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羅生門怪鬼譚  作者: 夏川凪
第一鐘 京都六歌死闘編 十一

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95/106

第95話  封鬼牢

長くなったので、急遽2話に分けました。今回は前半を投稿します。後半は明日か明後日に投稿します。


【登場人物紹介】

紅皇鬼(こうおうき)━━━━

 閻魔宮(えんまきゅう)で亡者に罪を伝える役目を担う閻魔王の片腕。紅鬼(あかおに)総大将であり、短気で感情的な性格。蒼鬼(あおおに)軍の壊滅と日本(ひのもと)の制覇を目論む。紅呪鬼(こうじゅき)の反対を押し切り、封鬼牢(ふうきろう)に永年封印されてきた酒吞(しゅてん)の解放を決意する。


紅呪鬼(こうじゅき)━━━━

 紅鬼(あかおに)の修羅(しゅら)。官吏のような衣を纏(まと)い、常に知的で冷静沈着、余裕の笑みを浮かべている。紅鬼(あかおに)の中では誰よりも妖力に長けた副将格。紅皇鬼(こうおうき)の片腕的存在。紅皇鬼(こうおうき)の命令を受け、酒吞(しゅてん)の封印を解くために封鬼牢(ふうきろう)へ向かう。


紅蓮鬼(こうれんき)━━━━

 紅鬼(あかおに)の修羅。『分茶梨迦(ぶんだりか)』と呼ばれる地獄の池で、火焔(かえん)の蓮の花で罪人たちを焼き尽くしている。穏やかな優男的な見た目によらず、性格は紅皇鬼(こうおうき)に似て残虐。酒吞(しゅてん)に興味津々、紅呪鬼(こうじゅき)と共に封鬼牢(ふうきろう)へと向かう。


紅酒鬼(こうしゅき)(酒吞童子(しゅてんどうじ))━━━━

 紅鬼(あかおに)の修羅。かつて紅鬼(あかおに)軍の総大将だった絶大な力を誇る紅鬼(あかおに)。大胆不敵にも閻魔王(えんまおう)に逆らって地獄転覆を画策するが失敗。二千年の禁固刑を受けて封鬼牢(ふうきろう)に封印された後、現在に至るまで七百年以上もの歳月が流れた。紅鬼(あかおに)にとっては敵にも味方にもなりえる諸刃(もろは)の紅鬼(あかおに)。


 ━━━紅(あか)の『封鬼牢(ふうきろう)』。


 その物々しい名を聞けば、どんなに肝の座った屈強な紅鬼(あかおに)も震え上がると言う。

 それは罪を犯した紅鬼(あかおに)たちが収監される、地獄世界における牢獄━━━━。


 紅鬼(あかおに)にとっても訪れる事は稀(まれ)なその荒廃の魔所(ましょ)は、紅鬼(あかおに)の支配する管轄地の外れ。


 ⋯⋯地獄谷(じごくだに)の中にあった。



 蒼鬼(あおおに)か紅鬼(あかおに)かを問わず、鬼の世界にも人間の世界同様に、棲む世界の理(ことわり)に反し、罪を犯す者は現れる。

 そんな紅(あか)の咎鬼(とがおに)たちが最後に行き着く場所こそが、この『封鬼牢(ふうきろう)』だった。

 

 仲間同士の諍(いさか)いなど地獄内で起こった一部の罪による鬼(もの)も居るが、現在投獄されている鬼(もの)のほとんどは、過去の日本(ひのもと)侵攻の際に軍の統制に逆らった鬼たち。


 地獄の上下関係は絶対。

 妖力の差に逆らうことなど、それは即座に己の死滅を意味するため、通常であれば有り得ない。


 しかし時に日本(ひのもと)への欲望は、そんな鬼たちの常識、理性をも狂わせる。

 羅生門(らしょうもん)を抜け、地の底で蠢(うごめ)いていた密かな欲望が、日本(ひのもと)の陽の光と結びついた時。

 葬魂(そうこん)の術を身につけた羅刹(らせつ)や最下層の鬼の一部からは、誰からの指示も受けずに自由を謳歌(おうか)しようと考える、独り善がりな鬼たちが少なからず現れた。

