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羅生門怪鬼譚  作者: 夏川凪
第一鐘 京都六歌死闘編

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32/51

第32話  突破口

【登場人物紹介】

伊賀の鎌足かまたり━━━━

 江戸城の公儀御庭番こうぎおにわばん伊賀組の小頭こがしらの女忍。伊賀流鎖鎌の使い手。幻斎げんさいに授けられた、七十年前に鬼を滅した伝説の刀『鬼切丸おにきりまる』を手に、鬼が現れた京都御所に援軍として派遣される。裏では朝廷側の探索の密命も帯びる。


紅影鬼こうえいき━━━━

 紅鬼あかおにの上級鬼『修羅しゅら』の一鬼。紅鬼あかおにの総大将 紅皇鬼こうおうきの命令で江戸からの援軍の実力を探る。地獄の針の山から召喚した狂気の武器と、殺した人間の魂を奪って本人に成りすます葬魂そうこんの術を用いて、鎌足かまたりたちを急襲する。


 ━━━━公家屋敷の通りで、綾麿あやまろ蒼炎鬼そうえんきと激しい戦闘を繰り広げ始めていた頃。

 

 反対方向にあたる一里(※約4km)近くは離れた地の廃屋の中、紅影鬼こうえいきに襲われた鎌足かまたりは、依然としてまだ身を潜めていた。

 右の手に鬼切丸、そして左の手に鎖と鎌。

 廃屋の外で受けた針や打撲の傷の痛みをこらえ、命綱である左右の武器を固く握りしめながら、紅影鬼こうえいきの次の攻撃に構えていた。


 雨戸も閉め切られ、人の手を離れて久しい、床下も低く、さほど大きくはない寂れた廃屋。

 それは外部からは隔離された、黒の世界。

 閉じ込められたに等しく、四方八方の何処どこにも逃げ場は無い。

 入ってきた戸や天井裏を突き破って飛び出したとしても、簡単に狙い撃ちにされることは容易に想像ができた。

 きっと紅影鬼こうえいきの放つ針の連撃、そして反撃の手立てが掴めていない幻影の前に、再び翻弄されてしまうことだろう。


(⋯⋯くそっ、くそっ、打つ手無し、か⋯⋯。⋯⋯武運ぶうんつたなく、此処ここで力尽きる⋯⋯か。⋯⋯畜生ッ!!)


 鎌足かまたりは、そんな”死“を覚悟せざるを得ない状況にまで追い詰められていた。



 この無人の大地に鎌足かまたりの身体を重ねているのか、巨大な針の槍を地に何度も突き刺す、⋯⋯ザクッザクッとした音が外から響く。

 廃屋の周りの雑草を踏みしめる音、そして針を古壁にあてがい削りながら歩くまわる、ギギギ⋯⋯という不快な音。


 同じ境遇に追い込まれたならば、誰もが身震いしてしまうはずの、そんな“音”による恐怖の圧迫と共に、紅影鬼こうえいきの挑発の声も鎌足かまたりの耳に響いてきた。


《ふふふ、ふはははは⋯⋯! 逃げるのが忍の極意ごくいか? ⋯⋯どうした、出て来い、伊賀の鎌足かまたり身共みどもの針地獄が、今や遅しと御主を待っておる。⋯⋯さあ!》


(⋯⋯くそっ、言いたい放題ッ!)


