸収」。
世界の基幹データを賭けた、文字通りの“吸収の対決”が始まった。
上空の裂け目から、眩いまでに神々しい金色の光の奔流が、世界を飲み込まんばかりの勢いで直撃する。それは管理者が保有する全システムの全エネルギーであり、あらゆるエラーを強制的に消去するための絶対的な「裁定のコード」だった。
だが、ナタルは一歩も引かなかった。
黒い手袋をはめた両手を大きく広げ、その奔流を正面から迎え撃つ。
「来るがいい……! お前が注ぎ込むその莫大なリソースのすべてが、そのまま俺の『器』を拡張する養分となる……!!」
ドォォォォォォンッ!!!
激突の瞬間、空間そのものが沸騰するように激しく明滅した。
管理者が無限のリソースを送り込み、ナタルがそれを片端から自らの『器』へとコピー&ペーストし、猛烈な勢いで最適化・統合していく。
――【警告:『概念吸収』のデータ容量が規定値を超過しています】
――【自動処理:過剰流入する管理者コードを「自己の領域(器)」へと強制変換中】
――【拡張限界突破:固有の魔法レベルが『300』、『500』、『700』へ急上昇――】
「ぐっ……は……ははっ……!」
ナタルの全身の血管が浮き上がり、あまりのエネルギー量の過負荷に肉体が悲鳴を上げる。しかし、かつて中層の魔物の概念を根性でねじ伏せ、自らの血肉へと変えた時と同じ狂気の執念が、その内側で爆発的に燃え盛っていた。
管理者が流し込むリソースは、ナタルを消し去るための毒ではなく、ナタルの『器』を神話の領域からさらに遥か高みへと引き上げるための「最高の燃料」に他ならなかった。
「足りない……! まだだ、管理者の全権限、その根底にあるコードのすべてをよこせ……!!」
ナタルがさらに手袋のグリップを強め、逆流させるように吸い込みの出力を最大化させた瞬間、上空の「巨大な視座(目)」に亀裂が走り始めた。
無限のエネルギーを送り込んでいたはずの管理者が、初めて“想定外のバグ”に対する恐怖とシステム崩壊の予兆を捉え、その光を揺らめかせる。
すべての理を司る管理者と、そのすべてを呑み込んでいくLv.1の反逆者。
世界の頂点をかけた究極の喰らい合いは、ついにナタルの圧倒的な「器の拡張」によって、管理者の制御領域を内側から食い破ろうとしていた――が!
ズズッ……! と、空間を震わせていた神聖な光のパイプラインが、まるで断ち切られた電線のように、プツリと消滅した。
「……っ!?」
ナタルが眉をひそめ、両手を構えたまま上空を睨みつける。
あれほどまでに狂気的な勢いで流れ込んいでた管理者の直通コード、そしてすべてを裁定しようとしていた巨大なプレッシャーが、嘘のように霧散していく。
——【警告:管理者アクセスが手動切断されました】
——【接続先:ロスト】
——【対象ノード:離脱完了】
「急にアクセスをやめた……だと?」
ナタルが腕を下ろし、不気味な静けさを取り戻した夜空を見上げていると、邸宅のテラスからヴァルネとスターシャが足早に駆け寄ってきた。
「ちょっと、ナタル……! いまの巨大な魔力のせいで、屋敷の結界が吹き飛ぶかと思ったわよ! 一体何があったの?」
スターシャが青ざめた顔で辺りを見回す中、ヴァルネは細い指で唇を押さえ、冷や汗を拭うように首を振った。
「ふう……危なかったねぇ。私でも心臓が止まるかと思ったわよ」
「ヴァルネ、今のをどう見る?」
ナタルが振り返ると、ヴァルネは艶やかな笑みを引っ込め、真剣な眼差しで空を仰いだ。
「見て分からなかったかい? 管理者は自分からアクセスを切ったのさ。それも、このままでは『ナタルというバグに自分側の根幹リソースまで逆流してすべて喰らい尽くされる』と本能的に悟ったからだねぇ」
ヴァルネはくすりと皮肉な笑みを漏らす。
「神様気取りでこの世界を裏から支配していた連中だけど……いざ自分たちの存続が脅かされ、持っている権限ごとハッキングされそうになると、途端に尻尾を巻いて逃げ出しやがったのさ。『このままではまずい、これ以上の介入は致命傷になる』ってね」
管理者が逃げた。それはナタルが圧倒的な力で奴らを追い詰め、その恐怖心を植え付けた動かぬ証拠だった。
ナタルは黒い手袋を嵌め直しながら、不敵で、どこか冷酷な笑みを深める。
「逃げたか……。だが、一度俺の『器』に引き込もうとした以上、奴らがどこに隠れようと、俺が繋いだ回路の痕跡を辿ることはできる」
「ふふ、さすがだねぇ」
ヴァルネが楽しげに目を細め、スターシャもまた力強く頷いた。
管理者の直接介入を退け、さらなる強大なコードを手に入れたナタル。
怯えて逃げ出した管理者どもを自ら引きずり出し、そのシステムごと完膚なきまでに喰らい尽くすための「反撃の狼煙」が、今ここに上がったのだった――。




