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不穏の欠片


「ここが……本部」


 試験当日。仏谷さんに連れられ、俺と西野さんはAKCの本部へとやって来た。


「久しぶりに来たって顔だな、せっちゃん」


「ここ最近は病院に引っ張りだこだったからね、るぅちゃん」


 仏谷さんと西野さんは顔を見合わせあだ名で呼び合う。やっぱり仲がいいなぁ。

 運転手の仏谷さんは車の中から門番に書類を見せて、駐車場に入る。黒の塀に囲まれた広い駐車場には、他にも何台か車があった。


「蓮也くん、呆けてないで行くぞ。こっちだ」


 仏谷さんが進む先には両開きの扉。中に入れば大広間で、両端には二階へと上がる階段がある。

 靴越しに感じる柔らかいモノにふと気付き、足元を見れば赤い絨毯が大広間と階段。そして廊下に続いていた。


「試験会場は……あっちの方だね」


 入ってすぐ左の壁にある掲示板を見れば、案内が書かれていた。その案内を見て先導するのは西野さん。右手側の廊下へと足を進める。


「緊張してるのか、蓮也くん」


 初めて訪れる見たこともない場所、自分の今後が掛かっている試験。実感が沸かないのと同時に、少しだけ高揚している。

 その姿がボーッとしてるように見えたのか、仏谷さんが声を掛けてくる。


「あぁ。いや、どんな試験なのか考えてました」


「そういえば、私も知らないな」


 仏谷さんも分からないのか。一体、どんな試験なんだろう。

 けど、例えどんな試験だろうとも、絶対に合格する。それが、俺に残された唯一の道なんだから。


「あそこみたい。二人とも早く行こっ!」


 廊下をずっと進み、壁の扉を数度無視して。突き当たりの扉を見つけた西野さんは小走りで近寄っていく。


「分かった分かった」


「西野さん、待ってください」


 追従するように、俺たちも扉へ走っていく。中へ入ると目に飛び込んできたのは緑。まるで森みたいだ。

 というか、森じゃないか?


「思った以上に、広いな……」


 見渡せば、他にも人が居た。多分、俺と同じで試験を受ける奴らだろう。


「あぁ、そうか。ここは鍛錬場Bだったな」


 腰に手を当てそう呟く仏谷さん。視線の先は扉のすぐ上、壁にかけられたプレートにもそう書かれていた。

 更に上を見れば、天井近くの壁の一部には窓があった。あそこからなら、森を一望できる。


「るぅちゃんがよく来てるとこだね。いつもこんな森で鍛錬してるんだ」


 俺の能力には不向きかもな、ココは。一歩間違えれば、火事になる。

 それでも、やってやる。絶対に、隊員になるんだ。


「皆、揃ったようだな。ワタクシは鬼童《おんどう》宗作《そうさく》。今回の試験内容を発表する」


 気が付けば周囲に多くの人が集まっていて。渋い声で喋っているのは、メガネをした几帳面そうなおじさん。


「鬼童さんだ、久しぶりに見た」


 どこから現れたのか、俺たちが入ってきた扉を塞ぐように立つ。鬼童さんが扉横の壁に触ると、ボタンのように壁が一部へこんだ。

 直後、扉上のプレートよりも更に上の壁が四角形状にへこむ。壁の中に仕舞われ、中から現れたのは大きなモニター。

 暗い画面から一転、あみだくじのような何かが映し出された。


「今回、諸君らにやってもらうのはトーナメント。既にこちらで対戦相手は決めさせてもらっている」


「トーナメントか、なるほど……」


 仏谷さんは腕を組み呟きながら頷いた。画面をよく見れば、それはトーナメント表だった。


「ルールは簡単。戦闘不能、または降参で決着する。制限時間は十五分。また、試合開始時にはこちらで用意した腕輪を付けてもらう」


 周囲に居た人の中から数人が参加者へと腕輪を渡す。腕輪を持つ人数は俺を含めて二十人。俺は隣に居た西野さんから腕輪をもらった。


 それにしても……。


「なんの腕輪なんだ?」


 俺のその疑問は、続く言葉ですぐに忘れ去った。


「優秀な者はそのまま採用となる。優勝を目指し、頑張ってくれたまえ。では、健闘を祈る」


「随分とまた……鬼童さんは意地悪だねえ」


 頬を掻きながら呟く西野さん。試験官のあの人は脇にある階段を登っていった。

 どうやら二階に行ける階段のようだ。ふと、この鍛錬場を見渡す。どうやら扇状になっているらしく、俺たちが今いる扉近くは狭い。

 森の奥を見れば段々と壁が広くなっていっており、終わりが見えないくらいだった。


「僕は二階の治療室に行かなきゃなんだ。ところで蓮也、腕輪は付けないの?」


 もう一度、トーナメント表を見る。俺の出番は……まだか。相手は誰だ?