 頭に血がのぼった鎌足かまたりが、心の中で紅影鬼こうえいきを罵倒しながら狼狽ろうばいする。

 しかしそんな短気な鎌足かまたりでも、その足は今、この廃屋の床にどっしりと根を張っていた。


 音のした方向に紅影鬼こうえいきが本当に居るとは限らない。

 鎌足じぶんを誘い出す罠かもしれない。

 今佇んでいるこの真上⋯⋯天井裏に潜んでいるのかもしれない。

 そして涎を垂らしながら、托鉢笠たくはつがさから覗く目をぎらつかせているのかもしれない。


 沸き上がる警戒心が、怒りに勝っていた。


 動かないのではない、動けなかったのだ。



(⋯⋯はぁ、はぁ、⋯⋯はぁ、はぁ、⋯⋯殺られる、殺られてしまう、身体を、魂を奪われてしまう⋯⋯)

 

 鎌足かまたりの呼吸が荒く乱れる。



 不思議なことに、そんな鎌足かまたりの諦めや覚悟にも近い警戒と反して、何故なぜ紅影鬼こうえいきは一向に廃屋内の鎌足かまたりに対して、攻撃を加えてこない。



 紅影鬼こうえいきの挑発の声と笑みが再び、唐突に響いた。


《⋯⋯ふふふふ、そろそろ諦めたらどうだ。ほれ、此処ここ身共みどものすぐ傍に、甚左じんざ亡骸むくろが転がっておるぞ。⋯⋯そなたに会いたがっておるぞ、その顔を見せてやれ。弔ってやれ。⋯⋯ふははははは》


「⋯⋯ッ、だまれ!! この生臭坊主なまぐさやろうッ! いいかッ! 甚左じんざの名を語るな!! ⋯⋯絶対に、絶対に許さないからな!! ⋯⋯(う、しまっ⋯⋯、喋ったらだめだ、中の位置がばれてしまうッ)」


 挑発に釣られて思わず叫んでしまった鎌足が、口に手を当て、これ以上の声の漏れを防ぐ。

 そんな鎌足かまたりの顔には、悔しさと焦りが滲んでいた。



 それからも幾度となく、紅影鬼こうえいきの挑発の声と嘲笑いは続いた。


 動けない鎌足かまたり、待ち構える紅影鬼こうえいき


 それは完全な膠着こうちゃく状態だった。




 ⋯⋯そして廃屋内に訪れたのは、ひとときの”静寂“。




(⋯⋯来ない? 何故だ? ここまで敵を追い詰めているのに、何故なぜ攻めて来ない!?)




 ⋯⋯そのまま更に少しのときが流れた。




 紅影鬼こうえいきが攻めてこないことで生まれた、この僅かな静寂の時間は、混乱の極致にあった鎌足かまたりの心に、幾分かは冷静さを取り戻させてくれていた。



(⋯⋯落ち着け、⋯⋯もっと冷静に考えろ)



 先程から響いてくる紅影鬼こうえいきの声は、この廃屋の中からではない。

 外で戦っていた先程までは、鎌足かまたりのすぐ傍で聞こえたような気すらしたのに、今は明らかに敵の声は”外“からだった。


 鎌足かまたりが気配を消して隠れても、すぐにその潜伏する位置を突き止め、追撃できる程の力量や妖力を持つ紅影鬼こうえいき

 手も足も出ないくらい、完全に圧倒されていた。

 しかし今は、鎌足かまたりが偶然飛び込んだ廃屋での籠城戦ろうじょうせん

 圧倒的な優位を捨てて、敢えて外で待ち受け、応戦する事など普通に考えたらあり得ない。


(⋯⋯いくら狂っている鬼だからといっても、ここまで“待つ”だろうか?)


 鎌足かまたりがふとそんなことを考えた時、またもや外から紅影鬼こうえいきの声が飛んだ。



《⋯⋯どうした、そんなにびくびくと警戒し、ちょろちょろと隠れおって。そんなことだから、綾麿あやまろとやらに”ねずみ“と言われるのだ、⋯⋯ふふふ》



 押し寄せる恐怖心からか、鎌足かまたりにはその紅影鬼こうえいきの声は、先程より近よってきているように感じられた。



(⋯⋯うるさいっ、また鼠扱いかぁ、くそっ⋯⋯、⋯⋯と⋯⋯いや、待てよ、警戒? ⋯⋯そっか、向こうも何かに警戒している、のか? だから攻めてこないのか? ⋯⋯ん? ⋯⋯あれ、鼠⋯⋯? こんな場面、前にも⋯⋯、確か)



