第二十七話 忘れかけてた復讐
管理者が気づく前に、世界がフォーマットされたらたまらんから、その前に復讐だけは済ませておくか
もはやどうでもよかったことだが、けじめだけはつけとかないとな。
そして勇者と僧侶を一瞬で探し出し、探索中の勇者たちの前に立ち塞がる。
「おい……『荷物持ち』のナタルじゃねえか……!どうやってレベル1のお前がこの地下迷宮まで来られた!?それに何の用だ?」
地下迷宮の薄暗い広場で、勇者は自慢の巨大な大剣を構えながら、喉を鳴らした。
レベルは150。腕力もステータスも人族の限界に達し、仲間と共にエンシェントドラゴンすら凌駕する英雄へと登りつめた自負がある。
その隣では、賢者すら凌ぐ魔法レベル130に到達した女僧侶が、神々しい聖光の杖を握りしめ、冷ややかな視線をナタルに向けていた。
「……どうやって深層まで生き延びたのか知らないけれど、ただのLv.1がうろついていい場所じゃないわ。追放された腹いせに追いかけてきたのなら、見苦しいからやめなさい」
二人にとって、ナタルは未だに「足手まといの雑魚」のままだった。
Lv.150の物理攻撃力。賢者領域である魔法レベル130の超上位回復・補助魔法。その圧倒的なパワーバランスの上に立つ自分たちが、負けるはずなどないのだと。
だが、ナタルは一歩、悠然と歩みを進めるだけだった。
両手の手袋を静かに外す。その瞳には、かつて見下された侮蔑への怒りすら浮かんでいない。ただ、世界の頂点に君臨していたエンシェントドラゴンすら屠った者だけが持つ、果てしない冷酷さと虚無だけが宿っていた。
「……レベル150。魔法レベル130か」
ナタルは静かに呟き、酷薄な笑みを浮かべた。
「それが、お前たちの命をかけた積重ねの『全て』か」
「戯言を……ッ! 『豪閃斬』!!」
勇者が地を蹴り、音速を超える踏み込みと共に大剣を振り下ろした。レベル150の威力が乗った一撃は、岩盤を一瞬で両断するほどの破壊力を秘めている。
しかし——
ズゴォォォンッ!!
爆音が響き渡る。だが、空間を断ち切るはずだった勇者の大剣は、ナタルのただの素手の掌に受け止められていた。
「な……ッ!? 刃が……届かない!? どんな防御スキルを使っていやがる!!」
「スキルなど使っていない」
ナタルは指先で勇者の大剣の刃を握り潰すように力を込めた。バキバキと音を立てて、世界最高峰の鋼が粘土のように歪んでいく。
「エンシェントドラゴンの絶対風圧すら跳ね返した肉体だ。レベル150程度の腕力で、傷一つつくと思ったか?」
「ひっ……!? 勇者様、下がって! 『極位聖光爆雷』!!」
賢者領域(魔法レベル130)に達した僧侶が、顔を蒼白にしながら絶叫し、極大の攻撃魔法を放った。空間を焼き尽くす高密度の雷光がナタルを全包囲で呑み込む。
しかし、ナタルはその雷光のただ中を、髪ひと筋焦がすことなく悠然と歩いて通り抜けた。
「魔法レベル130……無詠唱すらできず、概念の密度もスカスカだ。使いこなせていないな」
「そんな……ッ!? 魔法耐性防具も着けずに、私の魔法レベル130の極大魔法が無効化されるなんて……そんな理不尽があるわけない!!」
「理不尽?」
ナタルは一瞬で姿を消した。
次の瞬間、僧侶の視界は真暗になり、首元をナタルの冷たい手が優しく掴んでいた。
「お前たちが俺を『最弱の足手まとい』と笑って切り捨てたこと。それ以上の理不尽が、この世界にあると思うか?」
【概念吸収が発動しました】
【勇者の『レベル150物理全能力』『剣聖技』を複製・加算しました】
【僧侶の『魔法レベル130』『聖属性高位術式』を複製・加算しました】
【ナタルの固有魔法レベルが限界突破:Lv.215へ上昇しました】
脳内に響くシステムアナウンス。
僧侶の魔法概念を取り込んだ瞬間、ナタルの体内で独立した「魔法レベル」が爆発的に上昇し、世界の限界(Lv.150)を遥かに置き去りにした。
「あ……が……ッ!?」
僧侶は自らの魔法の知識と矜持を、完全に「遥か高みの存在」によって上書き模倣された恐怖で、ガタガタと全身を震わせた。能力を奪われたわけではない。だが、一生をかけて到達した最高峰の領域が、触れられただけで一瞬で理解され、自分など足元にも及ばない規格外の力へ変換されたのだ。
「見せてやる。これが、お前たちが一生届くことのない『本当の魔法』だ」
ナタルが指先を鳴らす。
詠唱も、陣の展開すらもない。
ナタルの指先から放たれたのは、魔法レベル200オーバーでしか存在し得ない、絶対耐性を持つエンシェントドラゴンすら一撃で消滅させる超高温の黒炎だった。
ドォォォォォォンッ!!!!
