第34話 東番の朝 〜暁紅〜
※今回「東番の朝」もかなり長かったため、また2話/前後半投稿に分けました。次回後半部分、第35話「東番の朝〜蒼天〜」も、本日3月7日中には投稿予定です。ぜひこの第34話の後に続けて御一読頂ければ嬉しいです♪
【登場人物紹介】
伊賀の鎌足━━━━
江戸城の公儀御庭番伊賀組の小頭の女忍。伊賀流鎖鎌の使い手。幻斎に授けられた、七十年前に鬼を滅した伝説の刀『鬼切丸』を手に、鬼が現れた京都御所に援軍として派遣される。裏では朝廷側の探索の密命も帯びる。
平次━━━━
伊賀組の中忍。江戸からの援軍の四人の忍の一人。手裏剣の名手。全国各地の情勢に詳しく知識が豊富。お節介焼きな性格で、鎌足の身だしなみには特にうるさい。
大吾━━━━
伊賀組の中忍。江戸からの援軍の四人の忍の一人。まだ若くて実戦経験に乏しく、武芸の腕もいまいち。真面目でひたむきな性格。京都では情報伝達が主な任務。
紅皇鬼━━━━
紅鬼の総大将の修羅。閻魔宮では、閻魔王の傍で亡者の罪を読み上げる、”司命“の役目に就く。紅と金を基調とした豪華な羽織姿で、死人料理に目がなく、性格は短気で自己中心的で気分屋。紅影鬼に鎌足を襲撃させる。
紅呪鬼━━━━
紅鬼の修羅で官吏のような衣を纏っている。紅鬼軍総大将の紅皇鬼の最側近で、短気な性格の紅皇鬼を補佐する。知的で冷静沈着、常に余裕の笑みを浮かべている。
━━━━刻は既に九つ半(※21時)を回っていた。
伊賀忍の京都での本拠となる宿の前も、昼間の活気溢れた人通りはまるで消え去り、春の通り雨が連れてきた風の音だけが聞こえていた。
先に別れたはずなのに宿に帰ってきた形跡は無く、また一向に戻ってくる気配の無い、鎌足と甚左。
まるで神隠しのように消えてしまったそんな二人を、平次は宿の前で待ち続けていた。
さらに四半刻(※30分)が経とうとする頃、通りの奥に人影が揺らめいた。
その影はゆっくりと、平次の方へ近付いてくる。
「⋯⋯っ、だ、誰だ!?」
平次は腰の刀に手を伸ばした。
しかし、すぐにその手は柄ではなく宙を彷徨い、震える握り拳へと変わった。
「⋯⋯ッ、小頭ではないですか! そ、そして、こ、これは⋯⋯、何事!? 一体どうされたのですか!?」
平次が目を丸くする。
驚いたのも無理は無い。
人通りが消えた、真っ暗な夜の通り。
そんな静寂の夜の闇の中から、小さい身体で甚左を懸命に背負う、鎌足がゆっくりと現れたのだ。
その全身は先程の通り雨にしっとりと濡れ、いつもの元気な挨拶は全く無い。
無言で俯き、息も荒く、鎖を巻きつけている足の動きもふらふらとおぼつかない。
しかも着ていたはずの羽織袴は肩に掛け、腰の鬼切丸もどことなく無造作に差したように見え、また露わになった忍服の肩や腕などからは血が滲んでいた。
暗がりとはいえ、たった一見しただけで、鎌足や甚左の身に何かが起こったことは、間違いなかった。
「⋯⋯じ、甚左殿⋯⋯、ど、どうなさ⋯⋯、⋯⋯ッ⋯⋯し、死んでいる!?」
駆け寄った平次が、鎌足が背負っている悲しい現実に気が付いた。
