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羅生門怪鬼譚  作者: 夏川凪
第一鐘 京都六歌死闘編

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26/51

第26話  疑惑

※今回はかなり長いため、急遽2話に分割して投稿することにしました。本来の後半部分に当たる「影法師」は、次回第27話として明日2月19日に投稿予定です。


【登場人物紹介】

不知火綾麿しらぬいあやまろ━━━━

 従三位じゅさんみ中将ちゅうじょう不知火しらぬい流という恐るべき剣の使い手。謎の妖刀『村雨むらさめ』を時の帝から拝領し、御所警備の西番を任されている。江戸の徳川政権を何故か激しく憎んでいて、鎌足かまたりたち御庭番衆の援軍を快く思ってはいない。奥座敷で鎌足かまたりと対談する。


伊賀の鎌足かまたり━━━━

 江戸城の公儀御庭番こうぎおにわばん伊賀組の小頭こがしらの女忍。伊賀流鎖鎌の使い手。幻斎げんさいに授けられた、七十年前に鬼を滅した伝説の刀『鬼切丸おにきりまる』を手に、鬼が現れた京都御所に援軍として派遣される。裏では朝廷側の探索の密命も帯びる。内裏だいりでは男装をしている。


甚左じんざ━━━━

 伊賀組の中忍。江戸から京都へ派遣された四人の忍のうちの一人。鎌足かまたりの京都での補佐役を務め、鎌足かまたりからの信頼も厚い。剣の腕も立ち、いつも優しい人格者。


平次へいじ━━━━

 伊賀組の中忍。江戸からの援軍の四人の忍の一人。手裏剣の名手。全国各地の情勢に詳しく知識が豊富。お節介焼きな性格で、鎌足かまたりの身だしなみには特にうるさい。


大吾だいご━━━━

 伊賀組の中忍。江戸からの援軍の四人の忍の一人。まだ若くて実戦経験に乏しく、武芸の腕もいまいち。真面目でひたむきな性格。京都では情報伝達が主な任務。


 ━━━━昼間の溢れんばかりの人と喧騒けんそうが嘘のように消え去った、陽が沈んだ大通り。


 御所の偵察を終えた鎌足かまたりたち四人は、足早に帰路についていた。

 町の灯火ともしびまばらで数も僅かしかないが、わざわざ提灯ちょうちんを用意する必要は無かった。

 今宵の満月はとりわけ大きく、そして明るく輝いていて、その月の光が鎌足かまたりたち四人の足元を、十分すぎる程に照らしてくれていたからだ。


 ともすれば風流な春の夜道のように思えたかもしれないが、鎌足の表情や心だけは少なくとも、月の美しい輝きの下の風流とは似つかわしくない、まさに不機嫌そのものだった。


 さく美桜みおと再会できたという嬉しい出来事もあった。

 しかしある程度は覚悟を決めていたとは言え、今日一日もまた昨日に負けず劣らず、色々と不快なことが起こり過ぎた。

 麒麟きりんとの確執かくしつと激突、そして綾麿あやまろとの対談で受けた挑発と軽蔑。

 この一連の鬱憤うっぷんが、御所を離れていく今でもまだ心の奥に大きく引っ掛かかり、鎌足かまたりの表情に暗いかげを落としていた。


 鎌足かまたりは時折、頬をぷっくりと膨らませたり、口もとがらせたり、口数もいつもよりも遥かに少なく歩いていた。

 その鎌足かまたりの姿に、甚左じんざたち三人も、鎌足かまたりの身に”何かがあった“ことだけは理解していた。


 何となく話しかけるのもはばかられる空気の中、大吾だいごが恐る恐る口を開く。


「⋯⋯小頭こがしら、あの⋯⋯、聞いてもいいですか、⋯⋯その頬の傷、どうしたんですか?」


「大丈夫だよ。大吾だいご、ほんの掠り傷だから」


「大丈夫じゃないですよ。小頭こがしらはこれでも女子おなごなんですよ。大事な顔に傷が残ったらどうするんですか! ⋯⋯そうだ、甚左じんざさん、いつもの塗り薬は持ってますか?」


