第五十五話 自力勝負!
「ちっ……! 小細工ばかり弄しやがって……!」
ナタルは吐き捨てるように呟くと、その双眸から冷酷な光を放った。
管理者の特権コードに裏打ちされ、疲労すら感じさせずに無限の猛攻を仕掛けてくる勇者パーティー。小手先の概念吸収や、相手の技の模倣ごときでは、この終わらない泥沼の消耗戦から抜け出すことはできない。
「ならば……もう貴様らの概念など要らん。その泥人形のような歪な特権ごと、圧倒的な暴力で跡形もなく消し炭にしてやる!」
ナタルは地面を蹴り飛ばし、自らの体内に眠る膨大な「魔法レベル300」の奔流と、これまで喰らい尽くしてきた無数の概念を一気に解き放った。
それは他人の力を奪うコピーではない。ナタル自身の内なる圧倒的な質量と、極限まで高まった固有の魔法エネルギーを直にぶつける、純粋かつ暴虐な力の誇示だった。
「消えろ……!!」
ナタルが放ったのは、空間の理そのものを粉砕する絶対零度と超高温の混ざり合った「創生崩壊概念」の超圧縮波。
詠唱すら不要の、ナタルがゼロから再定義した破壊の極みが、目前に迫る勇者パーティーの神話級の構えを正面から直撃する。
ドォォォォォォンッ!!!!
世界が揺らぎ、管理者のシステムコードすら悲鳴を上げるほどの爆風が邸宅の庭園を丸ごと吹き飛ばした。
無限のスタミナを与えられていたはずの「特異点討伐プログラム」の肉体が、ナタルの圧倒的な暴力の前に耐えきれず、メキメキと音を立てて崩壊の光へと変わっていく——。
激しい閃光と衝撃の波が引き、土煙が晴れていく。
ナタルの放った圧倒的な崩壊概念の直撃を受け、勇者パーティーの肉体は半ば光の粒子と化し、ボロボロに崩れ始めていた。常人であれば跡形もなく消し飛んでいるはずの状態だ。
しかし、管理者の特権コードに縛られた彼らは、死ぬことすら許されていなかった。
「が、あ……が……ッ!!」
肉体が崩壊し、四肢がねじ曲がり、内臓が露出していようとも、勇者は折れた大剣を無理やり地面に突き立て、狂気に満ちた目をカッと見開く。
その背後では、半身が消えかけた女魔法使いと僧侶もまた、管理者の強制再構築プログラムに突き動かされるように、痙攣する指先で再び黒々とした神話魔弾を紡ぎ出そうとしていた。
痛覚も恐怖も、そして死への概念すらもシステムによって剥ぎ取られ、「ナタルを討滅する」という命令だけに駆動される操り人形。
崩れ行く肉体を無理やり繋ぎ止めながら、それでもなお殺意の刃を向け続けるその姿は、もはや生き物ではなく、呪われたゾンビの群れそのものだった。
「……なるほど。肉体がどう壊れようが、システムが『動け』と命じ続ける限り、この人形どもは止まらんというわけか」
ナタルは冷ややかな眼差しで、ボロボロになりながらも這い寄ってくるかつての仲間たちを見下ろした。怒りはない。あるのは、あまりにも滑稽な管理者のシステムに対する深い軽蔑だけだ。
「だが、ガラクタがいくら足掻こうとも、壊れたものは壊れる」
ナタルが静かに黒い手袋の指を鳴らした瞬間、崩壊しかけていた勇者たちの周囲の空間が、突如として完全に凍りついた。
管理者の特権コードごと、彼らの存在そのものをこの世界のデータログから切り離す、絶対的な消去の波が広がる。
「お前たちの命の使い道は、ここで終わりだ」
光の粒子となって砕け散っていく仲間たちの絶叫を背に、ナタルは冷徹に言い放った。
管理者の送り込んだ「特異点討伐プログラム」の残骸が完全に消え去ったとき、、ナタルの脳内に――これまでのいかなる警告をも凌駕する、底知れぬ禍々しさを放つ“衝撃のアナウンス”が響き渡った。
【緊急特別警報:高次元管理プロトコル・直通コード起動】
【対象特異点:ナタル】
【判定:隔離・個別デバッグの完全失敗。および、メインセキュリティ『エンシェントドラゴン』群の致命的損失を確認】
【移行措置:――『箱庭』の位相凍結、および管理者直通・全システム一斉裁定を実行します】
「……っ!?」
脳を直接焼き焦がすような強烈な警告音と共に、ナタルの視界の端が血のように赤く染まった。
それは単なるシステムエラーの通知などではない。これまで「遠巻きに監視し、お古の刺客を差し向けていた」高次元の管理者どもが、ついに小細工を一切放棄し、この世界(箱庭)の全権限をもってナタルというバグを根絶やしにするための“本体の介入(直接裁定)”を開始したのだ。
ズズズズズ……ッ!!
足元の地面が悲鳴を上げ、屋敷の建つ貴族街の丘、さらには世界各地の空の色が一瞬にして反転する。
雲が引き裂かれ、上空の彼方――人間の眼では到底捉えられない高次元の領域に、あらゆる理とコードを束ねる「巨大な視座(目)」が開かれようとしていた。
「おい……ナタル、これって……!」
居候である魔神が、これまでの余裕を完全に失い、青ざめた表情で天井を仰ぎ見る。
スターシャもまた、その長寿の歴史で初めて見せるほどの険しい顔つきでナタルの傍らに飛び込んできた。
「……流石に、向こうも尻に火がついたってわけね。お古の人形どもじゃあなたを消せないと悟るやいなや、システムそのものをひっくり返して、管理者自身が直接あなたを消し去りに来気よ……!」
世界そのものが凍りつき、すべての存在の動きが強制的に縛られるような圧倒的な重圧。
管理者による“直通裁定”の光が、上空から容赦なく降り注ぎ始める。