「……あ、そうですね。付けます付けます」


 西野さんに促されるまま腕輪をはめる。すると、ウィーンと機械音が小さく鳴り赤のラインが走る。

 直ぐに光は収まったため、あまり気にならなかった。階段の方に向かおうとすると、仏谷さんが立ち止まる。


「私は少し、知人に挨拶してくるよ。蓮也くんたちは先に行っててくれ」


「おっけー!」


 そう言って、他の参加者たちに声を掛けに言った。知人って、誰だろう。


「ところで、気になってたんですけど」


「なぁに?」


「るぅちゃんって、なんでそう呼ぶんですか?」


 西野さんと会ってから、仏谷さんのことをあだ名でそう呼んでいる。けど、前々から疑問に思っていた。由来はなんなんだって。


「ん? あぁ、もしかして……下の名前を知らないんだな? 仏谷《ぶつがや》瑠流《るる》、それが彼女の名前《フルネーム》だよ」


「あぁ、そうだったんですね」


 瑠流さん……なんだか収まりが悪いな。今まで通り、仏谷さんでいいか。にしても、二人ともホントに仲が良いんだな。


 二階に上がり、横長の椅子に座る。気が付けば最初の試合は始まっていて、俺はその戦闘を見逃すことなく追っていた。


 窓からではなく、部屋の上部にある画面から。


「流石に、レベルが高いね」


「……はい」


 少しだけ、怖気づいた。それが顔に出ていたのか、西野さんが肩を叩いてリラックスさせてくれる。


「大丈夫だよ、キミなら合格できるさ」


 その瞳には嘘がなかった。それが嬉しくて、頼もしくて。


「はい!」


 つい、声を上げてしまった。


「もうすぐ終わるかな。僕は少し席を外すよ。多分、すぐに戻ってくるから待ってて」


 そう言って、俺は一人残された。


 少しだけ考える。今回の試験内容は総勢二十名でのトーナメント。優勝するには五人ほど倒さなければいけない。一人目の相手は……。


「桑田……夜影? もしかして……」


 掲示板に映し出されたトーナメント表を思い返す。苗字は違うけど、同じ名前の友だちを知っている。


「よう、久しぶり」


「お前……!」


 後ろから声を掛けられ振り向くと、そこに居たのは同い年くらいの男。黒い髪は癖毛で跳ねており、灰色の瞳がこちらを覗く。


「桑田《くわた》夜影《やかげ》。俺がお前の対戦相手だ、よろしくな。谷口蓮也くん?」


 コイツは、中学の時の友達だ。中学卒業の前に引っ越して、高校は違うけど連絡は取っていた。


「やっくんじゃないか! 久しぶりだなあ。元気してたか?」


 咄嗟に立って手を差し出す。ハグをしたいが椅子が邪魔で出来ないからだ。


「あぁ、今は元気だよ。今は。蓮也は相変わらずで、何よりだ」


 差し出した手を握ってくれるやっくん。


「ここにいるってことは、入隊試験の参加者だよな」


「そうだぜ? 負けねぇからな」


 握る力を強めてくる。


「絶対に、勝つ」


 俺も反抗して、力を強めた。


「ハハッ、口先だけじゃないと良いがな」


 でも、その言葉で力が抜けた。違和感が胸に引っ掛かる。


「なんだって?」


 おかしい。やっくんってこんな奴だったか、こんな言い方をする奴だったか?


「やれるもんならやってみろってんだ。裏切り者には負けねぇから、じゃあな」


 どこか、変だ。違う。何が……。不意に足元へ目が行く。そこにある影は、揺らめいていた。


「あっ……おい!」


 手は届かない。アイツの背中はどこか、寂しそうで。


「ここに居たか、蓮也くん。……どうしたんだ?」


 二階に上がってきた仏谷さん。その場に佇む俺を見て、様子を尋ねてきた。


「友だちが、居たんです」


「友達……名前は?」


「桑田夜影、俺の対戦相手です。中学の頃の友だちなんですけど、なんか様子がおかしくて……」


 そう言えば仏谷さんは首に手を当て、やっくんが去っていった方向を見る。


「あぁ、あの子か。確か……拓哉が担当だったな」


「何か知ってますか」


 少しでも、情報を。なんでもいい、アイツがおかしくなった理由を知りたい。


「……彼の通っていた高校は、ナナシの組織に壊された」


 それは、思っていたよりも深く。ひどく悲しい出来事だった。


「なっ!」


「きっと、先生も友人も何人かは死んでいる。だからじゃないか? まだ、心に傷があるんだと思う」


「そう、ですか」


 だけど、違う。それだけじゃあない。


 やっくんは俺のことを裏切り者だって言った。何のことだ、どういう意味なんだ。

 やっくんは、何を知っている?


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