 鎌足かまたりの頭に今、ふとよみがった懐かしい景色があった。


 その蘇る記憶の中。


 伊賀組の御頭おかしらである半蔵はんぞうが、鎌足かまたりをまっすぐに見つめながら“何か”を語りかけていた━━━━⋯⋯⋯⋯








 ⋯⋯⋯⋯━━━それは鎌足かまたりが江戸で伊賀忍軍に加わって、まだ間もない頃。


 半蔵はんぞうの伴として、二人で山中に狩りに出かけた日の出来事だった。





 ⋯⋯⋯⋯『御頭おかしらっ、いた! すっごく大きな山猫だよ! 野鼠を追っかけてる!』


 森の木々の間の草むらを指差しながら、半蔵はんぞうとお揃いの狩用の毛皮の胴服どうふくを着た鎌足かまたりが、満面の笑顔で半蔵はんぞうを振り返った。


『ああ⋯⋯、山猫むこうも我等と同じく狩りをしているみたいだな、⋯⋯鼠は、ふむ、霧谷きりだにのほうへ行ったな』


『⋯⋯霧谷きりだに?』


 鎌足かまたりがぽかんとして、首を傾げる。


 そんな鎌足かまたりに、半蔵はんぞうは優しい目を向けた。


『御主は知らんだろうが、この辺の森にはな、霧谷きりだにと呼ばれる、独特の地形を成す場所があるのだ。⋯⋯そうだな、百聞は一見にしかず。⋯⋯面白いものが見れるかもしれん。⋯⋯よし、俺についてこい、鎌足かまたり』⋯⋯⋯⋯




 ⋯⋯⋯⋯二人は逃げた山猫と兎の後を追い、森の中を進む。

 そして鎌足かまたり半蔵はんぞうに案内された場所は、森を少しだけ抜けた先。

 近くに沢が流れている谷間の、兀兀ごつごつとした無数の大きな石に囲まれた岩場だった。


 山猫や野鼠に気取られないよう気配を消した鎌足かまたりが、身を隠している岩の陰から、首だけをひょいと覗かせる。

 その三十間さんじゅっけん(※55m)程の視線の先。

 そこには二匹のけもの⋯⋯逃げ場の無い岩に囲まれた場所に追い詰められ、ぶるぶると震えながらちぢこまる小ぶりな野鼠と、そして少し離れた場所には、微動だにせずに野鼠を睨み続ける大きな山猫がいた。


『⋯⋯あ、いた。⋯⋯ん、御頭おかしら? 変だよ、山猫は野鼠を追い詰めてるのに、襲いかからないね。何でだろう?』

 

 鎌足かまたりの声を密かにした問いかけに、半蔵はんぞうは首に巻いている襟巻えりまきで口元を隠しながら、その襟巻えりまきの上から覗かせる冷静な目と落ち着いた声で答えた。


『鼠が追い詰められた場所は⋯⋯、⋯⋯ふむ、あれではもはや「窮鼠きゅうそ猫を噛む」とはならぬな』


『⋯⋯急所きゅうしょ猫が噛む? ⋯⋯それは痛そうだね』


『⋯⋯違う。⋯⋯鎌足かまたりよ、良く見よ、岩を』


『岩を?』


 鎌足かまたりがもう一度、野鼠に視線を送る。

 その視線の先、野鼠の周辺の岩から薄っすらと噴き出し続けている、霧のような”何か“が見えた。


『⋯⋯あっ、御頭? あれは⋯⋯あの霧は⋯⋯!?』


『見えたか、鎌足かまたり。あれが此処ここ霧谷きりだにと呼ばれる所以ゆえんだ。⋯⋯あれは地下の深くに溜まっていてな、土の中を通って岩肌の隙間から一定の周期で吹き出る、有害な霧だ。鼠などの小動物が浴びればその身体がたちまち麻痺してしまい、時には死すら招く。あの大きな山猫でも触れれば間違いなく、歩行に影響するぐらいの痺れは感じるだろうな』


