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羅生門怪鬼譚  作者: 夏川凪
第一鐘 京都六歌死闘編

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34/51

第34話  東番の朝 〜暁紅〜

※今回「東番の朝」もかなり長かったため、また2話/前後半投稿に分けました。次回後半部分、第35話「東番の朝〜蒼天〜」も、本日3月7日中には投稿予定です。ぜひこの第34話の後に続けて御一読頂ければ嬉しいです♪


【登場人物紹介】

伊賀の鎌足かまたり━━━━

 江戸城の公儀御庭番こうぎおにわばん伊賀組の小頭こがしらの女忍。伊賀流鎖鎌の使い手。幻斎げんさいに授けられた、七十年前に鬼を滅した伝説の刀『鬼切丸おにきりまる』を手に、鬼が現れた京都御所に援軍として派遣される。裏では朝廷側の探索の密命も帯びる。


平次へいじ━━━━

 伊賀組の中忍。江戸からの援軍の四人の忍の一人。手裏剣の名手。全国各地の情勢に詳しく知識が豊富。お節介焼きな性格で、鎌足かまたりの身だしなみには特にうるさい。


大吾だいご━━━━

 伊賀組の中忍。江戸からの援軍の四人の忍の一人。まだ若くて実戦経験に乏しく、武芸の腕もいまいち。真面目でひたむきな性格。京都では情報伝達が主な任務。


紅皇鬼こうおうき━━━━

 紅鬼あかおにの総大将の修羅しゅら閻魔宮えんまきゅうでは、閻魔王えんまおうの傍で亡者の罪を読み上げる、”司命しめい“の役目に就く。あかと金を基調とした豪華な羽織姿で、死人しびと料理に目がなく、性格は短気で自己中心的で気分屋。紅影鬼こうえいき鎌足かまたりを襲撃させる。


紅呪鬼(こうじゅき)━━━━

 紅鬼あかおに修羅しゅらで官吏のような衣をまとっている。紅鬼あかおに軍総大将の紅皇鬼こうおうきの最側近で、短気な性格の紅皇鬼こうおうきを補佐する。知的で冷静沈着、常に余裕の笑みを浮かべている。


 ━━━━ときは既に九つ半(※21時)を回っていた。


 伊賀忍の京都での本拠となる宿の前も、昼間の活気溢れた人通りはまるで消え去り、春の通り雨が連れてきた風の音だけが聞こえていた。


 先に別れたはずなのに宿に帰ってきた形跡は無く、また一向に戻ってくる気配の無い、鎌足かまたり甚左じんざ

 まるで神隠しのように消えてしまったそんな二人を、平次へいじは宿の前で待ち続けていた。

 

 さらに四半刻(※30分)が経とうとする頃、通りの奥に人影が揺らめいた。

 その影はゆっくりと、平次へいじの方へ近付いてくる。


「⋯⋯っ、だ、誰だ!?」


 平次へいじは腰の刀に手を伸ばした。

 しかし、すぐにその手はつかではなく宙を彷徨さまよい、震える握り拳へと変わった。

 

「⋯⋯ッ、小頭こがしらではないですか! そ、そして、こ、これは⋯⋯、何事!? 一体どうされたのですか!?」


 平次へいじが目を丸くする。


 驚いたのも無理は無い。

 人通りが消えた、真っ暗な夜の通り。

 そんな静寂の夜の闇の中から、小さい身体で甚左じんざを懸命に背負う、鎌足かまたりがゆっくりと現れたのだ。


 その全身は先程の通り雨にしっとりと濡れ、いつもの元気な挨拶は全く無い。

 無言でうつむき、息も荒く、鎖を巻きつけている足の動きもふらふらとおぼつかない。

 しかも着ていたはずの羽織袴はおりはかまは肩に掛け、腰の鬼切丸おにきりまるもどことなく無造作に差したように見え、また露わになった忍服の肩や腕などからは血が滲んでいた。