その平次の声に、鎌足は我に返ったように、俯いていた顔をゆっくりと上げた。
「⋯⋯平次⋯⋯、どうしよう、甚左が、⋯⋯死んじゃったよぅ」
⋯⋯その目は赤く腫れ、大粒の涙が溢れていた。
「⋯⋯ッ、な、何が⋯⋯、どうなって⋯⋯」
「⋯⋯鬼に、⋯⋯紅鬼にやられたんだ」
甚左を宿の玄関先にそっと横たわらせ、鎌足が血が滲む腕で涙を拭きながら、悔しさの籠った声で呟いた。
「⋯⋯あ、紅鬼に!?」
「うん、人形の。影や針を使う紅影鬼っていう強い修羅の鬼に⋯⋯、魂や身体を奪われてさ⋯⋯、甚左はいつの間にか、紅影鬼が化けていたんだ⋯⋯」
「⋯⋯そ、そんな⋯⋯、まさか紅鬼が!? ⋯⋯小頭はよく御無事で、よく紅鬼に打ち勝ちましたな、いや、流石と言うべきか」
「⋯⋯ううん、万に一つの賭けに、たまたま勝っただけだよ⋯⋯、本当なら殺られてた、今頃は」
「⋯⋯それにしても、⋯⋯甚左殿、くそっ!! どうしてこんなことに⋯⋯、⋯⋯あぁ、それでも小頭だけでも、本当に無事でよかった⋯⋯、私だけになってしまったら、どうしようかと⋯⋯、実は、こんな大事の折に言い難いのですが、私たち二人もあの後、⋯⋯あの怪しい公家、綾麿を追跡する最中に、鬼の群れに襲われ⋯⋯」
「⋯⋯えっ、⋯⋯平次たちも!?」
「ええ、しかも相手は蒼鬼でした」
「あ、⋯⋯え? そっちは、⋯⋯あ、蒼鬼!?」
「ええ、背後からいきなり奇襲を受けて乱戦に⋯⋯いや、乱戦など名ばかりだ。実際は身を守るのに精一杯で⋯⋯、命からがら逃げ延びてきた次第⋯⋯」
「⋯⋯あっ、そういえば大吾は!? 大吾も襲われたの!? ⋯⋯ねえ! 大吾は無事なの!?」
大吾がこの場に居ないことに気づいた鎌足は、神妙な顔をしている平次に詰め寄った。
「そ、それが⋯⋯、互いに左右の屋根に分かれて追跡していましたので、散り散りに⋯⋯。私のほうが先に宿に戻って来たのですが、大吾の姿も小頭たち同様に何処にも無く⋯⋯。私が外で待っていたのは、小頭と甚左殿だけではないのです、大吾も⋯⋯」
「⋯⋯え、⋯⋯それじゃあ大吾はもしかして⋯⋯蒼鬼に⋯⋯」
「⋯⋯その可能性も捨てきれません、残念ながら⋯⋯」
「⋯⋯そ、そんな⋯⋯、甚左に続いて大吾まで⋯⋯?」
「⋯⋯今は一縷の望みを信じて、大吾の帰還を待ちましょう」
鎌足が唇を噛みしめる。
「⋯⋯ッ、全部、私のせいだ。甚左になりすましていた紅影鬼に乗せられて、綾麿を追跡させたばっかりに⋯⋯、私を一人にさせる企みを見抜けなかったばっかりに⋯⋯、⋯⋯ッ、くそっ、くそっ!」
顔をくしゃくしゃにさせた鎌足の頬に、悔しさの涙が再び流れた。
「⋯⋯小頭、⋯⋯ッ⋯⋯」
そんな鎌足に、平次が慰めの言葉をかけようと近づいた時だった。
⋯⋯「⋯⋯小頭、平次さん、遅くなっちゃって、すみません。今、戻りました」
「⋯⋯!?!?」「⋯⋯!!!!」
⋯⋯通りの暗がりに大吾が立っていた。
「⋯⋯だ、大吾ッ!! ⋯⋯ぶ、無事だったのか!? ⋯⋯良かったああああああぁぁぁぁ」
「⋯⋯大吾、良かった⋯⋯、無事か。心配したぞ。蒼鬼に襲われて死んだのではないかと、たった今、小頭とそんな話をしていたところだ」