 それは時の鬼の総大将や修羅(しゅら)たちからの絶対の命令に逆らい、軍の統率から脱走し、日本(ひのもと)の市井の中へと密かに身を潜めようとする企て。


 ⋯⋯即(すなわ)ち、逃亡罪だった。


 鬼の世界、地獄では重罪である。


 当然すぐに仲間内から追っ手は差し向けられる。

 上手く逃げ切り、市井(しせい)に消えた鬼も居るには居た。

 しかしその大部分は仲間の鬼の手によって捕縛され、地獄谷(じごくだに)に送られる事になる。

 そして下された刑期の長さに相当する呪詛(じゅそ)の札と共に、この『封鬼牢(ふうきろう)』の独房に封印される。


 その後は暗く狭い、牢の中。

 刻(とき)が経ち、刑の終わり、呪詛(じゅそ)の札が完全に消滅する、その日まで。

 咎鬼(とがおに)たちはただじっと、その赦免(しゃめん)の日を一日千秋の想いで待ち続けるしかないのである。



 そんな受刑の咎鬼(とがおに)の怨嗟(えんさ)の声や苦悶の息吹が渦巻く、重々しい封鬼牢(ふうきろう)の前に今━━━━。


 珍しく来訪者の姿が在った。

 

 地獄谷に吹き荒ぶ風に髪を靡(なび)かせながら立つ、紅呪鬼(こうじゅき)と紅蓮鬼(こうれんき)である。

 そしてこの二鬼の隣には、紅白の渦巻模様の外套(まんと)を羽織い、紅と緑の風水(ふうすい)の衣と防具を纏(まと)った、もう一鬼の見慣れない若い鬼。


 封印の妖力を更に高め、受刑鬼たちの抵抗や怨嗟(えんさ)を反対側から抑えつけている、牢の“外から”の風。

 その封鬼(ふうき)の風流を支配する紅鬼(あかおに)、修羅(しゅら)。

 封鬼牢(ふうきろう)の番人、”紅風鬼(こうふうき)“である。


 この三鬼の立つ場所からは、荒々しい谷の地形の岩壁をくり貫(ぬ)いて造られた、無数の穴蔵(あなぐら)の独房が見える。

 その穴蔵牢(あなぐらろう)一つ一つに、永い地獄の歴史、そして過去の紅鬼(あかおに)の日本(ひのもと)侵攻において、先述の重罪を犯した多くの紅鬼(おに)たちが収監されているのだ。


 三鬼は辺りを見回す。

 そして“とある風”が吹いてくる方向へ、ゆっくりと歩き出した。

 それは風の中でも分かる、風。

 邪悪で異質な氣を充満させた、見えない道だった。


 三鬼は紅呪鬼(こうじゅき)を先頭に、会話も無く歩を進めていく。


 そして辿り着いた先。

 一際大きな穴蔵(あなぐら)の前で、紅呪鬼(こうじゅき)は足を止めた。


 それは穴蔵(あなぐら)と言うよりも、三鬼(さんき)が身体を屈ませずに十分に歩く事ができる程の、まるで巨大な洞窟だった。

 明らかに他の牢獄穴とは、異なる造りをしている。

 奥はかなり薄暗く、入口からは全容は解(わか)らない。

 しかし左右の壁面間の幅や高さから推測しても、洞窟の奥は相当に広く、まだまだ先があるように見える。

 

