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羅生門怪鬼譚  作者: 夏川凪
第一鐘 京都六歌死闘編

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第73話  幻惑

【登場人物紹介】

不知火綾麿しらぬいあやまろ━━━━

 従三位じゅさんみ中将ちゅうじょう。帝と日本を守る『六歌戦ろっかせん』の一人。謎の妖刀『村雨むらさめ』を時の帝から拝領し、御所警備の西番を任されている。村雨むらさめ真刃しんば鞘刃さやばを使った不知火しらぬい二刀流にとうりゅうの使い手。江戸徳川政権を激しく憎み、鎌足かまたりを快く思っていない。帝の命を守るため、清涼殿せいりょうでん防衛に向かう。


伊賀の鎌足かまたり━━━━

 江戸城の公儀御庭番こうぎおにわばん伊賀組の小頭こがしらの女忍。伊賀流鎖鎌の使い手。七十年前に鬼を滅した伝説の刀『鬼切丸おにきりまる』を手に、鬼が現れた京都に援軍として派遣されるが、裏では朝廷の探索の密命も帯びる。帝の命を狙う鬼達の襲撃の中、綾麿あやまろが死んだと勘違いし、更なる闘志を燃やす。


くち麒麟きりん━━━━

 従四位下じゅしいのげ少将しょうしょう紙垂しで付きの白鞘しろさやの刀を手にする少年公家。謎の剣技を操り、御所警備の北番と南番を務める。執念深く自己中心的かつ残虐な性格で、自分よりも位が下の者には容赦は無い。些細な出来事をきっかけに鎌足かまたりに因縁をつけ、暗殺のために御所にふらり現れる。

 

近衛兼季このえかねすえ━━━━

 従二位大将じゅにいたいしょう。武官最高位の大将として、清涼殿せいりょうでんだけを警備する御帝みかど親衛隊を指揮する。鞍馬一刀流くらまいっとうりゅうの使い手で、性格はおおらかで実直。鎌足かまたりにも親しみを見せる。


蒼妖鬼そうようき━━━━

 京都御所を襲撃する蒼鬼あおおに修羅しゅら。『刀葉林とうようりん』と呼ばれる刃の木の上で亡者を誘う、絶世の美女鬼。薙刀(なぎなた)型の『妖凛刀(ようりんとう)』を操る。帝の命を狙い、御所内部に侵入中。


 ━━━━僅かに時を遡る。



 ⋯⋯まだ綾麿あやまろ紅閃鬼こうせんきが戦闘真っ只中だった頃。



 清涼殿せいりょうでん最深部、長い回廊を抜けた先。

 綾麿あやまろが戦う廊下と、帝の寝所である夜御殿よんのおとどとを繋ぐ、長い通路でのこと。


 その通路の中間地点に当たる場の片隅に、まるで御所建屋の心臓の鼓動を確かめるように、壁にてのひらを付け、何かを探るような仕草をしている侵入者の姿が在った。



《⋯⋯うーん。この辺りも昔からの陰陽師おんみょうじの結界の名残がある。この残留の具合だと巨大な物体の召喚や操りは影響を受けそうね。刀葉林とうようりんの召喚は難しいか》



 ⋯⋯蒼妖鬼そうようきだった。



《⋯⋯外より力はちょっと落ちちゃうけれど、妖凛刀ようりんとう霞幻夢かすみげんむの派生技での仕掛けしかないわね。⋯⋯まあ、追いかけてくるのはどちらも男。決してわらわには敵わない》


 蒼妖鬼そうようきは何を思ったか、自身の唇を指でなぞった。

 そして廊下に一定間隔で在する、一本の柱へと近付いていった。

 指に付着した口紅。

 その妖艶な赤で柱に梵字ぼんじのような印をつけ、続けて吐息を吹きかけて念を込める。

 息吹を受けた梵字ぼんじは、一瞬だけあおく明るく煌めいたものの、すぐに壁に溶け込むように輝きを消していった。


 その一連の何かの呪術的な動きは、一本の柱だけでは終わらない。

 四箇所を線で結ぶと長方形を描くように、蒼妖鬼そうようきは全く同じ動きを、すぐ近くの三箇所の柱でも施していた。


 謎の儀式の最後として、蒼妖鬼そうようきはこの四本の柱よりも先へと進んだ位置へと立つ。

 そして妖凛刀ようりんとうの刃の反対側の先端、石突いしづきの部分でなぞるように床に再び梵字ぼんじを描いた。



《⋯⋯うふふ。これでよし、⋯⋯と》


 全てを終えた蒼妖鬼そうようきが微笑む。

 


わらわの仕掛けた罠。男ならば絶対に突破できなくてよ》



 この時。

 空を仰ぐことができない蒼妖鬼そうようきは、まだ気付いてはいなかった。

 


 蒼鬼あおおに軍の生き残りが、蒼妖鬼そうようきただ一鬼のみになっていたこと。


 

