第四十一話 代償
「ふん……3体目完了だ。行くぞ、スターシャ。極東を抜け、次のノードへ向かう」
決意を口にし、黒い手袋を深く締め直したその瞬間であった。
ツ——————ッ。
「……なっ!?」
ナタルの視界が、突如として激しく左右に揺らいだ。
一歩を踏み出そうとした足から完全に感覚が失われ、膝から砕け散るように、ナタルは冷たい黒石の地面へと崩れ落ちた。
ドサッ……!!
「ナタル……!? 嘘でしょ、急にどうしたの!?」
慌てて駆け寄るスターシャの悲鳴のような声すら、遠く不鮮明なノイズのように鼓膜の奥へと遠のいていく。
体内で、異変が起きていた。
『1体目』の空間歪曲、『2体目』の絶対空間切断、そして今しがた強引に喰らい尽くした『ヴォイド・ドラゴン』の空間虚無と存在消滅領域——さらには、限界を強行突破して「魔法レベル300」へと突入させた際に自作した『事象穿孔』の過剰な概念コード。
それらの莫大なデータ群が、ナタルの体内で一斉に猛威を振るい始めたのだ。
(くっ……身体が……重い……! 体内が……焼けるように熱い……!!)
ナタルの手袋から覗く皮膚には、かつてないほど不気味で濃密な赤黒いノイズが明滅していた。
激しい息吐きとともに右胸を押さえるナタル。全身の骨と肉体が、内側からの圧力で激しく軋み音を立てる。
『概念吸収』により、一気に高次元の概念を強奪し、拡張させたナタルの『器』。しかし、今回の戦闘はあまりにも異常だった。
コピー&ペースト処理がパンクした状態から、ナタルは自身の魔法レベルを300まで強引に引き上げ、自ら新しい概念をプログラミングして展開した。その「規格外の魔法負荷」がかかった状態のまま、間髪入れずに『ヴォイド・ドラゴン』の巨大な存在消滅領域を丸ごと体内に流し込んだのだ。
——要するに、**「器の拡張と内部処理が追いついていない状態での、急激すぎる概念の爆発的加算と魔法レベル過負荷」**を引き起こしたのである。
「ナタル! しっかりしなさい! 一体何が……ッ!」
「……触るな……ッ!」
手を伸ばそうとするスターシャを、ナタルは途切れ途切れの低い声で制した。
「今の俺に……下手に触れれば……体内で渦巻く『消滅』と『虚無』の概念がお前にまで波及する……! ぐ、ガっ……!」
額から滝のような冷や汗を流しながら、ナタルは血の混じった息を吐き出す。
ステータス上の表記は相変わらず『Lv.1』のままだ。しかし、内部でせめぎ合う概念の数値と魔法レベルの負荷は、まさに爆発寸前の限界領域を示し、ナタルの精神と肉体を内側から破壊しかけていた。
自ら創り出した未知なる魔法と、喰らい尽くした3体目の巨龍の力。
その圧倒的すぎる「勝利の代償」が、今になって最弱の『Lv.1』の肉体にしかえしとして襲いかかっていた。




