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逃亡と空白の幼馴染


 空間を割くように現れたのは、空山さんだった。


「空山さん!?」


 なんで? どうしてここに。違う。そうだ、今までどこにいたんだ? 頭がぐちゃぐちゃで、今まで気づかなかった。


「おい! 待て! 俺を忘れたとは言わせんぞ!」


 彼女の後ろを追うように、また一人の男が現れた。その声は聞き覚えのある声で。


「高田先生……?」


 顔を歪ませ叫ぶ。そんな先生を俺は初めて見た。いつも優しそうに、それでいて厳しさもある。ノリの良い先生だった。


「任務遂行の邪魔になる存在を確認。排除します」


 そう言って、後ろに振り返り先生と対峙する。


「どうしたんだよ、空山さん!」


 様子がおかしい、まるでロボットみたいだ。


「排除、開始。『キープエリア』」


 背中越しに聞こえる声に、感情は含まれていなくて。


「俺の家族を返せ……返せよ! ……なっ!」


 攻撃をする高田先生の手は空山さんには届かない。まるで、何かに阻まれたかのように。

 

「『チェンジ』」 


 高田先生の初めて見る顔。悲しみ、怒り、恨み。憎しみ……いろんな感情が混ぜこぜになって、言葉で言い表せないほどに。高田先生は一体、どうしてしまったんだ。


「なんだよコレ……グッ! 出られない!?」


 一瞬で、高田先生は空山さんの居た場所に移った。多分、空間転移の類だろう。風夏の異能力は空間操作だから、な。


「空間内の酸素移動、開始」


 いつの間にか、水中にでも居たかのような圧は消え去っていて。先生は透明な四角い箱にでも閉じ込められたみたいに、目には見えない壁を叩く。


「おい! 出せよ! ふざけるな!」


 くぐもった声が響く。その声を仏谷さんが聞き漏らすわけもなく……。


「拓哉!」


「隙だらけやでぇ? 『月下蝶々』。ほな、さいなら」


 気を取られた一瞬の隙に、リオは宙を飛ぶ。まるで、蝶のように。


「待て! 田島凛桜!」


 ゆらゆらと揺れ、彼方へと消えていく。俺はただ、眺めているだけで。


「なんだ……息が……苦しい」


 目を外していた間で随分と体力を消耗した高田先生。


「先生!」


 俺は堪らず、叫んでしまう。


「カ……ハッ……」


 苦しそうに声を上げて、倒れ込む。先生はうつ伏せに倒れたまま、動かなくなる。


「意識消失を確認、排除完了。対象を発見、任務を遂行します。『チェンジ』」


 周囲を見渡し、俺と目が合ったと思えば消えた。転移だ。どこに行った?


「なに、してんだよ」


 後ろを振り返れば、そこに風夏が。


「少年! 危ない!」


 分からない、おかしい事ばかりだ。俺の記憶はおかしいし、リオはどっか行っちまうし! 風夏は先生を倒して、俺を殺そうとするし……。


「なんで、高田先生を……どうしてだよ、風夏」


 意味がわからない。これは、夢なのか? 知らない、誰か……助けてくれよ。


「わた……しは……? だれ……」


 少しだけ、希望が見えた。風夏が正気に戻ったような、そんな気がするんだ。


「目を……目を覚ましてくれよ! なぁ!」


 再び声を上げる。叫ぶ、伝える。


「エラー発生……ボ、クは……エラー発生。空山……風夏、ボクの……名前」


 なんだ……? エラー?


「風夏……?」


 何が、起きてるんだ……?


「任務優先。対象、谷口蓮也を殺害します」


 あぁ、そうか。

 俺は今、幼馴染に殺されるのか。


「逃げろぉ! 少年!!!」


 手が、迫る。


「『鉄壁アイアン牢珠プリズン』。何してんスカ、二人とも」


 目の前が真っ暗になった。いや、違う。黒い砂が俺を覆ってる?


「対象の殺害に失敗。エラー発生、エラー発生」


 黒い砂が崩れる。どこかに引き寄せられるように、宙を漂う。それを辿った先に、黒い男が居た。


「誰だよ、アンタ」


 ウルフカットの茶髪にピアス、全身真っ黒の服を着ている。肩には03と書かれており、背中にはAKCと書かれていた。


「どうして、お前がここに……」


 仏谷さんは男に尋ねる。


「ん〜? あぁ、そうッスね。アッチの対処が終わったんで、こっち来たんすよ。にしても、二人とも……満身創痍ッスね」


 軽薄、そう言い表すに相応しい口調で。


「うるさい。そんなことより、少年を」


「分かってますって。そんじゃ、この子を片しますか」


 AKCの人。この子を片す。風夏を、殺す?


