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Ultimate pack-mule ただひたすらに強さを求めて  作者: 煉獄
第二章 秩序との戦い
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第四十九話 極南・業火の大火山帯

「なんだこの暑さは……!」

『極南・業火の大火山帯』へと一歩足を踏み入れた瞬間、肌を焼くような猛烈な熱気と激しい地熱がナタルを襲った。事前の買い物で仕入れた耐熱マントや魔導インナー、特殊なポーション類をしっかりと身につけているとはいえ、生身の肉体に伝わる不快な熱さそのものは完全には消え去らない。

「だから言ったでしょう?」

隣を歩くスターシャが、優雅に扇子を揺らしながら可憐にクスクスと笑う。

「ヴァルネからも聞いたでしょう? ここはただ熱いだけじゃなくて『熱力学そのものが崩壊してる』異常エリアなのよ。いくら事前にバッチリ買い物をして準備万端にしてきたからって、現地に着いてからの『熱力学の概念』そのものは、まだあなたの肉体に流れていないんだから」

「……ちっ、理屈はわかっている」

ナタルは鬱陶しそうに眉をひそめ、黒い手袋をもう一度強く締め直した。

「だが……買い出しの防具や魔法のスクロール程度では、この理不尽な環境侵食を完全に殺しきることはできんか。……無駄な不快感は戦いにおいて不要なノイズだと言ったはずだ」

ナタルの不機嫌そうな呟きに、スターシャは呆れつつも楽しそうに目を輝かせる。

「はいはい、元・荷物持ちさん。街で仕入れた耐熱アイテムでこれなら、あとはあなたが街を出るときに豪語していた『あの準備』を発動させるしかないんじゃないかしら?」

「……フン、当然だ」

ナタルは静かに目を細めると、己の『器』の奥底に眠る概念を呼び覚ました。ヴォイド・ドラゴンから強奪・最適化を果たした『空間虚無』と『絶対重力』の概念である。

【概念駆動:空間虚無 / 絶対重力】

ナタルの肉体の周囲一帯の空間が、歪むように重く沈み込む。

熱気を伝達していた空気の振動、地表から噴き出す灼熱の波動が、ナタルの肌に触れる直前で圧縮・遮断され、悉く押し潰されて消滅していった。

「……よし」

先ほどまでの肌を焼く不快な熱気は嘘のように消え去り、ナタルの周囲だけが静寂と冷ややかな空間に包まれる。

「あらあら、空間ごと『熱の伝播』を潰したわね。相変わらず準備の概念が狂ってるというか、強引というか……」

スターシャは手で額を押さえて溜め息をつきつつも、その口元には期待の笑みを浮かべていた。

「まあいいわ。これで暑さのノイズは消えたわけだし……さあ『業火と絶対零度』を喰らい尽くす前の、極上のピクニックと洒落込みましょうか?」

「ピクニックではない。……ただの蹂躙だ」

黒手袋をはめた手を静かに握り締め、ナタルは熱気が狂い咲く極限の深淵へと静かに歩みを進めた。

「……また鬱陶しい雑兵どもの群れか」

黒紫色の粘液を垂らす巨大な多足爬虫類や、空間の歪みから次々と湧き出す浮遊型の単眼球体——通常であればその見た目と数だけで絶望するような異形どもが、地鳴りを立てて押し寄せてくる。

「気をつけて、ナタル! ここは『熱力学崩壊』の領域よ! あれだけの数が一斉に周囲の熱エネルギーを狂わせたら、いくら空間を遮断していても……」

スターシャが警告の声を上げるが、ナタルは冷淡に鼻で笑い、黒手袋を締め直した。

「関係ない。数がいくら増えようが、雑魚は雑魚だ」

【概念駆動:空間虚無 / 絶対重力】

ナタルの足元から広がる絶対的な歪みが、迫り来るモンスターの群れを一瞬で飲み込む。

突進してきた異形たちの肉体は、ナタルの周囲に展開された重力と虚無の領域に触れた瞬間、悲鳴をあげる暇すらなくペシャンコに押し潰され、空間ごと消滅していった。

「ギ、シャアアッ……!?」

「ハッ……遅い」

ナタルは無造作に腕を伸ばし、最前列で怯んだ異形の頭部を掴み取る。

——『概念吸収(システム・オーバーライド)』!