 そして⋯⋯⋯⋯。




 ⋯⋯━━━━この京都御所に黒雲が近づいていた。




 今、青龍せいりゅうが仰ぎ見る御所の空。

 その空には今宵の十六夜いざよいの月と共に、既に多くの雲が集まってきていた。

 しかしその群れは、今はまだ墨の色ではなく、何とか灰の色を保っている。


 これも風水ふうすいの何かの占術せんじゅつの一環なのか。

 青龍せいりゅうは目を細め、何かの気配を感じ取るように、雲間の稲光を凝視していた。

 そして目線をゆっくりと下げると、鎌足かまたりに向かって話かけた。



「⋯⋯鎌足かまたり殿。先程のお話であれば、たった今、帝は“紅鬼あかおに”に襲われている⋯⋯。そう申されましたね?」


「⋯⋯えっ、あ⋯⋯っ、は、はい⋯⋯」


 共闘を呆気なく即座に断られた鎌足かまたり

 その頭はまだ動揺していた。

 そんな中で急に振られた問いかけに、鎌足かまたりは一言二言返すのが精一杯だった。


 青龍せいりゅうは今度は空を指差しながら、鎌足かまたりに語りかけた。


「⋯⋯空を見てください」


「⋯⋯えっ、空⋯⋯?」


 鎌足かまたりもまた空を仰ぎ見る。


「⋯⋯空、っていきなり言われても。一体何があるんですか⋯⋯、鬼の蒼渦あおうずが一つに⋯⋯、えっ⋯⋯と、⋯⋯ん、あれ? ⋯⋯⋯⋯あっ」


 その時、鎌足かまたりは思い出した。


 御所を襲撃した蒼鬼あおおに軍と紅鬼あかおに軍。

 ⋯⋯そのどちらもが得体の知れない鬼の呪法じゅほうによって、空に浮かぶ蒼紅そうくの渦と命を連動させていることを。


 鎌足かまたりは戦いに集中するがあまり、戦況を映す空の仰ぎ見ることも、その渦数うずかずを把握する余裕も失っていた。

 そしてその連動ことすらもすっかり頭から飛んでいた。


「⋯⋯ない。⋯⋯あかの渦が! あか羅生門らしょうもんが、無い!?」


 四十を超える蒼紅そうく羅生門らしょうもん邪道じゃどう

 

 あれだけ夜空を我が物顔で蒼紅あおあか二色で染めていた怪異が今や、羅刹らせつよりも一回り大きい修羅しゅら蒼渦あおうず鎌足かまたりの瞳に映るただ一つを残すのみとなっていた。


 

「⋯⋯ない、ない、ない。あおの渦が一つしか無い! ⋯⋯あ、あかの渦が無いってことは⋯⋯!」


「⋯⋯そうです。私の占術であの蒼渦あおうずから噴き出す氣を読みました。あの渦には鬼たちの中で妖気を操ることに長けている者のみが使える、”邪道混命じゃどうこんめい”と呼ばれる秘法が掛かっています。⋯⋯紅渦あかうずが消失した、これ即ち紅鬼あかおに軍の全滅を意味するはずでは?」


「⋯⋯じゃあ、あの紅閃鬼こうせんきは消滅して、帝は無事、ってこと⋯⋯か。⋯⋯で、でも誰が!? ⋯⋯御帝親衛隊みかどしんえいたい? でもいくら選りすぐりの人たちでも、あんな強い奴を相手にして、刀や槍が簡単に通用するとは思えな⋯⋯、あ」


 鎌足かまたりが息を呑む。

 続く言葉を理解している青龍せいりゅうが微笑みながら呟いた。


「だから言ったでしょう。あの御方は負けない、と」 


「⋯⋯じゃあ、じゃあ! やっぱり綾麿あやまろは死んでないっていうこと!? ⋯⋯あいつ、ちゃんと生きていて、紅閃鬼こうせんきを斃して、そして帝を守った、ってこと!?」


 鎌足かまたりの呟きに頷く代わりに、青龍せいりゅうがもう一度微笑む。

 それを見た鎌足かまたりの緊迫が、ゆっくりとほどけていく。


「⋯⋯っ、帝。⋯⋯無事で良かった。⋯⋯あと⋯⋯、綾麿あやまろ⋯⋯も、一応、良か⋯⋯、⋯⋯あ、ああっ!」


 鎌足かまたりが突然に目を見開いた。

 喉から舌にまで湧き上がっていた安堵の念は、すぐに胸の奥底に引っ込んでしまっていた。


 鎌足かまたりは急いで近くの篝火かがりび松明たいまつを手に取る。

 そして高々と掲げると、慌てて小走りで駆け出した。


 鎌足かまたり松明たいまつで、庭園の随所を照らす。

 既に完全に陽は落ちている。

 満月を一日過ぎただけの月夜の晩。

 通常よりも光はある。

 しかし灰色の雲が鎌足かまたりの邪魔をする。

 

 腕を前に伸ばして松明たいまつをいくら高くに掲げても、庭園の隅々までは肉眼では全てを確認できない。

 それでも鎌足かまたりは人が闇の中に潜んでいそうな場所に出来る限り近づき、そして最後に改めて全方位をぐるりと見渡した。


「⋯⋯いない、いない、いない。”あいつ“がいない!」


 鎌足かまたりの顔が曇っていく。


(⋯⋯しまった、紅閃鬼こうせんきばかりに気を取られすぎていた。大きな蒼渦あおうずが一つ残っている。と言うことは⋯⋯)