 此処(ここ)だけは決して入るな。

 洞窟自体がそう言っているのか。

 入口からは不気味に血の雫が滴っていた。


 その最後の声なき声、血の警告を避けるようにして、紅呪鬼(こうじゅき)は更に洞窟の中へと足を踏み入れていく。


 紅蓮鬼(こうれんき)は蓮(はす)の花弁(はなびら)を持つ手を撓(しな)らせ、掌に火蓮(かれん)の炎を起こして灯火を作る。

 そして炎の灯(あか)りを前方に翳(かざ)しながら、紅風鬼(こうふうき)と共に黙って紅呪鬼(こうじゅき)の後に続いた。



 洞窟の中は二町(にちょう)(※200m)程はあっただろうか。

 暫(しば)く歩くと、洞窟の内部は更に拓け、相当に広い場所へと辿り着いた。


 風の吹き溜まりにもなっているその場所の先は無い。

 完全に行き止まりだった。


 其処(そこ)にあったものは、巨大で頑丈な造りの扉。

 ただ一つだけ。

 扉の前にはこれ見よがしに巨大な呪符(じゅふ)が何枚も貼られ、更に呪筆(じゅひつ)での封印の梵字(ぼんじ)が重ね書きされている。

 古(いにしえ)からの結界。

 閻魔王(えんまおう)の好む封印呪法の一つだった。


 ⋯⋯得体の知れない何かが、この中に、居る。


 そう想像させるには十分すぎる程の、まさに異様な扉だった。


 紅呪鬼(こうじゅき)と紅蓮鬼(こうれんき)の脳裏に、つい先程 紅鬼洞(こうきどう)で見た、今にも脈打ちそうな生々しい無数の心臓が過(よぎ)る。


 扉の内側からの息吹(いぶき)なのだろうか。

 心無しかその扉はまるで、呼吸独特の収縮の旋律を繰り返しているように見えたからだった。


 そんな禍々しい、行き止まりの扉。

 しかしこれこそが紅呪鬼(こうじゅき)の目的。

 地獄で最も重い罪、閻魔王(えんまおう)や総大将への反逆を犯した紅鬼(おに)が入れられる場所。

 そして総大将(そうだいしょう)紅皇鬼(こうおうき)からの願わざる命令が導いた、因縁の地。


 目的地に到達しながらも沈黙が続いていた三鬼だったが、その中で真っ先に口を開いたのは、紅蓮鬼(こうれんき)だった。


《⋯⋯っ、⋯⋯この氣。⋯⋯僕でも分かりますよ。間違い無い、此処(ここ)だ。どうやら着いたみたいですね》


 紅蓮鬼(こうれんき)が燃え盛る掌の火蓮(かれん)に息を吹きかける。

 すると掌の炎から小さな火種が幾つも宙を舞い、左右の壁際へと飛んでいく。

 そして壁に付着すると、まるで無数の燭台(しょくだい)のように、洞窟内と扉を真昼の如く煌々と照らし出した。


 感慨深げに紅呪鬼(こうじゅき)が呟く。


《⋯⋯此処(ここ)に来るのはおよそ七百年ぶりか⋯⋯。あの日の酒吞(しゅてん)の最後の抵抗と殺戮(さつりく)が、まるで昨日起きた出来事のように思えるな》


 洞窟の入口からは常に生暖かな風が吹き込んでくる。

 緑がかった灰色の髪を風にふわりと軽く靡(なび)かせながら、神妙な顔の紅風鬼(こうふうき)が紅呪鬼(こうじゅき)に問いかけた。


《⋯⋯でも、本当に良いのですか? 紅呪鬼(こうじゅき)様? ⋯⋯私は役目柄、もしもの場合を想定して閻魔王(えんまおう)様から封印の解き方は学んではいます。⋯⋯この扉は開く事はできます⋯⋯が、本心としてはそれは望んではおりません。そして一度この封印を解いたが最後、もう後戻りはできません。酒吞(しゅてん)が命令(はなし)に乗らなければ、一巻の終わり⋯⋯》


《⋯⋯ああ、分かっている。全て覚悟の上だ。何百年もただ一鬼でこの封鬼牢(ふうきろう)の番と監視を続ける、妖力に長けた紅風鬼(おぬし)とは言え、流石(さすが)に気が引けるか》


《当たり前です。⋯⋯あれは何時(いつ)の頃でしたか。⋯⋯伝説の忘却の鬼、酒吞(しゅてん)がまだ生きている⋯⋯何処からかそんな噂を聞きつけ、面白半分で“からかい”に現れた紅挽鬼(こうばんき)の最期の姿を、私はまだ覚えていますから》


《⋯⋯ふむ、そういう事もあったな。⋯⋯亡者を鋸(のこ)で引くのが好きだったな、紅挽鬼(あのもの)は⋯⋯。封鬼牢(ここ)なら滅しても呪詛(じゅそ)の力で、骨や皮の欠片は幾分かは残るはず。事のついでだ。あの扉の中に引きずり込まれた亡骸(なきがら)も回収していくか⋯⋯。まだ喰われずにいれば、の話だが》


《あんな無残な最期、忘れようと思っても忘れられません。封印を力技で解くのは無理だと私が言っているにも関わらず⋯⋯、中を覗こうと鋸(のこ)で扉をこじ開けかけた所を⋯⋯。本当に恐ろしい⋯⋯、酒吞(しゅてん)はあんな蟻(あり)しか通れぬ程の、ごく僅かな一瞬の隙間すら見逃さなかった》


 陰惨な言葉が飛び交う紅呪鬼(こうじゅき)と紅風鬼(こうふうき)の話しぶりは、何故か過去形で綴られていた。

 顔を顰(しか)めながら紅蓮鬼(こうれんき)が口を挟む。


《⋯⋯ちょ、ちょっと待ってください。紅挽鬼(こうばんき)って、何百年か前、ある日突然に地獄から行方知れずになった、あの等活(とうかつ)地獄の官吏の修羅(しゅら)、紅挽鬼(こうばんき)ですか!? ⋯⋯鋸(のこ)で開けかけた隙間から何をしたんです? 酒吞(しゅてん)は?》


