第83話 鎌足と美桜 〜前編〜
【登場人物紹介】
不知火綾麿━━━━
従三位中将。帝と日本を守る『六歌戦』の一人。謎の妖刀『村雨』を時の帝から拝領し、御所警備の西番を任されている。村雨の真刃と鞘刃を使った不知火二刀流の使い手。江戸徳川政権を激しく憎み、鎌足を快く思っていない。昨晩起きた蒼鬼と紅鬼の御所侵攻を退ける。
伊賀の鎌足━━━━
江戸城の公儀御庭番伊賀組の小頭の女忍。伊賀流鎖鎌の使い手。七十年前に鬼を滅した伝説の刀『鬼切丸』を手に、鬼が現れた京都に援軍として派遣される。裏では極秘に朝廷の探索の密命も帯びる。やたら因縁をつけてくる少将の麒麟と戦うことになったのだが⋯⋯。
美桜━━━━
京都御所を訪れた鎌足が出会った、桜色の髪飾りと着物の可愛い少女。鎌足とは歳も近く、友達だと思っている。鎌足と麒麟の戦いを聞き、駆け付けたのだが⋯⋯。
━━━━「⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯はぁ⋯⋯」
激しく息を切らしながら、鎌足は逃げていた。
背後から迫る追跡者の影に怯えていた。
逃げても逃げても、追跡者の足音は追いかけてくる。
鎌足の顔からは血の気が引き、絶望と恐怖が支配していた。
「⋯⋯はぁはぁはぁはぁ、⋯⋯嫌だッ! ⋯⋯止めろ! 来るな⋯⋯!! た、助け⋯⋯、あっ」
鎌足は石か何かに足をとられ、躓き転んでしまった。
「⋯⋯い、いやだ、やめろ、来ないでくれ⋯⋯」
追跡者は鎌足のすぐ間近にまで迫っていた。
逃げようとするが足が震えて立つことができない。
鎌足は座り込んだまま後退りするものの、遂に壁際にまで追い詰められてしまった━━━━。
此処は真っすぐに伸びた袋小路。
辿り着いた先は壁、行き止まりだった。
もはや何処にも逃げ場は無い。
そして今、眼前の暗がりに追跡者は、”居た“。
闇の中からひたひたと足音が近づいてくる。
鎌足は壁を思い切り何度も叩く。
無機質な壁は、どんなに叩いてもどんなに叫んでも、鎌足の念が通じることは無い。
あの京都御所の正門よりも固く鎌足の行く手を拒み、逃げ道を塞いでいた。
「⋯⋯そうだ、鬼切丸っ、⋯⋯く、鎖⋯⋯、鎖鎌っ!」
鎌足は腰や太腿を手探りする。
いつもはすぐに指先に触れるはずの黒鉄の相棒たち。
しかし今、何故かその指先には頼りになる相棒の感触は何一つ感じられない。
その代わりに触れるのは、肌の温もりとはまるで違う、ぬるりとした生温い感触。
そして押し寄せてくる鋭い痛み。
「⋯⋯痛ッ!?」
鎌足は忍装束から慌てて指を引き抜いた。
その指先には、べっとりと血が付いていた。
「⋯⋯あ、⋯⋯わ、私、凄い怪我をしてる⋯⋯?」
鎌足は急いで全身を弄った。
肌を、皮膚を、恐る恐るなぞる。
震えながら彷徨う指先は、泥濘にはまる車輪のように、何度も何度も小さな窪みに引っかかかった。
その度に伝わる“ぬめり”とした確かな感触が、鎌足の痛覚を刺激する。
「⋯⋯な、何で? ⋯⋯”穴ぼこ“、だらけだ!?」
鎌足の全身は至る所が抉られ、血だらけだった。
手足、背中、腹部、胸部。
四肢に感じ始める、気泡のような凹凸の異様な感覚。
激痛が走り、焦燥感で目が眩む。
周りには誰も居ない。
誰も助けてはくれない。
そんな孤独も、恐怖に拍車を掛けていた。
鎌足の心を再び今、絶望の二文字が襲う。
「⋯⋯あ」
近付く足音は、既に呼吸音に変わっていた。
鎌足の喉がきゅっと絞まり、無意識に声を上げる。
「⋯⋯だ、誰だ!? ⋯⋯く、来るな⋯⋯、来るなぁ!!」
拒絶する鎌足の視線の奥。