 空に残る、ただ一つの蒼渦あおうず

 鎌足かまたりは今、その蒼渦あおうずと繋がる命のぬしが誰であるかを悟っていた。


 そして血の気が一気に引いていた。


(⋯⋯いない。間違いなく居ない。あの蒼渦あおうず。地獄の木や草を操り、人々を惑わす幻術を使う、あの壺装束つぼしょうぞく草婆くさばばあ⋯⋯蒼妖鬼そうようきとかいう女鬼の蒼渦ものだ)



「⋯⋯どうしました? 鎌足殿?」


 焦燥感に包まれている鎌足かまたりの傍に、青龍せいりゅうが歩み寄ってきた。


 ⋯⋯綾麿あやまろからの命令めいがあったならば、鎌足かまたりですら躊躇ちゅうちょ無く殺す⋯⋯。


 優しそうで穏やかな外見に似ず、この青龍おとこは先程そう断言していた。

 いつもの鎌足かまたりならば、青龍せいりゅうにも警戒を強めるはずだっただろう。

 しかし今は思わぬ第二の非常事態。

 考えるより先だった。


「⋯⋯まだ、⋯⋯まだ終わってないッ! 木や草を操る蒼鬼あおおにの女がまだ生きてる! 帝の命を狙ってる!」


「⋯⋯あの浮かぶ蒼渦あおうずと繋がる鬼、ですか」


「そうです! 蒼妖鬼あいつはまだ御所の中なんだ!」


「⋯⋯蒼妖鬼そうようき


「⋯⋯私はやっぱり行く。一人でも行きます。あの男を惑わす謎の幻術も、女である私には効かないみたいだから。⋯⋯っ、もしかしたら綾麿あやまろもあの幻術に屈して、もうこの世にはいな⋯⋯い、いやっ、それも清涼殿せいりょうでんに行けば、自分の目で確認できる!」


「⋯⋯⋯⋯」


 鎌足かまたり青龍せいりゅうにまた助けを求めたのではない。

 自分の信念をはっきりと伝えたい。

 固く熱い一念を口にすることで、自らを鼓舞するためでもあった。


 鎌足かまたり青龍せいりゅうの次の言葉を期待して待つのではなく、その目はしっかりと大鳥居が沈んだ御所を見つめていた。


「⋯⋯次会うときは戦場か、敵か味方かも分からないけれど、⋯⋯それじゃあ、また」


 別れの言葉の後すぐ、鎌足かまたり颯爽さっそうと駆け出そうとした時だった。

 青龍せいりゅうが今日一番に力強く、そして凛とした声で、鎌足かまたりの背中を呼び止めた。


「⋯⋯鎌足かまたり殿。一つ聞きます。帝の夜御殿よんのおとどに入れば貴方は死罪ですよ。それを分かっているのですか」


 その問いかけに鎌足かまたりは足を止めた。

 そしてすぐに青龍せいりゅうを振り返り、真剣な表情で青龍せいりゅうを見つめ、揺るぎない意思を告げた。


「⋯⋯承知のうえです! それにこの鎌足かまたり、東番を勤め上げること叶わず、清涼殿せいりょうでん夜御殿よんのおとどに鬼の侵入を許し、帝の御命を危険に晒してしまいました。⋯⋯よって既に”死“は受け入れています!」


 鎌足かまたりの目はどこまでも澄んでいた。

 そして深かった。



 鎌足かまたり青龍せいりゅうの視線が真っ正面からぶつかり、心が絡み合う。


 そんな中でも麒麟きりんだけは、鎌足かまたり青龍せいりゅうに背を向け、一人あくびをしていた。

 そして心の中で呟いた。


(⋯⋯あーあ、綾麿あやまろの奴、本当にくたばってくれないかな。ついでに兼季かねすえの大将も居なくなったら本当に最高なんだけどな。青龍きざおとこたちは官職とは無縁の余所者よそもの。実力的に言って、村雨むらさめの後継者も『六歌戦ろっかせん』の後釜も、きっとこの俺だ。⋯⋯へへへ⋯⋯っと、⋯⋯っと、まてまて。欲張るな。まずは少将しょうしょうの地位を守らないと)


 麒麟きりんは生存している警備兵たちを見渡した。

 そしてにやりと醜悪に微笑んだ。


(ふん、生き残りの警備兵こいつらも全員、後でたっぷりと脅すとするか。今宵の失態の全責任は鎌足かまたりだ、と。そしてあわよくば大鳥居の倒壊の責任も、な。⋯⋯ざまあみろ、鎌足かまたり。切腹でも斬首でもはりつけでも、刑の執行役は俺が進んで買って出てやるよ)