「⋯⋯? あ、ええ。何とか、はは。⋯⋯あぁ、でも良かった、上手く逃げられたんですね、平次さんも。御無事で何よりです」
「うわああああああぁぁぁぁ、大吾ぉぉぉ」
鎌足は思わず、大吾に飛びかかるようにして抱きついていた。
「⋯⋯ちょ、ちょっとぉ!? 一体何なんです!? ⋯⋯小頭!? いたたた、痛いですよ、そんな強く腰を締めないでくださいよぉ、蒼鬼から逃げる時、屋根から落ちて腰を打ってるんですからぁあ」
「良かった⋯⋯、本当に良かった⋯⋯、今まで何してたんだよぉ、⋯⋯馬鹿、馬鹿大吾ぉぉ⋯⋯」
抱きつきながら涙を浮かべる鎌足と、顔を赤らめながら困惑する大吾⋯⋯そんな二人の姿を見ながら、傍で平次も安堵の笑顔を浮かべていた。
抱いついている鎌足の背中を見つめる平次の瞳に、鎌足の腰に差している鬼切丸が映る。
抱きつかれた大吾の瞳にも、抱きつく鎌足の身体の横から、鬼切丸の柄がちらりと映る。
大吾は首を傾げ、頭を掻きながら、恥ずかしそうに呟いた。
「⋯⋯小頭、大事な鬼切丸が、腰から落ちちゃいそうですよぉ? ⋯⋯で、⋯⋯いや、あの、⋯⋯平次さんから聞いたと思うんですが、蒼鬼の群れに襲われまして⋯⋯、無我夢中で逃げて、気づいたら全然知らない場所にいて⋯⋯、それで帰りの道がわからなくなってしまって、迷子に⋯⋯。恥ずかしながら、今の今まで町中を彷徨ってたんですよ、⋯⋯は、ははは、あはははははは、⋯⋯ん⋯⋯、⋯⋯あ、あれ? 甚左さんが寝て⋯⋯、⋯⋯⋯⋯え? ⋯⋯じ、甚左さん⋯⋯? 小頭⋯⋯甚左さんが⋯⋯⋯⋯死ん」⋯⋯⋯⋯
━━━━人間界で鎌足たちが生の喜びと死の悲しみを味わっている頃。
━━━━地獄の紅の洞窟、紅鬼洞。
洞窟の最深部、深い紅の色に染まる大きな広間、その上座。
紅の鬼の軍を率いる総大将の紅皇鬼は、巨大な朱色の盃を手に、豪華な椅子に腰を掛けながら満面の笑みを浮かべていた。
目の前の机⋯⋯その上に置かれたその盃の中には、髑髏の徳利からなみなみと注がれた、深紅の血。
その新鮮な血を心の底から味わい、美酒ならぬ美血に酔いしれていた。
その広間は、床や壁や天井⋯⋯その全てが人間の白骨の装飾で彩られている。
頭を抱えて苦しみ悶える骸骨の置物に、壁の至る所に埋め込まれた無数の髑髏。
そして天井からは、灯りの替わりに逆吊りにされている白骨化した骸。
その物言わぬ白い骸の空洞の目からは、蝋燭の紅の灯火が垣間見えていた。
《⋯⋯ぷはぁっ。⋯⋯搾りたての亡者の血は最高だ。七十年振りの日本侵略、その再開の前祝いは血に限る》
椅子にふんぞり返った紅皇鬼は、すこぶる上機嫌だった。
気分屋で地獄に名を轟かせている紅皇鬼が、ここまで連日上機嫌なのは相当に珍しいことだった。
《ふふふ⋯⋯、もうすぐ紅影鬼から、江戸からの援軍を一掃したという報が届くだろう。⋯⋯まだか、まだか》
針の山の番人でもあり、何百年と生き永らえて妖力を高めている紅影鬼に、敵う人間などいるはずがない。
もしかしたら蒼鬼や上級の公家たちの無数の首までも携えて、意気揚々と紅鬼洞に帰還してくるかもしれない。