暗がりにぼんやりと浮かんでいた不気味な笑みは、ゆっくりと鎌足の前にその姿を現した。
自身よりも小さいのではないかと思える背丈、そしてその黄色の狩衣に鎌足は見覚えがある。
追跡者は、あの天舞の少年。
⋯⋯樋ノ口少将麒麟だった。
「⋯⋯よぉ、⋯⋯もう逃げられねえぜ」
「⋯⋯ひっ、き⋯⋯麒麟!?」
翳され向けられた刃の煌めきに、鎌足が目を細める。
近づいてくる麒麟が手に握っているのは、白鞘の模造刀ではなく真剣。
命じられているはずの刃の禁忌。
その紙垂の封印は今、完全に解かれていた。
「鎌足いぃぃィィ! 御前は死罪だあぁぁァァッッ!!」
狂わしく甲高い声で叫んだ麒麟が、即座に右手の真剣を撓らせる。
「⋯⋯天舞、麒麟剣! ⋯⋯柘榴ぉぉおおぉぉォォ!!」
「⋯⋯う、うぁ、⋯⋯うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
麒麟の手から放たれた眩い光が、螺旋を描き終わった瞬間だった。
鎌足の顔に無数の赤い筋が走った。
慄いていた鎌足の顔は、麒麟の言葉通りにまるで柘榴のように網目状に刻まれていた。
鎌足の若さ瑞々しさ、天真爛漫な無邪気さ。
その全てを形取り彩っていた”肉“が、袋小路の虚空に弾け飛ぶ。
「⋯⋯ッ!? うがっ、あ、あ、がが、ぁあ⋯⋯あぁ!!」
鎌足は自身の欠片が零れ落ちないよう、必死だった。
顔を押さえながら腰が砕ける。
そのまま前のめりに崩れ落ちた。
そして地を転がりながら半狂乱で悶絶した。
「⋯⋯だ、誰か⋯⋯助け⋯⋯て⋯⋯、誰かぁぁ⋯⋯!!」
焼けるような痛みが顔から全身に突き抜ける。
先程までの痛みとは比べ物にならない。
必死に顔に押しつけた指の力すら逆効果だった。
皮肉にも、その名の通りに皮と肉が浮く。
鎌足の頬の肉はこの時、指と指の隙間からぼろぼろと溢れ落ちていた。
そして同時に、
⋯⋯左の視界だけが、地に落ちた。
「⋯⋯だ、だれか、⋯⋯だれか、いないのかぁ⋯⋯!!」
⋯⋯誰でもいい。
⋯⋯助けてくれるなら。
⋯⋯この痛みを取り去ってくれるなら。
袋小路は迷小路。
当てのない救いを求め、苦しみで地を這う鎌足が闇に迷いの手を差し伸べる。
その手が誰かの足と袴に触れた。
「⋯⋯ッあ!!」
鎌足は無意識にその足に縋り付いていた。
必死に袴の裾を握りしめる。
そして残された右の目で、足の主を仰ぎ見た。
「⋯⋯ど、何処の誰かは、⋯⋯存じませんが、⋯⋯ど、どうか、⋯⋯お願い、た、助けて、⋯⋯た、たす」
顔を上げる鎌足。
ゆっくりと視界に入ってきたその足の主。
麒麟に引き続き、その顔にも鎌足は見覚えがあった。
「⋯⋯あ、⋯⋯あお、と、しろ⋯⋯?」
真っ先に目に飛び込んできたのは、その人物の両手に握る刀と鞘。
迸る蒼白の焔。
其処には、決して忘れもしない、あの妖艶で冷静で、そして強気な微笑みが在った。
藁をもすがる想いで鎌足が掴んだ足。
それは妖刀村雨を両脇にだらりと構えた公家。
⋯⋯不知火中将綾麿だった。
「⋯⋯あや⋯⋯まろ⋯⋯? な、何で?」
右目を丸くして呆けている鎌足を嘲笑うように、綾麿は縋る腕までもひたすらに冷たく見下ろしている。
「⋯⋯ふふふ、江戸者め、負け犬め、邪魔だ。京都、内裏にとって無用な伊賀の忍は、今すぐ此処で、死ね」
「⋯⋯い、嫌だ、やめろ⋯⋯やめてくれぇぇ⋯⋯」
「⋯⋯ふふふふ、⋯⋯ふははははははははははは」
綾麿の高笑いが鎌足の声を打ち消す。
綾麿の両掌が返る。
この瞬間、村雨の真刃と鞘刃が、鎌足に向けて殺意の牙を剥いていた。
「⋯⋯うわああああああぁぁぁぁぁぁッッッッ!?」
眩い蒼白の閃光。
幻想的に尾を引く、刃の波動。