 暗がりとはいえ、たった一見しただけで、鎌足かまたり甚左じんざの身に何かが起こったことは、間違いなかった。



「⋯⋯じ、甚左じんざ殿⋯⋯、ど、どうなさ⋯⋯、⋯⋯ッ⋯⋯し、死んでいる!?」


 駆け寄った平次へいじが、鎌足かまたりが背負っている悲しい現実に気が付いた。


 その平次へいじの声に、鎌足かまたりは我に返ったように、うつむいていた顔をゆっくりと上げた。


「⋯⋯平次へいじ⋯⋯、どうしよう、甚左じんざが、⋯⋯死んじゃったよぅ」



 ⋯⋯その目は赤く腫れ、大粒の涙が溢れていた。



「⋯⋯ッ、な、何が⋯⋯、どうなって⋯⋯」


「⋯⋯鬼に、⋯⋯紅鬼あかおににやられたんだ」


 甚左じんざを宿の玄関先にそっと横たわらせ、鎌足かまたりが血が滲む腕で涙を拭きながら、悔しさの籠った声で呟いた。



「⋯⋯あ、紅鬼あかおにに!?」


「うん、人形ひとがたの。影や針を使う紅影鬼こうえいきっていう強い修羅しゅらの鬼に⋯⋯、魂や身体を奪われてさ⋯⋯、甚左じんざはいつの間にか、紅影鬼そいつが化けていたんだ⋯⋯」


「⋯⋯そ、そんな⋯⋯、まさか紅鬼おにが!? ⋯⋯小頭こがしらはよく御無事で、よく紅鬼おにに打ち勝ちましたな、いや、流石さすがと言うべきか」


「⋯⋯ううん、万に一つの賭けに、たまたま勝っただけだよ⋯⋯、本当なら殺られてた、今頃は」


「⋯⋯それにしても、⋯⋯甚左じんざ殿、くそっ!! どうしてこんなことに⋯⋯、⋯⋯あぁ、それでも小頭こがしらだけでも、本当に無事でよかった⋯⋯、私だけになってしまったら、どうしようかと⋯⋯、実は、こんな大事の折に言い難いのですが、私たち二人もあの後、⋯⋯あの怪しい公家、綾麿あやまろを追跡する最中に、鬼の群れに襲われ⋯⋯」


「⋯⋯えっ、⋯⋯平次たちも!?」


「ええ、しかも相手は蒼鬼あおおにでした」


「あ、⋯⋯え? そっちは、⋯⋯あ、蒼鬼あおおに!?」


「ええ、背後からいきなり奇襲を受けて乱戦に⋯⋯いや、乱戦など名ばかりだ。実際は身を守るのに精一杯で⋯⋯、命からがら逃げ延びてきた次第⋯⋯」


「⋯⋯あっ、そういえば大吾は!? 大吾だいごも襲われたの!? ⋯⋯ねえ! 大吾だいごは無事なの!?」


 大吾だいごがこの場に居ないことに気づいた鎌足かまたりは、神妙な顔をしている平次へいじに詰め寄った。


「そ、それが⋯⋯、互いに左右の屋根に分かれて追跡していましたので、散り散りに⋯⋯。私のほうが先に宿ここに戻って来たのですが、大吾だいごの姿も小頭こがしらたち同様に何処どこにも無く⋯⋯。私が外で待っていたのは、小頭こがしら甚左じんざ殿だけではないのです、大吾だいごも⋯⋯」


「⋯⋯え、⋯⋯それじゃあ大吾だいごはもしかして⋯⋯蒼鬼おにに⋯⋯」


「⋯⋯その可能性も捨てきれません、残念ながら⋯⋯」


「⋯⋯そ、そんな⋯⋯、甚左じんざに続いて大吾だいごまで⋯⋯?」


「⋯⋯今は一縷いちるの望みを信じて、大吾だいごの帰還を待ちましょう」


 鎌足かまたりが唇を噛みしめる。


「⋯⋯ッ、全部、私のせいだ。甚左じんざになりすましていた紅影鬼こうえいきに乗せられて、綾麿あやまろを追跡させたばっかりに⋯⋯、私を一人にさせる企みを見抜けなかったばっかりに⋯⋯、⋯⋯ッ、くそっ、くそっ!」


