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羅生門怪鬼譚  作者: 夏川凪
第一鐘 京都六歌死闘編

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第19話  修羅四鬼

【登場人物紹介】

蒼将鬼(そうしょうき)━━━━

 蒼鬼あおおに軍の修羅しゅらで副将格。蒼の鎧や兜に身を包んでいる。顔には面頬めんぼうを装着し、その顔色は窺い知れない。閻魔王えんまおうから授かった『泰山たいざん閻魔刀えんまとう』を帯刀する。


蒼賽鬼(そうさいき)━━━━

 蒼鬼あおおに修羅しゅら。神事服の格衣かくえを身に纏い、妖術剣術に長けている。その長髪は妖気を帯びて所々逆立っている。さいの河原の番人であり、『獄門修羅賽ごくもんしゅらさい』の使い手。


紅呪鬼(こうじゅき)━━━━

 紅鬼あかおに修羅しゅらで官吏のような衣をまとっている。紅鬼あかおに軍総大将の紅皇鬼こうおうきの最側近。知的で冷静沈着、常に余裕の笑みを浮かべている。紅斬鬼こうざんき蒼賽鬼そうさいきの戦いを静観する。


紅斬鬼(こうざんき)━━━━

 紅鬼あかおに修羅しゅら。派手な戦闘用の衣に身を包んだ女鬼。短気で勝ち気な性格。偶然遭遇した蒼将鬼そうしょうきたちを挑発する。背中に長刃ちょうじん野太刀のだち鬼紅葉おにこうよう』を背負っている。


 ━━━━蒼鬼あおおに蒼将鬼そうしょうき蒼賽鬼そうさいき、そして紅鬼あかおに紅呪鬼こうじゅき紅斬鬼こうざんき

 あおあかの双方が激しく睨み合う中、乾いた血のような赤土の大地を賽子さいころは転がっていた。

 賽子さいころは何度か岩肌にぶつかっては跳ねながら、やがて六面の内の一つの面を上にしてぴたりと止まった。



 出たさい髑髏どくろの目は⋯⋯。


 ⋯⋯⚃「四」だった。



《⋯⋯なるほど、“死滅しめつ”を司るか、私としては久々に“慚愧ざんき”のさんあたりかと思ったのだが。⋯⋯まあ良い、ふふふ》


 蒼賽鬼そうさいきが右のてのひらを広げ、禍々しい呪いの言葉を詠唱し始める。

 するとその詠唱に呼応して、髑髏どくろの賽の目の四つの点が、まばゆいばかりに妖しくあおく輝き出した。

 そして点と点が交差するように繋がり、二本の線⋯⋯✕の形を描いた。

 その光輝く✕印の線は、またたく間に十字に重なりあう二本の棒と化し、そして奇怪にもさいの目から浮き上がり、宙へと飛び出した。


 さいの目から生まれたこの二本の棒は、徐々に膨らんで形もいびつに変化しながら、蒼賽鬼そうさいきの左右の掌の中に吸い寄せられていく。

 そして魔性のあおい光が消滅すると共に、蒼賽鬼そうさいきの手には右手に細く鋭い剣、左手にはずっしりとした重厚な剣、二本の異なる刃が握られていた。


 蒼賽鬼そうさいきは剣を眺め、握り心地を確認しながら、自信に満ちた不敵な笑みを浮かべた。


《今投じたさいにはな、私の念と共に、地獄界や人間界に伝わる古今東西の様々な武器や防具が封じられている。そして相対あいたいする愚か者の技や武器を見て、最も相応しい武器をそのさいの目で導き示し、あおき線として召喚しょうかんしてくれるのだ。これぞ我が秘術、⋯⋯『獄門修羅賽ごくもんしゅらさい』。⋯⋯紅斬鬼そうざんき、御前の鬼紅葉おにこうようとやらには勝ち目は無いぞ》


《へっ、何だそりゃ、運頼みか!? ⋯⋯ふん、この重さと長さの『鬼紅葉おにこうよう』を左の重い剣で何とか受け止めて、即座に右の軽い剣で斬ろう、って作戦か? 戦い方の予想はつくぜ。普通の弱っちい野太刀のだちなら有効かもしれねぇが、今、目の前に相手にしているのは鬼紅葉おにこうようだ。果たしてそう上手くいくか⋯⋯なあああぁぁぁッッッ!!》


