第90話 其々の思惑 〜前編〜
【登場人物紹介】
不知火綾麿━━━━
従三位中将。帝と日本を守る『六歌戦』の一人。謎の妖刀『村雨』を時の帝から拝領し、御所警備の西番を任されている。村雨の真刃と鞘刃を使った不知火二刀流の使い手。江戸徳川政権を激しく憎み、鎌足を快く思っていない。現在は謹慎中の鎌足に代わり東番も務める。
伊賀の鎌足━━━━
江戸城の公儀御庭番伊賀組の小頭の女忍。伊賀流鎖鎌の使い手。七十年前に鬼を滅した伝説の刀『鬼切丸』を手に、鬼が現れた京都に援軍として派遣される。裏では極秘に朝廷の探索の密命も帯びる。綾麿配下の麒麟との戦いで負った傷を癒やしながら、現在十日間の謹慎中。
━━━━夜が白白と明けていく。
謹慎中の鎌足が目にする十一日回目の日の出だった。
まだ人通りも疎らな大通り。
立ち並ぶ京の寺院の遥か奥、まだ霞む山際から顔を覗かせている光の蛇行を眺めながら、充血した細紅の眼で鎌足は呟いた。
「あれから十日だ。これで晴れて謹慎は解けたぞ。⋯⋯よしっ」
陽の光と共に、京の町を包んでいた闇もまた薄まっていく。
しかし鎌足の心はまだ暗幕が半ば下りたままだった。
昨日からの多くの謎や疑念を残した、薄靄の夜明けとなっていた。
見えざる敵、正体不明の忍を狩る者たちの脅威。
離れの一軒家にはほとんど戻らなかった。
鎌足は鬼切丸と共に本宿の玄関のすぐ脇に脚を抱えて腰を下ろし、周辺を警戒しながら一晩を過ごしていた。
宿にも謎の敵の魔の手が迫る恐れがある。
その懸念からだった。
幸いにも敵からの襲撃は無かったものの、鎌足は当然に昨夜はほとんど一睡も出来ていない。
背伸びをしたり逆立ちをしたり、身体を適度にほぐした後、陽が昇る前から早々に身支度を整え、そして大通りの中央で今、こうして忍装束をひらりと朝焼けの風に靡かせる。
いつもと変わらない日の出。
しかしそんな当たり前の一日の始まりを、鎌足は特別な決意と共に、半刻も前から待ち続けていたのだ。
本来ならば今日から東番の再就任。
諸所への挨拶や次の警備の番の確認が、御所を訪問する主の目的となるはずだった。
しかし全ては昨日の幻斎の文によって一変していた。
出羽国の役小角、鬼斬丸。
そして『六歌戦』の何かに関係すると疑われる、忍を狩る謎の集団。
居ても立ってもいられずに御所に向かって歩き出した鎌足の脳裏に、昨日の河川敷での惨劇も鮮明に蘇る。
奇しくも身をもって知る事になった、伊賀に迫りつつある危難に、自然と鎌足の足どりも速くなっていた。
当初の予定通りに変更が無ければ、昨日から今日朝にかけては北番、麒麟が番頭を担当している日だった。
麒麟への怒りや因縁はまだ収まったわけでは無い。
しかし今はまた揉め事を起こしたり、再びの戦いに巻き込まれている場合でも無い。
(⋯⋯もうすぐ明け六つ。兎の刻か。警備も終わりを迎える頃だ。番頭が麒麟にしろ、何か変更があって綾麿になっていたにしろ、門番さんに居ない事を確認してから入れば大丈夫。絶対に鉢合わせることは無い。⋯⋯ん、あれ? ⋯⋯って言うか、それよりも正門まだ開いてないんじゃ? ⋯⋯兼季様も、⋯⋯こんな朝から居る?)