 顔をくしゃくしゃにさせた鎌足かまたりの頬に、悔しさの涙が再び流れた。


「⋯⋯小頭こがしら、⋯⋯ッ⋯⋯」


 そんな鎌足かまたりに、平次へいじが慰めの言葉をかけようと近づいた時だった。






 ⋯⋯「⋯⋯小頭こがしら平次へいじさん、遅くなっちゃって、すみません。今、戻りました」






「⋯⋯!?!?」「⋯⋯!!!!」


 

 ⋯⋯通りの暗がりに大吾だいごが立っていた。





「⋯⋯だ、大吾だいごッ!! ⋯⋯ぶ、無事だったのか!?  ⋯⋯良かったああああああぁぁぁぁ」

「⋯⋯大吾だいご、良かった⋯⋯、無事か。心配したぞ。蒼鬼おにに襲われて死んだのではないかと、たった今、小頭こがしらとそんな話をしていたところだ」


「⋯⋯? あ、ええ。何とか、はは。⋯⋯あぁ、でも良かった、上手く逃げられたんですね、平次へいじさんも。御無事で何よりです」



「うわああああああぁぁぁぁ、大吾だいごぉぉぉ」


 鎌足かまたりは思わず、大吾だいごに飛びかかるようにして抱きついていた。



「⋯⋯ちょ、ちょっとぉ!? 一体何なんです!? ⋯⋯小頭こがしら!? いたたた、痛いですよ、そんな強く腰を締めないでくださいよぉ、蒼鬼おにから逃げる時、屋根から落ちて腰を打ってるんですからぁあ」


「良かった⋯⋯、本当に良かった⋯⋯、今まで何してたんだよぉ、⋯⋯馬鹿、馬鹿大吾ぉぉ⋯⋯」


 抱きつきながら涙を浮かべる鎌足かまたりと、顔を赤らめながら困惑する大吾だいご⋯⋯そんな二人の姿を見ながら、傍で平次へいじも安堵の笑顔を浮かべていた。



 抱いついている鎌足かまたりの背中を見つめる平次へいじの瞳に、鎌足かまたりの腰に差している鬼切丸おにきりまるが映る。


 抱きつかれた大吾だいごの瞳にも、抱きつく鎌足かまたりの身体の横から、鬼切丸おにきりまるつかがちらりと映る。



 大吾だいごは首を傾げ、頭を掻きながら、恥ずかしそうに呟いた。


「⋯⋯小頭こがしら、大事な鬼切丸おにきりまるが、腰から落ちちゃいそうですよぉ? ⋯⋯で、⋯⋯いや、あの、⋯⋯平次へいじさんから聞いたと思うんですが、蒼鬼あおおにの群れに襲われまして⋯⋯、無我夢中で逃げて、気づいたら全然知らない場所にいて⋯⋯、それで帰りの道がわからなくなってしまって、迷子に⋯⋯。恥ずかしながら、今の今まで町中を彷徨さまよってたんですよ、⋯⋯は、ははは、あはははははは、⋯⋯ん⋯⋯、⋯⋯あ、あれ? 甚左じんざさんが寝て⋯⋯、⋯⋯⋯⋯え? ⋯⋯じ、甚左じんざさん⋯⋯? 小頭こがしら⋯⋯甚左じんざさんが⋯⋯⋯⋯死ん」⋯⋯⋯⋯










