↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Ultimate pack-mule ただひたすらに強さを求めて  作者: 煉獄
第二章 秩序との戦い
49/58

第四十八話 遠征と静かな種火

『業火の大火山帯』へと続く険しい山道の途中で、ナタルとスターシャは幕営(キャンプ)を張っていた。

周囲を覆うゴツゴツとした岩肌と、遠くで不気味に赤く蠢く火山の暗雲。夜の冷気と遠方の熱気が入り交じる奇妙な空気の中、パチパチと薪が爆ぜる焚き火だけが二人の周囲を明るく照らしている。

ナタルは静かに膝の上に黒い手袋を置き、己の手のひらを見つめていた。

復讐は終わった。

かつて自分を「足手まとい」と蔑み追放した元パーティーの者たち。彼らが積み上げたステータスも、誇りとしていた技術や信仰も、すべて『概念吸収』によって上位互換として喰らい尽くし、絶望の中で踏みにじってやった。

街には最高級の大邸宅を手に入れた。金も、力も、あらゆる者を見下ろせる圧倒的な『器』も、いまや手の中にある。

かつて最弱の荷物持ちとして虐げられていた男が望むべきものは、全て手に入ったはずだった。

(……俺は、これ以上何を求める?)

ナタルは静かに自問自答した。

復讐の熱はとうに冷めている。金や権力など、自分にとっては『概念』を補給・維持するためのただの手段に過ぎない。

己の肉体と精神は『概念吸収』を繰り返すごとに人間離れし、感情や雑念は効率の前に無機質なデータへと書き換わっていく。

金も力も手にし、復讐すら遂げた今、自分を突き動かしているものは何なのか。

満たされたはずの胸の奥に漂う、どこか冷ややかで広大な空虚感。

「……何をそんなに難しそうな顔で考え込んでいるの?」

柔らかく気やすさの滲む声が、夜の静寂を破った。

温かなスープの入った木製カップを手に、スターシャがナタルの隣へと腰掛けた。400年の時を歩んできたハイエルフとしての優雅さを纏いつつも、ナタルに差し向ける眼差しはどこまでも親しみやすく温かい。

「……別に」

ナタルは黒い手袋を再びはめ直し、手元を隠すように軽く拳を握った。

「元仲間たちへの落とし前もつき、金も力も手に入れた。これ以上、俺が何を求めて戦うのか……少しな」

「自問自答していたのね」

スターシャはスープをひと口飲み、ふっと可憐に微笑んだ。

「前にも言ったけれど、そうやって自分が何者で、どこへ向かうのかを悩み、恐れること自体が、あなたがまだ『人間』である証拠よ。何でも喰らい尽くして完璧な怪物になってしまったら、悩みさえ抱かないんだから」

スターシャは焚き火の揺らめく火炎を見つめながら、温かな声を続ける。

「力やお金や復讐なんてものは、生きるための『きっかけ』でしかないわ。それが終わったあと、空っぽになった心の中に何を選ぶか……それは、これからあなたが自分で決めていけばいいのよ」

「……決める、か」

ナタルは静かに呟き、夜空の果て、異様な熱気を孕んだ火山帯の深淵を見据えた。

世界のシステム、そしてこの不条理な理を世界に押し付ける高次元の管理者ども。

復讐という個人的な執着が消えたあとに残ったのは、ただ己の『器』を試し、この不条理な世界のシステムそのものを侵略し、塗り替えるという絶対的な意思だった。

「……何を選ぶにしても、まずはこの火山の理を喰らい尽くしてからだ」

ナタルの口元に、冷徹だがどこか人間臭いかすかな笑みが浮かぶ。

「ふふ、頼もしいこと。あなたがどんな化け物みたいな理を呑み込んでも、私がちゃんと『人間』の側に引き戻してあげるから、安心して迷いなさいな」

スターシャは気やすくナタルの肩をポンと叩くと、満足そうにスープを喉へと流し込んだ。

静かな夜のキャンプ地で、ナタルは己の中に残る人間性を確かめるように胸へ手を当て、明日訪れる過酷な戦いへと意識を没入させていくのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。