第二十九話 残るセキュリティの壁
ヴァルネにエンシェントドラゴンは世界にあと何体いる?と尋ねる。その回答は奇妙なものだった。
「世界の主要な迷宮の最深部にセキュリティコアとして配置されている個体が、世界各地にちょうど11体残っているわ」
ヴァルネは不敵な笑みを浮かべ、指を1本ずつ折り折りながら続けた。
「各地の迷宮サーバーを統括するメイン・セキュリティコア(エンシェントドラゴン)は、全部で12体作られていたの。でも……あなたが1体を完全に喰らってデータを破壊したでしょ? だから、この箱庭世界に稼働状態で存在しているのは、残り11体というわけ」
ナタルが先日倒したエンシェントドラゴンは「世界の頂点に立つ唯一無二の伝説の龍」などではなく、世界各地の迷宮ノードにそれぞれ配置された管理用セキュリティプログラムの1つに過ぎなかったのだ。
「11体……! 世界の頂点と呼ばれるLv.1000超の化け物が、まだそれほど残されているというのですか……!?」
スターシャが顔を蒼白にして叫ぶと、ヴァルネは「驚くのはそこじゃないのよ」と呆れたように肩をすくめた。
「……驚くのは数ではない、と言ったな」
ナタルが冷徹な視線で先を促すと、ヴァルネは不敵な笑みを深めた。
「ええ。あなたが1体を撃破して『管理者アクセスログ』をハッキングしたことで、残る11体のエンシェントドラゴンの安全装置が一斉に解除(解除コード作動)されたのよ。以前のような『監視モード(受動的な置物)』から、あなたという『Lv.1のバグ』を特定・排除するための『調査アクティブモード』へ移行し始めているわ」
「調査……つまり、向こうからこちらを探しに動き出すということかしら?」
スターシャの問いかけに、ヴァルネは優雅にうなずいてみせた。
「その通りよ、お姉さん。ただ待ち構えるだけの障害物から、世界中を捜索する自律型デバッガーへと変わったの。……ふふ、狩るべき概念が向こうから歩み寄ってきてくれると思えば、ナタルにとっては好都合かしら?」
ヴァルネの告げた「11体」という数字は、ナタルにとって喰らうべき「11の莫大な概念の塊」であると同時に、世界中の自動排除システムが同時にナタルへ向けて動き出したことを意味していた。




