第十一話 新たなる迷宮
街に潜伏し、次なる獲物の情報を集めていたナタルのもとに、一つの報せがもたらされた。
「……南の霊峰に眠る、新たな迷宮ね」
宿の一室で、スターシャが羊皮紙の地図をテーブルに広げた。
「噂によれば、そこはかつて『海神の領域』と呼ばれた古代水没迷宮。浅層すら強力な魔物で埋め尽くされているけれど、問題はそこじゃないわ」
スターシャは地図の一点を指差す。
「最深部ではなく、中層の巨大アンダーシー(地下海)に君臨している主……『リヴァイアサン』。中級冒険者では束になってかかっても太刀打ちできない、水と氷を司る巨大魔獣よ」
「中級冒険者すら立ち入れない関門か」
ナタルは呟き、静かに自らの手を見つめた。
かつて叩き伏せたアースドラゴン同様、上位の存在へ挑む前に立ちはだかる絶望的な天災級の強者。だが、ナタルにとっては自らの『器』をさらに押し広げるための上質な『素材』に過ぎない。
「……都合がいい」
ナタルの瞳に、冷徹な光が宿る。
「『大地の力』を喰らった俺の器に、次は『水の支配権』を加算する。強力な概念を手に入れれば、このダンジョンの最深部……そして世界を統べる怪物どもへの到達は確実に近づく」
ナタルはそこで一度言葉を切り、鋭い視線でスターシャを射抜いた。
「……それとスターシャ。ダンジョンに入る前に、念を押しておく」
「ん? なにかしら?」
「お前のレベルは徹底して隠蔽しておけ。Lv.250の威圧感を撒き散らされたら、魔物が警戒して俺に近寄ってこなくなる。それでは『素材』の調達(概念吸収)の効率が落ちる」
「……あはは、言うようになったじゃない」
スターシャは呆れたように肩をすくめたが、その表情には楽しげな高揚感が浮かんでいた。
「いいわ。私の気配遮断なら完璧よ。Lv.250の私にとってもその水没迷宮は骨が折れる場所だけど……今のあなたならどんな常識外れの戦いを見せてくれるのかしらね」
「手出しも無用だ」
ナタルは立ち上がり、静かに漆黒の外套を羽織った。
「元仲間どもが浅層で足踏みしている間に、俺はさらに先へ進み、全ての理を喰らい尽くす。行くぞ、スターシャ」
最弱の『Lv.1』による、世界そのものへの侵略と反逆。二人は新たな力を手に入れるため、静かに街を後にした。