「⋯⋯これでも、は余計」


「⋯⋯ん? ああ。妙草薬みょうそうやくだったな、⋯⋯持っているはずだ。⋯⋯効きますぞ、そんな傷など、一、二日もあればすぐ目立たなくなります。⋯⋯さあ、小頭こがしら、どうぞ」


 甚左じんざは懐から軟膏の入れ物を取り出すと、鎌足かまたりに手渡した。


「⋯⋯あ、⋯⋯うん、⋯⋯ありがとう」


 空返事で蓋を開けた鎌足かまたりは、半ば無意識で薬を指に付けて頬を触った。


(⋯⋯つッ)


 ⋯⋯薬が傷にしみる。


 それが鎌足かまたり愚痴ぐちのきっかけになった。

 鎌足かまたりの頭の中に、今日一日の出来事が改めて鮮明に蘇ってくる。


「⋯⋯うぅう、くっそおぉぉぉお、⋯⋯麒麟きりんめぇ。⋯⋯あの裏表の激しさ、何よ!? ⋯⋯あの口の悪さ、粗暴な性格、何よ!? ⋯⋯あんなのが内裏だいり少将しょうしょうとして幅を利かせているわけ!? ⋯⋯あのわがまま小僧ッ! 今度会ったら、しつけに厳しい”お姉さん“として、絶対にきつくお仕置きをしてやらなきゃ!」


「はぁ⋯⋯? 麒麟きりん? 誰ですか? それは?」


 平次へいじが首をかしげ、眉間にしわを寄せながら鎌足かまたりに尋ねた。


「⋯⋯平次へいじ、ごめん、口に出すともっといらいらするから、もうしばらく黙ってて」


「は、はぁ?」


「⋯⋯そして加えて、あの陰気いんきすぎる道化どうけ中将ちゅうじょう。ふざけんじゃないわよ。ちょっと顔が良くて、立派な村雨むらさめを持っているからって、いい気になってさ。⋯⋯何が麒麟きりんには勝てない、よ!? 何が白鞘しろさやの本質よ!? ⋯⋯刀って答え以外に何があるっていうのよ! ⋯⋯しかも江戸を守るのは諦めろ、叶わない夢物語だ!? ⋯⋯ふん、綾麿あんたの意見なんて誰も聞いてない! ⋯⋯で、誰が溝鼠どぶねずみよ!? ⋯⋯あああぁああぁ、もう! ⋯⋯私のことを見下して、さげすみやがってぇぇ!!」


「⋯⋯お、⋯⋯久々に出た、小頭こがしらの爆発」


 平次へいじが渋い表情を浮かべながら呟く。


「⋯⋯私、つたなくない。⋯⋯戦っても絶対に負けないから。⋯⋯あの生意気な麒麟きりんにも、ねちねちした暗い綾麿あいつにも。⋯⋯不知火中将綾麿しらぬいちゅうじょうあやまろ⋯⋯私たちの真意を見抜く程に頭は切れても、あの村雨かたなをかざして見栄を張っているだけで、きっと見かけ倒しなんだ。⋯⋯あの口、近いうちに必ず塞いでやるからな。⋯⋯あぁああ、⋯⋯うぅう、でもやっぱり潜入任務だけは、私は苦手かもしれないな。⋯⋯短気ですぐ感情的になっちゃうし、また抜刀しちゃったのは事実だし、死罪になりかけたし⋯⋯、秘密の任務も何もかも全部見通されちゃったし⋯⋯、あぁあああ⋯⋯、せめて何か一つくらいは隠し通したかったなあぁぁ」