『⋯⋯えっ、じゃあ、野鼠は? ⋯⋯あっ、そうか、怯えて震えているんじゃない、霧で麻痺しているのか』


『そうだ。あの山猫はおのれや狩りというものをよく分かっている。⋯⋯もし僅かな間でも痺れてしまえば、そこを他の強いてきに狙われて、襲われたらしまいだ。あの鼠はもう逃げ道はなく、しかも霧で痺れている。いつでも殺せる。しかし今近づけば、自身も霧で痛みや代償を払うことになりかねん。⋯⋯ならば霧が止むのを待ったほうが、一番安全に狩りの目的を遂げることができる』


『そっか⋯⋯、この森で生き抜くために、山猫はあの岩場を知り尽くしているからこそ、警戒していたのかぁ。すぐに襲わないのにはちゃんと理由があったんだ』


『ああ、⋯⋯自然の摂理というべきか、生き物としての本能や知恵というべきか。鎌足かまたりよ、⋯⋯「念には念を」「君子くんしあやうきに近寄らず」という言葉を知っているか。あの山猫のように本当の強者きょうじゃという者は、生きるために細心の注意を払い、そんな格言かくげんを常に心得ている。⋯⋯だがしかし、⋯⋯それでも』


 鎌足かまたりに向けて言葉を続けながら、半蔵はんぞうは流れるような動きで矢をつがえ、そして目の前の野鼠だけに集中している森の強者きょうじゃ⋯⋯山猫を狙って一気に弓を引いた。


 凄まじい勢いで一直線に放たれた矢。


 それは次の瞬間には、山猫の体の真ん中を見事に貫いていた。



『⋯⋯警戒を怠り、一度ひとたび油断すれば、こうしていとも簡単にたおされる』━━━━⋯⋯⋯⋯









 ⋯⋯⋯⋯━━━━(⋯⋯⋯ってことがあったっけ⋯⋯、そっか、鼠がきっかけで思い出したけど、今、あの時と何となく似てるんだ。⋯⋯んと⋯⋯あの話の中に何か役立つことはあったかな⋯⋯)


 鎌足は記憶の中の半蔵はんぞうの言葉を、必死に思い返していた。

 そして廃屋の中をもう一度見渡しながら、自問自答し続けた。


(⋯⋯ぼろぼろの囲炉裏いろりに、空っぽの釜、くたびれた草履ぞうりに、破れた障子⋯⋯、此処ここはあの岩の霧みたいに、攻め込んだら反撃を食らうものなんて無い。それにこんな光も届かない真っ暗で狭い場所⋯⋯、むしろ人知れずとどめを刺すならもってこいの場所じゃないか。あの山猫みたいに、紅影鬼あいつが警戒をするようなものなんて見当たらないよ)



《⋯⋯どうした、伊賀の鎌足かまたり。いくら忍耐強い身共みどもと言えども、我慢もそろそろ尽きるぞ。御主の身体に突き刺せるのがまだかまだかと、針が催促しておるわ。⋯⋯さあ! 覚悟を決めて出てこい。何なら先に御主の念仏でも唱えもうそうか? ⋯⋯南無阿弥陀仏なむあみだぶつ⋯⋯》