 ━━━━人間界で鎌足かまたりたちが生の喜びと死の悲しみを味わっている頃。




 ━━━━地獄のあかの洞窟、紅鬼洞こうきどう




 洞窟の最深部、深いくれないの色に染まる大きな広間、その上座。

 あかの鬼の軍を率いる総大将の紅皇鬼こうおうきは、巨大な朱色のさかずきを手に、豪華な椅子に腰を掛けながら満面の笑みを浮かべていた。

 目の前の机⋯⋯その上に置かれたそのさかずきの中には、髑髏どくろ徳利とっくりからなみなみと注がれた、深紅しんくの血。

 その新鮮な血を心の底から味わい、美酒ならぬ美血びけつに酔いしれていた。


 その広間は、床や壁や天井⋯⋯その全てが人間の白骨の装飾で彩られている。

 頭を抱えて苦しみ悶える骸骨の置物に、壁の至る所に埋め込まれた無数の髑髏しゃれこうべ

 そして天井からは、灯りの替わりに逆吊りにされている白骨化したむくろ

 その物言わぬ白いかたまりの空洞の目からは、蝋燭ろうそくくれない灯火ともしびが垣間見えていた。



《⋯⋯ぷはぁっ。⋯⋯しぼりたての亡者の血は最高だ。七十年振りの日本ひのもと侵略、その再開の前祝いはこれに限る》



 椅子にふんぞり返った紅皇鬼こうおうきは、すこぶる上機嫌だった。

 気分屋で地獄に名をとどろかせている紅皇鬼こうおうきが、ここまで連日上機嫌なのは相当に珍しいことだった。



《ふふふ⋯⋯、もうすぐ紅影鬼こうえいきから、江戸からの援軍を一掃したという報が届くだろう。⋯⋯まだか、まだか》


 針の山の番人でもあり、何百年と生き永らえて妖力を高めている紅影鬼こうえいきに、かなう人間などいるはずがない。

 もしかしたら蒼鬼あおおにや上級の公家たちの無数の首までも携えて、意気揚々と紅鬼洞こうきどうに帰還してくるかもしれない。


 そんな高まる期待の数々が、紅皇鬼こうおうきの興奮をいやおうでも高めていた。



《⋯⋯日本ひのもと京都の頼みの綱の『六歌戦ろっかせん』。その考えも動きも我が紅鬼あかおに軍には筒抜け⋯⋯、これで江戸の援軍も紅影鬼こうえいきが片付ければ⋯⋯、⋯⋯ふふふ、ふはははははは! これは京都の実効支配までは一月ひとつき足らず。どう考えても日本ひのもと全土を征するのに三月みつきもかからんな》



 そんな紅皇鬼こうおうきの自軍自賛のにやけの最中、唐突に広間の扉が開いた。


 その扉から中に入ってきたのは、珍しく苦々しい表情を浮かべた紅鬼あかおに軍の副将格の紅呪鬼こうじゅきだった。

 その紅呪鬼こうじゅきの口から告げられた言葉で、紅皇鬼こうおうきの上機嫌と夢心地は、突然に終わりを迎えた。


《⋯⋯紅皇鬼こうおうき様、良くない知らせです。紅影鬼こうえいきによる敵の強さの様子見ですが⋯⋯、日本ひのもと征服の足掛かりどころの話ではなくなりました》



 それは、紅皇鬼こうおうきだけではなく、全ての紅鬼あかおににも驚きを与える、圧倒的に”良くない知らせ”だった。



《⋯⋯紅影鬼こうえいきが江戸の援軍、その内の一人、伊賀忍者の鎌足かまたりという者にたおされました》



《⋯⋯⋯あぁん!?》


 つい今しがたまで上機嫌だった紅皇鬼こうおうきの表情が、みるみるうちに険しく変わる。

 自制できないほど沸き上がるいきどおりに、手にしていたさかずきを床に思い切り投げつけた。

 粉々になって砕けるさかずき

 飲みかけだった生々しい血が、周囲の床に飛び散った。



《まさか!? 江戸の奴等やつら紅影鬼やつを⋯⋯影法師かげぼうしの術を、たおす程の強さを持っている、って言うのか!? ⋯⋯紅影鬼こうえいきが敵を甘く見て油断したのか!? ⋯⋯いや、油断していたとしてもだ、そんなこと、全くもって信じられん⋯⋯! それに日本ひのもと協力者あいつの情報だと、江戸にそんな強さを持つ剣士は居ない、そう言っていただろう!?》