 しかし答えは無かった。

 紅呪鬼(こうじゅき)も紅風鬼(こうふうき)も渋い表情を浮かべたまま、紅蓮鬼(こうれんき)の問いには何も答えようとはしない。

 ⋯⋯話の先は聞かない方がいい。

 紅呪鬼(こうじゅき)の顔は明らかにそう言っていた。



《⋯⋯それでも。⋯⋯やはり、解きますか?》


 紅風鬼(こうふうき)の再びの問いかけ。

 紅呪鬼(こうじゅき)が重々しく口を開く。



《何なら酒吞(しゅてん)を解き放つと共に、御主たち二人はすぐに退いてもよい。⋯⋯私の方は大丈夫だ。先にも言ったが、既に覚悟はできている。⋯⋯構わぬ、やってくれ》



 改めて固い決意が滲む返事、力強い声だった。



《⋯⋯分かりました。⋯⋯さすれば、⋯⋯いざ。⋯⋯紅呪鬼(こうじゅき)様も紅蓮鬼(こうれんき)も下がって⋯⋯!》



 紅呪鬼(こうじゅき)だけを死地(しち)に晒すわけにはいかない。

 そんな覚悟を決めたのか、紅風鬼(こうふうき)は一歩前へと出る。

 紅蓮鬼(こうれんき)は火蓮(かれん)の陽炎(かげろう)に顔を朧気(おぼろげ)に揺らしながら、珍しく真剣な表情で事の成り行きを見守っていた。



《⋯⋯地獄谷の風よ。彼(か)の鬼(もの)、咎鬼(とがおに)、酒吞(しゅてん)の封を解け》━━━━



 紅風鬼(こうふうき)が韻(いん)を結び、呪文を唱える。

 結んだ掌から念が波となり、迸(ほとばし)った。

 発した念の波は氣の大波の流れとなる。

 洞窟の壁一面を伝い、二町(にちょう)先の入口にまでも、何かを呼び寄せるように拡がっていく。


 その氣が洞窟内に誘(いざな)い、呼び込んだもの。

 それは鋭い風の刃だった。


 目の前の禁忌(きんき)の扉。

 貼られた封札(ふだ)が一枚、また一枚と風に舞う。


 そして一陣の風が吹いた。

 見えない刃が閃(ひらめ)く。


 次の瞬間。


 全ての封札(ふだ)は真っ二つになっていた。


 およそ七百年━━━━。

 気が遠くなる程の永い年月をこの場所を守り続けていた封札(ふだ)が今、志(こころざし)半ばでその役目を解かれて、ひらひらと地に舞い落ちていく。


 宙を舞っていた最後の一枚。

 その封札(ふだ)が地に着く⋯⋯。


 ⋯⋯寸前だった。


 紅呪鬼(こうじゅき)が吠えた。



《⋯⋯酒吞(しゅてん)よ! 七百年ぶりに、目覚めるがよい⋯⋯! 御主に現、紅鬼(あかおに)総大将様からの御下令(ごかめい)を持参した!》



 紅呪鬼(こうじゅき)の鋭く凛とした声と共に、封札(ふだ)はその全てが焼滅し、扉に閉ざされていた七百年の刻(とき)も動いた。

 奇怪で古めかしい摩擦音(まさつおん)を立てながら、扉はゆっくりと手前に開いていく。


 開いていく扉の奥に徐々に見え始めるのは、ただひたすらにどこまでも真っ暗な闇。

 七百年の刻(とき)までも閉じ込められていたような、光の無い世界が広がっていた。


《⋯⋯はは。さて、どんな化物鬼(かいぶつ)が出てくるやら》


 警戒を強める紅呪鬼(こうじゅき)と紅風鬼(こうふうき)とは違い、紅蓮鬼(こうれんき)はまだ酒吞(しゅてん)の存在自体すらも半信半疑といった感じだった。

 しかしその考えは甘かった。

 すぐに過(あやま)ちだったと気付かされる事になる。

 