 またもや紅影鬼こうえいきの挑発が聞こえる。


 鎌足かまたりは身を屈め、鬼切丸おにきりまるや鎖を持つ手で頭や耳を抱えるようにして、そんな挑発ざつおんを防ぎながら、ただひたすら必死に考えた。


(⋯⋯あの時、御頭おかしらは⋯⋯、そういえば何か大事なことを言っていたぞ、⋯⋯え、と⋯⋯、何と言っていた? ⋯⋯和歌うたと一緒で格言かくげん?とかも苦手なんだよなぁ、私。御頭おかしらは“ここぞ”って時は、いつも難しい言葉を使ってたからなぁ、⋯⋯あぁ⋯⋯、もっと真剣に聞いておくべきだった。⋯⋯うぅ、あと何だ、⋯⋯た、確か⋯⋯念仏には、念仏を⋯⋯、⋯⋯うぅ、相手てきは都合良く坊主だけど⋯⋯念仏は全然知らないしなぁ⋯⋯)


 鎌足かまたりは気合を入れ直すように思い切り目をつむり、記憶の隅々を懸命に探った。


(あ、あと⋯⋯なんだっけ? くん⋯⋯、なんとか。くん⋯⋯、くん⋯⋯、怪しい臭いをくんくん嗅いで、⋯⋯で、えと⋯⋯あや、何とかに近寄っちゃだめ、とか。⋯⋯あや⋯⋯あや⋯⋯あや、あや⋯⋯、綾麿あやまろ。⋯⋯⋯⋯あああぁ、違うぅぅう、⋯⋯そりゃあ、あいつ、匂いだけはうっとりするくらい良かったけどさぁぁ、近寄りたくないのはその通りだけどさぁぁ⋯⋯、てか、何でこんな時に、綾麿あいつの影がちらつくんだよぅ!? ⋯⋯⋯、格言かくげんなんて何の役にも⋯⋯っ⋯⋯まて⋯⋯)



 ⋯⋯その時。



「⋯⋯影? 綾麿あやまろの影?」



 鎌足かまたりの脳裏に、紅影鬼こうえいきが先程言い放った、とある挑発の言葉がよぎった。



(《⋯⋯今宵は身共みどもの妖力を最大に発揮できる満月の夜⋯⋯》)



「⋯⋯満月の夜⋯⋯、光の届かない⋯⋯、⋯⋯影法師かげぼうしの術⋯⋯」



 幾つかの言葉を断片的に呟いた鎌足かまたりの目が、突如として大きく見開いた。


(⋯⋯っ! そうか! 攻めてこないわけだ⋯⋯、奴はそんな場所に⋯⋯、きっとそうだ、間違いない。だからあんなにすぐに私の位置が分かったんだ⋯⋯!)


 “何か”をひらめいた鎌足かまたりだったが、緩んだ表情はすぐに一転、今度は悔しさを滲ませながら歯軋はぎしりする。


(⋯⋯いや、喜ぶのは早い、まだだ、⋯⋯紅影鬼やつに勝つにはそれだけじゃ足りない)



 確証は無いものの、敵の尻尾⋯⋯紅影鬼こうえいきの本体の居場所、そして攻撃の出何処でどころとなる位置は、もしかすると見出だせたかもしれない。


 しかし鎌足かまたりに、更に難しい問題が大きく立ちはだかる。

 それは、紅影鬼こうえいきの動きをどうやって捉え、そしてどうやって致命傷を与えるか、ということだった。



 鎌足かまたりが奇襲に転じた際、迎え撃つ紅影鬼こうえいきの隙を突けるのは、上手くいったとしても第一撃だけだろう。


(⋯⋯一撃目、⋯⋯初手が全てだ)


 鬼切丸おにきりまるによって、第一撃で致命傷ちめいしょうを与えることできれば、問題は無い。

 しかし急所を避けられたり、または浅手しか与えられない可能性もある。

 相手も類稀たぐれまれなる強敵。

 恐らくは⋯⋯。

 

(⋯⋯致命傷にまでは至らない可能性のほうが高い⋯⋯、だろうな。そうすると問題は、第二撃、第三撃だ)