人通りはまださほどではないものの、御所へと向かう通りは徐々に賑やかになり、早朝から開いている店があったり、小さな朝市なども開かれている。
そんな通りに掲げられた「朝団子」ののぼりが、大事な事をすっかり失念していた鎌足の足を止める。
(⋯⋯じゅるり。⋯⋯朝餉、まだだったな。⋯⋯そういえば昨日の昼から何も食べてなかった)
確か門番が出仕し、表裏各門が公に開くのは明け六つから四半刻(※30分)程が経ってから(※6時半)。
仮に正門が開いていたとしても、兼季への挨拶の約束の刻限は巳の刻(※10時)。
日の出につられ、気持ちだけが先走っていた。
完全に勇み足だった。
そして鎌足は、やはり鎌足だった。
鎌足は口の中に溜まった唾液を味噌汁代わりに一気に飲み込むと、のぼりの傍で開店の準備をしている年配の女性に向かって声をかけた。
「⋯⋯おばさん、お団子五本ちょうだい」
⋯⋯差し出された皿を埋める五本の串。
目を燦々と輝かせながら団子を頬張り始めた鎌足のすぐ真上、店の正面には、とある”神紋“が飾られていた。
それは『満月に囲まれた、杜若と三日月の弓』。
しかし今、鎌足の意識は真上ではなく、皿の上にあった。
花より団子。
神紋より食い物。
鎌足は五本目の串に刺さった団子を一気に頬張ると、店の奥に向かって元気よく叫んだ。
「⋯⋯おばさん、お団子もう一つちょうだい」━━━━
━━━━「頼もーう!!」
⋯⋯⋯⋯。
「頼もーう!!」
⋯⋯⋯⋯。
「頼もー!!!!」
⋯⋯⋯⋯。
御所に到着した鎌足は先をから何度も同じ言葉を叫んでいた。
どうやら寄り道をしてもまだ到着は早かったらしい。
例の挨拶だけが空しく響いていた。
正門は開かずの扉よろしく、固く閉ざされたまま、隣接する門番詰所にも誰の気配も無い。
(⋯⋯うーん、あの顔馴染みの門番さん、まだ出仕していなさそうだな⋯⋯。綾麿や麒麟がまだ御所に居るか、聞こうと思ったのに⋯⋯)
最後にもう一声、念のため。
鎌足が目一杯息を吸い、口を大きく開けた。
その時だった。
「━━━━頼」
「⋯⋯⋯⋯五月蝿い、何者だ?」
鎌足を呼び止める者があった。
その声は正門横からだった。
通用口として備えられている脇門。
其処には御所の中から半身を覗かせる、見覚えの無い二人の男の姿が在った。
法衣と言うべきか、呪術衣と言うべきか。
二人が共通して纏うのは、狩衣にも山伏にも似た、見かけない紋様が描かれた、薄灰色の衣と烏帽子だった。
大柄の左の男は、歪な形をした球体や四角形から成る黒色の数珠を首から掛け、細面の右の男は、梵字のような文字が刻まれた黄色い鉢巻を頭に締めている。
「⋯⋯何者だ? 三度目は無い」
脇門から全身を現した黄色の鉢巻の男が、改めて同じ言葉で鎌足に問いかけた。
その表情も声も厳しく険しい。
早朝の御所正門前、しかも忍装束で大きく声を張り上げる謎の女に、明らかな不信感と苛立ちを募らせている顔や声だった。
「⋯⋯あ、いえ、私、あの⋯⋯東番の、謹慎明けの、鎌足と言うもので⋯⋯」
「⋯⋯鎌足?」
「⋯⋯かま⋯⋯たり、⋯⋯ふぅむ」
「⋯⋯門番さんの代理の方ですか? ⋯⋯あの、決して怪しいものでは⋯⋯、今日からまた出仕で⋯⋯えっと⋯⋯いつもの門番さんを呼んでいましてですね、⋯⋯あ、ははは」
鎌足の返事はしどろもどろだった。
まるで逆効果になりそうな愛想笑いまでしていた。