 叫ぶや否や、血気にはや紅斬鬼こうざんきが動いた。

 次の瞬間には物凄い速さで一歩目を踏み出し、地を駆け、一気に間合いを詰め、蒼賽鬼そうさいきの眼前へと迫る。

 そして蒼賽鬼そうさいきに向かって飛びかかり、その額に目がけて鬼紅葉おにこうようを振り下ろしていた。

 この紅斬鬼こうざんきの流れるような動きと刀捌かたなさばきは、扱うのが相当に難しい重量武器である、野太刀のだちを手にしているとは思えない。

 まさに“神速“や“神技”とも言える、尋常ではない速さとうまさだった。


《この鬼紅葉おにこうようはな、地獄の死の森の奥深く、亡者の血を吸い肉を食らい花を咲かせ続ける、樹齢幾百億年のくれない妖木ようぼくの幹を削り打たれた刀! 軽さも硬さも速さも、この地獄広しと言えども並ぶものは無いッ⋯⋯!!》


 疾速しっそく渾身こんしん鬼紅葉おにこうようの刃。

 蒼賽鬼あいては左で受け止めて、右で斬る。

 それが紅斬鬼こうざんきの読みだった。


《⋯⋯なるほど、速い。だが》


 しかし蒼賽鬼そうさいき紅斬鬼こうざんきの読みに反して、左手に持っている重く太い剣ではなく、何故なぜか右の細身の軽い剣の方で鬼紅葉おにこうようを受け止めた。


《ふはははははっ! 何だ何だ、戦いの”いろは“も知らなかったみたいだな! この大口野郎がぁ!!》


 当然にして、鬼紅葉おにこうようの圧倒的な加速の付いた斬撃の重さ、そしてす力には到底及ばず、受け止めた蒼賽鬼そうさいきの細身の剣は、瞬時に飛ばされて激しく回転しながら宙を舞っていく。


《⋯⋯ははははは! どうだ! 見たか! これが私の永年ながねんの相棒、鬼紅葉おにこうようの力だ! 大口を叩いたわりには、賽子さいころ二刀にとうの力はその程度か!? ⋯⋯さあ! 宣言通りの二太刀目、これでとどめだ!!》


 吠える紅斬鬼こうざんきは、戦いの勝利、そして蒼賽鬼そうさいきの敗北と消滅を既に確信していた。

 息の根を止める第二撃を加えるため、蒼賽鬼そうさいきの額のど真ん中、二本の角の間に改めて狙いを定め、再び鬼紅葉おにこうようを振りかざした。


 だが蒼賽鬼そうさいきの表情は消滅を待つ鬼の顔ではなかった。


《⋯⋯ふん、単細胞の愚か者め》


 片方の剣を弾かれても全く動じていなかった。


《⋯⋯誰が二刀だと言った? 猪突猛進ちょとつもうしん馬鹿ばか女鬼おんなを見てのさいの目の判断だったようだな》


 蒼賽鬼そうさいきは残った左掌の重い剣を、腕ごと背中側へ大きく引いた。


(《むっ、⋯⋯あれは!?》)


 戦いを静観する紅呪鬼こうじゅきが、宙で起きた異変に真っ先に気が付いた。

 鬼紅葉おにこうように弾き飛ばされて、くるくると宙を舞っていた蒼賽鬼そうさいきの細身の剣。

 その言わば死んだ刃が蒼賽鬼そうさいきの動きと共に甦り、まるで意思を宿したように宙でくるりと向きを変え、空から紅斬鬼こうざんきの死角を狙って襲いかかっていたのだ。


 蒼賽鬼そうさいきの左掌に残る重い剣の厚い切っ先と、宙を舞う細身の剣の鋭い切っ先が、同時に妖しくきらめく。


《なるほど、糸、ですか。⋯⋯しかもあの糸は》


 顎に手を当てて目を細めながら、紅呪鬼こうじゅきが呟いた。


 ⋯⋯重厚な剣と細身の剣は、目には見えない程の細い強固な糸で繋がれていた。


 蒼賽鬼そうさいきの口元が自然と緩み、嘲りの笑みが浮かぶ。


《⋯⋯ふふふ、右の刃で受けたは、愚か紅鬼ものを油断させるため。鬼紅葉おにこうように弾かれることなど初手から見越している。⋯⋯しかも軽い刃の方が⋯⋯空で操りやすい!》


