第五十三話 復讐の連鎖
管理者側の介入:蘇生と「特異点」への書き換え
管理者の巨大な監視ネットワークが、ナタルによる元仲間への復讐と、それに伴うシステム領域の激しい波乱をキャッチした。
――『異常検知:特異点「ナタル」によるシステムの深刻な脅威を確認。』
『世界フォーマットの前に、当該バグの隔離・抹殺を優先。リソースの再利用および例外コードの適用を実行します。』
冷徹なシステムアナウンスが響き渡る高次元領域から、金色の神聖なエラー修正光が地上へと降り注ぐ。
それはかつてナタルに心を折られ、無残に敗れ去ったはずの元パーティーの亡骸を包み込み、再構築していった。
「……ここは……?」
漆黒の迷宮の底、冷たい石畳の上で、男戦士(元勇者)がゆっくりとまぶたを開けた。
その肉体はただ復活しただけではない。元々レベル150前後の強者だった彼の全身には、管理者の直接的な介入によって血管のように高次元の管理者コードが流し込まれ、一気にレベル200を超える英雄級の圧倒的な身体スペックへと強制底上げされていた。
隣では、女魔法使いと僧侶もまた、黒く禍々しい神々しさを帯びた『特権の衣』をまといながら起き上がる。
【警告:システム管理者より直々の指令を受信しました】
【対象:バグ・『ナタル』の完全抹殺】
【付与権限:魔法レベル150のプロテクト一時解除・特権術式コードの付与】
「……ナタル……あの、荷物持ちの……!」
女魔法使いが歪んだ笑みを浮かべる。彼女たちの脳内には、歴史上いかなる大賢者も突破できなかった「魔法レベル150の壁」を超える未知の魔法権能とともに、「ナタルこそが世界を崩壊させる最大のバグであり、自分たちは世界の理を守る正義の執行者である」という強力な抹殺コマンドが刷り込まれていた。
かつての仲間意識など欠片もない。彼らは管理者手製の「最高位の討伐人形」として、己に与えられた神話級の力を誇示するように立ち上がった。
漆黒の屋敷、そして迎撃の時
その頃、拠点である広大な大邸宅で、ナタルはスターシャ(レベル250)と共にワイングラスを傾けながら、世界のデータログの変動に目を細めていた。
「おかえりナタル。……と言いたいところだけど、なんだか街の外れから、やけに香ばしい高次元の魔力シグネチャーが迫ってきているわね?」
ソファに腰掛けたスターシャが、気やすく温かい笑みを浮かべつつ、窓の外を指さす。
ナタルは静かにグラスを置き、黒い手袋をはめ直した。
「……どうやら、管理者がお古のゴミ人形どもに手心を加えて、送り込んできたらしいな」
ドォォォンッ!!!
邸宅の頑丈な外壁を粉々に砕き、金と黒の混じり合った異様な光を纏った三つの影が降臨する。
そこに立っていたのは、かつてナタルが地べたに這いつくばらせたはずの元パーティー――だが、レベル200オーバーの英雄級に跳ね上がった身体能力と、本来は不可能な「魔法レベル150の壁」を強引に突破した異例の管理者コードを暴走させていた。
「見つけたぞ、ナタルッ!! 世界を狂わせる忌まわしいバグめ!」
かつての勇者であり、今は管理者の忠実な人形と成り果てた男が、空間を切り裂くほどの神話級の大剣を振り上げる。
その背後では、魔法レベル150を超越した神話領域の極大魔法を練り上げる女魔法使いと僧侶が、狂気に満ちた眼差しでナタルを見据えていた。
管理者によって「魔法レベル150の壁」を強引に破られ、レベル200オーバーの英雄級へ引き上げられた元パーティー。
ナタルは目の前に立つ蘇りし勇者パーティーのステータスコードを冷ややかに見据え、その身体の奥底から放たれる膨大な魔力と特権コードの奔流を観察した。
「……なるほど。かつては人間としての限界に縛られていたはずだが……管理者の直接介入によって、レベルの天井そのものを無理やり引き剥がし、新たな神話級の力を定着させたというわけか」
ナタルは黒い手袋を軽く嵌め直すと、どこか感心したような、それでいて侮蔑の色を宿した薄笑いを浮かべた。
「管理者のやつも、自分が創り上げた箱庭の秩序が崩れかけているのがよほど焦ったらしい。わざわざこんなお古のゴミ人形どもに手を加え、特異点討伐のデバッガーとして再誕させるとはな」
レベル150というかつての限界を超え、管理者の特権によって狂気的なまでに強化された彼らの存在は、もはや通常の人間ではない。それはシステムがバグの排除のために生み出した、歪な「修正パッチ」そのものだった。
だが、あらゆる存在の理や概念を喰らい、自己の「器」の限界を無限に拡張し続けてきたナタルにとって、管理者がどれほどの特権や新たな力を与えようとも、結局は「吸収すべき新しい素材」に過ぎなかった。
「いいだろう。管理者がどんな手品を使おうと、お前たちが俺の前に立ち塞がる『雑魚』である事実は変わらない」
ナタルが一歩を踏み出した瞬間、周囲の空間が重圧に歪んだ。
管理者の庇護と新たな力を過信し、狂気に染まった目で襲いかかる勇者パーティーに対し、限界を知らない「Lv.1の反逆者」による二度目の圧倒的な蹂躙が、今まさに幕を開けようとしていた。