 散々愚痴ぼやきを撒き散らした後、鎌足かまたりはふと急に立ち止まり、今度は乾いた笑い声と青い顔のまま、がっくりと項垂うなだれた。


 情緒不安定な鎌足かまたり)、そして意味深な呟き。

 それを前にしては、普段なら鎌足かまたりが落ち着くまでは静観を決め込む甚左じんざたち三人も、黙っていることは出来なかった。


「⋯⋯っ、抜刀ですと? しかも任務を全て見通されたとは!? ⋯⋯只事ではないですね。⋯⋯御所で一体何があったのです? あの先程見送りに出てきた二人が関係しているのですか?」


 甚左じんざの問いかけに平次へいじ大吾だいごも続く。

 二人とも鎌足かまたりに矢継ぎ早に問いかけ始めていた。


「たまにある爆発とは言え、そこまで感情的になる小頭こがしらは初めて見ました。⋯⋯一体どうしたんですか? 何が起きたのか教えてください」

「そう言えば、最後あの公家たちを“敵”って言ってましたよね? ⋯⋯小頭こがしらの見立て、徳川にとってそこまでの危険人物なんですか?」


「⋯⋯あ、⋯⋯う、うん」


 鎌足かまたりは言葉を濁した。

 三人に心配をかけさせたくないという想いもあったが、あの不快な会話を言葉に変えるということが、たまらなく億劫おっくうに思えたからだった。


(⋯⋯でも、言わない⋯⋯わけにはいかないよな、やっぱり)


「歩きながら話していい? ⋯⋯実はさ⋯⋯」


 鎌足かまたりは悩んだ挙句、今日一日の流れを掻い摘んで三人に話すことにした━━━━。








 ━━━━「⋯⋯なるほど、小頭こがしら程の実力者つかいてを、真剣の戦いでそこまで惑わせる麒麟きりんとか言う少年も、村雨むらさめという妖しげな刀を持つ綾麿あやまろとか言う公家も、あの御所内はやはり気が抜けませんな。⋯⋯ん、しかし今日は今日、明日は明日。元気を出してください。きっと今日はどこかよそ行きの遠慮な気持ちがあって、自然と身体が手を抜いてたんですよ、本気の小頭こがしらの強さがどれ程のものか、私たちはちゃんと知ってますよ」


「そうですよ。無事に戻ってこれただけで今日は良しとして、明日からの東番の警備のにんの中で小頭こがしらの強さ、たっぷり見せつければいいじゃないですか。⋯⋯それに明日の東番は、私たち三人もやっと中に入る事ができますからね。四人で鬼どもをやっつけて、その中将ちゅうじょうたち公家どもを見返して、びっくりさせてやりましょうよ。⋯⋯あ、⋯⋯でも私は、剣の方はさっぱりなので役立たずかもしれませんが、⋯⋯あっはははははは」


 平次へいじ大吾だいごは穏やかな表情で、言葉の端々に気を遣ってくれた。

 皆との約束や強気な発言にも関わらず、再び御所内で抜刀してしまったこと⋯⋯それすらも何もとがめず、それどころか時折冗談を交えて、鎌足かまたりを笑顔で励ましてくれた。


(⋯⋯ありがとう、平次へいじ大吾だいご。思い切って話してみて良かったな、⋯⋯心が少しは軽くなった気がする)


 平次へいじ大吾だいご鎌足かまたりを慰め励ます中、甚左じんざだけは神妙な表情を浮かべていた。


「それにしても⋯⋯、その中将ちゅうじょうに向けて刀を抜かなくて良かった。⋯⋯その綾麿あやまろとか言う公家、もしかしたら小頭こがしらの抜刀を誘っていたのかもしれませんな。その状況なら御所法ごしょほうに反したとか、何かと理由を付けて即座の無礼討ぶれいうちが可能ですから。⋯⋯なれば、小頭こがしらの言う通り、妖刀ようとう村雨むらさめを持つ綾麿そのものは間違いなく危険人物⋯⋯」