 蒼賽鬼そうさいきあおと銀の目を見開いた。

 攻撃を待ち受けることこそが、初手の攻撃。

 これが蒼賽鬼そうさいきの仕掛けた策略、言わば罠だった。


《⋯⋯ッ!? ⋯⋯まさか! くそっ!!》


 紅呪鬼こうじゅきにやや遅れて、背後から迫り来る剣の殺気に紅斬鬼こうざんきも気付く。

 紅斬鬼こうざんきは攻撃から一転、蒼賽鬼そうさいきの額めがけて振り下ろしかけていた鬼紅葉おにこうようひるがえし、自分の顔を隠すように防御の型を取った。


《⋯⋯ふはははは、賽の目を忘れたか!? 破壊不可能な『閻魔鋼えんまこう』の糸に繋がれし我が冥府の秘剣、⋯⋯賽の目は四、すなわちあるのみ! その刃は四つなり!!》


 蒼賽鬼そうさいきはもう一度、左腕を大きく後ろへと引く。

 すると空を舞う剣は二つに分離し、それぞれに異なる大きな弧を描いた。

 そして左上空そして右上空と、二方向から紅斬鬼こうざんきに襲いかかった。


《⋯⋯ッ、なにぃ!?》


 狼狽ろうばいの声を漏らす紅斬鬼こうざんき

 しかし死掛しかけは、それだけに留まらない。

 蒼賽鬼そうさいきの両掌には、いつの間にか左右共に剣が握られていた。

 宙で軽量の剣を二つに分けると同時に、蒼賽鬼そうさいきが左掌に持っていた重厚な剣もまた、同じように二つに分かれていたのだ。

 そして蒼賽鬼そうさいきは右腕と左腕を撓らせ、手にしていた二つの剣までも、紅斬鬼こうざんきの胸と腹に向かって投げつけた。

 

《ふははははははは! ⋯⋯無駄だ! たとえ厚みのある鬼紅葉おにこうようとは言え、たかがそれしきの太さでは、”死“をいざなう四本の剣の全ては防げん!》


 先程までの形勢は一変していた。

 今度は蒼賽鬼そうさいきがしたり顔で声も高らかに勝ち誇った。



 ⋯⋯しかしそれもまた一時いっときの事だった。

 四方向からの回避不可能と思われた、刃の襲撃。

 それでもまだこの修羅同士の戦いは終わらなかった。



 防御へと転じた紅斬鬼こうざんき鬼紅葉おにこうようの刃の“幅”が、一瞬にして六尺(※約2m)は遥かに超える程にまで膨らんだのだ。

 刃は更に丸みまで帯びて、鳥が両の羽根で自身の身を包み込むように、湾曲わんきょくした盾となって紅斬鬼こうざんきの身をかばい、四方から襲いかかってきた四つの刃、その全てを弾き飛ばしたのである。


《⋯⋯な、なにぃ!? ば、馬鹿な!?》


 この鬼紅葉おにこうようの変幻自在の鉄壁の防御には、流石の蒼賽鬼そうさいきも動揺を隠せない。


《⋯⋯危ねえ危ねえ、⋯⋯ッ、⋯⋯くっそおおおおおっっ、騙したやがったな! このいかさま賽子さいころ野郎ッ!! 鬼紅葉おにこうようを見くびった馬鹿はてめえだろ!!》