しかし鎌足の名前に心当たりでもあるのか、二人はひそひそと何かを話し合い、そして軽く頷きあう。
それを合図に黒い数珠掛けの男も脇門から姿を現し、塀に沿った大通りの先を指差した。
「⋯⋯此処は通れぬ。裏門へ回られよ」
「⋯⋯へ? 何で?」
「警戒を厳にしている。この時刻は裏門へ行かれよ、其処で入所に関して吟味がある。⋯⋯説明は以上だ」
「⋯⋯へ? ⋯⋯は、はぁ。⋯⋯わ、分かりましたが、あの⋯⋯、貴方がたは? いつもの門番さんは?」
「通常の正門の門番の誰かの事を言っておるのなら、奴等は辰の刻(※8時)にならぬと来ぬ」
黄色い鉢巻の男も横から口を挟む。
「我々は新たに御所の警備を任されし者。御理解頂けたなら、どうぞ裏門へ。東番の番頭、鬼切丸の鎌足殿?」
「⋯⋯え、あ、はい。⋯⋯っ、分かりました」
鎌足の質問も半ばうやむやに、最後は強引に押し切られるような形になっていた。
鎌足の返事を聞いた二人は、鎌足を見送る事も無く、早々に脇門の中へと消えていく。
そして鎌足自身も気付いた時には、見えない何かに背中を押されるように裏門へと続く通りを歩いていた。
(⋯⋯? ⋯⋯まだ狐につままれた気分だ。結局誰だったんだ? あの二人。新しく雇われた警備兵の人たちなのかな? ⋯⋯って言うか、また裏門に回されるのか。私、余程裏門と縁があるんだな)
東番頭の鎌足の事は知っているようだった。
御所の中から出てきたのも見間違いでは無い。
指を顎に当て何度も首を傾げ、ぼんやりと歩き思案に暮れる。
後で誰かに聞いてみよう。
結局はそんなありきたりな結論を導きながら、土塀の角を二度曲がる。
鎌足は御所を半周、裏門へと回った。
幸いにも裏門には鎌足の見知った顔があった。
「⋯⋯あの。覚えてます? 私です、伊賀の鎌足です。謹慎明けの。今日は男性の羽織袴じゃありませんけど」
「⋯⋯え、⋯⋯あ。⋯⋯あー、⋯⋯はいはい、覚えております。⋯⋯そうか、今日は謹慎明けでしたね、それとやっぱり見違えますねぇ、意外にも大層な別嬪さんで」
「⋯⋯え、⋯⋯にひひ、それ程でもぉ」
「⋯⋯あ、そうそう、先日の夜の鬼退治、本当にありがとうございました。⋯⋯あと少将様との戦いも! 実際にあの場で見てましたが、もう胸が熱くなりました! 絶対勝てるようにと応援していたんですが⋯⋯、でも本当に惜しかったですねぇ、あともう一歩でしたのに」
裏門の門番は身ぶり手ぶりで熱く語る。
⋯⋯どうやらこの男は、あの日あの時の野次馬たちの一人らしい。
鎌足は恥ずかしそうに頭を掻いた。
「⋯⋯はは。なんだ、見ていたんですね、あれを。⋯⋯恥ずかしい所をお見せしました」
「いやいや、本当に格好良かったですよ! ⋯⋯それで今日は何用で? 裏門に?」
「⋯⋯いや実は、久々の出仕でしょ。ちょっぴり早めに来ようかなぁ、なんて思って正門に行ったら、門番さんの代理みたいな、見た事無い衣を着た二人組が脇門から出てきて、裏門に回れって言われて、それで⋯⋯。⋯⋯あ、そうだ、そもそも二人は誰なんですか?」
「⋯⋯見たことない? ⋯⋯あぁ、御二人とも青赤黄黒白、どれかの色を身に着けていたでしょう? あれは陰陽衆と呼ばれている中納言様の配下の方々ですよ」
「⋯⋯陰陽衆?」
「ええ。新しい中納言様と共に五色の霊山で、法術と剣術を学びながら占術や暦を行っていた方々です」
「⋯⋯ふぅん、鷹乃宮様の配下の方かぁ。鷹乃宮様も相当に腕がたつ、って美桜⋯⋯じゃなかった、姫様が言っていたから、その配下の方々も剣術ができるのですね」
