図星の欠片
「アンタが、谷口蓮也?」
少しの休憩を入れたあと、俺は第二回戦の試合に出ていた。遅れてやってきたのは背丈の低い少年のような見た目で。
何歳だ? 小学生ぐらいか?
「そうだが、お前が対戦相手か?」
そう聞くと、幼い顔で衝撃的な言葉を放つ。
「佐倉鋭太。言っとくけど、お前より年上だからな?」
心の声が漏れ出たのか、それとも顔に出ていたのか。
コレが、年上?
「嘘だろ!?」
驚き過ぎて声がデカくなる。
「舐め腐りやがって……ぶっ殺す」
「所定の位置についたようだな。それでは、試合開始!」
鬼童さんの号令が響く。
相手の能力が分からない以上、やっくんの時みたいな捕縛技には注意しないと。慎重に……距離を詰めて。
「……『風車』」
そんなことをしていると何かが飛んできた。反射的にその物体を避ける。
「うぉ! なんだ……?」
風を切る音が耳に届くと同時にズサッ、と地面に刺さる音が聞こえた。
「避けてんじゃ、ねえ……よっ!」
「あっぶな!」
よく見ればそれは、折り紙で作られた手裏剣のようで。
俺の耳に風切り音が届く。間近を通ったみたいだ。もう一度、地面に刺さる手裏剣を見る。やっぱり折り紙だ。
「チッ……『三連風車』!」
様子を見ている俺に間髪入れず攻撃を繰り出してくる。
「三つも!? 『烈火』!」
なんとか手に炎を纏い、避けられそうにない手裏剣を殴って軌道をそらす。ザク、と刺さる音が聞こえる。
いや、おかしいだろ! 紙なら普通燃えるはずじゃないか!?
「炎かよ……相性悪いなぁ! 『風車』!」
「それはもう見切ったっての!」
何度目かの手裏剣。投げられる速度に慣れた俺は余裕を持って避けた。
「クソが! 『風車』『風車』『風車』!」
ヤケになったのか、同じ技を繰り返す。
「だから……見切ってるんだって! 『烈火』! ハァッ!」
また殴って軌道を逸らす。周囲を見れば、幾つかの手裏剣が地面に刺さったままで。
「ハッ! 『風車』!」
まさか、それが動くとは思わないじゃないか。
「なっ! しまっ……くっ!」
手裏剣が俺目掛けて飛んでくる。数が多くて対処しきれない。飛び交う手裏剣を防ぎきれなくて、顔や腕に擦り傷が増えていく。
「ようやく当たったか、ったく。サッサと負けろよ、グズが」
回る、廻る。鋭太の背後には折り紙の手裏剣が幾つも漂っていて。
口が悪い。なんなんだ、こいつは。
「俺は負けるわけには、いかないんだ!」
叫ぶ。けれど、その言葉を聞いた鋭太はどこかうんざりした声で、鼻で笑いながら言葉を返した。
「ふん。それはあれか? 友達や家族の仇を取るためか? それとも、なんだ? 理由を聞くためか?」
「なっ……」
なんで、知ってるんだ。
「居るんだよなぁ、そういうの。まるで自分が、世界一不幸みたいな顔してさぁ。ここではそういうのは珍しくないんだよ、分かってる?」
ため息をつきながら、俺に向かって歩き出す。そんな鋭太の瞳には俺じゃない誰かが見えた。
「確かに、そうかもしれない。……でも! それでも俺は!」
「うるさい! だから、なんだってんだ! ……ウザったいんだよ。復讐のためだとか正義のためだとかさぁ……どうせ自己満だろ?」
俺の言葉を遮って、叫ぶ鋭太。どうしてなのか、分からないけれど。見える。苦しそうにしているのが。
「なっ……」
どんな過去があったのか、どうしてそんな風に言うのか。それは俺には知り得ない。
「そういうの、どうでもいいからさ……負けてくれよなぁっ! 『的当』!」
数枚の折り紙が宙を舞い、勝手に折られていく。出来上がったのは複数の短剣だった。それが、俺に迫る。
「くぅ……!!!」
それでも俺は、目の前の人を救いたいと思ってしまうのか。少しずつ、その気持ちが膨れ上がっているのを感じている。
「さっさと降参しろよ!」
俺は負けられない。例え、誰を倒したとしても。何をしてでも、勝つんだ。
「負けるわけには、いかないって言ってるだろ! 『烈火』! 『紅蓮風日』!」
生み出した炎を鞭のようにしならせ、追ってくる短剣を打ち払う。その時、ふと気づいた。俺の背後に落ちた手裏剣が動いてない。
「なっ! チッ……『空足袋』!」
漂う折り紙が、また形を変える。鋭太の足に張り付き、まるで足袋のように。鋭太が宙に浮いた。
「待て!」
コイツはどうして、一度折っているんだ? 折らなくとも攻撃は出来るだろうに……。
「そんなこと言われて待つバカはいねぇ!」
そう言って、木々の隙間を縫って姿を消す。
「『烈火』! おい!」
俺は慌てて炎を纏い、重点的に足を強化し鋭太を追い掛ける。直後、鬼童さんの声が響いた
「制限時間、あと3分」
「時間が!?」
「『的当』!」
残りの制限時間を聞いて動揺した。してしまった。そんな俺の隙を見逃すはずもなく。
「ッ! 『烈火』」
鋭太の短剣が俺を追尾する。足の炎を手に移し、殴って地面に落とす。
視界が悪い。周囲の木が邪魔だ。
「クソが! 『三連風車』……『的当』!」
「また、かよっ!」
相手も焦っているのか、段々と攻撃を繰り出す間隔が速くなっている。
木々の隙間から、手裏剣と短剣が飛び出して。
「『的当』! アイツもお前も、自分勝手だ! 周りのことなんて考えもしねぇクソ野郎が!」
「アイツって誰だよ!」
さっきから、違和感があった。戦いの最中、何かを見落としているかのような。
「ハッ! 勝ったら教えてやるかもなぁ!」
その違和感が少しずつ大きくなって。
「『烈火』! 『滅火葬蒸』!」
俺は気づいたんだ。だから、周りを燃やした。
「それは前の試合で見たっての! ……は? なに、して」
草の生えた地面も周囲の木々も全て。
「お前の攻撃は凄かったよ」
「残り1分」
森を燃やせばコイツはきっと、動かせなくなる。
「地面に刺さったやつが動くなんて、分からなかった。でもな」
燃える、燃える。煙が目を覆う。段々と視界が潰れていった。
「30秒」
「俺の背後に落ちたやつだけ、俺を攻撃しなかった。お前は、一度視認しないとまた動かせないんじゃないか?」
蔓延した煙は行く当てもなく漂う。灰色の視界と木々が燃え盛る音。
「20秒」
「げほっ……どこ行った!」
鋭太が咳き込む。周りを見渡す影が俺の目には見えた。
「10」
「『烈火』『烈火』『烈火』……」
炎の熱を上げる。もし、この身が焼け落ちようとも……俺はきっと、復讐を選ぶだろう。
「5」
「どこだ……どこに居る……!?」
俺を探す鋭太の背後を、蒼炎を纏った足で。
「ここ、だよッ!!!」
蹴った。
「時間切れだ……佐倉鋭太の意識消失を確認。勝者、谷口蓮也!」
ピピピピピ――
鋭太の腕輪から音が鳴り響く。
「しゃあ! あ……」
足を覆う蒼色の炎が高温で肌を焼いてしまう、代償の炎。無理をしたからか、それとも疲労か。
俺は倒れてしまった。耳に残る炎の音を聞きながら。