《更にその鎌足かまたりと言う者、何と七十年前にあおの鬼を封じた鬼切丸おにきりまる半刃はんじんを持っていた、⋯⋯との話》


 紅呪鬼こうじゅきに、いつもの余裕で不敵な笑顔は微塵みじんも見られない。

 鬼切丸おにきりまるの名を口にした紅呪鬼こうじゅきは、過去の敗戦の痛みを思い出すように、更に口元をゆがませた。


 その憎々しげな“ゆがみ”は、報告を受けた紅皇鬼こうおうきの口元も同様だった。


《⋯⋯!? お、鬼切丸おにきりまるだと⋯⋯? あの七十年前の鬼切丸おにきりまるか!? ⋯⋯妖力を維持したまま、まだ人間界に存在していたというのか⋯⋯!?》


《詳細は不明ですが、存在の件はまず事実かと》


《⋯⋯ッ、だが、半刃はんじんで完全体ではないとは言え、その鎌足かまたりとかいう奴が、あの忌々しい刀を持っているのは何故(なぜ)だ!? 羅刹つなぎは何と言っている!?》


《⋯⋯それが。⋯⋯鬼切丸おにきりまるの戦いを目にした繋ぎの羅刹ものもまた、紅影鬼こうえいきの消滅後、すぐに消滅したよしにて、鬼切丸おにきりまるを手にするに至った、その経緯いきさつまでは分からずじまい⋯⋯、ただ、恐らくは江戸の『六歌戦ろっかせん』のかつての生き残り⋯⋯百地ももち幻斎げんさいとのえにし、かと。鬼切丸おにきりまる百地(やつ)から授けられたものと思われます》


《⋯⋯ちっ、なんて、⋯⋯なんて使えねえ羅刹つなぎだ》



《しかも、悪い知らせがもう一つ。その羅刹つなぎの消滅の件。最期を見届けた紅蓮鬼こうれんきによりますと、恐るべき男に葬魂そうこんを見破られ⋯⋯、一閃のもとたおされた、とのこと》


《我ら紅鬼あかおに葬魂そうこんの術が見破れただと!? ⋯⋯まさか! ⋯⋯ッ、誰だ、その男は!?》


《⋯⋯紅蓮鬼こうれんきから伝え聞いた、その男の名は、⋯⋯現『六歌戦ろっかせん』の一人。⋯⋯不知火中将綾麿しらぬいちゅうじょうあやまろ。何でも油断ならざる妖刀⋯⋯『村雨むらさめ』とやらを持っているとか》


《⋯⋯はぁ!? 『六歌戦ろっかせん』だぁ!? ⋯⋯ッ!?、ふざけるな! おい! 何がどうなっている!? 日本ひのもと協力者あやつ⋯⋯あのいけしゃあしゃあとした”あま“には連絡したのか!?》


《⋯⋯はい、即座に。⋯⋯「綾麿あやつの単独で動いたことゆえに御心配めされるな。大事だいじ無い、放っておいて構わぬ。あの綾麿おとこは私が何とかする、ゆるりと待たれよ」⋯⋯とだけ返事が》


《⋯⋯何だとぉ!? ⋯⋯ちっ、羅刹どいつ人間こいつも使えねえ奴ばかりだ、⋯⋯頭にくるぜ、⋯⋯紅影鬼こうえいきたおした鬼切丸おにきりまるを持つ援軍の剣士に、葬魂そうこんの術を見破った『六歌戦ろっかせん』の男⋯⋯、この二人が手を組む、ってのにか!? ⋯⋯何を悠長なことを言ってやがる!? ⋯⋯我慢できねえ、あのあまの策なんぞ、のんびりと待っていられるか! 今すぐ何とかしろ! 一秒でも早くその二匹を始末しろ!!》