 そんな背中の麒麟きりんの黒い企みに気付いているのか、いないのか。

 ひとときの沈黙の後、青龍せいりゅう鎌足かまたりの瞳だけを真っすぐに見つめ、優しく芯のある声で呟いた。



「⋯⋯鎌足かまたり殿。お気持ちは分かりました。しかし今は私を信じて、しばし、あとしばしだけ待ちなさい」


「⋯⋯えっ」


「今宵、東から来し者、八つ以降、夜御殿よんのおとどに近づくは、凶なり。私の風水ふうすいにそう出ています。それに清涼殿せいりょうでん内は迷路のように入り組んでいます。案内人は居らず、しかも貴女は初めて。もう一度言いますが、どちらにしても“貴女”に今、出来ることはもう何もありません」


「⋯⋯っ」


「待つのです。そして信じるのです。『六歌戦ろっかせん不知火しらぬい中将ちゅうじょう綾麿あやまろを。そして吉凶きっきょうの運命の巡り合わせを⋯⋯」━━━━。








 ━━━━その頃。


 京都御所、清涼殿せいりょうでん、最深部。

 

 鎌足かまたりの想いを嘲笑うように、堅く閉ざされた一段と重厚な扉のすぐ近くに、蒼妖鬼そうようきは立っていた。


 蒼妖鬼そうようきが妖しく微笑む。


 その眼前には、最後に蒼妖鬼そうようきの前に立ちはだかる人間たちが数名居た。


 御所の外に居ても、嫌でも聞こえてくる鬼の咆哮ほうこう金砕棒かなさいぼうの激突音、大鳥居の倒壊の轟音ごうおん

 この否応無しに耳にする”音“により異変を察知して、裏門の非常用の扉から駆け付けた者たち。

 非番だった御帝親衛隊みかどしんえいたい数名である。



《⋯⋯ふうん。まだ居たんだ。⋯⋯このその扉の先がいよいよ帝の寝所ね、はえみたいに五月蝿うるさ鉄扇てっせん紅閃鬼こうせんきか、むっつり無愛想ぶあいそうな『六歌戦ろっかせん』の綾麿あやまろか⋯⋯。どちらかがやって来る前に、先に御開帳ごかいちょうといきましょうか》


「⋯⋯くそっ、魔性の鬼め! この寝所の門だけは死んでも通すものか!」

「⋯⋯そうだ! 女鬼め! 俺たちをたおしてから通れ!」

「⋯⋯大将たいしょう殿も今必死に援軍の声かけをしておられる! 戻られるまでは此処ここは我々で守り抜くんだ!」

 

 各々に刀を構え、蒼妖鬼そうようき牽制けんせいする。

 

 この人間たちが見せる最後のささやかな抵抗と言葉に、蒼妖鬼そうようきわずらわしそうな表情を浮かべた。

 そして手に持った妖凛刀ようりんとうを一回転させ、目の前に力強く立てると、男たちに向けて冷たく言い放った。


《⋯⋯なら、死ねば?》


 蒼妖鬼そうようき妖凛刀ようりんとうの刃を、人さし指の爪で軽く弾く。

 それは本当に軽い、軽い爪弾きだった。

 しかし奇怪にも妖凛刀ようりんとうの刃には、その弾かれた部分から無数の“ひび”が入っていった。

 “ひび”はあっという間に蜘蛛巣状に拡がる。

 次の瞬間、妖凛刀ようりんとうの刃はまるで硝子細工が割れるように、粉々に砕け散っていた。

 そして宙を飛散する細かな欠片かけらその一つずつが、次はまるで明確な意思を持っている空飛ぶ刃のように、親衛隊員たちに襲いかかった。


「⋯⋯⋯ぎゃあああああああああっっっっ⋯⋯!」


 欠片かけらの刃が、親衛隊員たちの体中のありとあらゆる場所に突き刺さっていく。

 男たちの身体は、数十枚という鏡の中に頭から突っ込んだ後のような無残な有様だった。

 あっという間に全員が絶命していた。

 そしてその場に呆気なく崩れ落ちた。


 欠片かけらはそんな亡骸なきがらから自然と抜け落ち、あおく光りながら宙を浮遊する。

 役目を終えた無数の刃の向かう先は、切っ先を無くしている妖凛刀ようりんとうの先端。

 集まる欠片かけらを一つ、また一つと纏うたびに、妖凛刀ようりんとうの先端が元の刃の形に強いあおの光を放つ。

 そして全ての欠片かけらが集まり終えた時。

 妖凛刀ようりんとうはまるで何事も無かったように元通りの鋭い刃へと戻っていた。



《⋯⋯うふふ、さてと。現世うつしよの帝の御顔おんかお蒼鬼紅鬼おに達の中で”いの一番“に拝ませてもらおうかしら?》


 蒼妖鬼そうようきは嬉々として、通路の奥に見えた一際ひときわ豪華な造りの部屋の扉の前に立った。

 そして扉にてのひらを付けた。


《⋯⋯居る、居る。感じる。中に一人。⋯⋯これは人間の気配。⋯⋯わぁ。帝に違いないわ》


 鬼の侵攻を受けての最後の抵抗を図ったのか。

 その扉は大きな錠前で固く閉ざされていた。

 そしてその観音開きの扉は、蒼妖鬼そうようきの想像していた以上に“分厚ぶあつ”かった。

 どう見ても何枚も扉を重ねて強固さを増した、牢獄用とも言える扉だった。

 