【異形群より『局所熱エネルギー変換』の概念を検出。……『器』に統合・加算します】

手に伝わる不快な変質エネルギーを強引に圧壊し、己の力として上書きする。

「ちっ……群れている割には、どれも浅い概念ばかりか。『獄炎巨龍』に辿り着く前の、せいぜい喉を潤す足しにしかならんな」

「相変わらずの力任せね……。でも、これで道は開けたわ! 雑兵のお掃除が終わったなら、さっさと本命の『火山の主』を引きずり出しに行きましょう!」

スターシャの楽しげな声を背に受けながら、ナタルは群がる異形の残党を踏み荒らし、灼熱と極寒が交差する大火山帯のさらに深部へと突き進んでいく。


「熱いエリアを抜けたと思ったら……次は一面、銀世界の氷地帯(極寒エリア)か」

熱気が渦巻いていた火山帯の深部を抜け、一転して視界を埋め尽くしたのは、吹雪が吹き荒れ地表のすべてが硬質な氷床で閉ざされた極寒の領域だった。先ほどまで猛威を振るっていた灼熱の波動は嘘のように消え去り、今度は身を削るような絶対零度の冷気が襲いかかる。

「何よ、さっきまであれだけ『暑い暑い』って不機嫌そうにしてたのに、今度は寒さに文句を言うつもり?」

スターシャが耐寒マントのフードを浅くかぶり直しながら、扇子で口元を隠して楽しそうに目を細める。

「言ったでしょう? 『極南・業火の大火山帯』は、熱力学そのものが崩壊して『熱気と冷気が狂い咲く』異常領域なのよ。火山地帯の真横に、平然と絶対零度の氷地帯が隣接してる理由なんて、理屈を求めても無駄なんだから」

「……文句ではない。ただの客観的な事実だ」

ナタルは鬱陶しそうに溜め息をつき、漆黒の手袋をキュッと締め直した。

「前にヴァルネの店でも言ったはずだ。『熱いのも寒いのも苦手なんだがな』と」

「ふふ、贅沢言わないの。街で買った魔導インナーや防寒装備のおかげで生身の冷気は抑えられてるはずだし、地下海で『フロストサーペント』や『リヴァイアサン』から複製した『氷絶対耐性』と『凍結無効』の概念が、あなたの『器』の中でバッチリ起動してるじゃない」

「ふん……『概念吸収』でどんな理も呑み込めるようになったところで、不快な感覚そのものが消えるわけではないからな。……それに、雑兵の概念でただ耐えるだけではノイズが残る」

ナタルは静かに冷たい瞳を細めると、体内に蓄積された「水と氷の絶対支配」の概念を解放した。

【概念駆動:絶対零度領域 / 空間虚無】

周囲の吹雪と極寒の冷気がナタルの肌に触れる直前で、己の体内の氷結概念と完璧に同期・相殺され、さらに『空間虚無』によって冷気の伝播そのものが完全に遮断されていく。

ナタルの周囲数メートルだけが、吹雪すら届かない無風と適温の完全領域へと変貌した。

「あらあら……リヴァイアサンから強奪した氷の概念と空間遮断を組み合わせて、周囲の寒さごと『環境そのものを殺した』わけね。相変わらず強引な適応力だこと」

「……これでノイズは消えた」

ナタルは無表情のまま雪を踏み締め、吹雪の奥を見据える。

「熱気と冷気……この相反する二つの極限が入り交じる領域の主。……『獄炎と絶対零度』を統べる化け物が、この奥で待っているはずだ。さっさと喰らい尽くして次の『データ』に変換するぞ」


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