 怒髪どはつ天をく。

 この時の紅皇鬼こうおうきの表情は、まさにそんな言葉が似合っていた。


 そんな怒りの紅皇鬼こうおうきに対して、紅呪鬼こうじゅきは申し訳なさそうに渋い表情を浮かべた。



《⋯⋯その前にあとまだ一つ、悪い知らせが》


《⋯⋯はあぁ? まだあるのか!? 紅呪鬼おまえ、良くない知らせやら、悪い知らせやら、一体幾つ俺が腹がたつ情報を持ってんだ!? 小出しにするな! まとめて一度に言え! 紅呪鬼おまえは俺に次々と不幸を運ぶ行商鬼おしうりか!?》


 紅皇鬼こうおうきは言葉のたびに机を激しく叩きながら、もはや半ば八つ当たり気味に紅呪鬼こうじゅきに向かって吠えていた。



《⋯⋯繋ぎの羅刹らせつの、消息を絶つ前の最後の報告。それによれば、我々紅鬼あかおにではない何者かの攻撃により、京都の一画いっかくが激しく炎上していたとのこと。⋯⋯それで紅蓮鬼こうれんきを偵察に送り込んでみたのですが⋯⋯、現場に残る妖気から、どうやらこの炎は、蒼鬼あおおに蒼炎鬼そうえんきの仕業》


《⋯⋯な、何だと!? ということは⋯⋯、ちぃぃっ、蒼鬼あおおに奴等やつらもやはり動き出したか⋯⋯、⋯⋯ッ、あの糞鬼くそおにどもめ、また俺たちを出し抜く気か⋯⋯、蒼炎鬼そうえんきはどうした!? ま、まさか俺たちより先に御所に⋯⋯!?》


 立ち上がった紅皇鬼こうおうきの顔は、紅鬼あかおににも関わらず、⋯⋯はっきりと青ざめていた。



《⋯⋯いえ。それ”だけ“は御安心ください。蒼炎鬼そうえんきたおされ、消滅。⋯⋯ちなみに蒼炎鬼そうえんきたおしたのもまた、先の男『六歌戦ろっかせん綾麿あやまろとのこと》 


《⋯⋯ッ、⋯⋯そ、そうか、危ねぇ、危ねぇ》


 やっと一つだけ吉報が聞けた紅皇鬼こうおうきは、安堵の表情を浮かべながら、力が抜けたように再び椅子に腰を下ろした。



蒼炎鬼そうえんきしりぞけたことだけは、綾麿そいつに感謝だ、⋯⋯しかし綾麿あやまろという男の実力、『村雨むらさめ』とか言う刀の妖力、疑いようがないな。⋯⋯その男、紅影鬼こうえいきを斃した江戸の剣士同様、生かしておいては間違いなく俺たちの災いになる。二人とも早く息の根を止めねば。⋯⋯だがしかし、人間やつら以上に不愉快なのは、にっく蒼鬼あおおにたちよ》


《⋯⋯かねてより懸念はしていましたが、やはり動き出しましたな、奴等も。狙いは我々と同じ、帝の命、日本ひのもと京都の制圧⋯⋯》


《⋯⋯ふん、蒼鬼共あいつらの思い通りにさせるものか。⋯⋯絶対に京都御所の覇権は譲らねえ。⋯⋯御所あそこや京都の町は俺たち紅鬼あかおに軍が絶対に取る。日本ひのもと征服の最前線の本拠、そして俺たち紅鬼あかおにの人間界での都とする予定だからな》