 勝利を確信してからの思わぬ逆襲、不意の奇襲を受けて、紅斬鬼こうざんき怒髪天どはつてんく勢いで頬を紅潮させていた。

 紅斬鬼こうざんき鬼紅葉おにこうようを瞬時にして元の幅へと戻すと、再び鬼紅葉おにこうようを大きく振りかざした。

 鬼紅葉おにこうようの切っ先が陽炎かげろうのように揺らめく。


《⋯⋯跡形も残らず、消し飛ばしてやるぜ!!》


 その時、また目を疑うような怪異が起きた。

 鬼紅葉おにこうようの刃身が長く長く、ひたすらに長く、天にまで届きそうな勢いで一気に伸びていく。

 そしてその長さが、二十尺(※約7m)を遥かに超えた時だった。


《うおおおおぉぉぉぉ⋯⋯喰らいやがれええぇぇ!!》


 紅斬鬼こうざんきがまさに”鬼迫きはく“の雄叫びを上げる。

 蒼賽鬼そうさいきは、四本の刃を全て投じてしまっていたため、今は完全に丸腰の状態だった。

 そんな蒼賽鬼そうさいきに向けて、強烈な横殴りの一振りを放つために、紅斬鬼こうざんきは上半身を思いきり後ろにひねらせた。


 紅斬鬼こうざんきの後方に、凶暴に弧を描いてしな鬼紅葉おにこうようの刃。


《⋯⋯ッ! おのれ! 妖木ようぼくは伸縮自在か!?》


 超絶的な長刀と化した鬼紅葉おにこうようでの、強烈な真横からの薙ぎ払い攻撃。

 紅斬鬼こうざんきの攻撃体制から迫る危難を察知した蒼賽鬼そうさいきは、再び賽子さいころを袖口から取り出し、即座に足元へと転がした。


 蒼賽鬼そうさいきの焦りとも呼応しているのだろうか。

 賽子さいころは地に一度跳ねただけで今度は即座に止まる。

 鬼紅葉おにこうようを迎え撃つ『獄門修羅賽ごくもんしゅらさい』、その次なる髑髏どくろの賽の目は。



 ⋯⋯⚅「六」を示していた。



《⋯⋯無惨むざんよ、いでよ!!》


 蒼賽鬼そうさいきの呼び掛けに反応して、すぐさま髑髏どくろの六つの目が、あおく妖しい輝きを放つ。

 そしてそのあおい六つの目から再び線が生まれ、Nの形に連なっていった。

 蒼賽鬼そうさいきが気合を込めて、短い呪詛じゅそを唱える。

 するとさいの目からは、Nの形を成した立体的な”何か“が浮き上がった。


 さいから召喚された次なる武器。

 それは鬼紅葉おにこうよう同様に、二十尺(※約7m)はゆうにある長いむちだった。


 長鞭ながむちは竜巻のように回転しながら飛翔し、あるじである蒼賽鬼そうさいきの腕や手に蛇のように絡みついた。


 と同時に蒼賽鬼そうさいきの真横から襲いかかる凄まじい風圧。

 そのよこしまな風の出所は言わずもがな紅斬鬼こうざんき鬼紅葉おにこうよう

 強烈な刃の張り手のような一撃が、蒼賽鬼そうさいきの間近にまで迫っていた。

 蒼賽鬼そうさいきは賽の目から召喚した長鞭ながむちを腕から解いて握りしめ、素早く何度か地を叩き空を斬って勢いをつける。

 そして迫りくる鬼紅葉おにこうようの刃に向けて、思い切り長鞭ながむちしならせた。


 鬼紅葉おにこうよう長刃ちょうじんと、獄門修羅賽ごくもんしゅらさい長鞭ながむち

 二つの邪悪な凶器が、互いに全速全力で真正面から激しくぶつかりあう。



 耳が潰れるような強烈な轟音ごうおんと閃光が走る。



 ⋯⋯長刃ちょうじん長鞭ながむちは、互いを弾き合っていた。



《くそっ!? 鬼紅葉おにこうようの薙ぎ払いでも殺れねえってか!?》

《おのれ、想像以上の力だ。この粗暴な怪力女鬼かいりきおんなめ!》


 弾かれた勢いによって、二鬼ともが飛び退く。


 そして新たな間合いの中、紅斬鬼こうざんき蒼賽鬼そうさいきは睨み合った。


 紅斬鬼こうざんきの手にしている鬼紅葉おにこうようは、その恐ろしい長さを保ったまま、段々とその幅と厚みまでをも増していく。