《⋯⋯あらっ。思ったより厳重ね。地獄の牢獄並みに凄いわね。いつもこうなのかしら。⋯⋯うふふ。でも意味は全然無くてよ。すぐに開けちゃうんだから》


 蒼妖鬼そうようきが扉と錠前に触れる。

 そして氣の流れを読む。


《⋯⋯この扉と錠前は特別。鬼の妖力による破壊を防ぐ、陰陽おんみょう仕様かぁ。⋯⋯ふーん。⋯⋯なるほど。蒼鋼鬼そうこうき金砕棒かなさいぼうでも破壊は無理ね。これなら妖力に任せて”斬る“よりも、力技で強引に“引いて”、物理的に破壊した方が確実ね》


 蒼妖鬼そうようきの脳内には今、粉々に砕け飛ぶ錠前の輪と共に、きしみを立てて開いていく扉が鮮明に見えていた。



 ⋯⋯その時だった。



 蒼妖鬼そうようきの嬉々とした表情が、突然に曇る。


《⋯⋯ッ、感じる。⋯⋯背後から》

 

 すぐ近くまで迫ってきている、燃え上がるような殺気を帯びた蒼白そうはくの氣。


 蒼妖鬼そうようきが目を細めて呟く。


《⋯⋯ふうん。⋯⋯この氣。⋯⋯隠したくても隠せないくらいに、このわらわの侵入に怒っているみたい。⋯⋯どうやら蒼炎鬼そうえんきの炎に続き、紅閃鬼こうせんき鉄扇てっせんも通用しなかったみたいね、⋯⋯うふふ。いらっしゃい、『六歌戦ろっかせん綾麿あやまろちゃん。⋯⋯でも残念ね。間に合わない。この勝負、“詰み”はもう目の前。わらわたち蒼鬼あおおにの勝ちよ》



 蒼妖鬼そうようきは氣の流れから、綾麿えものが罠の地に足を踏み入れた事を悟っていた。


《⋯⋯男の貴方に、わらわの残り⋯⋯幻影の罠を、果たして打ち破ることができるかしら?》

 

 蒼妖鬼そうようきは凛々しい表情へと戻ると、衣をひるがえした。

 おもむろに左右の腕を交差させる。

 そしててのひらを広げ、胸の中に抱く妖凛刀ようりんとうに吐息を吐きかけた。


 その吐息で妖凛刀ようりんとうが、”芽吹めぶ”いた。


 妖凛刀ようりんとうの刃と柄の間から、うごめく無数の蔓刃つるばがまたたく間に伸び始める。

 この触手のような蔓刃つるばは、倒れている親衛隊の刀二本に巻き付き拾い上げると、その刀に上下から圧をかけて”コの字“に折り曲げた。

 そして宙をゆらゆらと漂い、この仕立てた“コの字の二刀”を、錠前がかかっている分厚い扉の取っ手の左右にはめ込んでいった。

 それはまるで”新たな取っ手“だった。

 この左右に設けられた“コの字”刀の取っ手に、蔓刃つるばは更に幾重にも巻き付いていく。

 