それが鎌足がこの世で最後に見た景色となった。
それは村雨に斬られた者だけが見ることができる、戦慄の情景。
斬撃は狂わしいほどに美しかった。
左半身は灼熱の炎。
右半身は極寒の氷。
左右を蒼と白の二色に包まれた鎌足の身体が、熱気と冷気に燃やされ凍らせていく。
「⋯⋯ッが、あがああ⋯⋯あああ、ががあああッ!!」
その痛みは麒麟の天舞を上回っていた。
熱さと寒さ、二重の苦悶。
鎌足が見つめた自身の左腕は蒼く焼け焦げ、既に炭の棒切れに変わり果てようとしていた。
村雨の猛る炎の熱によって、鎌足の左半身の全ての皮膚や臓腑は溶解している。
頭蓋骨や胸骨が剥き出しになっていく。
凍らされた右半身もまた同様だった。
氷細工の人形のように一度凍りつき固まった後、右側頭部から徐々にひび割れを生じる。
そして忍装束も右腕も残りの臓腑も、何もかもが粉々に砕け散っていった。
「⋯⋯あああぁぁ、⋯⋯からだが⋯⋯きえていく⋯⋯、これが、⋯⋯しぬ、⋯⋯ということ⋯⋯?」⋯⋯⋯⋯
⋯⋯萎縮した脳が最後に疑問符を呟いた瞬間。
鎌足の意識は、ふっ⋯⋯と途切れた⋯⋯━━━━。
━━━━⋯⋯「⋯⋯あ、あれ? 此処はどこ?」
意識を取り戻した鎌足は、先程の袋小路とは違う場所に横たわっていた。
まだ意識は混濁している。
鎌足は頭を軽く左右に振りながら、左右をぼんやりと見渡した。
明らかにおかしい。
確かに麒麟の天舞と村雨の刃を浴びた。
それなのにまだ息がある。
息を吹き返した、と言った方が正しいのか。
身体の痛みも消えている。
鎌足は左の眼や頬に触れてみた。
落ちた左の視界だけでなく、最期に狭まって消えた右の視界までが、その視力を取り戻している。
両目だけではない。
あれだけ穴だらけ血だらけ傷だらけ、“だらけ”尽くしだった身体も、今は五体満足。
何の違和感も無く動かせることができるようだった。
「⋯⋯あれれ? 確かに私は、“死んだ”はず⋯⋯?」
鎌足は左の腕を少し持ち上げ、掌の指を広げて動かしてみる。
問題なく動かせる。
念のため足の指に”動け“と命じてみる。
手の指ほどにはっきりとは分からないが、足の指先がもごもごと動く感覚は伝わってきた。
「⋯⋯何だ、あぁ、良かった。⋯⋯さっきのは夢だったんだ。⋯⋯本当に、本当に良かったぁ」
鎌足はほっと胸を撫で下ろした。
「⋯⋯でも。⋯⋯此処は何処なんだ? 京の御所や、宿ではないみたいだけど」
生を実感できたとは言え、疑念は尽きない。
今居る場所も分からない。
視界の先には、ただ闇が広がっていた。
⋯⋯深い。
感覚で闇の深さを知る。
それでもとりあえずは”命が有ること“に、鎌足は安堵していた。
上げていた腕や手を、そっと下ろす。
その時。
鎌足の手の甲に、痛みではない“ある感覚”が走った。
「⋯⋯ッ!? ⋯⋯つ、つめたい」
それは決して陽の当たらない洞窟の壁に触れたような、寒々しいひんやりとした感覚。
横になったまま鎌足は首を傾げ、今度は視線を身体に向けた。
「⋯⋯え!? な、何これ」
鎌足は冷えきった石造の台の上に居た。
横になっているために俯瞰したわけではない。
しかしそれでも分かる程に、この石造の台は相当の古さだった。
見るからに澱み汚れている。
鎌足以外でも誰か横になっていた者が多数居たのか。
目に見える範囲内でも、所々に血のような影のような赤黒い濃い染みが幾つも見えた。
鎌足自身も実は相当の長い刻を、石台で過ごしていたのかもしれない。
後頭部や背中、臀部や腿や踵など、石台と接している身体の後ろ半分だけがほんのりと暖まっていた。
「⋯⋯え? な、何だ、此処は⋯⋯?」