 変化したそれは、巨大な丸太のようにすら見える。

 そして今度こそは確実に薙ぎ払い叩き潰そうと、蒼賽鬼そうさいきへの狙いを定めた。


 蒼賽鬼そうさいきの手にしている獄門修羅賽ごくもんしゅらさい長鞭ながむちもまた、恐るべき長さを保ったまま等間隔とうかんかくに六つに分裂した。

 変化したそれは、間々に刃を挟んだ恐るべき蛇腹じゃばら長鞭ながむち

 紅斬鬼こうざんきの身体に絡みつき、斬り刻もうと隙をうかがう。


《⋯⋯お楽しみはこれからだ。千変万化の鬼紅葉おにこうよう、その真髄を見せてやるぜ、蒼賽鬼そうさいき!》

《⋯⋯修羅賽しゅらさいの運命の目からは、決して誰も逃れられぬ。此処ここで滅するのだ、紅斬鬼こうざんき


 じりじりと間合いが縮まっていく。

 あと一、二歩で共に攻撃間合いに入る。



 ⋯⋯その時だった。  



 紅斬鬼こうざんきの背後に紅呪鬼こうじゅきが立っていた。

 蒼賽鬼そうさいきの背後にも紅呪鬼こうじゅきが立っていた。

 蒼将鬼そうしょうきの背後にも紅呪鬼こうじゅきが立っていた。

 紅呪鬼こうじゅきが立っていた場所にも紅呪鬼こうじゅきは立っていた。



《⋯⋯二太刀、終わりましたよ、この勝負、ここまで》


 四鬼の紅呪鬼こうじゅきの声が、四重奏で響いた。



《⋯⋯ッ、いつの間に後ろに!? しかも四体、幻術か》


 蒼賽鬼そうさいきが苦々しく狼狽ろうばいする。


《⋯⋯くっ、あと一歩だったのに⋯⋯ああ! くそっ》


 紅斬鬼こうざんきも悔しそうに歯軋はぎしりする。


 蒼将鬼そうしょうきだけは背後の紅呪鬼こうじゅきを振り返りもせず、冷静だった。

 そして落ち着いた声で、背中で紅呪鬼こうじゅきに語りかけた。


《油断していたとはいえ、背後を取られたのは数百年ぶりだ。⋯⋯ふっ、これが妖力では蒼極鬼そうごくき様や紅皇鬼こうおうきをも凌ぐと言われる、紅呪鬼こうじゅき自慢の幻術か。⋯⋯今程の鬼紅葉おにこうようと言い、中々に楽しい遊戯ものを見させてもらった》


此方こちらこそ。次は何が出るか、胸がどきどきと高鳴る、獄門修羅賽ごくもんしゅらさい。心の底から楽しませて頂きました。⋯⋯次に会う時はぜひ楽しい殺し合いをしましょう》


 蒼将鬼そうしょうきの背後で微笑む紅呪鬼こうじゅき

 その妖しくきらめく銀色の瞳の色は、紅斬鬼こうざんきの瞳の銀色とは比べものにならない程、異様なまでに濃かった。


 蒼将鬼そうしょうき紅呪鬼こうじゅきの瞳のきらめきすらも背中で感じ取ったのか、腰に差した閻魔刀えんまとうつばに手をかけながら呟いた。


《折角の機会。別れの挨拶としてわしもこの閻魔刀えんまとうの斬れ味、少しだけお見せしよう。ほんの余興よきょうだ、受け取れ》


 蒼将鬼そうしょうき閻魔刀えんまとうをゆっくりと抜いて上段に構えた。

 蒼将鬼そうしょうきの兜と面頬めんぼうの間から覗く、見開いた瞳。

 その瞳もまた紅呪鬼こうじゅきと同じ、蒼賽鬼そうさいきの銀色の瞳と比べても異様なまでに濃い銀色をしていた。


 蒼将鬼そうしょうきは自身の足元、真下の大地に向けて、一気に閻魔刀えんまとうを振り下ろした。



 ⋯⋯閻魔刀えんまとうが地に着いた瞬間。



 先程起きた鬼紅葉おにこうよう長鞭ながむちの衝突を遥かに上回る、凄まじい轟音ごうおんと爆風が巻き起こった。


 辺り一面に風が吹き荒び、砂埃の嵐が舞う。


 紅呪鬼こうじゅきの影━━三つの分身が、この爆風と蒼い閃光によって消滅していく中、本体の紅呪鬼こうじゅき鬼紅葉おにこうようを眼前に構えた紅斬鬼こうざんきは、この猛烈な爆風を避けるために瞬時に地を蹴り、後方に飛び退いていた。