《⋯⋯まさしく。⋯⋯この状況、紅皇鬼こうおうき様、次の一手、どうされますか?》



 何かを企むような得意気な顔で、再び椅子にふんぞり返った紅皇鬼こうおうきは、この紅呪鬼こうじゅきの問いかけに間髪入れずに即答した。



《決まってんだろ、蒼鬼あおおにより先に御所を制圧する。⋯⋯紅呪鬼こうじゅきよ。血気盛んな羅刹らせつを二十鬼、選抜しろ》



《⋯⋯羅刹らせつを? 二十鬼も、ですか?》



《それだけじゃねえ。紅鋏鬼こうきょうきも呼んでこい。毎日毎日、罪人どもの舌をひっこ抜くだけじゃ、飽き飽きしてるだろう。⋯⋯あと“曠野処こうやしょ“の番人、紅閃鬼こうせんきもだ。⋯⋯それと、そうだな、紅斬鬼こうざんきも念のために加えておけば、今度こそ絶対に間違いは起こらねえ。⋯⋯この『修羅しゅら三鬼さんきと二十の羅刹らせつで、その鎌足かまたり綾麿あやまろ、二人がいる京都御所を襲え! ⋯⋯もし蒼鬼あおおにの奴等が邪魔してきたり鉢合わせたら、容赦なく奴等もまとめて叩き潰せ!》



 紅皇鬼こうおうきの下した新たな命令。


 それは怒りに任せた、無計画極まりない“思いつき”とも見えた。

 感情では決して動かず、慎重に事を運ぶ性格の紅呪鬼こうじゅきの顔色が途端に曇る。



 しかし⋯⋯。


 これ以上は何を言っても聞く耳は持たない。


 そんな紅皇鬼こうおうきの性格を知る紅呪鬼こうじゅきは、《しかし》の後、言いたい言葉のほとんどを我慢して飲み込んだ。



《しかし⋯⋯、いざ攻めても、必ずしもその二人ともが京都御所に都合良く居るかどうか⋯⋯》


《⋯⋯構わねえ、たとえ居なくても、京都御所を焼け野原にすれば、否応いやおう無しにすぐに駆けつけるはずだ。それが人間って生き物のさがだろう? ⋯⋯おい、今、人間世界のとき如何いかほどだ?》


《⋯⋯の刻をとうに過ぎ、日付も変わりました。あと一刻半もすれば、陽も昇り始めるでしょう》



《⋯⋯暁紅ぎょうこう、近し、⋯⋯か》


 紅皇鬼こうおうきは再び椅子からゆっくりと立ち上がる。



 そして力強い握り拳を作りながら、凄まじい”鬼“の形相で、日本ひのもと京都侵略⋯⋯その決行の日時を告げた。



《⋯⋯よし、ならば侵攻は、“今日”、そして決行のときは、”暮れ六つ“ 過ぎとする! 蒼鬼の奴等やつらと人間へ、改めて宣戦布告だ。そのくれないの日輪が再び沈みゆく京都御所の上空、大々的に華々しく、あか羅生門らしょうもん⋯⋯二十と三の邪道じゃどうを開け! ⋯⋯人間も蒼鬼あおおにも関係ねえ、目の前の人鬼もの、その全てをぶった斬れ!! 必ずや帝の命をれ!! ⋯⋯ふははははは、⋯⋯いよいよだ、⋯⋯“暮れ六つ”を合図に、七十年ぶりの全面戦争、突入だ!!》━━━━。




第34話も最後までお読み頂きありがとうございました。

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改稿履歴は全て誤字脱字等の訂正です。内容は全く変わっていませんので御安心ください♪(いつも無数の誤字脱字ばかりで、すみません)

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― 新着の感想 ―
鬼怖いですね:( ;´꒳`;): お亡くなりになられたのはお辛いけど亡骸を確保できたのは幸いです。。。雑にされては可哀想なので……
《⋯⋯ぷはぁっ。⋯⋯搾しぼりたての亡者の血は最高だ。七十年振りの日本ひのもと侵略、その再開の前祝いは血これに限る》 ↑牛乳っぽくwww
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