 ⋯⋯闇の中の遠くから、大きな影がゆっくりと蠢(うごめ)く。



 その影の主は扉に向かって動いた。

 一際大きくなった影の形。

 それによって分かる。


 想像以上の巨躯(きょく)。


 そして“何者”かが、此方(こちら)に近づいてくるのが分かる。


 開いた扉の内側。

 ぬうっと伸びる、荒々しい手。


 扉の端を掴んだ掌は、一気に扉を押し退けた。



 ⋯⋯ついに件(くだん)の怪物は目覚めた。



 酒吞(しゅてん)は扉の内側の世界⋯⋯七百年前の平安時代から刻を超え、現在(いま)の紅鬼(あかおに)の世界を窺うように身を乗り出し、その禍々しい姿を現した。


 左側が黄金(こがね)色、右側が紅色の長髪。

 濃すぎるほどに濃い、銀の瞳。

 紅に染まった、白目。

 そして額から突き出た、鋭い二本の真紅(しんく)の角。


 七百年にも渡って伸び続けた髪は乱れたまま。

 見るからに粗暴(そぼう)で凶悪な面持ちが、一際(ひときわ)目に付く。


 その大きさも蒼鬼(あおおに)の蒼鋼鬼(そうこうき)程では無いものの、大人の男性二人分以上の背丈はゆうにあった。



《⋯⋯くっ》


 一瞬怯んだ紅蓮鬼(こうれんき)を見て、紅呪鬼(こうじゅうき)が呟く。


《⋯⋯恐ろしくそして禍々しく見えるだろう、紅蓮鬼(こうれんき)よ。⋯⋯しかしあの身体は本来は酒吞(しゅてん)のものではない。あの身体は元々は日本(ひのもと)を守るためにあった。⋯⋯酒吞(しゅてん)は葬魂(そうこん)の術によって『六歌戦(ろっかせん)』の力を得た⋯⋯、封鬼牢(ここ)に来る途中に私は言ったな。⋯⋯あの姿、あの身体こそ、七百年前、当時の『六歌戦(ろっかせん)』最強と呼ばれていた男⋯⋯、”坂田金時(さかたきんとき)“の身体》


《⋯⋯っ、なるほど! 酒吞(しゅてん)の元々の強さに加えて、最強の『六歌戦(ろっかせん)』とやらの身体と力、ってわけですか!》



 ⋯⋯坂田金時(さかたきんとき)。


 それは平安の昔から伝わる御伽(おとぎ)話の神童(しんどう)、幼名は足柄山(あしがらやま)の金太郎(きんたろう)。

 まさに伝説上の豪傑(ごうけつ)その人であり、更に平和と正義の象徴でもある、当時の『六歌戦(ろっかせん)』の武将の一人。

 そして類稀(たぐいまれ)な怪力を誇る斧の達人だった。


 しかしかつては正義に燃えていたはずのその顔は、魂を奪われ、乗り移られた酒吞(しゅてん)の素が滲み出ているのか。

 それとも七百年を超える刻(とき)が、人格も正しき志(こころざし)も全て、何もかもを変えてしまったのか。

 もはやその凛々しい善の面影は、微塵(みじん)も無い。


 薄汚れた紅と黒の着物を纏(まと)っているものの、ほとんど裸の上半身は筋骨隆々。

 今は斧どころか武器は無く、手ぶらの丸腰。

 だがその鍛え上げた身体から大きな拳を振るう姿を想像しただけでも、羅刹(らせつ)程度ならば殴り殺すか捻り潰すかは、簡単に出来そうな程に見える。

 まさに、”歴戦の猛者(もさ)“。

 そんな呼び名が相応しい出で立ちだった。



《ぐおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉ⋯⋯!!!!!!》


 酒吞(しゅてん)の目覚めの咆哮(ほうこう)が、紅呪鬼(こうじゅき)、紅蓮鬼(こうれんき)、紅風鬼(こうふうき)⋯⋯三鬼の身体を包み込む。



 それは紛れもなく、邪(よこしま)な悪の雄叫び。

 野に放たれた、野獣(けもの)そのものだった。



《⋯⋯おおおおおぉぉぉぉ⋯⋯、⋯⋯久しぶりの外の風だ。⋯⋯懐かしいぜ、亡者の血、死肉の香り⋯⋯。⋯⋯そして、⋯⋯生きた修羅(しゅら)の匂い⋯⋯、⋯⋯其処(そこ)に居るのは誰だ?⋯⋯貴様たちは何者だ?⋯⋯》━━━━⋯⋯。




第95話も最後までお読み頂きありがとうございました。

ブックマーク、☆評価、感想等よろしくお願いします。その優しさが新たな創作の励みに繋がります(*^_^*)。

次回第96話「酒吞」は、9月7日か8日に投稿予定です。

引き続きよろしくお願い致します。


【改稿履歴】

改稿履歴は全て誤字脱字等や細部表現の訂正です。

過去話も誤字脱字を見つけ次第、訂正しています。

内容は全く変わっていませんので御安心ください。

(いつもたくさんの誤字脱字ばかりで、すみません)

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