そんな高まる期待の数々が、紅皇鬼の興奮を否が応でも高めていた。
《⋯⋯日本京都の頼みの綱の『六歌戦』。その考えも動きも我が紅鬼軍には筒抜け⋯⋯、これで江戸の援軍も紅影鬼が片付ければ⋯⋯、⋯⋯ふふふ、ふはははははは! これは京都の実効支配までは一月足らず。どう考えても日本全土を征するのに三月もかからんな》
そんな紅皇鬼の自軍自賛のにやけの最中、唐突に広間の扉が開いた。
その扉から中に入ってきたのは、珍しく苦々しい表情を浮かべた紅鬼軍の副将格の紅呪鬼だった。
その紅呪鬼の口から告げられた言葉で、紅皇鬼の上機嫌と夢心地は、突然に終わりを迎えた。
《⋯⋯紅皇鬼様、良くない知らせです。紅影鬼による敵の強さの様子見ですが⋯⋯、日本征服の足掛かりどころの話ではなくなりました》
それは、紅皇鬼だけではなく、全ての紅鬼にも驚きを与える、圧倒的に”良くない知らせ”だった。
《⋯⋯紅影鬼が江戸の援軍、その内の一人、伊賀忍者の鎌足という者に斃されました》
《⋯⋯⋯あぁん!?》
つい今しがたまで上機嫌だった紅皇鬼の表情が、みるみるうちに険しく変わる。
自制できないほど沸き上がる憤りに、手にしていた盃を床に思い切り投げつけた。
粉々になって砕ける盃。
飲みかけだった生々しい血が、周囲の床に飛び散った。
《まさか!? 江戸の奴等が紅影鬼を⋯⋯影法師の術を、斃す程の強さを持っている、って言うのか!? ⋯⋯紅影鬼が敵を甘く見て油断したのか!? ⋯⋯いや、油断していたとしてもだ、そんなこと、全くもって信じられん⋯⋯! それに日本の協力者の情報だと、江戸にそんな強さを持つ剣士は居ない、そう言っていただろう!?》
《更にその鎌足と言う者、何と七十年前に蒼の鬼を封じた鬼切丸の半刃を持っていた、⋯⋯との話》
紅呪鬼に、いつもの余裕で不敵な笑顔は微塵も見られない。
鬼切丸の名を口にした紅呪鬼は、過去の敗戦の痛みを思い出すように、更に口元を歪ませた。
その憎々しげな“歪み”は、報告を受けた紅皇鬼の口元も同様だった。
《⋯⋯!? お、鬼切丸だと⋯⋯? あの七十年前の鬼切丸か!? ⋯⋯妖力を維持したまま、まだ人間界に存在していたというのか⋯⋯!?》
《詳細は不明ですが、存在の件はまず事実かと》
《⋯⋯ッ、だが、半刃で完全体ではないとは言え、その鎌足とかいう奴が、あの忌々しい刀を持っているのは何故だ!? 羅刹は何と言っている!?》
《⋯⋯それが。⋯⋯鬼切丸の戦いを目にした繋ぎの羅刹もまた、紅影鬼の消滅後、すぐに消滅した由にて、鬼切丸を手にするに至った、その経緯までは分からず終い⋯⋯、ただ、恐らくは江戸の『六歌戦』のかつての生き残り⋯⋯百地幻斎との縁、かと。鬼切丸は百地から授けられたものと思われます》
《⋯⋯ちっ、なんて、⋯⋯なんて使えねえ羅刹だ》
《しかも、悪い知らせがもう一つ。その羅刹の消滅の件。最期を見届けた紅蓮鬼によりますと、恐るべき男に葬魂を見破られ⋯⋯、一閃の下に斃された、とのこと》
《我ら紅鬼の葬魂の術が見破れただと!? ⋯⋯まさか! ⋯⋯ッ、誰だ、その男は!?》