《これならば妖力は直接には伝わらない。わらわでも十分に開けてよ》


 蒼妖鬼そうようきは交差している手首を、ゆっくりと元に戻していく動きを取った。

 すると蔓刃つるばがその動きに呼応する。

 まるで蒼妖鬼そうようきの”手“のように、左右に動いたのだ。

 錠前ごと、こじ開けるように。

 新たにできた刃の”取っ手“を、蔓刃つるばは左右から強く引っ張っていく。


 恍惚こうこつの笑みと共に、少しずつ少しずつ両手両腕を戻していく蒼妖鬼そうようき

 蔓刃つるばの強烈な引きの力によって、扉と錠前じょうまえの輪がみしみしと音をたてる。


《⋯⋯うふふ。楽しみね、⋯⋯帝に会えるの》



 禁忌きんきの開門は既に時間の問題となっていた━━━━。






 ━━━━その頃、くだん綾麿あやまろは、帝の元へと急ぐその足を止めていた。



 自身や紅閃鬼こうせんきの先を進む、強力な蒼鬼あおおにの氣。

 清涼殿せいりょうでんに足を踏み入れた時から、綾麿あやまろはずっとそれを感じ続けていた。

 此処ここに至るまでの戦況から判断しても、それは蒼鬼あおおに羅刹らせつではなく、修羅しゅら

 蒼妖鬼そうようき蒼刃鬼そうじんき

 このどちらかであることは間違いは無かった。



 綾麿あやまろが足を止めた理由。

 それは五間ごけん(※約10m)ほど先に、その蒼妖鬼そうようき妖凛刀ようりんとうすら持たず、丸腰のまま佇んでいたからだった。


 綾麿あやまろを見つめる濡れた瞳、乱れた長い髪。

 はだける着物、露にした両肩辺り。


 妖艶な女の色香を放ちながら、誘惑めいた笑みを浮かべていた。



「⋯⋯先を行っていた謎の鬼の氣は御主の方か。確か蒼妖鬼そうようきと言ったな。⋯⋯其処そこ退け」


 綾麿あやまろは納刀した村雨むらさめさやかざし、鋭い眼光で蒼妖鬼そうようきを睨み付けた。



 そんな綾麿あやまろの攻撃的な瞳をほぐそうとでも言うのか。

 蒼妖鬼そうようきは深く息を吸うと、甘い吐息を漏らした。


 この閉ざされた廊下の一面に、妖艶で甘美な誘惑の香りが充満する。



 ⋯⋯その瞬間。



 綾麿あやまろの眼の中で、異変が起こる。

 蒼妖鬼そうようきの姿が陽炎かげろうのように五重に揺らめいたのだ。


「⋯⋯⋯⋯」


《⋯⋯うふふ、うふふ、うふふ、うふふ、うふふ》


 蒼妖鬼そうようきの影は、耳に残る甘美な高笑いで綾麿あやまろいざなった。


 背中から抱きしめるように、左と右から。

 腕や手や腰に抱きつくように、脚の左と右から。

 気付けば四鬼の蒼妖鬼そうようきが、綾麿あやまろまとわりついていた。

 

 しかも正面にはまだもう一鬼。

 最初に見た蒼妖鬼そうようきは、先程の位置に変わらず立っている。


「⋯⋯五鬼。⋯⋯分身術か」



 耳からは妖艶な甘い声と吐息。

 腕からは指でなぞられる感触。


 蒼妖鬼そうようきは今、四方から綾麿あやまろ桃源郷とうげんきょうの世界へと誘っていた。


 分身した四鬼の”自分”に取り囲まれる綾麿あやまろを愉しそうに見つめながら、正面に立つ蒼妖鬼そうようきが妖しく微笑みを浮かべる。


 そしてその微笑みは殺意に変わった。

 背後に隠していた妖凛刀ようりんとうを、後ろ手で密かに取り出す。



「⋯⋯小賢こざかしい真似を」


 綾麿あやまろ村雨むらさめの刃を抜き、横に薙ぎ払った。

 蒼白そうはくほむらほとばしる。


 しかし綾麿あやまろまとわりついていた四人の蒼妖鬼そうようきは、まるで蝶と舞をたわむれているように、優雅に身体をひるがえし、妖しく微笑みながら後ろに飛び退いていた。

 そして床を音も無く歩き、綾麿あやまろを前後左右の四方から再び取り囲んだ。



「⋯⋯おとこを惑わし虜にする、あの衆合しゅごう地獄、刀葉林とうようりんの妖術、幻術のたぐいか⋯⋯」


 五鬼の蒼妖鬼そうようきによる美貌の誘惑と色香の幻惑、高らかな微笑み。

 この魔性の幻想の中、綾麿あやまろは目を閉じて村雨むらさめに意識を集中させる。

 そして静かに息を吐いた。


色即是空しきそくぜくう⋯⋯」


 綾麿あやまろ村雨むらさめ真刃しんばを眼前に縦に構えた。


空即是色くうそくぜしき⋯⋯」


 逆手の村雨の鞘刃さやば

 それを先に構えた真刃しんばと重ねるようにして、二刀を前後に構える。


 綾麿あやまろの眼前で、熱気と冷気が混じり合う。

 真刃しんば鞘刃さやば蒼白そうはくの波がたけり狂った。


 その猛る蒼白そうはくの波動に包まれながら、綾麿あやまろが再び目を開く。

 そして眼前の重なる二刀を離すと、右に真刃しんばを、左に鞘刃さやばをだらりと下げ、そのまま正面の蒼妖鬼そうようきに向かってゆっくりと歩き出した。



《かかった》《かかった》《かかった》《かかった》

《⋯⋯うふふ、わらわの色香の術中に堕ちた》



 蒼妖鬼そうようきはこの隙を逃さない。

 綾麿あやまろを取り囲んでいた四鬼の蒼妖鬼そうようきが動いた。

 甘い吐息、すがるような目。

 綾麿あやまろに近づいていく。


 差し出される八本の誘惑の手。


 この四鬼全員が綾麿あやまろの死角で、様々な凶器えものを掴んでいた。


 腰の帯に忍ばせていた脇差わきざしを手にする、背後の蒼妖鬼そうようき

 髪飾りに仕込んだ簪状かんざしじょうの針を手にする、左の蒼妖鬼そうようき

 袖の中に隠し持っていた短刀を手にする、右の蒼妖鬼そうようき

 はだけた胸元に挟んだ小刀を手にする、正面の蒼妖鬼そうようき


 四重葬よんじゅうそうの誘惑と殺意が、綾麿あやまろを包囲する。



 ⋯⋯しかし、この時の綾麿あやまろの眼は、決して幻惑されているものほうけた眼ではなかった。



「⋯⋯他のものはいざ知らず。この俺にあやかまどわしのたぐいは通用せぬ。⋯⋯我がこころ、既に無念無想むねんむそう。⋯⋯眼は色を、鼻はこうを、耳はおとを、舌はしゅを。今一時いまいっときだけ、この蒼白そうはく村雨むらさめほむらに移した。⋯⋯今の俺に残るはただ一つ。⋯⋯目の前の女鬼おにの“幻”を斬る事。この一念のみ!」