 甚左じんざは話の途中で急に言葉を止めた。

 そしてその足もまた、突然ぴたりと歩みを止めていた。


「⋯⋯ん? 甚左じんざ、どうしたの?」


 鎌足かまたり平次へいじ大吾だいごの三人が一斉に、甚左じんざの方を振り返る。


「⋯⋯いえ、ふと思ったのですが、まさか⋯⋯、その男、綾麿あやまろは⋯⋯、⋯⋯鬼、なのでは?」


「⋯⋯え?」


 甚左じんざのあまりもの意外な発言に、鎌足かまたりら三人の足も完全に止まった。


「⋯⋯いえなに、そこまでの殺気と妖気を放つ男。もしや鬼の使う葬魂そうこんの術とやらにより、もう既に過去の戦いで鬼に喰われ、魂を奪われているのでは⋯⋯と、何となく思いまして」


 それは鎌足かまたりも考えつかなかった、恐ろしい可能性の一つだった。


「でも綾麿あいつが言っていた人と鬼の境目さかいめ、⋯⋯暮れ六つ。その時は一緒に居たよ。何も無かった、何も起こらなかったけど⋯⋯」


「⋯⋯暮れ六つに鬼が正体を見せる、ということ自体がそもそも真っ赤な嘘、ということも考えられませぬか? 小頭こがしらを騙して、明日から我々全員を罠にはめようとしている、とか」


「その可能性もあるけど、でも⋯⋯」


 鎌足かまたり綾麿あやまろに嫌悪感を抱いてはいるが、鬼を敵とする同じ人同士。

 それは生理的な思考や人としての本能とでも言えるかもしれないが、心の何処どこか片隅では、どんなに嫌いな綾麿あいてでも絶対に人だと信じたいという気持ちが残っていた。

 とは言え、甚左じんざの言葉には不思議な説得力もあった。

 先程の綾麿あやまろとの対談。

 江戸で人間相手には戦い慣れている経験豊富な鎌足かまたりをしても、あれ程までの妖しく強大な圧と尋常な妖気を感じる事は、今まで一度たりとて無かった。

 しかも刀も構えず、面と向かって話をしているだけである。

 今、心が落ち着いた鎌足かまたりの頭に、江戸で任務前にげきを飛ばす、御頭おかしら幻斎げんさいの威厳と気迫に満ちた姿が浮かんできた。

 先程感じた綾麿あやまろからの威圧感は、ともすればこの伊賀の上忍にして最強の二人から伝わる圧をも、遥かに凌駕りょうがしていたように感じられてならなかった。


(⋯⋯いや、待て待て、流石に御頭おかしら百地翁ももち様を上回ることはない、⋯⋯あってたまるか。絶対に勘違いだ、さっきの私はどうかしてたんだ、慣れない場所や中将ちゅうじょうという名前、そして村雨むらさめを前に、心が虚ろになっていただけだ。⋯⋯でも)


 ⋯⋯甚左じんざの言う通り、やはりあの綾麿おとこの正体は人間ではないのではないか。


 あの威圧感は自分の中で強引に説明がついても、座敷での人を食ったような態度や、どこか浮世離れした物言いも改めて思い返してみれば、今は甚左じんざの考えが至極しごく正しいものに思えてならなかった。


「⋯⋯あっ、そう言えば! ⋯⋯鬼しか知らないようなこと、色々と口にしていたな。⋯⋯うん、その時、怪しいとは思ったんだ、思い出した」


 鎌足かまたりは、鬼の階級や葬魂の術、そして羅生門を語る綾麿あやまろの表情や言葉の記憶を、出来るだけ細かく詳細に蘇らせようとしていた。

 そして考えれば考える程、思い出せば思い出す出す程に、あの綾麿あやまろが限りなく怪しく、人外の存在⋯⋯鬼のように感じてくる。


(⋯⋯これで綾麿あいつが本当に人の皮をかぶった鬼だったら⋯⋯、綾麿あいつは西番の上に、妖刀ようとう村雨むらさめを持っている。間違い無く帝の命が危ない⋯⋯)