鎌足はもう一つ、ある異変に気が付いた。
先程まで動かすことができていた左腕。
それが今は全く動かない。
左腕だけではない。
金縛りにあったように、四肢がいつの間にか何一つ動かせなくなっていたのだ。
「⋯⋯あ、あれ? 身体が、⋯⋯動かないッ!?」
その時。
鎌足は自身の周りに人の気配を感じた。
一人、二人ではない。
三人、四人、いや、もっと多くの気配だった。
⋯⋯五。
⋯⋯六。
⋯⋯七人。
「⋯⋯はッ!?」
右の耳に吐息を感じる。
鎌足は咄嗟に右横を振り向いた。
《⋯⋯ようこそ。⋯⋯いらっしゃい》
「⋯⋯ッ!?」
鎌足の顔の傍。
石台の真横には一人の跪く美女が居た。
鎌足はその時、悟った。
感じた人の気配。
それは人ではない。
(⋯⋯鬼だ)
事実をこの美女が教えてくれた。
この女の額には、美女と呼ぶにはまるで似つかわしくない、二本の蒼い角があったからだ。
目の前に佇む美しい、女⋯⋯蒼鬼。
その口元が妖しく微笑んだ。
《⋯⋯こんばんは。⋯⋯鎌⋯⋯何とかちゃん?》
「⋯⋯お、御前は⋯⋯、蒼妖鬼ッ!?」
鎌足が驚きで目を見開く。
蒼妖鬼だけではなかった。
感じた七つの人の気配は、七つの鬼の姿形となって確かに其処に在った。
蒼鬼の蒼妖鬼、蒼鋼鬼、蒼刃鬼。
紅鬼の紅斬鬼、紅閃鬼、紅鋏鬼、紅影鬼。
石台に横たわる鎌足をぐるりと取り囲むように、蒼鬼紅鬼の七鬼の修羅たちが一堂に集結していた。
「⋯⋯ひっ! ⋯⋯な、何で蒼妖鬼が居るんだ!? しかも斃した奴等まで⋯⋯!?」
鎌足の安堵は一瞬にして消し飛んでいた。
しかも金縛りで動かせないと思っていた、左右の腕、左右の脚。
闇が薄まったことで明らかになったその鎌足の四肢には、右脚に蒼刃鬼、左脚に紅閃鬼、右腕に紅影鬼、左腕に紅斬鬼の掌が乗っていた。
鎌足は四鬼の修羅たちによって今、石台の上に完全に押さえつけられていたのだ。
「⋯⋯な、な、な、何するんだ!? ⋯⋯は、離せッ!!」
鎌足の本能が必死に抗う。
我儘を通す子供のように、じたばたと手足を激しく動かそうとする。
しかし身体と石の台は、まるで根か何かで結合しているかのように、鎌足の手足はぴくりとも動かない。
そんな鎌足の無様を嘲笑い、蒼鬼紅鬼たちの口元が“にたり”と歪む。
この時。
あれだけ鎌足の周りの深く包んでいた闇は、霧が晴れるように消え失せていた。
四肢を掴む蒼鬼紅鬼たちの背後に映る景色は、京都でも内裏でも宿でも、ましてや日本でもなかった。
三途の川、針の山、火の山、血の池地獄、そして刀葉林⋯⋯。
昔話や伝承で聞いたことのある、あの恐ろしい情景が一面に広がっていた。
「⋯⋯あ、⋯⋯あ。⋯⋯此処は? まさか⋯⋯」
懸命の抵抗心は坂をゆっくりと転がるようにして、今再び絶望へと変わっていく。
青褪めた顔の鎌足を横目に、蒼妖鬼は愉しそうに笑みを浮かべていた。
そして呆けている鎌足の耳元にそっと顔を寄せると、冷たく妖しく囁いた。
《⋯⋯御名答。此処は妾たちの故郷。⋯⋯“地獄”よ》
その言葉が終わるや否や、だった。
鎌足の頭上から巨大な影が忍び寄る。
鎌足の頭部は、蒼鋼鬼の巨大な両の掌によって、左右から挟み込むように掴まれていた。
そしてこの狂気の束縛の最後を飾るべく、最も地獄に相応しく最も狂気的な恐怖が、鎌足を待ち受けていた。
“あれ”の大きさや色合いを見定めるように、不気味な笑みを浮かべた紅鋏鬼が鎌足の口内を覗き込む。
「⋯⋯ま、待てよ。⋯⋯な、何をする気だ!? ⋯⋯や、やめてくれ、待ってくれ⋯⋯、ッ、あ、がが⋯⋯」
鎌足は突然に口に突っ込まれた巨大な“やっとこ”に、舌を掴まれていた。