《⋯⋯紅蓮鬼から伝え聞いた、その男の名は、⋯⋯現『六歌戦』の一人。⋯⋯不知火中将綾麿。何でも油断ならざる妖刀⋯⋯『村雨』とやらを持っているとか》
《⋯⋯はぁ!? 『六歌戦』だぁ!? ⋯⋯ッ!?、ふざけるな! おい! 何がどうなっている!? 日本の協力者⋯⋯あのいけしゃあしゃあとした”女“には連絡したのか!?》
《⋯⋯はい、即座に。⋯⋯「綾麿の単独で動いたこと故に御心配めされるな。大事無い、放っておいて構わぬ。あの綾麿は私が何とかする、ゆるりと待たれよ」⋯⋯とだけ返事が》
《⋯⋯何だとぉ!? ⋯⋯ちっ、羅刹も人間も使えねえ奴ばかりだ、⋯⋯頭にくるぜ、⋯⋯紅影鬼を斃した鬼切丸を持つ援軍の剣士に、葬魂の術を見破った『六歌戦』の男⋯⋯、この二人が手を組む、ってのにか!? ⋯⋯何を悠長なことを言ってやがる!? ⋯⋯我慢できねえ、あの女の策なんぞ、のんびりと待っていられるか! 今すぐ何とかしろ! 一秒でも早くその二匹を始末しろ!!》
怒髪天を衝く。
この時の紅皇鬼の表情は、まさにそんな言葉が似合っていた。
そんな怒りの紅皇鬼に対して、紅呪鬼は申し訳なさそうに渋い表情を浮かべた。
《⋯⋯その前にあとまだ一つ、悪い知らせが》
《⋯⋯はあぁ? まだあるのか!? 紅呪鬼、良くない知らせやら、悪い知らせやら、一体幾つ俺が腹がたつ情報を持ってんだ!? 小出しにするな! 纏めて一度に言え! 紅呪鬼は俺に次々と不幸を運ぶ行商鬼か!?》
紅皇鬼は言葉のたびに机を激しく叩きながら、もはや半ば八つ当たり気味に紅呪鬼に向かって吠えていた。
《⋯⋯繋ぎの羅刹の、消息を絶つ前の最後の報告。それによれば、我々紅鬼ではない何者かの攻撃により、京都の一画が激しく炎上していたとのこと。⋯⋯それで紅蓮鬼を偵察に送り込んでみたのですが⋯⋯、現場に残る妖気から、どうやらこの炎は、蒼鬼の蒼炎鬼の仕業》
《⋯⋯な、何だと!? ということは⋯⋯、ちぃぃっ、蒼鬼の奴等もやはり動き出したか⋯⋯、⋯⋯ッ、あの糞鬼どもめ、また俺たちを出し抜く気か⋯⋯、蒼炎鬼はどうした!? ま、まさか俺たちより先に御所に⋯⋯!?》
立ち上がった紅皇鬼の顔は、紅鬼にも関わらず、⋯⋯はっきりと青ざめていた。
《⋯⋯いえ。それ”だけ“は御安心ください。蒼炎鬼は斃され、消滅。⋯⋯ちなみに蒼炎鬼を斃したのもまた、先の男『六歌戦』綾麿とのこと》
《⋯⋯ッ、⋯⋯そ、そうか、危ねぇ、危ねぇ》
やっと一つだけ吉報が聞けた紅皇鬼は、安堵の表情を浮かべながら、力が抜けたように再び椅子に腰を下ろした。
《蒼炎鬼を滅けたことだけは、綾麿に感謝だ、⋯⋯しかし綾麿という男の実力、『村雨』とか言う刀の妖力、疑いようがないな。⋯⋯その男、紅影鬼を斃した江戸の剣士同様、生かしておいては間違いなく俺たちの災いになる。二人とも早く息の根を止めねば。⋯⋯だがしかし、人間以上に不愉快なのは、憎き蒼鬼たちよ》
《⋯⋯かねてより懸念はしていましたが、やはり動き出しましたな、奴等も。狙いは我々と同じ、帝の命、日本京都の制圧⋯⋯》