 甚左じんざの推察に、鎌足かまたり同様に考え込んでいた平次へいじも、何か一つの答えを見出したように、鎌足かまたり甚左じんざの会話に言葉を挟んできた。


小頭こがしら、我々は京都こちらに着いたばかりで、御所や警備など大きな事にばかり気を取られ、”“についてはまだ何一つ探索や情報収集が出来ていません。些細ささいで小さな火種が、いずれは不測の大事に繋がる恐れもありましょう。⋯⋯ここは念のために、その綾麿あやまろとかいう怪しい公家、⋯⋯調べてはみませんか?」


 大吾だいごも大きく頷き、平次へいじの案に賛同する。


「若輩の私が言うのも何ですが⋯⋯、私も平次へいじさんと同じ意見です。もっと詳しく、その男の“人となり”を調べてみるのが良いと思います。たとえ鬼では無かったとしても、小頭こがしらが敵と判断した男。いつかは探る必要も出てくるはず。私は剣腕うでは未熟で、鬼とは十分に戦えなくても、追跡や探索なら出来ます。自信はあります。⋯⋯うん、そうだ、早めがいい。警備は明日の夕刻からですし、それまでの間、是非私めに探索の御命令を」


 大吾だいごの言う通り、明日の夕刻までは確かにまだ十分に時間は残っていた。

 三人の進言を受けて、今のうちに不審な綾麿あやまろに探りを入れてみるのも、正しい選択肢なのかもしれない。


 果たして、綾麿あやまろは人か鬼か、探るか否か。


 採るべきは二つに一つ。

 決めかねて考え込む鎌足かまたりに、甚左じんざも改めて積極策を推奨する。


「⋯⋯先程正門で別れてから、まださほどときは経っておりませぬ。もしその綾麿おとこが、あの後再び内裏だいりに入ったなら、まだ御所近くに居るかもしれません。御決断されるなら、今。⋯⋯今日の夜の番は麒麟きりんという少年ならば、あの綾麿おとこは今夜は間違い無く非番。そのうち必ず自分の屋敷へと戻るはず。其処そこに隙も生じましょう。⋯⋯今から戻って追うことも、忍の足ならまだ間に合います。心配なようでしたら大吾だいごだけでなく、探索に慣れている平次へいじも付けてはどうでしょうか? 道を使わず、左右の屋根伝いに付ければ、まずもって気取らませぬ」


「⋯⋯確かにそうだけど、⋯⋯でも」


「⋯⋯それに私も、この二人も、二日間とも正門前で待たされ、まだ何も小頭こがしらの役に立ってはおりませぬ。この歯がゆさを、この気持ちを⋯⋯どうか汲み取っては頂けませぬか」


 今日の御所内で起こった出来事。

 鎌足かまたりの悔しさが滲む声。

 そして悲しい顔と頬の傷。


 それを見聞きした三人が、意気込むのは、ある意味当然だった。 

 鎌足かまたりは改めて甚左じんざたち三人を見つめた。

 三人の顔にはそれぞれに、江戸を発った時から密かに胸に秘めている、忍として課せられた大役への真っ直ぐな想いや確固たる決意が滲んでいた。


甚左じんざ平次へいじ大吾だいごも、⋯⋯皆、この京の地で活躍の場を求めてるんだな)


 急の探索の決定を躊躇ちゅうちょしていた鎌足かまたりだったが、結局は三人の熱意に負けた。


「⋯⋯わかった、あの綾麿おとこを調べよう」


 ⋯⋯平次へいじ大吾だいごの二人を御所正門に引き返らせ、帰路につく綾麿あやまろを尾行させるという決断を下した。


 これは武具の準備や内裏潜入の対策以外、伊賀衆の小頭こがしらとしてこの京都で出した、最初の命令らしい命令だった。


(今回の任務への熱い気持ち、⋯⋯みんな、私と同じなんだ、⋯⋯気づいてあげれなくてごめん、⋯⋯そして、私を気遣ってくれて本当にありがとう、⋯⋯みんな)