迷宮の数階層を丸ごと溶かし尽くすほどの暴虐な熱量が、勇者と僧侶の目の前で炸裂した。
熱風と衝撃波だけで、レベル150の勇者は大剣ごと壁に叩きつけられ、骨を砕かれて絶叫する。
「ガハッ……!? 化け物……お前、なんなんだよ……!!」
「俺か?」
ナタルは倒れ伏す二人を見下ろし、靴の底で勇者の顔面を容赦なく踏みにじった。
「お前たちが『ゴミ』だと捨てた、ただのレベル1の荷物持ちだ」
自慢のレベルも、誇っていた魔法レベルも、積み上げた自尊心も。
ナタルの絶対的な暴力と理不尽の前に、何の意味もなさず砕け散った。
「もはや、殺す価値もないか。これから大仕事もあるし、惨めに生きていくんだな、レベル1の荷物持ちに倒された勇者として。」
しかしそこには、ナタルの冷徹な捨て台詞にすら反応できない廃人が二人いるだけだった。
彼らが死に物狂いの努力で積み上げてきたステータス、剣技の概念、そして信仰と回復魔法の全構造。ナタルはそれら全てを『概念吸収』によって寸分違わず複製し、自らの『器』の上乗せとして呑み込んだ。彼らが誇りとしていた存在価値そのものを目の前で遥かな上位互換として再現し、その絶望とともに完全に踏みにじって見せたのだ。
「ふう……案外、あっけないものだったな」
静まり返った貴族街の丘の上に佇む、圧倒的なスケールを誇る巨大な大邸宅。闇市場の取引ネットワークと巨額の資金をもって買い叩き、合法的に手にいれたナタルの新たな拠点である。
重厚な石造りの門をくぐり、広大な庭園を通り抜けて重々しいエントランスの扉を開けると、暖炉の温かな火光が玄関ホールを照らしていた。
「おかえり、ナタル! 案外早かったわね」
豪勢なソファに優雅な身のこなしで深く腰掛け、ワイングラスを傾けていたスターシャが、気やすさと気品をあわせ持つ柔らかな笑みを向けてくる。400年を生きるハイエルフとしての洗練された上品さを纏いながらも、ナタルに対する態度はどこまでも温かく親しみやすい。
「……ああ。これで元仲間たちへの『清算』はすべて終わった」
ナタルは静かに黒い手袋を外し、自室へ向かう階段の途中で足を止めた。
「あとは、この世界の理を縛り付ける高次元の管理者どもと、システムそのものを喰らい尽くすだけだ」
「ふふ、頼もしいわね。管理者が世界の異常に気づいて初期化なんかを仕掛けてくる前に、たっぷりその『器』を整えておきなさいな」
「言われるまでもない」
元仲間たちから奪い取った無数の概念と魔力の余韻が、ナタルの体内で静かに重密な波となって渦巻いている。彼は己の自室へと入り、ドアを静かに閉めると、世界のシステムすら上書きするための次なる「領域の拡大」へ向け、静かに目を閉じた。