《⋯⋯ふん、蒼鬼共の思い通りにさせるものか。⋯⋯絶対に京都御所の覇権は譲らねえ。⋯⋯御所や京都の町は俺たち紅鬼軍が絶対に取る。日本征服の最前線の本拠、そして俺たち紅鬼の人間界での都とする予定だからな》
《⋯⋯まさしく。⋯⋯この状況、紅皇鬼様、次の一手、どうされますか?》
何かを企むような得意気な顔で、再び椅子にふんぞり返った紅皇鬼は、この紅呪鬼の問いかけに間髪入れずに即答した。
《決まってんだろ、蒼鬼より先に御所を制圧する。⋯⋯紅呪鬼よ。血気盛んな羅刹を二十鬼、選抜しろ》
《⋯⋯羅刹を? 二十鬼も、ですか?》
《それだけじゃねえ。紅鋏鬼も呼んでこい。毎日毎日、罪人どもの舌をひっこ抜くだけじゃ、飽き飽きしてるだろう。⋯⋯あと“曠野処“の番人、紅閃鬼もだ。⋯⋯それと、そうだな、紅斬鬼も念のために加えておけば、今度こそ絶対に間違いは起こらねえ。⋯⋯この『修羅』三鬼と二十の羅刹で、その鎌足と綾麿、二人がいる京都御所を襲え! ⋯⋯もし蒼鬼の奴等が邪魔してきたり鉢合わせたら、容赦なく奴等もまとめて叩き潰せ!》
紅皇鬼の下した新たな命令。
それは怒りに任せた、無計画極まりない“思いつき”とも見えた。
感情では決して動かず、慎重に事を運ぶ性格の紅呪鬼の顔色が途端に曇る。
しかし⋯⋯。
これ以上は何を言っても聞く耳は持たない。
そんな紅皇鬼の性格を知る紅呪鬼は、《しかし》の後、言いたい言葉のほとんどを我慢して飲み込んだ。
《しかし⋯⋯、いざ攻めても、必ずしもその二人ともが京都御所に都合良く居るかどうか⋯⋯》
《⋯⋯構わねえ、たとえ居なくても、京都御所を焼け野原にすれば、否応無しにすぐに駆けつけるはずだ。それが人間って生き物の性だろう? ⋯⋯おい、今、人間世界の刻は如何ほどだ?》
《⋯⋯子の刻をとうに過ぎ、日付も変わりました。あと一刻半もすれば、陽も昇り始めるでしょう》
《⋯⋯暁紅、近し、⋯⋯か》
紅皇鬼は再び椅子からゆっくりと立ち上がる。
そして力強い握り拳を作りながら、凄まじい”鬼“の形相で、日本京都侵略⋯⋯その決行の日時を告げた。
《⋯⋯よし、ならば侵攻は、“今日”、そして決行の刻は、”暮れ六つ“ 過ぎとする! 蒼鬼の奴等と人間へ、改めて宣戦布告だ。その紅の日輪が再び沈みゆく京都御所の上空、大々的に華々しく、紅の羅生門⋯⋯二十と三の邪道を開け! ⋯⋯人間も蒼鬼も関係ねえ、目の前の人鬼、その全てをぶった斬れ!! 必ずや帝の命を奪れ!! ⋯⋯ふははははは、⋯⋯いよいよだ、⋯⋯“暮れ六つ”を合図に、七十年ぶりの全面戦争、突入だ!!》━━━━。
第34話も最後までお読み頂きありがとうございました。
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改稿履歴は全て誤字脱字等の訂正です。内容は全く変わっていませんので御安心ください♪(いつも無数の誤字脱字ばかりで、すみません)
今回「東番の朝」もかなり長かったため、また2話/前後半投稿に分けました。次回後半部分、第35話「東番の朝〜蒼天〜」も、本日3月7日中には投稿予定です。ぜひこの第34話の後に続けて御一読頂ければ嬉しいです♪