喉の扇動しか伝わらない抵抗の言葉。
それはもはや単なる呻き声としか聞こえない。
そんな声にならない鎌足の必死の叫びをも、蒼妖鬼は再び嘲笑った。
《⋯⋯うふふ。良い眺めね。そして心地良く、そして惨めな声だこと。⋯⋯ねえ? 知ってる? ⋯⋯鬼を滅した罪はね、地獄では人間界の牛裂き以上の刑が課せられるの。牛に裂かせるなんて生温くてよ》
「⋯⋯あ⋯⋯が⋯⋯、ん⋯⋯ん⋯⋯が⋯⋯あ」
《⋯⋯地獄の掟に乗っ取ってぇ、宣言しちゃうわね。今から貴女を“鬼裂き”の刑に処す。⋯⋯千切ってはまた元に戻し、千切ってはまた元に戻し⋯⋯。これを何百万年と続けるのよ? ⋯⋯鎌⋯⋯何とかちゃん?》
「⋯⋯ががが、ががが、ががあっ⋯⋯がががぁあぁ!」
鎌足は最後の抵抗とばかりに、押さえられた手足を必死にばたつかせた。
しかし蒼鬼紅鬼たちの掌の圧は凄まじかった。
鎌足の抵抗などものともしない。
手足はやはり一厘たりとも動かなかった。
蒼鬼紅鬼たちの嘲り声と、快楽と邪悪に満ちた笑い声だけが、汗だくになりながら抵抗する鎌足の耳に響く。
その響きが鎌足に如実に教えてくれた。
⋯⋯諦めろ、逆っても無駄だ、と。
《⋯⋯じゃあそろそろ、何百万分の一、いこうかしら》
(⋯⋯い、いやだ、おいっ、やめろ、やめろったら!!)
そんな鎌足に残された最後の抵抗である心の声すらも弄ぶように、蒼妖鬼はすぐ隣、最前列で狂わしい笑みを浮かべ続けていた。
《⋯⋯うふ。すぐにまた『いらっしゃい』になるけど、とりあえずは『ばいばい』。⋯⋯鎌、何とかちゃん》
そして鎌足の耳元。
甘い吐息混じりで、小さく、そっと呟いた。
《⋯⋯梵っ♪》
その甘く邪な一言が処刑の合図となった。
六鬼の蒼鬼紅鬼たちが、それぞれ一斉に”引く“力を強める。
(⋯⋯ややや、やめろ、やめろぉ、やめてくれぇ!!)
鎌足の舌、首、四肢が、常人ではあり得ない程にまで伸長していく。
滅死滅死と⋯⋯。
身死身死と⋯⋯。
⋯⋯そして、鎌足は、爆ぜた。
「あがががががががががぁぁぁぁぁァァァァ⋯⋯」⋯⋯━━━━━。
━━━━⋯⋯りさん⋯⋯たりさん⋯⋯またりさん?)
「⋯⋯ぅぅうう、ち、ちぎれるぅぅ⋯⋯」
「⋯⋯鎌足さんッ?」
「⋯⋯ぅうう、うう、やめろ、やめてくれぇ⋯⋯」
「鎌足さん!? 大丈夫ですか!?」
「⋯⋯⋯うぅ、あぁあ、ああ、やめ、あああああっ!」
「⋯⋯ッ、鎌足さんっ! 鎌足さんっ!」
「⋯⋯ぅっ、うああああああ!! ⋯⋯やめろおぉッ!!」
「きゃっ」
助けを求めて伸ばした手に、何かが当たる感触。
「⋯⋯はっ⋯⋯」
⋯⋯今度こそ本当に、鎌足は目を覚ました━━━━。
第83話も最後までお読み頂きありがとうございました。
ブックマーク、☆評価、感想等よろしくお願いします。その優しさが新たな創作の励みに繋がります(*^_^*)。
次回第84話「鎌足と美桜 〜後編〜」は、早ければ明日7月26日、遅くとも27日には投稿する予定です。次回もどうぞよろしくお願い致します。
【改稿履歴】
改稿履歴は全て誤字脱字等や細部表現の訂正です。
過去話も誤字脱字を見つけ次第、訂正しています。
内容は全く変わっていませんので御安心ください。
(いつもたくさんの誤字脱字ばかりで、すみません)
【その他】
↓フォロワー様に創作して頂いたオリジナルEDです!
ED①https://suno.com/s/UDlzMnlrwuPI3Apg
ED②https://suno.com/s/dKiO9ljefO0sG1RT
こちらも良かったらぜひ聴いてみてください♪
どちらもお気に入りです!ありがとうございます!