 綾麿あやまろ村雨むらさめの二刀を旋回させ、身をひるがえす。

 そして近付く四鬼の蒼妖鬼そうようきを、目にも留まらぬ速さの剣閃けんせんで、容赦無く次々に斬り捨てていった。


 悲哀ひあいに満ちた四つの声が響き渡る。


《⋯⋯ひぃっ! きゃああぁああああぁぁぁっ⋯⋯!》


 後方の蒼妖鬼そうようきが熱炎に包まれ、壁にもたれかかるようにして消えていく。

 またその隣では、冷気に傷口を凍らされた別の蒼妖鬼そうようきが、激しく震えながら床に倒れ込んで消えていく。


 前方の二鬼の蒼妖鬼そうようきもまた同様だった。

 炎に包まれた蒼妖鬼そうようきと凍らされた蒼妖鬼そうようきが逃げ惑う。

 そして抱き合うようにぶつかり合うと、蒼白そうはくほむらに包まれながら、二鬼ともがまるでかすみのように消えていった。


 その正面で燃え上がる蒼白そうはくほむらを斬り裂くように、村雨むらさめ真刃しんばが炎の中から姿を現す━━━━。

 ━━━━残る正面の蒼妖鬼そうようきに向け、綾麿あやまろは続けざまに真刃しんばを投げつけていた。


 そして次の瞬間。


 魔性の誘惑を跳ね除け、風を斬り、蒼白そうはくほむらまといながら飛んだ真刃しんばは、残る蒼妖鬼そうようきの胸の真ん中に深々と突き刺さっていた。


《きゃああああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ⋯⋯!》


 最後に残る蒼妖鬼そうようきの壮絶な断末魔の叫び声が、廊下に木霊こだまする。


 胸を押さえて苦しむ蒼妖鬼そうようきの身体は、綾麿あやまろの目には再び幾重いくえにも重なって見えた。

 そしてその身体もまた朧気おぼろげに色を薄める。

 綾麿あやまろが再び目を流した時には、正面に居た蒼妖鬼そうようきは、人の背丈ほどの妖凛刀ようりんとうへと変化を遂げていた。

 投じられた村雨むらさめ真刃しんばは、この妖凛刀ようりんとうの中央部分の木目もくめを完全に貫いていた。


 妖凛刀ようりんとうの石突からは枝が伸び、床に根を張っている。

 その床の根の隙間から覗くのは、僅かにあおく輝きを残す、床に描かれた梵字ぼんじの跡だった。



「やはり思った通り幻影。しばしのときを稼ぐのが目的か」


 綾麿あやまろ妖凛刀ようりんとうにゆっくりと歩み寄ると、刺さっている真刃しんばを一気に引き抜いた。

 妖凛刀ようりんとうの傷からは、ひび割れが一気に拡がっていく。

 そして妖凛刀ようりんとうの刃も柄も何もかもが、先の蒼妖鬼そうようきたちと同じくかすみのように、綾麿あやまろの目の前から消えていった。


「⋯⋯この薙刀なぎなたも幻影か。⋯⋯しからば本物の蒼妖鬼そうようきはこの先に間違いなく潜んでいる。しかし紅鬼あかおに蒼鬼あおおに、どちらもの帝の命を本気で狙うとなれば、やはり⋯⋯」



 突然⋯⋯、綾麿あやまろの言葉が止まる。



「⋯⋯!?」


 綾麿あやまろは誰もいない廊下で表情を強張こわばらせ、村雨むらさめ二刀を強く握りしめ、そして何故なぜか身構えた。


「⋯⋯ッ!? ⋯⋯この氣の乱れは!?」


 そして四方に目を流し、警戒を強めた。



「⋯⋯外からではない。背後からでもない。⋯⋯前方か。⋯⋯近い。これは夜御殿よんのおとどからか」


 綾麿あやまろは廊下の先を凝視した。

 この先には目指す場所、帝の寝所。

 夜御殿よんのおとどしかない。


 しかし、何かがおかしい。

 前方から立ち込めてくる、異質な氣の流れ。


 綾麿あやまろはいち早く、その違和感に気付いていた。



「⋯⋯蒼妖鬼そうようきよ。最深部に辿り着いた喜びのあまりか。この禍々しさを纏う氣の乱れに気付かず、開けるのか! ⋯⋯あの、帝の禁じられた御簾みすを」━━━━⋯⋯。








 ⋯⋯━━━━その頃。


 綾麿あやまろの呟きと時を同じくして、帝を守る最後の防御壁は、蒼妖鬼そうようき妖力ちからずくの前に完全に屈していた。


 強固な錠前の輪。

 それが扉の取っ手ごと粉々に砕け散っていた。


 錠前だけではない。

 夜御殿よんのおとどの扉もまた今、ぽっかりと大きな口を開けている。


 それはむしろ、この不測の侵入者を逆に歓迎しているようにも見える程だった。



《⋯⋯わわわ、やったわ!!》


 妖凛刀ようりんとうを脇に構えた蒼妖鬼そうようきは、弾む心をそのまま映したように、跳ねるようにして部屋の中へと飛び込んだ。



 その時だった。

 蒼妖鬼そうようきの脳裏に、雷が走るように一つの残像がよぎる。


《⋯⋯え。⋯⋯はぁ!? ⋯⋯嘘でしょ!?》


 感情が思わず口に出る。


 蒼妖鬼そうようきが脳内に見たもの。

 それは綾麿あやまろに破られた、幻影たちが最期に見た景色。

 綾麿あやまろの瞬速の剣閃。

 そして目前に迫り来る村雨むらさめの刃だった。

 