 鎌足かまたりは三人の想いに、改めて胸が熱くなるのを感じずにはいられなかった。



「⋯⋯そうと決まれば早速。いよいよ最初の出番だ。腕が鳴るな、大吾だいごよ」

「⋯⋯腕だけじゃなくて足も鳴ってますよ、平次へいじさん。急いで戻って、謎の綾麿くげを追いかけなきゃ。絶対に取り逃しはしないぞ。⋯⋯へへ、じゃあ、行ってきます、小頭こがしら


「⋯⋯う、うん、気をつけて。くれぐれも深追いは禁物だよ。もし姿が見当たらなかったら、諦めてすぐに戻ってくるんだ」


 小頭こがしら⋯⋯鎌足かまたりからの正式な命令を受けて、平次へいじ大吾だいごはすぐに動いた。

 今戻ってきた道を、疾風はやてのように素早い動きで、御所へと引き返していく。

 まずは正門に急ぎ戻り、綾麿あやまろの姿を確認。

 内裏だいりに戻っている場合も想定して、姿が見えなくても再び姿を現すかどうかを見極めるため、半刻程は物陰に隠れて待機。

 そして綾麿あやまろの姿を捉え次第、再び動く。

 二人それぞれに左と右に分かれ、屋根や木をつたいにして、公家の屋敷が立ち並ぶ逆方向へと向かって通りを歩いていくだろう綾麿あやまろを、背後から追跡していく。

 そんな手筈てはずだ。



「⋯⋯行きましたね。⋯⋯なあに、大丈夫です。平次へいじは探索の熟練ですし、大吾だいごは頼りなく見えるかもしれませんが、そこは腐っても伊賀の忍。⋯⋯ははは、心配無用ですよ」


「⋯⋯ん、⋯⋯そうだね」


 笑顔の甚左じんざとは対照的に、平次へいじ大吾だいごを見送った鎌足かまたりは、何故なぜもやとした一抹いちまつの不安が、胸の奥から湧き上がってくるのを感じずにはいられなかった。


(命令は下した。もう後には戻れない。任務の成功のための一手だ、あの二人ならきっと上手くいく。⋯⋯綾麿あいつの正体が、人か鬼かも分かる。⋯⋯けれど、⋯⋯何だろう、⋯⋯この胸のざわめきは⋯⋯)


 甚左じんざは笑顔で、そんな鎌足かまたりを再び夜の道へと促した。


「⋯⋯さあ、では、我々も行きますか、小頭こがしら。先に宿に戻って、二人の報告を待ちましょう。⋯⋯それにしても、うるさいのが消えて、久々に二人きりになりましたな。⋯⋯京の町の夜風に当たりながら、あの二人よりも先に、もう少し詳しく⋯⋯、御所の中での出来事、⋯⋯そう、特にその綾麿あやまろという者について、そして村雨むらさめという刀について、⋯⋯じっくりと話を聞かせてください」━━━━。




第26話も最後までお読み頂きありがとうございました。

今回は別アプリの声劇版投稿と連動して、本来は2話分の文量を1話に合算した特別長編投稿の予定でしたが、あまりにも長くなりすぎ笑、読み易さも考えて分割して投稿することにしました。急な変更ごめんなさい。

創作の励みになるので、ブックマーク、評価、感想等、お待ちしています!

改稿履歴は全て誤字脱字等の訂正です。内容は全く変わっていませんので御安心ください♪

次回、第27話「影法師」(本来の後半部分)は、明日2月19日昼頃に公開です。ぜひ続きを御一読ください。

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― 新着の感想 ―
京の町の夜風…… 清水寺か二年坂へと続く道なりにあるお茶屋さんの池に満月様な光が差し込むところがあるんですが風情ある書き方ですねぇ。月とかも書いててしっとりしつついいですね˘ᵜ˘
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