「そうです。それも全員が全員、かなりの腕前らしくて。今日も正門の御二方以外、十数人は詰めています。何せ鎌足様が謹慎に入られた直後から、中納言様からの御指示で警備配置の総見直しがあったのですよ。警備兵たちが補充されるまでの間は、陰陽衆の方々が警備兵の代わりを一部務め、見廻を手助けするんです」
「⋯⋯へぇ。それで警備時間も変更になったんだ?」
「各番の警備時間は変わらず今まで通り、暮れ六つから明け六つ(※18時〜6時)なんですが、その前後一刻(※16時〜18時、6時〜8時)も陰陽衆の方々は警備をしてくれているんですよ。本当に生真面目な方たちだ」
「⋯⋯何で? 鬼が出るのはだいたい暮れ六つから明け六つなんでしょ? 理由は分からないけど。まあ⋯⋯、昼間は出ない、って保証はないけどさ。(⋯⋯私の宿にも朝から蒼妖鬼が毒の酒を持ってきたわけだし)」
「⋯⋯それが。中納言様から『警備が暮れ六つから明け六つとは温い、だから鬼に攻められるのだ、悪しき慣例をまず正すべし』⋯⋯などと提案があったらしく。中将様や少将様はかなり反対したみたいなんですが。あの鬼の侵攻の後でしょう? 中納言様の御意見がほぼ全面的に通ったみたいですよ」
「⋯⋯ふーん、でも良いことじゃないか。流石はみ⋯⋯じゃなかった、姫様が信頼している鷹乃宮様だけのことはあるよ。⋯⋯(そうか、新しい中納言様に押されて、綾麿と麒麟は形無しだな。悔しがる顔が見たかったなあ。⋯⋯へへ、私を虐める罰だ、ざまあみろぉ)」
「とは言え、その煽りで正門や裏門の担当や通行も厳しくなりましてね。私も出仕時間を削られて給金が少なくなってしまいまして。実は今日も、陰陽衆の方々との引き続きにたまたま早く来ただけなのですよ」
「⋯⋯ああ、そうなんですね。⋯⋯そっか、なるほど、だから門番さんたち、誰も居なかったんだ」
「⋯⋯中納言様と陰陽衆は本当に頼りになりますが、こればかりはねえ⋯⋯はは、まあその代わりに安全を手にできているんですから、我慢しないと。鎌足様も復帰されますし。更に更に心強い」
「⋯⋯にひひ、それもまた、それ程でもぉ」
鎌足は立ったまま両脚を少し交差させると、破顔しながらまたぽりぽりと頭を掻いた。
「⋯⋯あ、そうそう、通行の件、今は陰陽衆の方々は各所間の諸連絡のため裏門を離れてますので、今のうちに。⋯⋯門を通るための調べも厳しくなって、裏門でも今は四半刻(※30分)は最低かかりますから」
「⋯⋯え! 四半刻!? それは長い⋯⋯、待てない。⋯⋯じゃあ御言葉に甘えて。(⋯⋯さささのさ、っとぉ)」
裏門の門番の態度は、初対面の時とはがらりと変わっていた。
快く通してくれたのも、間違い無くあの蒼鬼紅鬼たちとの乱戦の奮闘、そして皆があまり快く思っていない麒麟への大胆な挑戦などによって、鎌足への信頼感や親近感が増していたからだろう。
出仕者も徐々に増えてくるこの時刻帯でも、内裏の周囲四方随所をまだ念入りに見回っているのだろうか。
長い廊下を奥へと進んでいく鎌足は、例の薄灰の衣を着た陰陽衆たちの何人かとすれ違う。
青色の腰布、赤色の首輪、黄色の髪飾り、黒色の薄羽織、そして白粉で真っ白に塗った眉、などなど。
裏門の門番の言っていた通り、陰陽衆は其々身体には五色のどれかの“色”を、身に着けたり施したりしているようだった。
(⋯⋯何かのおまじない? ⋯⋯なのかな?)