《⋯⋯うぅ、⋯⋯亡者たちの憧れの的のわらわが、人間に触れたり肌を見せるなど、数百年ぶりだと言うのに。⋯⋯な、何て無粋ぶすいな奴なのよ⋯⋯。それに本物のわらわより美しさは相当劣るとは言え、幼気いたいけな分身たちを問答無用で虐めるとは⋯⋯。あの綾麿ものは色恋や乙女心というものが、まるでわからない駄目男ね》


 蒼妖鬼そうようきが不機嫌に頬を膨らませる。

 しかし刻の猶予は無い。

 今にも綾麿あやまろは追いつき、夜御殿ここに乗り込んでくる。

 蒼妖鬼そうようきは後方から近づく氣を警戒しながら、急いで寝所の中を見渡した。



(《⋯⋯駄目男は放っといて。今はまず帝よ、帝》)


 目の前の一段高くなった寝床には、二重の御簾みすが掛かっていた。

 その先に誰かが座している。



 ⋯⋯人影が薄っすらと見えた。



(《居た! これで蒼極鬼そうごくき様に良い報告ができる! きっと今まで見たこと無い程に喜んでもらえる!》)


 蒼妖鬼そうようきの口元がよだれでも垂れそうな程に緩む。

 想像するのは、蒼鬼あおおに総大将である蒼極鬼そうごくきに褒めちぎられ頭を撫でられ、至福の笑みを浮かべている自分の姿。



(《⋯⋯ああああ。蒼極鬼そうごくき様に頭を撫でられるなんて⋯⋯、え、もしかして初めて夜のお誘いを受けちゃう!? ⋯⋯ああああ、地獄に居ながらも極楽浄土。鬼なのに大往生ね。⋯⋯っと、いけない、いけない。蒼極鬼そうごくき様も見ているんだったわ。変なこと口走っちゃう前に、まずは首、首っと》)


 蒼妖鬼そうようきは心を鎮め直すと、妖凛刀ようりんとうの刃先を妖しく光らせた。

 そして二重の御簾みす越しにその人影の前に立った。



《ふふ⋯⋯はじめまして、日本ひのもとの帝さん。その凛々しい御顔を見せてくださいな、わらわの名は蒼妖鬼そうようき現世うつしよの最後のあいてわらわ相務あいつめましょう、どうぞ御心安らかに⋯⋯》



 二重の御簾みすの先。

 帝からの返事は無い。

 


 しかし氣を探る能力に長けている蒼妖鬼そうようきには分かっていた。



 ⋯⋯居る。

 


 ⋯⋯間違いなく、居る。



 ⋯⋯この御簾みすの先に、誰かが居る。




《⋯⋯さあ、わらわと共に地獄へ参りまし⋯⋯》



 殺意を帯びた銀色の瞳を輝かせる。

 嬉しそうに微笑んだ蒼妖鬼そうようきが、妖凛刀ようりんとうを振りかぶり、御簾みすを上げた━━━━⋯⋯。




 ⋯⋯人影が動いた⋯⋯




 ⋯⋯━━━━その時。





 蒼妖鬼そうようきの目の前が、一瞬にして黒の世界に包まれた。



《⋯⋯え?》



 蒼妖鬼そうようきの刻が止まる。



 無音で何かが爆発したような、凄まじい閃光。



 そして全身を襲う衝撃。


 

 真正面からの直撃だった。




 光の波が蒼妖鬼そうようきを飲み込んでいた。






 ⋯⋯そして。






 蒼妖鬼そうようきは一瞬にして後方の宙に激しく、そして大きく吹き飛ばされていた。



 その飛ばされた身体と様子は、例えるならば、見えない巨大なてのひらに鷲掴みにされ、遥か遠く天高くへと思い切りぶん投げられた⋯⋯、小さな雛人形ひなにんぎょうのようだった━━━━。




第73話も最後までお読み頂きありがとうございました。

ブックマーク、☆評価、感想等よろしくお願いします。その優しさが新たな創作の励みに繋がります(*^_^*)。

次回第74話「死闘の終焉」は、6月24日もしくは25日に投稿予定です。


【改稿履歴】

改稿履歴は全て誤字脱字等や細部表現の訂正です。

過去話も誤字脱字を見つけ次第、訂正しています。

内容は全く変わっていませんので御安心ください。

(いつもたくさんの誤字脱字ばかりで、すみません)


【その他】

↓創作して頂いたオリジナルEDです!

ED①https://suno.com/s/UDlzMnlrwuPI3Apg

ED②https://suno.com/s/dKiO9ljefO0sG1RT

こちらも良かったらぜひ聴いてみてください♪

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