「ま、待ってください! 彼女は!」


 咄嗟に出た言葉。続くはずだった言葉は、風夏が倒れた音で終わりを告げた。


「エラー……発生……れん、くん」


「んぉ!? なんか勝手に倒れたんスけど!?」


 風夏が倒れた。


「え……風夏? おい! しっかりしろよ! 風夏!!!」


 揺する。うつ伏せの身体を起こして顔を見る。そこにあったのは、静かな寝顔。


「少年、すまない。少しいいか?」


「はい……」


 俺に許可を取り、風夏に触る仏谷さん。首、腕、鼻。


「脈はある、息もしている。ただ、寝ているだけだ」


「とりあえず、支部に行きません? 未だ通信妨害もされてますし、先走った挙句仏谷さんの足手まといになった野郎を寝かせなきゃですし」


 高田先生を包む。まるで繭のように、黒い砂が。


「あぁ、そうだな。少年もついてきてくれるか? 詳しい話を聞きたい」


 風夏は黒い男に背負われて……。


「分かり、ました」


 疲労困憊、その言葉が似合うだろうか。俺も仏谷さんも、戦闘で服が乱れていた。


「二人とも疲れてるっしょ。ジブンが運ぶんで、『鉄騎アイアン馬将カヴァリィ』。コレ、乗ってください」


 黒い砂が集まって、馬が出来上がる。


「すまない、助かる」


 そう言って、仏谷さんは馬に乗った。


「ありがとう、ございます」


 乗馬経験なんて無い俺を察してか、仏谷さんは手を差し伸べてくれた。


「そいじゃ、行きますよぉ!」


 乗れた。この馬、少しザラザラしてる。




「ここが、支部?」


 何の変哲もない一軒家だった。


「一応、カモフラージュしてるんスよ。一般人にバレたら、上に怒られちゃいますから」


 怪訝そうな顔をしていると、そう告げられた。


「よし、入るぞ」


 カチャ、という音が聞こえてそちらを向く。いつの間にか仏谷さんはドアの近くにいて、まな板みたいな物をドアのフックに掛けていた。


「なんだ、これ」


 促されるまま家に入る。開いたドアを見て、俺は驚愕した。

 ポストボックスサイズの機械が張り付いている。


「静脈認証用の機械だ。すまないが、早く閉めてくれないか?」


「あ、はい」


 扉を閉めれば機械から音が鳴る。鍵が、閉まった。


 廊下を進んで奥の部屋に入ると、そこには複数のベッドが置かれていた。まるで、保健室みたい。

 黒い砂が高田先生をベッドに寝かせる。その間、仏谷さんは窓の鍵を確認していた。それが終われば、カーテンを閉じて。


「君はいったい、どうしてあそこに?」


 机を挟んで、俺と仏谷さんは座った。警察の事情聴取のように、俺に話を聞いてくる。


「あれは……」


 思い出す。この出来事の始まりを。今日と昨日、この二日間で何があったのか。俺は、全てを話した。


「記憶改竄? いや……人格付与か? だが、空山風夏の様子は突如変わったんだろう? ……見ていた、のか?」


 仏谷さんがブツブツと喋り出す。


「あの……」


「誰が? 謎の男。……名前が無い、組織のボスかもしれないな。空間に刻まれた記録の閲覧、同じ制服。あの学校を調べる必要がありそうだ。田島凛桜は知っている? 分からない」


 俺は……どうすればいいんだ?


「えっとぉ……」


「ハハッ、こうなったらしばらくこの調子ッスよ。考えてる内容をそのまま口に出しちゃうんスよねぇ、仏谷センパイって」


 戸惑いを隠せない俺にそう助言する。


「名前、聞いてもいいですか?」


 ふと、気が付いた。この男の名前を俺は知らない。


「おっと、言ってなかったスね。ジブンはAKC03部隊隊長、砂馬さば鉄弥てつやッス!」


「隊長……? それに、AKCって……」


 分からないことだらけだ。俺は、何も知らない。


「すまない。もう、大丈夫だ」


「仏谷さん!」


 衝動的に名前を叫ぶ。


「なんだ?」


 知らないなら、知るだけだ。


「教えてください。AKCってなんなんですか、ナナシの組織ってなんですか。俺の記憶も、風夏の様子もおかしいし。いったい、何が起きてるって言うんですか!」


 例え、どんなに苦しいことだってやってみせる。覚悟を示すから。だから、俺に教えてくれ。


「ふむ……その話は、また今度にしよう」


「え?」


 焦る俺の心に釘を差されたような、そんな雰囲気を感じた。


「君は今から病院へ搬送される。AKCの行きつけの病院にね。そこで、いくらでも話す事はできるだろう。まずは安静だ、ちゃんと休め。いいな?」


 けれど、違う。違った。


「はい……」


 問答無用だった。だけど、そこには優しさもあって。

 分からないと、知らないと焦る俺の心を少しだけ安心させてくれた。


 俺は何も知らない。

 だから、知る。

 もう、誰も失わないために。


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