 第二撃、第三撃と、攻撃回数が多くなればなる程、第一撃で詰めた相手との間合いはまた広がってしまう。

 いくら鬼切丸おにきりまるでの攻撃とはいえ、間合いをとった紅影鬼こうえいきに致命傷となる重傷を与えるのは、第一撃にも増して相当に難しくなるだろう。


 そもそも第二撃以降は、紅影鬼こうえいきも更に警戒を強め、きっと隙は皆無になる。

 どんなに追撃の手を強めても、上手く逃れられたり、またあの幻影化によって、ことごとくかわされる可能性もある。

 それに最悪の事態を想定すれば、第一撃の鬼切丸が敵の身体から抜けず、その身に刺さったまま間合いの外に退かれる可能性も零ではない。

 その場合は、確実に第二撃が不可能となる。



(⋯⋯だが、もし鎖鎌を使ったとしても、尚更に第一撃から第三撃の全てにおいて不利だ)


 鬼の急所にある程度の傷を与えさえすればよい鬼切丸おにきりまるとは違い、得意の鎖鎌で鬼をたおすには、江戸で蒼鬼あおおにと戦った時のように、首を切断するか心臓を貫くしか手は無い。

 鎖鎌で致命傷を与えるのは、どう考えても不確実すぎた。


 今宵の夜空は晴れている。

 雷などの自然現象を味方に付けた伊賀鎖鎌の幾つかの秘技も、今は使うことはできなかった。



(この鬼切丸おにきりまると鎖鎌⋯⋯、どう使う⋯⋯? どう使って斬り込めばいい⋯⋯?)



 鎌足かまたりは手にした鬼切丸おにきりまると鎖鎌、二つを見比べながらゆっくりと目をつむり、頭の中で何度も何度も紅影鬼こうえいきに戦いを挑んだ。



(⋯⋯紅影鬼やつは間違いなく“警戒”している、強者きょうじゃだからだ、⋯⋯だから攻めてこない、大丈夫だ、⋯⋯守りや恐れではなく、今は紅影鬼やつを斃す方法を見出すことだけに集中しろ⋯⋯)



 時折響く紅影鬼こうえいきの挑発の声も、精神を研ぎ澄ましている鎌足かまたりの耳には聞こえない。

 鎌足かまたりの神経は、「紅影鬼こうえいきを必ずたおす」⋯⋯その一点だけに集中していた。



 そして少しのときが流れた後、鎌足かまたりは呼吸を出来る限り整え、意を決したようにその閉じた目を見開いた。



(私には御頭おかしらみたいな教養も無いし、甚左じんざみたいな知恵も無い、そもそも過去の記憶すらも無いんだ。⋯⋯でも、それでも、からっぽの頭を絞って絞って、ようやくたった一つだけ、紅影鬼あいつを斃す策を思い付いた。⋯⋯このわざに今は賭けてみるしかない⋯⋯! ⋯⋯ッ、待ってろ、紅影鬼こうえいき甚左じんざの仇は私が絶対にとる!!)━━━━。




第32話も最後までお読み頂きありがとうございました。長かったのでまた急遽半分に分けました(本来のタイトルは「生と死」、この前編を第32話「突破口」として、後編を第33話「生と死」としての投稿になります)

創作の励みになるので、ブックマーク、評価、感想等、お待ちしています!

改稿履歴は全て誤字脱字等の訂正です。内容は全く変わっていませんので御安心ください♪(いつも無数の誤字脱字ばかりで、すみません)

次回後編、第33話「生と死」も是非続けて読んで頂きたいので、また連続投稿したいと思います。本日3月4日の日付が変わるまでには公開予定です。是非2話連続で、お楽しみ頂けたら幸いです。

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― 新着の感想 ―
甚左さんの骸が転がってるなんて悲しい 鎌足さんのお人柄がわかる場面ですね……
鎌足ピンチ! 綾麿!早く助けに来て\(; ºωº \ Ξ / ºωº ;)/ 果たして仇はとれるのか!?(ドキドキ)
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