 そしてそのまま丘から飛び降り、空に身を委ねた。



 丘の真下には、閻魔宮えんまきゅうへ向かう亡者たちのための坂、━━黄泉比良坂よもつひらさかの地が広がっている。

 閻魔宮えんまきゅう封鎖により、この黄泉比良坂よもつひらさかを当てなく彷徨さまう亡者たちもまた、この突然の爆風に無ずすべなく巻き込まれていた。

 吹き飛ばされ枯れ葉のように舞う亡者たちを宙で踏み台にしながら、紅呪鬼こうじゅき紅斬鬼こうざんき黄泉比良坂よもつひらさかの地に颯爽さっそうと降り立った。


《⋯⋯くそっ、やりやがったな!! 蒼鬼あおおにどもめ、何処どこへいきやがった!?》


 紅斬鬼こうざんきの心はまだ戦いの最中にあった。

 しかし今だ立ち上る丘の上の白煙を見上げても、その中に蒼将鬼そうしょうき蒼賽鬼そうさいきの姿は影も形も見当たらない。

 蒼鬼あおおに二鬼はこの泰山たいざんの地から忽然こつぜんと消え失せていた。


《⋯⋯逃げたか。⋯⋯ちっ、もっと愉しみたかったぜ》


 紅斬鬼こうざんき鬼紅葉おにこうようを背中の長鞘に納めながら舌打ちし、蒼鬼あおおにたちを仕留めきれなかった悔しさを滲ませている。


《ふむ、なるほど、これが地獄にその名をとどろかす閻魔刀えんまとうの力か。⋯⋯ふふふふ、何が余興なものか。蒼将鬼あやつめ、冷静に見えても、その心の内では密かに今すぐ紅鬼われらを殺す気でいたのかもしれんな。⋯⋯それに全く本気でもないのに、この威力。あなどれぬ強敵やつよ》


 紅呪鬼こうじゅきもまた白煙の丘を見上げた。


 紅鬼あかおに二鬼が見上げた丘は、真っ二つに亀裂が入っていた。

 そしてつい今しがたまで蒼鬼あおおにと死闘を繰り広げていたその丘は、紅呪鬼こうじゅき紅斬鬼こうざんきの目の前で、再びの凄まじい轟音ごうおんと共に山ごと左右に分かれ、音を立てて崩れ落ちていった。


《⋯⋯へっ、やるじゃねえか、あの鎧野郎》


《⋯⋯しかし、それにしても閻魔王えんまおう様は一体どうなされたのだ? 日本ひのもと戦場ぶたいに我ら紅鬼あかおに蒼鬼あおおにを戦わせ⋯⋯、いや、”けしかけて“、一体何が目的なのだ?》


 今しがた起こった凄まじい衝撃や、蒼鬼あおおに紅鬼あかおにの激突ですら、もはや何も無かったかのように、静かに。

 そして紅呪鬼こうじゅきの疑念や考察すら、嘲笑あざわらうかのように冷たく。

 紅呪鬼こうじゅきの銀色の瞳に映る封印された閻魔宮えんまきゅうの城門は、真意の見えない閻魔王えんまおうの姿も被らせながら、絶対の沈黙を続けていた。



 みことのり発布の後、初めて起こった蒼鬼あおおに紅鬼あかおにの衝突。

 この死闘の凄まじさを物語るのは、今や舞い散る砂埃だけとなっていた。


いずれにしても。紅鬼あかおに蒼鬼あおおに。⋯⋯ふふふ、⋯⋯どちらが生きるか、⋯⋯どちらが死ぬるか。⋯⋯ようやっと全面戦争たたかいの幕開けですね》



 閻魔王えんまおうみことのりによって導かれ、来たるべき全面衝突に向かって突き進む、地獄界の二大勢力━━蒼鬼あおおに紅鬼あかおに



 ⋯⋯その頃、人間界。


 日本ひのもと京都でも今まさに、東と西の宿命の戦いの幕が、切って落とされようとしていた━━━━。




第19話も最後までお読み頂きありがとうございました。

賽子さいころの目の場面はサイコロ記号を使っていますが、もしかしたらPC上では文字化けしているかもしれません。その際は御一報頂けると幸いです。訂正します。

創作の励みになるので、ブックマーク、評価、感想等もお待ちしています。

★次回、第20話「東番」は1月31日に公開予定です。

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― 新着の感想 ―
なんだか描写が、幽遊白書の戦闘シーンの様でスリリングあり楽しかったです( •ᴗ• و(و"
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