もう既に明け六つは大きく回っているため、この時刻にはどこにも警備兵たちの姿は見えない。
代わりに見慣れない薄灰の衣と五色を翻しながら、廊下や庭園を闊歩する陰陽衆たち。
そんな姿は今までの内裏の日常をあまり知らない鎌足の目から見ても、異様さが目立っていた。
(ざっと見ただけでもかなりの数だなぁ。雰囲気も以前とは違う場所みたいだ。⋯⋯まぁ、いいか。それだけ皆が安心できるって事だよな。⋯⋯それよりも、だ)
裏門の門番に聞いた話では、今日はやはり予定通り北番、昨晩から麒麟が詰めていたらしい。
鎌足は敢えて警備番の活動動線とは程遠い、遠回りとなる廊下を選んで歩を進めていた。
これならば万が一にも警備明けの麒麟とすれ違う事は無いだろう。
とすれば、鎌足が気になることは後はただ一つ。
約束の刻限にはまだ早い。
兼季が御所に居るかどうかだった━━━━。
━━━━(やはり今日は、大吉だ)
鎌足は一人にんまりとほくそ笑んでいた。
願ったり叶ったり、だった。
約束の巳の刻にはかなり早かったものの、お目当ての兼季は偶然にも既に出仕していた。
しかも取次役の話では約束の刻限を繰り上げ、今すぐにでも会ってくれるという。
どうしても最後に別れを告げたかった美桜や櫻は流石にまだ不在だったものの、その一点を除けば鎌足にとってはまさに好都合な流れだった。
来客用として使われる奥座敷に座し、鎌足は兼季が現れるのを待つ。
この時刻ならば麒麟は間違い無く御所からは既に帰宅しているはず。
麒麟は残業に勤しむような性格にも見えない。
上手く遭遇せずにやり過ごせた。
交替での番の制度上、麒麟が一晩御所に居たならば綾麿は絶対に居ない。
鎌足の口角が更に上がる。
そして直ぐに自身を戒めるように首を横に振ると、緩んでいた口元をぎゅっと真一文字に閉じた。
安堵はまだ早い。
一番重要であり、一番苦手な任務、”会話“がまだ残されている。
鬼切丸や出羽国、血文字や忍狩りなど、幻斎から命じられた秘密事項。
漏らすことなく口に固く封をする。
第二陣の到着や交替の件をどう切り出し、変な違和感を与えずにどう許可を得るか。
交渉上手の者ならば何のことはない面会でも、口下手な鎌足にとっては難儀な使命。
戦いで刃を握る以上に今、その心はざわついていた。
とは言え、相手は厄介な綾麿ではない。
理解力があり、ざっくばらんな性格で、話の合わせやすい兼季。
知らず知らずの内に鎌足の口角は再び上がっていた。
「⋯⋯鎌足様、近衛大将殿がお見えです」
取次役の声が障子の先から聞こえた。
鎌足は咄嗟に低頭する。
障子が開く。
上座の方へ。
鎌足の前を兼季の足音が横切っていく。
これもまた想像していた通り。
⋯⋯とは言えなかった。
何かがおかしい。
(⋯⋯ん? ⋯⋯あれ? 何で足音が二人?)
「⋯⋯鎌足殿。久しぶりだな。十日間の謹慎、無事に終わりましたな。良かった。良かった。⋯⋯さあ、傷の消えたその凛々しい顔をお上げなさい」
畳を見つめる鎌足が耳にしたのは、思いの外に明るい兼季の声。
その声に違和感は掻き消され、緊張も緩む。
鎌足は伏せていた顔をゆっくりと上げた⋯⋯。
⋯⋯途端に一気に血の気が引いた。
目の前の上座。
想像した通り、兼季が座り、そして明朗な笑顔を見せている。
しかしその隣には、もう一人の公家が居た。
それは嫌と言うほどに見知った無表情の顔。
(⋯⋯げっ、何で此奴まで⋯⋯)
兼季の隣に座っていたのは、鎌足が今日一番会いたくなかった相手。
綾麿だった━━━━。
第90話も最後までお読み頂きありがとうございました。
ブックマーク、☆評価、感想等よろしくお願いします。その優しさが新たな創作の励みに繋がります(*^_^*)。
次回第91話「其々の思惑〜中編〜」は8月20日〜21日頃投稿予定です。次回もどうぞよろしくお願い致します。
【改稿履歴】
改稿履歴は全て誤字脱字等や細部表現の訂正です。
過去話も誤字脱字を見つけ次第、訂正しています。
内容は全く変わっていませんので御安心ください。
(いつもたくさんの誤字脱字ばかりで、すみません)




